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転生奇跡に祝福あれ  作者: ルミネリアス
第二章 崩壊へ
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第三十六話 王女と旅立ちの予感

 私の足に、布団の上からすがり付いたまますすり泣くエクラ。

 エクラからは、本当に私を心配してくれていたのだろうという気持ちが、純度百パーセントで伝わってくる。

 そういうところが好き!


 …なんて惚気ている場合では無い。

 今は、エクラの記憶の封印魔法を解除する事が先だ。

 でもな…、いきなり解除したら驚くよな…。

 だからといって、説明をしても信じてくれ…はするだろうけれど、受け入れる事はそう簡単ではないだろうし…。

 いっそ、ヒュディソスの街に着くまでこのままにしておくという手もあるが、私のエクラに他人の魔法がかかっている、そんな状況にそんなに長く耐えられる自信がない。


 …ああもうヤメヤメ!

 こんなグダグダ悩んでいても仕方がない!

 後で耐えられなくなって、変なタイミングで解除する事になってしまうぐらいなら、今解除してしまおう。

 ただその前に、まずはすすり泣く美少女の涙を止めなければ。





 私は、静かにエクラの頭に手を置く。

 急に私が触れたせいでエクラの肩は少し跳ねたが、それは許してもらおう。

 私が触れたその頭は、私の手に応えるように少しずつ上がっていった。

 そして、涙に濡れグチャグチャになったエクラのその目と、私の目が合った。

 エクラは私を見て、更に涙を溢れさせた。

「うぐっ…うぇ…テラス…さまぁ……!」

 あぁあぁ。また泣くの…!?

 私は、再び溢れだした涙を指で拭った。

 そして微笑み、

「エクラ。心配かけてごめんね。…それとね、エクラとの約束、破っちゃってごめん。」

と、私の本心から溢れた言葉を伝える。

 するとエクラは、

「テラス様、謝らないでください…!悪いのは悪魔であってテラス様では無いのですから。」

と答えた。


 その言葉を受けた私の心の何処かに、ヒビが入ったような気がした。


 私は、エクラに触れている手をそっと滑らせ、そしてエクラの頬を撫でる。

「て、テラス…様…?」

 少し戸惑っているエクラに、私は思わずほくそ笑む。

『これよ♡エクラは、私のもの何だから……♡』

 っ…!じゃ無くて!!いい加減鬱陶しい!何なんだこの声は!?

 はぁ…頭痛がしてきた…。


 私は、あの声はしばらく無視する事に決め、そしてエクラに真剣な面持ちで向き合った。

「落ち着いて聞いて、エクラ。貴方は今、とある危険な魔法にかけられている。その魔法は本当に危険で、そして自分では絶対に気が付けないものなの。だから、今から私がその魔法を解こうと思っているのだけれど、信じてくれる…?」

 我ながらずるい聞き方だな。だって、エクラが断れるわけ無いもの。

 そう思っていた私だったが、エクラから返ってきたのは、予想外の笑みであった。


「フフ、テラス様。少し、イタズラしちゃいました。さて、これでようやく演技を辞められます。」


 …え、演技…?じゃぁ…

「じ、じゃぁ、エクラが私を好きって言うのは嘘だったの…?」

 無理……死のう……。

「えぇ!?どうしてそんな話になっているのですか!?私、テラス様からの指輪をしっかりと受け取りましたよね!?」

 …え?

「ちょっと待って。どうして指輪の事を覚えているの?」

 あれ、記憶の封印魔法は…?

 ……ん?

 ……………あ、そういう事か…。

「その事ですよ!!私あの時、王妃様に突然魔法をかけられて、そしてその後、先程テラス様に話されていたストーリーを聞かされたのですが…、どうして突然こんな事を言い始められたのかがよく分からなかったのです。だから今日まで、とにかく周りに話を合わせて、演技をし続けて来たのですよ?」


 え、じゃあつまり、エクラは記憶の封印魔法を自力で無効化したって事…?


 お母様の魔法が失敗……は無いな。

 お父様が武力の頂点なら、お母様は魔力の頂点だ。

 そんなお母様が、強大で繊細な魔法を真剣に使って、失敗するわけが無い。

 失敗するほうが難しいわ!

 ……ならば残る可能性は二つ。

 エクラが、どんな精神魔法をも無効化する何か特殊なスキルを持っている可能性。

 もしくはエクラ自身が大罪魔法と同格、もしくはそれ以上な存在の可能性。

 だが、先程の発言を聞く限り故意に魔法を無効化したとは思えないし、自動発動型なの…?



 エクラ、一体何者……?



 だが、私はお母様とは違い、これによってエクラを突き放すような事は絶対にしない。

 そしてそれを誓うように、私はエクラを固く抱きしめた。

(エクラ。例え貴方が何者であろうとも、私は貴方の側を離れたりしないよ。)




 その後、まずはあの日王座の間で何があったのかをエクラに話す…その前にまずはディセプションバースの事をしっかりとエクラに伝えた。

 エクラは何も言わず、ただ頷いてくれたのだが、別に私そんなに気にしてないよって伝えると、エクラは驚いた表情を浮かべた。

 だから私は、

「本当に気にしてないよ。だって、もしその魔法によって作られていなかったら、私エクラと会えなかったのだもの。むしろ感謝しているぐらい。」

と、優しく伝えた。

 エクラはその言葉を受け照れていた。

 可愛い。

 ディセプションバースについて一通り話し終えた上で、次にあの日王座の間で何があったのかを今度こそ話した。

 エクラも、お母様の理不尽さに怒りを覚えたようで、

「酷すぎます…!話も聞かずテラス様に襲いかかり、更には記憶を封印しようとするなんて…!」

と、少し強めに話していた。




 そして最後に、エクラから私が倒れた…というか倒された後の事について聞いた。


 まず、大きく空いた城の穴は既に埋められ、城の修繕作業は完了しているようだ。

 城に穴を開けたのは私という事になっているらしく、真実を知ったエクラはその事に少し怒っていた。

 私の為に怒ってくれているエクラ好き…。


 あと、国民達は私の事を英雄と既に呼んでいるらしい。

 お母様の作り話が既に広まっているという事か。


 あとはー、あ、そうそう。あの王座の間での戦いから既に一週間が経過しているらしい。

 そんなに寝ていたのか…。



 その後も色々と話をしてくれたエクラ。だが私はエクラの話を聞きながら別の事を考えていた。

 それは勿論、先程のエクラの事である。

 そして結論は、

(本人が自覚無く無効化したっぽい。…まあ、いっか!エクラを信じる。)

である。

 我ながら適当だとは思うが、別に構わない。

 私の思いは詰まっている。






 情報収集に一区切りが付いたところで、私は話そうと思っていた事を話し始める。

 なお、現在私はエクラの翼に包まれ、さらにエクラの腕枕で、エクラと共にベッドで、向かい合って横になり話をしている。

 どうしてこうなったのかというと、

「テラス様?お話は勿論大切ですが、今はテラス様のお身体のほうが大切です。」

と言われてしまったからだ。

 それは良いとして、

「そうそう、エクラ。私、ヒュディソスに行こうと思っているのだけれど、一緒に行かない?最近は、仕事ばかりで私達だけの時間があまり無かったでしょ?だからちょうど良いと思ったんだけど…。」

と提案する。実際、最近は何かと忙しくてエクラとの時間が減っていたし、エクラが嫌がらなければ是非とも行きたいのだが…。

「はい!是非ご一緒させてください!」

 エクラは、心底嬉しそうにそう答えた。

 良かった。これでエクラとのイチャイチャ生活に戻ることができる…!!



 だが、私の本音は違った。

(少しだけ…疲れちゃった…。)



 度重なる精神を摩耗させる試練の数々。

 エクラと触れ合えない日々。

 死を予感させられる体験。

 それらは、私の心を追い詰める材料として充分であった。

 そして何より、私の心にダメージを与えたのは、

(ほんと、どうしてこんな事になってしまったのだろう……。)

という気持ちだ。

 私は、この国を愛しているし、両親も愛している。

 それは、私がディセプションバースによって造られたという事を知っても変わらなかった。

 なのにどうしてお母様を警戒し、精神を擦り減らさなければならなくなってしまったのだろう…。

 お母様…大好きだったのに…。



 その後、エクラとの他愛もない会話を楽しんだ私は、そのまま寝落ちした。









 目を覚ますと、次の日のお昼になっていた。

 身体は…うん。もうほとんど痛くない。流石祖龍の加護は凄まじいね。

 …あれ?エクラは?…ってうわぁ!?

「フフっ。おはようございます。テラス様。」

 ベッドから起き上がり、そして横を見るとエクラが棒立ちしていたので驚いてしまった。

 そしてそんな私の反応を見て嬉しそうなエクラ。

 どうやら、悪戯っ子エクラが帰ってきたようだ。

 私が無事復活して安心したのか、それとも久しぶりに休暇が取れて嬉しいのかは分からないが、まあエクラが楽しいならそれでいいか。

「おはよう、エクラ。今日も可愛いね〜!!」

 そう言いながら、私は棒立ちのエクラに抱き着いた。

「て、テラス様!?」

 私も私で、最近の異常な生活から脱却できる事にテンション上がっているのかもしれない。

「ごめんエクラ〜。好き〜!!」

 何だが今日は、異常にエクラに対する愛が溢れ出て来るな。

 そんなハイテンションな私を、

「もう、テラス様ったら。」

と、困り顔で微笑みながら、頭を優しく撫でてくれるエクラは、何と追撃をしてくる。

 エクラは自身の口を私の耳に近付けると、

「…私も好きですよ。テラス様。」

と、囁いてきた。

 グハァ……!!!





 …さ、さて、この妙なテンションを落ち着かせるために私は今、朝風呂で頭を冷やしている。

「はぁ…。久しぶりのお風呂に、身体が歓喜している気がする…。」

 エクラから聞いたが、寝たきり状態であった私の身体は、メイドのソフィが濡れタオルで毎日拭いてくれていたらしい。

 …そういえば、ソフィとも最近あまり話す時間が無かったな…。

 ソフィも、もはや家族同様なので是非とも大切にしたい。

「……ヒュディソスでは、ソフィとも仲良くしたいな…。あ、ソフィって何だが世話焼きの姉って感じがするなぁ……。」

 そんな事を呟きながら、私はノンビリと湯船を堪能するのであった。




「誰が世話焼きの姉ですか。」

 お風呂から出てきた私に、ソフィが開口一番に言い放った言葉だ。

 え、怒ってる?…と一緒身構えたが、私は見逃さなかった。クールビューティーソフィの口が若干緩んでいる事を。

 どうやら、満更でも無いらしい。



 その後、ソフィの協力の元ドレスに着替えた私は、現在ドレッサーに座り、ソフィによって髪を整えられていたのだが、

「っ姫様…!」

と、突然ソフィが私の髪を手に持ったまま涙を流し始めてしまったのだ。

「え、ソフィ!?どうしたの!?」

 あまりにも唐突であった為、私は何も考えずにそんな事を口にするが、言ってから気がついた。

 ソフィの涙の理由に。

「申し訳ありません、姫様。ただ、またこの様に姫様の髪を整える事が出来た事に感極まってしまいました…。」

 ソフィは、エクラと共に寝たきり状態の私の世話をしてくれていた。

 …心配、かけてしまったな…。

 私は目を閉じ、静かにソフィの想いを受け取る。

 そして、後ろで必死に涙を止めようとしているソフィに話しかける。

「ねえ、ソフィ。これからもずっと、こうして私の髪を整えてね。…ずっと一緒だよ、ソフィ。」

「っ…!分かりました、姫様。このソフィ・トラバント、いつまでも姫様のお側に…!!」

 その顔を見るのも、随分と久しぶりかな。

 その、泣き濡れた良い笑顔も。





 その後は、ソフィといつものように話をしようと思ったのだが、不意に思いついた事があったので、それを試してみた。

 それは、前世の童話を語り聞かせてみる事だ。

 今回は、桃から出て来た赤ちゃんが、鬼を始末し宝を奪い返すあの話。

「むか〜しむかし、ある所に……」



 身支度を済ませながら、途中この世界に合わせて少し内容を変えつつ語り終えた。

「……となり、村の英雄となったのでした。めでたしめでたし〜。…どうだった?」

 さて、前世の童話はこの世界に受け入れられるのだろうか。

 あれ、これ何となく思い付いて試してみただけなのだが、もし受け入れられるのならかなり使えるのでは…?

「ソフィ。遠慮は要らないから厳しく採点してね。」

 さっきまでの気軽さは何処へやら。私は手のひらを返し真剣になる。

 ソフィは、顎に手を当て少し悩んだ後、

「では遠慮無く。ピルエフルーツ(この世界の限りなく桃に近い果実)から赤ちゃんが出てくる事には疑問が残りますが…、物語の内容は王道的な英雄譚ですね。あとは…動物が出てくるのも良いですね、嫌いでは無いです。…と、私が話す事の出来る感想はここまでですかね。一度本にして市場に流してみては如何ですか?貴族が好んで買いそうな気がします。」

 おお。かなりのアドバイス。

 

 なるほど貴族か。

 安価で庶民の子供に流そうかとも考えたが、そもそも文字が読めないか。

 エクラだって、初めは一切読み書きが出来なかったし。

「なるほど…。貴族相手なら、本に無駄に豪華な装飾でも施して見ようか…。」

「良いお考えかと。貴族共は、そういった物を好みますからね。」

 あれソフィさんも貴族ぅー、……いや、何も聞かなかった事にするか。



 これで、向こうに行ってもやれる事が出来た。

 あ、そうだった。

「ソフィ。私、ヒュディソスの街に行く事になったのだけれど、付いて来てくれる?」

「ええ、知ってます。そして、勿論付いていきますよ、姫様。」

 あらカッコイイ。





 ん?知ってます?私、まだ誰にもこの事話していない…というか昨日の夜話し合ったばかりの筈…。

 何だか引っかかりを覚えたので、この疑問をソフィにぶつけてみた。すると、

「はい。今朝、王妃様が号外を出したのですよ。『救国の英雄が、ヒュディソスにて英気を養う』と。…あぁ、これに反対する民は居なかったかと。」

 …マジか。本当に拒否権無かった。

 え、まさかそんなに早く決まるとは思わなかった。

 どれだけ私を離したいんだ…お母様…。







 身支度が済んでからも、そのまま随分と長くソフィと話し込んでしまったな。

 さて、もはや逃げ場など無い今、私に出来る事は一刻も早く決意を表明する事だけだ。

 と言う訳で現在私は、後ろにソフィを控えさせて執務室へと向かっている。

 道中、

「姫様!?もう体調は大丈夫なのですか!?無理はなさらないで下さいね。」

や、

「英雄様!貴方様のおかげで私の家族は命を救われました!有難う御座いました!」

など、沢山声をかけられた。

 私は何度か足を止め、その声に応えた。

 その為かなり時間がかかったが、無事執務室へ到着する事が出来た。

「じゃあソフィ、行ってくるね。」

「はい、姫様。行ってらっしゃいませ。」

 勿論執務室にソフィは入れ…実は入れるんだなぁ。だって、王に認められたメイド、つまりソフィも近衛兵なのだから。

 実は五つ星近衛兵(給仕兵)だったりもするソフィさんだが、今回は待機してもらった。





 コンコンっとノックをし、

「テラスです。要件があって参りました。」

と、ドア越しに伝える。

「…テラスか。入るがよい。」

 中から返ってきたのは、お父様の声であった。




 …しかし、何だが元気が無いような…?

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