第二十九話 王女と復活
「うわぁぁぁぁぁ!?!?」
私はあまりの恐怖に、思わず叫びながら飛び起きてしまう。
心臓がバクバクしている。
裏切り者…?そんな…、一体誰が…?
私は気持ちを落ち着かせようと深呼吸し、そして時計を見た。
時刻は午前四時。外はまだまだ暗かった。
私はもう一度深呼吸をする。
落ち着け、私。グリモワールが言っていたのは、あくまで予想。裏切り者なんて、そんなまさか…。
でも、グリモワールの予想は理に適っていた。
私は、どうするべきなのだろうか…。
と、そうして悩んでいると、
「ん…?テラス様ぁ……?」
と、ベッドの方から声がした。
どうやら、先程の私の叫びのせいで起こしてしまったらしい。
私は一旦裏切り者については保留にする事にして、エクラの元に向かった。
あぁ、愛しのエクラ。私のエクラ。目の下に泣いた跡が残っている。ごめんよ。
でももう大丈夫だからね。私、絶対に『貴方を』離さないって決めたから。
推しでは無く、一人の少女エクラとして愛すと決めたから。
身分も周りも性別も関係ない。
「エクラ。私は貴方を愛しています。」
まだ少し寝ぼけているエクラに言うのは反則だっただろうか。ならば今は、
「おやすみ、エクラ。大丈夫。ずっと側に居るからね。」
と、優しく頭を撫でながら、再びベッドに横たわらせる。
そして、私はベッドの上に足を伸ばすと、エクラの頭を太ももに乗せた。
するとエクラは、安心したのかゆっくりと眠りに落ちた。
そんなエクラを眺めながら、私は呟いた。
先程の言葉に繋げるように。
「絶対に、離さないから…♡」
数時間後、エクラは目を覚ました。
目を覚ましたエクラと、膝枕をしている私は目が合った。
この数時間、ずっっとエクラの寝顔を眺めていた私は、
「おはよう、エクラ。」
と、ニッコリと微笑んだのであった。
「あ…おはよう…ございます…?」
未だに状況を掴めていないのか、疑問符付きで返されてしまった。
そして、少しずつ意識が覚醒してきたのか、エクラの顔が段々と赤く染まっていく。
可愛い。
「な、な、何故、テラス様が膝枕を…!?」
そう言って、慌てて起き上がろうとしたエクラを、頭を撫でる事によって捕まえる。
「昨日は本当にごめんなさい。だから私、一晩中考えてようやく気がついたの。私ね、とっくに『貴方』の事を愛していた。他の誰でもない、エクラの事を、ね。」
そして、エクラの頭を持ち上げ、私はベッドから降りる。
そして、唖然としているエクラに私は今度はしっかりと頭を下げた。
「もう一度謝らせてほしい。昨日は、本当にごめんなさい。」
「あ、頭を上げてください!!」
エクラはそう言って、必死にやめさせようとしてくる。
ああ、なんて可愛いのだろう、私のエクラは。
これじゃあ、我慢できなくなる日もそう遠く無いのかもしれない。
だってもう、エクラはエクラ何だから、推しは絶対ノータッチなんて関係ないし。
あの後、エクラに謝罪を止められた私は、取り敢えず隣に座ってくださいとエクラに言われて現在、ベッドに並んで腰掛けている。
急展開にまだ少し頭が追いついていないのか、エクラはまだ少し目が泳いでおり、落ち着きがない。
そんな状態のエクラだが、どうにか状況を掴もうとしているのか、私に話しかけてくる。
「え、ええっと、テラス様?先程の状況は一体…?」
「ん?膝枕の事?」
「そうですよ!ビックリしました!説明をお願いします!」
おお、急に大声。私もビックリしたがまあいいやと、エクラに説明をする。
「私昨日、悪夢を見てね。それで大声を出しながら飛び起きちゃって。そしたらエクラが起きちゃったから、膝枕で寝かしつけたの。」
悪夢の内容と、それからずっとエクラの寝顔を眺めていた事は流石に隠しておく。
前者はともかく、後者は完全にやべー奴だもの。
私の説明を聞き、エクラは辛そうな顔になる。
私が一体何故?と思っていると、
「ごめんなさい…、私が、テラス様に酷い事を言ってしまったせいかもしれません……。」
「……え?酷い事?」
「え?」
「え?」
と、そんな言葉と沈黙が返ってきたのだった。
…エクラに、酷い事を言われた…?
私は脳内の、記憶という名の密林を探索する探険家となり、密林を踏破していった。
しかし結局、『エクラに酷い事を言われた』という密林の秘宝を見つけるという願いは、最後まで叶うことはなかったのであった……。
…なんて馬鹿な事を考えている暇はない!
取り敢えずエクラに聞いてみるか。
「ええと、エクラ?私、エクラに酷い事を言われた記憶が、いくら探しても見つからないのだけれど…?」
すると、エクラは慌てた様子で、
「な、なら良いんです!気にしないでください!」
と、誤魔化してきた。
(エクラ?そう言われるともっと気になるのが知的生命体の性だよねぇ?)
「エクラ〜?一体どんな事をこの私に言ったの〜?ほ〜ら、怒らないから言ってみて〜。」
そう言った私は、エクラの腕と自分の腕を絡ませ詰め寄る。
エクラは顔を赤らめながら、なんとか逃れようとバタバタするが、吸血龍姫の力をなめないほうがいい。
やがて観念したのか、エクラはポツリと呟く。
「その…テラス様が…私を愛していないという事を聞いたあと…その…ベッドに包まって…泣きながら…『テラス様の嘘つき』と…。」
…。
……いや可愛過ぎない!?
そんなの言われて当たり前だし、全くエクラは悪くないし、全然酷い言葉じゃ無かったし!
…まったく。エクラは可愛いなぁ!物凄く良い子に育ったねぇ!私嬉しいよ!
そんな歓喜の感情を抑え、
「本当に、エクラは良い子だね。そんなの、言われて当然だよ。やっぱり、エクラは酷い事なんて言ってなかったね。」
と、ニコッと笑ってみせた。
その後無事仲直りし、改めてお互いの気持ちを伝え合う。
「テラス様。好きです。」
「エクラ。私も好きだよ。でも…。」
「ふふ。分かってます。私達が対等な立場になれた時に、私の気持ちに答えてくださるのですよね?…私、頑張りますから。」
そうして、段々といつものエクラに戻っていく。
最近は色々あって二人だけでのんびり出来なかったから、その反動が来たのだろうが…。
そう。いつも通りのエクラとは、あの少し悪戯好きな、小悪魔的なエクラだ。
つまり、私の心臓のピンチ到来である。
その後身支度を済ませた私達は、今日の仕事に向かった。
…手を繋いで。しかも恋人繋ぎ。
そして、そんな私達を見てザワザワする民達。
そんな中を嬉しそうに歩くエクラと、ドキドキしながら歩く私。
…一体なぜこんな事になっているのか。
それは、城を出る直前の事であった。
身支度を済ませ、今日も今日とて美しいエクラを眺めながら仕事に向かって廊下を歩いていたその時、エクラが不意にこんな提案をしてきたのだ。
「…あ、そうですテラス様。私、考えたんです。如何すればテラス様と対等な立場になる事が出来るのかと。そして、一つの案が浮かんだのです。それは、私達の関係を周知させ、誰もが認める二人になれば良いのではないかと。どうでしょうか。」
うーん。現在の私の計画が、まずはお父様とお母様に認めてもらってから民達にも認めてもらうというものなのに対し、エクラの案は真逆なのだ。
でも、お母様には駄目と言われたし、お父様に至っては難易度マックスのラスボスなので、先に民達に認めてもらうというのもありかもしれない。
そう結論付けた私は、エクラにその作戦で行こうと告げた。
そして、その第一弾として現在の状況なのだが、あれ?結構恥ずかしい…!?
今までは推しと触れ合えてる!神!…みたいな思考に守られ、恥など(あんまり)感じなかったのに対し、今はエクラを一人の愛する少女として見ているので、物凄く恥ずかしい。
そんな私達に対し民達は、
「えっ!えっ!姫様とエクラ様ってまさか!」
「きゃー!姫様とエクラ様ステキー!」
「お!俺も仲間に入れt(タコ殴り)」
「仲が良いのは良い事じゃのぅ。」
と、(何故かボコボコにされてる魔族の男が居るが)そんな反応であった。
ここは世界中から様々な種族が集まる国。
当然、様々な思考の持ち主が集まるので、寛容な心を持つ者が多くなる傾向にある。
だから、私達の事を受け入れる事も案外簡単なのかもしれない。
やっぱり、良い国だな。
さて、今日もテントに着きましたよっと。
「あ、姫様とエクラ様。おはようございます…?」
私達が入ってきたのを見て、セリーヌさんがウサ耳をヒョコヒョコさせながら挨拶をしてくれたのだが、私達の手を見て疑問符が付いた。
「今日も仲良しさんですね。おはようございます。」
と、カリンさんも挨拶をしてくれる。
以前と違いまともなのは、発情期が終了したからだ。
なんとなく気になって後で調べてみたら、どうやら獣人族の発情期は、ほぼ全ての獣人族に不定期かつ短期間に訪れるものらしい。
へえー。
まあそれはさておき、今日も仕事を始めましょうかね。
今日は一体どんな内容なのやら。
そして、一ヶ月が過ぎた。
街は、以前作成した街の復旧計画図通りに復旧作業が行われ、現在は大体八割復旧が完了していた。
実は既に街は完成しているのだ。
いや〜。魔族、獣人族の力と魔法の力を合わせればこんなに早く終わるなんて、凄いね。
後は住人の斡旋や、街の設計図の関係で以前家があった場所に道が出来て、自分の家が建てられない方たちの支援などである。
しかし土地の問題は、多くの人族が死んだ事で解決されるという、何とも言い難い結果であった。
さてここでクイズです。
この一ヶ月で民達はどのように変化したでしょう。
正解は、今から丁度エクラと共に城を出る瞬間なので、見ていれば分かります。
あ、手は恋人繋ぎですよ。
「あ!姫様とエクラ様!今日もお美しいですわ!」
「相変わらず仲良しじゃのう。良きかな〜。」
「きょ、今日こそ俺も仲間n(タコ殴り)」
「お二方はきっと、親友なのですわね!」
はい、正解はあまり進歩していないでした。
分からなかった人は処刑です。
…とまあ、いつものやつをしながら今日もまたテントに向かっているのだが、要するに作戦は失敗である。
厳密にはまだ失敗では無いのだが、どうやら民達には仲良し二人組として広がったらしい。
確かに、若い女の子同士の恋人繋ぎなんて、じゃれ合っているだけにしか見えないよね。
まさか両想い+実質婚約みたいな事までしている、とは思うまい。
でもまあ、エクラが毎日嬉しそうだしいっか!
「「おはようございます。」」
テントに入ると、いつもの二人が挨拶をしてくれる。
私もそれに答えながらいつもの席に座って書類の束を確認する。
最初に比べたら随分と書類の量も減って……無いんだなぁ、これが。
でも、最初に比べたら処理速度も向上しているし、何とかなるけれど。
ただ…。
「失礼します。姫様、また例の問題です。」
「あぁ…またなのね…。わかったわ。すぐ行くと伝えて。」
「はっ。」
しょうがない。行くか…。
私がたいそう面倒くさそうな素振りを見せながら立ち上がると、
「テラス様。行ってらっしゃいませ♪」
と、微笑みながら両手で私の手を包むエクラ。
ぐぁぁ。可愛い。
最近、エクラはこうしていつも私を送り出してくれる。これにはいつもドキドキさせられている。
あ、そうだ。たまにはやり返してみるか。
「うん。行ってくるね。エクラ。」
そう言った私は、エクラの頬にキスをした。
「へっ!?」
ビックリして固まったエクラを満足気に見ながら、私はテントを去ったのであった。
…その後、段々と恥ずかしくなってきて道中で悶たのは、別のお話である。
さて、先程兵士君が報告してきた例の問題だが、『また』と言っていた事で分かると思うが、同じ問題が頻発しているのである。
その問題とは…。
「うわぁぁぁぁぁ忌物だぁぁぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁ!!!」
先程の兵士君に詳しい場所を教えてもらい、現場に駆けつけて来たのだが、案の定であった。
現場では、大きな槍と盾を持つ、中身の無い鎧の忌物が暴れていた。
私は慣れた手つきで魔法を上空から放つ。
「フレイムピラー!」
すると、忌物の足元から炎の柱が立ち上り、あっという間に鎧の忌物は動かなくなった。
そして、民達は大歓声をあげた。
今日は鎧だったな。
そんな事を考えながら歓声に応える。
そう。問題とは、こうして突然街の中に忌物が発生するという謎の現象が多発している事なのだ。
謎、つまり原因はまだ分かっていない。
真っ先に疑われたのは、誰かが召喚しているという線。しかし、どれだけ探しても召喚魔法の痕跡は一つも見つからなかった。
街の外から入り込むというのも有り得ない。
本当に突然出現するし、しかもかなり強くて屈強な魔族の民だけで無く、兵士でさえも返り討ちに会うほどなので、今街はとても危険な状態なのだ。
なので、出来るだけ私が手早く処理するようにしている。
最初は大変だったが、毎日数件、それが数日も続くと慣れるもので、今は持ってきた本に忌物の特徴や力、現場の言葉や時刻などを記入する作業をしていた。
本当に、慣れたものだ。
そうして、丁度まとめ終えた時、また兵士が走ってきた。今度は街の郊外に出現か。
あー面倒くさい。
そう思うが、決して表情にも声にも出さず、民に笑顔を振りまいてその場を飛び去った。
後ろからは、再び大歓声が聞こえてきた。
無事現場に着くと、案の定現場は阿鼻叫喚であった。
そして今度の忌物は、巨大なオーク系の忌物であった。
何処から持ってきたのか大木を振り回して雄叫びを上げていた。
街の郊外と言う事もあり住人は少なく、代わりに街の外を守る衛兵達がオークと戦っていた。
我が国の兵士は結構強い事で有名なのだが、兵士は防戦一方で押されていた。
このままでは衛兵達は負けてしまう。
私はすぐ様降り立ち、参戦した。
「よく持ちこたえてくれました。ここは私に任せて、貴方達は住人の避難を!」
私は降り立つとすぐに指示を出す。
「姫様!ありがとうございます!ご健闘を祈ります!」
そう言って、すぐ様行動を始める衛兵達。
こういうところが強さの秘訣なのかもね。
そんな事を考えながら、少ない住人の歓声を受け、私はオークに対峙した。
「ぐわああああああ!!!」
オークはそう叫びながら大木を私に向けて振りかぶる。
思っていたより速さがあって驚いたが、難なく回避し、空に舞い上がって魔法を放つ。
「フレイムピラー!」
先程と同じ魔法が直撃した。
…しかし、オークには傷一つ付く事はなかった。
するとオークはニヤリと笑い、大木を両手で持つと、大きく跳ねて空に居る私に迫る。
そして、空中の私に大木を先程とは比べ物にならない速さと威力で振りかぶった。
私はオークが跳躍した事に驚いて、避ける事が出来ずにそのまま地面に打ち付けられる。
しかし、私は常に魔法のバリアを纏っているので無傷だ。
空のオークが地上に降ってきて、着地と共に大きな音と振動が辺りに響き渡る。
そして、周りの家が崩壊した。
「こんの、オーク!再建中の街を破壊して!」
私の怒りに対し、オークは嘲笑で返した。
うぜぇ。
その後も、いくつかの魔法を放ってはみたが、どれもあまり効果は無かった。
どうやら、魔法に耐性があるらしい。
…仕方ない。近接戦にするか。
「ロイアルティーマジック!桜花雪月!」
私がそう唱えると、城の方から一筋の光が真っ直ぐ飛んでくる。
そしてそれは私の前で止まった。
私の愛刀、桜花雪月ちゃんです。
最近出番が無くてずっと部屋のタンスにしまっていたが、今日やっと出番がやって来た。
私は刀身を優しく撫でてから、オークに向いて刀を向けた。
「さあ、かかって来なさい!オーク!」
私はそう言い、オークに斬りかかろうと……したところで私のイヤリングが起動した。
…物凄く、嫌な予感がした。
そして、私の感は的中していた事が聞こえてきた声で分かった。
「テラス様…助けてください…。」




