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帽子男の短編集

カエル電車

作者: 帽子男

梅雨の夕方、私が学校から帰る途中にいつも家まで送っていてくれる小さな電車がある。紫陽花が咲いている小さな公園を抜けてゴトンゴトンと音をたててその電車はやって来る。




「お待たせしました。西野公園、西野公園」




 小さな袢纏を着たカエルさんが乗った電車が私の目の前にいつものように止まった。止まると小さな電車から小さな階段が伸び中にいた私よりも小さな子供たちが下りて行った。この時間には中には私以外乗っている人はいないのにな、と思いながら私は電車に乗った。中には長椅子が2つ置かれていて私はカエルさんが見える位置に座った。カエルさんは自分では運転はしない、いつも大きな葉を傘のように指し雨が降ってこないかジッと空を見ているのだ。「出発します」というと電車が動き出した。


 電車が動き出すとカエルさんは鼻歌を歌う、この前に聞いたら「雨に唄えば、という映画の曲だよ」教えてくれた、しかし私には歌詞が聞きとれなかった。




「雨が降っていなのに歌うんだね」




 私は言った。この前は雨が降っていたからそれを歌っていたのだと思っていたが、そういうことではないみたいだ。カエルさんは振り返って、笑いながら私に言った。




「今は雨が降るように歌うんですよ、我々は雨が大好きですから」




「雨がふっていても歌ってるじゃない、変なの」




「いつでも歌たくなるんです、いい曲ですよ。お嬢さんは雨が嫌いですか?」




「好きではないかな」




「おや残念。理由を伺っても?」




「お兄ちゃんが野球をしているの、その応援にいっぱい行くんだけど。雨が降っちゃうと中止になっちゃうから」




「なるほど。それは私も安易には歌えませんね」




「ううん、そういうことじゃなくの。カエルさんの歌は好きなんだけどね、あんまり試合が中止になるとお兄ちゃんが可哀そうなの。最近になってやっと試合にいつも出られるようになったって喜んでいたから」




 私が少し困っていると雨がポツポツと降り出してきた。カエルさんの歌が空に聞こえたのかな、と思った。だけど、カエルさんは空ではなく私の学区のほうを見ているようだ、少し考え事をしているようだった。電車はゴトンゴトンと音を鳴らしていたがカエルさんが指を鳴らすと、方向を変えいつもとは路線を変えたようだった。その先には紫陽花の花壇があった。そこから一つカエルさんは紫陽花の葉を一つとると小さな筆を取り出してスラスラと何かを書き始めた。しばらくするとカエルさんはその葉っぱを持って立ち上がりドアに向かった。私は慌てて立ち上がった。

外に出るとさっきまで降っていた雨は止んでいて雲間からは夕日が出ていた。

そしてカエルさんは大きな声で歌いだした。

蛙の声が聞こえるかい? 僕の声だよ。

「何で歌っているの?」

私は不思議そうに聞くとカエルさんはニッコリ笑って答えた。

「紫陽花は綺麗ですね、私は雨が好きなので。だから歌いますよ。それにこの葉っぱにも書いてあるでしょう?」

そこには"ありがとう"と書かれていた。

「でも、これだと分からないんじゃないの?」

「そうかもしれませんね。でも大丈夫ですよ」

「どうして分かるの?」

「だってお嬢さんの住んでいるマンションが見えますもの」

「あー! 本当だ」

カエルさんは葉っぱを見せて笑った。

「また明日も雨が降らないといいですね」

カエルさんは私に言ってくれた。

私は笑顔で手を振ってカエルさんを見送った。

私は嬉しくなって、今日あったことをお母さんに話してみた。

お母さんはとても喜んでくれて、今度カエルさんが来たらお菓子をあげる約束をした。梅雨が明けたらきっと暑い夏になるだろう。

その時、私はどんな服を着ていけるだろうか? とても楽しみになった。


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