第6話
赤い。
空中真っ赤だ。寒くなってきたしお腹もすいた。眠い。周囲は草と土の匂いがする畑ばかりだ。お母さんはどこへ行ったんだろう。とぼとぼ歩いているとどこからか声がする。
「庄造、そろそろ寒いだろう。リヤカーの上に段ボールあるから入っておきなさい。お母さんもうちょっと仕事して行くから。」
「うん」
毬栗坊主の少年がゆるゆると立ち上がり指さされた箱に入っていく。
中に何かあるのかな?少年の後を追って箱を覗き込むと座り込んだ少年と目が合った。
「あ!猫!」
体をひょいと持ち上げられて抱き締められる。温かい…
「あったかいな〜」
ーーーーー
「おーい福助ただいまー 今日は学校の授業でお前の絵を描いたんだよ。焦げ茶の毛と緑の目がそっくりに出来たと思わない?」
少年は帰ってきたら必ず俺と遊んでくれる。仕事で忙しいお母さんが帰ってくるまで2人で待つのだ。2人なら寂しくない。遊ぶのも寝るのもごはんも一緒だ。
俺の目は生まれつきあまりよく見えないからあまり外には行かない。帰って来れなくなるのが嫌だから。
「ただいまー。仕事場で余った惣菜と福助には魚のアラ貰ってきたよー」
「おかえりー!」ダダダダダダと走っていく庄造を追いかけてお母さんが持って帰って来た袋の匂いを嗅ぐ。ふんふんうまそうだ。
ここにいれば飢えることも寒さで震えることもない幸せな毎日だ。
ーーーーーー
しばらく経って家の中がバタバタ忙しくなった。黒い人がいっぱいで、庄造はただ座り込んでいる。俺はたくさんの人が怖くて庄造の脚の間に隠れる。
それから庄造は家にいる時間があまりなくなった。
「ただいまー福助! …お前またごはん食べてないじゃないか。頼むからお前までいなくならないでくれよ。もっとバイトしてお金貯まったら獣医に見せてやるからな。」
俺は結構長い間生きて、幸せで、もう動くのが面倒だったけど庄造を1人にしたくないからずっと家で待っていた。
ーーーまだかな?庄造早く帰って来ないかな?ん?なんだか温かい。あぁ庄造そこにいたのか。何か言ってるな…でも俺はもう耳があんまり聞こえないんだ。
「福助ごめんなぁ。もっと金持ちの家に貰われてたらもっと長生きできたんだろうなぁ。今度はもっと食うに困らないような安全でのんびりした所に、健康で生まれて来いよ…」
ーーーもう充分だよ。庄造置いてってしまってごめん。今度生まれてきた時はーーーー
テレビはそこでプツンと切れた。
目からは涙がぼたぼた流れていた。「福助、お前だったのか…」
横を見るとさっきまで座っていたはずのトミーどころかバーテンダー、くつろいでいた猫たちも消えている。
灯りの消えたバーから出ると花束を抱えた女性が立っている。
「おかえり。遅かったね。」
帽子のつばで顔は見えないが庄造にはすぐに分かった。
「ただいま。待たせたな。」