第5話
着いた先は一面銀世界、ならぬクリスタル世界だった。白く濁った水晶のようなものがあちらこちらから生えている。
「ひゅーこりゃあ絶景だがこんなところに人は住めんのか?」
「どうやら住人は人ではないようですよ…」そう言ってトミーが指差す方を見れば猫たちが二足歩行で歩いている。
ブチ、ミケ、サビ、キジトラ、白、黒、オレンジ、灰色とバリエーションに富んだ猫たちがたくさんいる。
「なんっだこりゃあああああああああ!!!!」
「これはまたファンタジーですねぇ」
とりあえず近くの猫に話しかけてみる。猫であろうと異世界では言葉が通じるはずだとトミーは考えた。
「あの。すいません」
「にゃい?にゃんですかにゃ?」
ーーー思った以上に「にゃ」が多い。が、イケる!何とか意思疎通出来るぞ!僕は今猫ちゃんとお喋りしてるんだ(感無量)
トミーは猫好きであった。ーーが、
「お、おい俺にも喋らせろ!」庄造は更に猫好きであった。
「お前この世界から出る方法知ってるか?日本って聞いた事あるか?ここは地図とかあるのか?あとちょっと触ってもいいか?確かめるため!確かめるだけだから!」
「…一体何を確かめるんですか。かなり怪しくなってますよショーゾー。」
「にゃに言ってるにょか分からにゃいにゃ。あそこにょBarに行けば分かるかもしれにゃあ」
「ありがとう猫ちゃん!」
「ちょっとだけ!ちょっとだけだから〜〜〜〜」と言うショーゾーを引きずりBarにやってきた。
そこら辺の水晶で作られたであろうそのバーはドーム型をしており、エスキモーの氷で作る家を思わせる。中の灯りが透けて見えるそこには“Barおもいで”と書いてある看板が掲げてあった。
「邪魔するぜ」
中に入ると思ったよりも広く、数匹の猫がテーブルの上や椅子の下などでぐでーっとだらけきっていた。
「な、何ですかこのパラダイスは!?」問いかけた途端、メガネがテーブルの上の飲み物に照準を合わせ『密造またたび酒』と表示された。
「Oh」トミーはなんだか見てはいけないものを見た気がして目を逸らした。
庄造は伸びきった猫の傍にしゃがみ込みその肉球を鼻に押し当てている。
「…ショーゾー、猫ちゃんたちに失礼ですよ。ちゃんと許可取ってやってるんですか」
「お前も吸ってみろ。トブぞ。あー猫の手はなんでこんなに焦げ臭くてパンみたいな良いにおいがするんだろうなあ」
「僕たちが寝てる間にパンを焼いているのかもしれませんね。」
振り返ってみるとバーテンダーが1人いた。
背丈は人と同じ程だが猫耳、尻尾、ヒゲなどが生えたいわゆる半人半獣だ。
「猫耳喫茶は秋葉原の絶対行く所リストベスト55に入っていたのにまさかこんな所で先に来てしまうとは。」
「いらっしゃいませ。あちらのお客さまからお二人にドリンクを頂いております」
「え?こんな所に知り合いはいねぇが、まあちょうど喉乾いてたしありがたくもらうぜ」
ちらとバーテンダーの指す方向を見ればテーブルの端にピンク色の服を着た少女が座っている。
ーーおや、新しい精霊かな。なになに…『桜の精』か。この世界の精霊は人に食べ物を与えるのが好きなんだろうか。
トミーは少女にお礼を言うと茶色い液体をぐいっと飲み干した。
「!美味しい。」
「あー美味い。こりゃ梅酒だな。お嬢ちゃんありがたいけどこんなところに出入りしていいのかい?親御さんは一緒か?こんな辺な世界だけど子供に飲酒させちゃあダメだろ」
「大丈夫。私お酒飲まない。親もうすぐ帰ってくる。」
「あーここの従業員の子供かなんかか?悪かったな事情も知らねぇでつっこんじまって。」
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「ここの景色を見てると氷砂糖を思い出すぜ…俺が小さい頃は貧乏でよぉ、甘味なんか買えねぇから氷砂糖をしゃぶってたもんだ。ただの砂糖の塊だよ。もう飽きるほど食ったから自分で金稼げるようになった今は絶対に買わねぇんだけど、三女が産まれた時女房が山ほど氷砂糖買ってきて、俺は苦い思い出が蘇ってきて行き場のないやるせなさからあいつを怒鳴りつけちまった。」
「これはこう使うのよ」ってデカい瓶にザラザラ氷砂糖と梅やなんやかんや入れて、「20年後に同じ事が言えるかしら?」ときたもんだ。
「子供が20歳になる時一緒に飲むように梅酒を作ってたんだな。俺は氷砂糖にそんな使い方があるなんて知らなかったからよ。こいつには頭が上がらねぇやと思ったもんだ…」
「そう、でしたか…」庄造の話を聞きながらトミーは強烈な眠気に晒されていた。
ーー酔い潰れるほど酒は飲んでいないはずだがおかしいな…瞼が重い。ショーゾーは?
横を見ると庄造は肩肘をついてバーの備え付けテレビを見ている。こちらの様子には気づいていないようだ。ボーッと見ているテレビ画面は一面真っ赤だった。