第3話
あ、ありのまま今起こったことを話すぜ!湖の中に落ちたと思ったら街があったんだ!
俺は夢でも見てるのか!?
水の中に建物があり人々が生活している。なんとも奇妙な光景を見ながら、なすがままに落ちてゆくと徐々に視界が開け、水底にたどり着いた。
先ほどまでの息苦しさや水面の揺らぎもなくただ普通の街だった。からりとした秋晴れが気持ちいい。
しかし上を見ると空は水で覆われておりあそこから落ちて来たのだと嫌でも理解してしまう。
「なるほどなー俺は夢を見てるのかーそれはそれで早く目覚めんと結婚式に間に合わんからなあー」庄造は現実逃避を始めた。
「じゃあなんで僕はショーゾーの夢にいるんですか?」
「そういえば何だお前は。俺にニュージーランド人の知り合いなんかおらんぞ。」
「…ショーゾー、ニュージーランドの現地民マオリ族はハンギという伝統的な製法で作った蒸し野菜や肉などを近年ではマタリキ(新年)を祝う時などに食べるのですが、そんな話を聞いた事がありますか?」
「いや、そんな話は初めて聞く。俺にそんな知識はないがそれが俺の脳が作り出したホラ話じゃないと誰が証明できるんだ…?」
「うーん確かに。それを言われると僕の存在証明ができませんね。それにしたってここから出ることには変わりないでしょう。進むしかないのでは?」
「そ、そうだな…俺は絶対に帰らなきゃいけねぇんだ。」
「よし!じゃあ街に行って帰る手がかりを探すか。お嬢ちゃんはどうする?」
「一緒には行けないけど待ってるから!早く帰って来てね!」
「え?いつになるか分からないですし、待たせるのも悪いですよ。予想外の方法でここまで来てしまったので送って行くのは難しいですし、困りましたね…」
「私先家に帰る!絶対帰って来て!待ってるから」と言うなり少女は空へ舞い上がって行った。
「あ、ちょ!」トミーは彼女が一体何者なのか不思議に思った。その瞬間メガネが少女に照準を合わせ、『百合の精』という注釈が出た。
「ふーむ百合の精…?」
---------
街は人々で賑わっている。ひと昔前のヨーロッパの街並みのようだが街灯や鉄道があることからある程度文明が発達しているように見える。
「なんか昔読んだ本みたいな街だな。こんな所へ行ってみたいと昔は思ってたがこんな形で叶うとはな。とりあえずそこら辺にいる人たちに話を聞いてみるか。」
「おぉ!ちょうどあそこにいる姉ちゃんに話聞いてくるわ!」
そう言って駆け出した庄造を後から追うトミーが見たものは異様な光景であった。
一際賑わいを見せる街の中心地、美味しそうなパン屋とそのパンを売る笑顔の店主、綺麗な花々が店頭に並ぶおしゃれな花屋と花束を受け取る客、露天商としゃがみ込んで商品を見つめる女性、色とりどりの果物を売る売店に行き交う人々、誰しもがその時を止めたかのように動かない。
よく耳を凝らせばザワザワと聞こえる街の喧騒は街灯と立ち並ぶスピーカーから聞こえているようだ。
「なんだ…ここは…?」そう問いかけるとメガネには『孤独の街“イマジン”」と表示され、ついで人々をメガネ越しに見ると、『マネキン』 『マネキン』 『マネキン』『マネキン』 『マネキン』 『マネキン』『マネキン』 『マネキン』 『マネキン』『マネキン』 『マネキン』 『マネキン』『マネキン』 『マネキン』 『マネキン』…
一様に表示されたその文字にゾッとしたトミーは慌てて庄造を呼んだ。しかし彼は一体のマネキンに一人で話しかけている。
「ショーゾー!一刻も早くここを出ましょう!」
「どうしたんだトミー?そんなに慌てて。それよりこの姉ちゃんこの街で宿屋経営してるらしくってよぉ状況説明したら今日タダで泊めてくれるってよ!ついてるぜ。」
「いえ、こんなところで悠長にしている暇はありません。早く行きましょう!大体何と喋ってるんですか気味が悪い!」
「おい失礼だぞ!折角親切にしてくれてるのに!もうすぐ日も暮れるだろうが次の街までどれくらいかかるか分からねぇんだ。行きたきゃお前一人で行け」
「ショーゾー!! 忘れたんですか!?あなたは帰らなきゃならないんですよ!こんな所でのんびりしてたら結婚式間に合いませんよ!」
「あ、ああ……………そう、そうだった。なんだかここは居心地が良くてつい長居しそうになったが俺は帰らなきゃならねぇんだった。すまねぇ。行くぞトミー!」