第1話
その日庄造は急いでいた。夜間トラック運転手として長年走りなれた道のりがやけに長く感じられる。
「今日はなんてったってあいつの結婚式だ早く帰らねぇと…」
彼の娘、三姉妹の1人である長女の結婚式を控え、注意が散漫になっていたのは否めない。
しかしいつもの急カーブを曲がった先にまさか人が倒れているなど思いもしなかったのだ。
「うわあああああああああああああ!」
ーーーー間に合わん!すまねぇお前ら…
急ブレーキとハンドルを切るが間に合わず崖下へそのまま突っ込んでしまった彼の脳裏には家族の顔が浮かんだが、すぐに暗転した。
トミーは生まれつき視力が弱く分厚いメガネをかけていた。
そのせいで幼少期からかわれた彼が内向的になり家でアニメを見る生活から日本への憧れを持つのは必然だったかもしれない。
満を持して日本に到着した彼は道に迷っていた。
節約のために安い民泊を選んだ彼に待っていたのは過酷な山登りだった。
重いバックパックを背負い、灯もない山中を歩き疲れた彼は早くも母国ニュージーランドに想いを馳せていた。牧場育ちの彼はついいつも通りその辺に寝転んで休憩しているうちに疲れから寝入ってしまった。
眩い光と共に体に衝撃を感じたのは一瞬の事でその後はただ意識が途切れるのみであった。
ーーーー眩しい。
ハッと目が覚めるとそこは大草原だった。
「あれ?日本に行った夢見たんだけどなんかやけにリアルだったな。僕はまだニュージーランドにいるみたいだけどここは一体どこの牧草地だろう?あまり手入れされて無いようだけどこんな所じゃ羊100頭でも…ん?」
周りを見回すと男が1人倒れていた。慌てて駆け寄る。
「あの!大丈夫ですか!?」
「うーんもうちょっと寝かしといてくれや。昨日緊張であんま寝てねぇんだ」
「あ、はい…」トミーは少し人見知りなところがあった。
ー1時間後
「ふぁーーー良く寝たなあー!さてもうそろそろ…なんだこりゃ!!一体全体どこなんだここは!?娘の結婚式は!?それより確かに俺は崖下にダイブしたってのに体に何の傷もねえ!どうなってやがる!?」
「すいません」
「誰だ!?」
「トミーと言います。ニュージーランドから来ました。はじめまして」
「お、おう。俺は庄造だ。日本人だ。あんた日本語上手だな。
「いえいえあなたの英語の方がネイティブ並ですよ」
「?????」
「?????」
「そんなことよりここはどこだ?俺は確か運転中に行き倒れを轢いちまって崖から落ちたんだが、ここは崖下か?まさか天国か?」
「あ、じゃあやっぱりここは日本なんですね!良かった!僕はてっきりまだニュージーランドにいるのかと思っちゃいましたよ〜なにせ道端で寝てたら急に衝撃を受けて気づいたらここにいたんですから。」
「てめぇ!この野郎!!!!」庄造は察しの良い男であった。
渾身の右ストレートがトミーの顔面にクリティカルヒットし眼鏡を粉砕させながらも彼の牧場で鍛えた肉体がなんとか倒れるのを踏みとどまらせた。
「ぐっ!何をするんですか!」
「てめぇのせいで娘の結婚式に間に合ねぇだろうが!あんな所で寝てんじゃねぇ!死にてぇのか!!」
「そ、それはすいません。しかしあなたも僕を轢いた(?)のですからおあいこですよ。僕が死んでいたら人殺しですよまったく…」
「あーあどうしてくれるんですかこのメガネ…あれ?さっきたしかに粉々になったはずのメガネがフレームに歪みもない???どうなっているんだ…?」
その時日本のありとあらゆるアニメを見たトミーは閃いた。
見知らぬ土地、互いに理解出来る言語、再生するメガネ…導き出される答えはそうーーー
ーーーあ、転生しちゃったな。と
しかし、自分がまさか。異世界転生が出来るのは日本人の学生、社会人もしくは引きこもりだけだと思っていたのに。日本という土地でトラックに轢かれた者はどこの国の人でも関係ないのか…?これを論文として発表すればこの世界の常識が変わるぞ!
いやもうこの世界はあの世界ではないのだ!僕には何らかの特殊能力又は使命があり、魔王を倒すか料理、商売で無双するしかないのだ!しかし女神からの説明がないパターンか…これはややこしくなるぞ。
「何さっきからぶつぶつ言ってやがんでぇ気味悪ぃ…轢いちまったもんは悪いが今は生きてんだからいいだろ!もうこんな所にいられるか!俺は帰るぞ!」
「ショーゾー、それは死亡フラグですよ。」
「“さん”をつけろデコ助野郎!死亡とか縁起の悪いこと言うんじゃねぇ!行くぞ!」
「こんな短期間でこんなに名言が聞けるなんて…やっぱり日本に来て良かった!」
小説を読むのは好きですが、書くのは人生で初なのでドキドキです。
今年の目標は新しい事はじめよう!です。