表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四大精霊の契約者  作者: 橙矢雛都
第2章『カル王国』
89/159

36.夜中に憂うは母への想い




〜※〜



人知れず転移をし、ふわりと降り立ったその場所はとても静かだった。

それはそうだ。今は真夜中である。

そして私は誰にも、精霊たちにすら言わずにここに来ている。唯一、フォンセにはバレてついてこられた。


ここは、元オースト領。

今も名前だけは“オースト領”だけど、新しい領主が決まり次第名前が変わるそうだ。

勝手な行動なのは分かっているが、でもだからこそ真夜中にした。万が一、街の誰かに見つからないように。



『でもどうしてオースト領なんですか?』

「ちょっとね。まぁ、一応墓参り…かな」



墓参り(それ)は建前ではあるけどね。

会話しながら歩き、私は目的の場所の目の前に立っている。

そこには以前にラティが咲かせてくれたベルフラワーが未だに綺麗に咲き誇っていた。切り花じゃないからもっているのだろうが、それにしたって生き生きとしている気がする。

……これは、何かやったな?


そんなことはさておいて。

何をするでもなく佇んでいる私の周りに、何事かと心配した妖精たちが集まってきた。

心配してるけど邪魔にならないように、少し離れた場所で見守ってくれている。ほんと、良い子たちだな。

羨ましいという、自分の中の感情に気づいた時、なんだかとても悲しくなった。


公爵家を追い出されたあの日から、今の今まで。自分は周囲から本当に良くしてもらっている。自覚もあるし、感謝もしている。

悲しいと同時に感じたのは寂しさ。

ここに来たからといって解消されるものではないけど… でも来たかったのだ。



『リルフィ様、ここにはボクと妖精たちしかいません。心配なら防音の結界を張りましょう』



だから何を吐き出しても大丈夫だと、フォンセは私の心を気遣ってそう言ってくれた。周囲の妖精たちも同意するように何度も頷いている。

気持ちを吐き出すこと。発散すること。

最近はそういうこと、できていなかった。目まぐるしく変わったり、変わらなかったりする日常と心境に、かなり疲弊していたのに。

不満とかではない。ただ、そうしたかったなぁっていう残念がる気持ちだ。

誰にぶつけたってどうしようもないことだと思って、中々気持ちを吐き出せずにいた。



「…母様からのドレスなら、欲しかった」



ぽつりと言葉にすると、だんだんと“そうしたかった思い”が浮かび上がってくる。

そんなマナーがあるなら従ったっていい。大切な人と、大切なことを共有できるのならばいくらだって…


もっと話したかった。

貰いたかった。

支えたかった。

意見を言い合いたかった。

その為の喧嘩ならしたかった。

一緒に悩みたかった。

大切な人に、会ってほしかった。

言葉を交わす所を見たかった。


…笑い合いたかった。



「お…かあ、さま…」



どれだけ言葉にしても、声に出しても収まらない。心の中にくすぶっている母様への想いは自分で思っているよりも大きく、割り切れたと思っていたけど全然違ったようだ。


風が吹き、ベルフラワーたちが揺れる。

その花を見た時に、自分の傍にいてくれる大切な人を思い出す。



「…………ラティ…」





「リルフィ」



細く、小さい声で名を呟いたら、返事するように私の名前を返されていた。

いるはずがない、と思いつつも、後ろから抱きしめられたことによる体温、香り、声を感じてそこにいるんだと実感する。

少しの間、互いに無言でただただお互いにそこにいることを確かめ合っていた。



「……何でいるの?」

「呼ばれたから?」

「……………呼んでないもん…」

「呼ばれたよ。僕には聞こえた」



伝えたのはフォンセで、来た方法は転移だろう。

けど、そんなことはどうでもよくて。いてほしいと思った時にいてくれる彼は、もしかしたら私と同じ思いを抱えているのかもしれないかった。

同じように、母親へのやりきれない想いが。


辺境伯夫人のことを、ほとんど聞いたことがない。話題にすら上がらなかった。その存在を聞いたのは、話の流れのさらっとした一度だけ。

それでもラティはいつだって私を優先してくれている。いくら母親を恋しがるような歳ではないとはいえ、気にしてないわけではないだろう。


…私も、立ち直れていなくともできることがあるはず。

とは言っても。ラティが相手だとどうしてこう、何も分からなくなるのだろう。

孤児院にいた頃はもう少し手際よくできていたのに。

まぁ、環境も状況も立場も何もかも違うのだけど。でも違うとしても誰かの為にというのは同じで…

その“誰かの為”に私は何をしていたか。同じように、簡単なことのはず。


ラティ、私もね。貴方の為に何かしたい。



「そういえば、ティナ義姉様からお茶のお誘いが来てたのは聞いた?」

「うん、ロリスから、聞いた…」

「さっき、追加で文鳥が来たんだけど、3日後がいいんだって。その前日に書類仕事が落ち着く目処が立ったから、息抜きに付き合ってってことだと思う」



3日後… うん、大丈夫。大丈夫…だけど、私に直接文鳥を送ってきていいのにな。ていうかさっき…?

泣いてはいないけど、感情がぐずぐずになっている中で必死に言葉を聞き、ああだこうだと考える。

落ち着いてくると、ラティに抱きしめられているこの状況がちょこっとだけ恥ずかしい。でも周りに人はいないので少し甘えていよう。



「ティナ義姉様に会いに行くにあたって、リルフィに頼みたい事があるんだ」

「…? 何?」

「どうも体調を崩しているようなんだ。ちょっと様子を見てきてもらおうと思って」

「え… じゃあお茶してる場合じゃ…」

「でも本人は隠しているつもりでね。リルフィ相手なら何かをポロッというかもしれない。その辺をさりげなく探ってほしい」



ただの疲れならまだいいが、何かあってからでは遅いので見てほしいということなのかな。

私としてはティナ義姉様だけでなく、私の周囲の人たちはきちんと休息をとってほしいのだが。だってみんな、仕事人間すぎるんだもん。

私と話すことで分かることがあるのならば、話すのもやぶさかではないけど…


……私は、恵まれているから。

母様の事で思う所があるのは確かだが、それのせいで今現在困っていることはない。ただ、どうしようもない寂しさがあるだけ。



「リルフィ、寂しくなったら次からは僕の所に来て」

「で、も… 仕事中の時とか…」

「キミを守る為に僕はいるんだ。いつの間にかいなくなられる方が心臓に悪いよ」



それを言われては何も言えない。一応、悪いなとは思っていたよ? ほんとに。

でも確かに、知らないうちにいなくなられるのは私も嫌だ。そこにあったのに、と思っているものならなおさら。


私は、ここに来た理由を今更だがラティに話した。ラティは私が話し終えるまで静かに聞いてくれていた。

平民でも当たり前にある母から娘への贈り物。それを羨ましいと思っていたことを、今日初めて自覚したこと。

孤児院にいたことで膨らんだ劣等感みたいなものかもしれない。

私はそれを無自覚に感じていて、お姉さんなんだからと子供たちに感じさせないように行動していた。

自分自身の気持ちを蔑ろにするという、手痛い結果になっているけど、過去の行動に後悔はない。自分で決めて、自分でやったことだ。

だけどあの場所から旅立って、自分が「一番上」という立場から離れて、過度に甘やかされて。

ようやく、正常な感情を感じられているのだろう。



「自分で自分が面倒くさい…」

「そんなこと言わないでよ。たとえ誰かがそれを、わがままとか面倒とか言ってても僕はそれを見せてくれることが嬉しく思うんだから」



…もはや良い人を通り越してお人好しとか言われていないだろうか。嬉しい半分むず痒さ半分。ここまでくると逆に弱点とか探したくなってくる。

他所ではどうか知らないが、ラティは“嬉しい”とか“楽しい”とかの喜びをよく私に見せてくれる。

そこに“恥ずかしい”があると隠そうとする傾向があるけど、私に対してはいつも笑っている。


悲しそうにしている部分を、ほとんど見たことがない。

私はこの人を、知っているようで知らないのかもしれない。



「どうしたの?」

「…ううん、なんでもない」

「そう… じゃあ帰ろうか」






『あら、ちょっと待ってくれる?』



突然聞こえたツェリの声。

私とラティの前に現れてふわりと微笑む。

どうしたのだろう、こんな時間に。



『頼まれていた伝言をすっかり忘れていたわ~ ギリギリ思い出せてよかった!』

「伝言? 誰から…?」

『うふふ… それはナイショ。でも、すぐに分かるわ』



人差し指を口元に当て、秘密のポーズをとる。まるでいたずらっ子のような動作だ。

秘密なくせにすぐに分かるってどういうことなの?

でも、精霊に伝言を頼める存在は限られてくる。それが同じ精霊でない限り、頼んだのは“見える”人間だろう。



『“時の精霊が管理する部屋の、18の番号がふられた箱。それに渡す物が入っている”。そう聞いているわ』

「ツェリが管理する部屋…?」

「それって、収納空間のこと?」

『ええ、以前に話したわね。魔法袋(マジックバック)の先の空間は、時の精霊(わたし)にとっては一つの大きな区切りのない空間。でも使う側にとっては個人の空間だから、その伝言を残した人の部屋ってことね』



それを私に伝える意味がちゃんとあるってことだ。

ツェリにとっては大きな部屋でも、使う側としては入り口は一つ。そして部屋も一つ。私が使える部屋の中に、18の番号がふられた箱があるということ?


私が使う魔法袋(マジックバック)は元は…



『確かに伝えたわよ。でも、どうするかは貴女の自由だからね』



言うだけ言ってさっさと行ってしまったから何も言えない。

さっきまでのぐちゃぐちゃな感情のせいもある。何を言われているか一瞬分からず、ぽかんとするしかなかった。

何が入っているのだろう。魔法袋(マジックバック)の奥の方、漁るようにしなければならないそこに何が入っているか、私でも分からない。


ツェリもツェリだ。悪気はないのは分かるが、なんてタイミングで伝えにくるのだろう。

中身に対して不安と期待が入り交じる。若干、不安の方の割合が大きい気がするけれどね。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ