26.強くなる為には
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~*~
王国騎士団というのは騒がしかったり、仰々しかったりするのだと勝手に思っていた。
ラティが所属する第二騎士団が少し変わってるだけかもしれない。貴族、平民それぞれの出身がいるのも理由だろうか。どちらの気持ちも分かるからと行く先々での信頼も厚いそうだ。
確かに、フレンドリーな感じだったなぁと以前に一緒に過ごした時間を思い出す。
王都に来たついでに少し寄るとのことでついてきた。宿舎や訓練場がある区画に近づいてきたはずなのに人の気配は何故か感じられなかった。
代わり、じゃないけど花壇がある。色とりどりの綺麗な花や、ポーションなどの薬に使えそうな薬草の。
『思ったより静かな所だな…』
『見て見て! 花もキレイ!』
『土も良い状態だよぉ』
花や土に関しては良い庭師さんがいるとみた。さすが王城の敷地内の一角だ。他はどうなんだろう…
みんなが言うほど居心地が良いのか、確かに妖精たちの姿もちらほらと見かけはする。王城、つまりは王族がいる場所だから妖精たちの評価は低いのかと思ってた。
それにしてもいつもこんなに静かなのかな… 静かすぎるような気もするんだけど。
「あれっ、リルフィ!?」
「アンリ?」
「きゃー! 久しぶり!」
訓練後、といった感じのアンリがそこにいた。
タオル片手にニコニコと笑う彼女は元気そうで、前会った時と変わりないようだった。
私がラティの誘いに乗り、今日ついてきたのは、アンリやメリアのようなあの日交流した人たちに会う為だ。
とはいえ部外者なのでこれ以上中には入れない。まぁ入ろうとも思わないが、中々来られる場所でもないと思ったから来られる時に来ておこうと思っただけなんだよね。
「アンリ、少し彼女と一緒にいてあげてくれるかな」
「それはかまいませんが… ラーティ様はどうされるんですか?」
「団長に用があって… 団長室にいるよね?」
「あー… まぁ… 書類と格闘していると思いますよ」
ん? なんだかアンリの言葉の歯切れが悪い。
視線もあちこちに泳いでいる。ラティに知られるとマズいことでもあるかのような。
私が感じた違和感に気づかないラティではない。無言の圧力をかけるようにアンリをじっと見る。
冷や汗ダラダラになりながらもアンリは口をつぐんでいる。ラティもアンリからは無理矢理聞き出す気はないようなので、小さくため息をついて私にはにこっと微笑んでから行ってしまった。
私に向けられていたわけじゃないとはいえ、無言の圧力からのため息、そして笑顔はある意味ちょっと怖い。アンリが少し気の毒だ。
「…大丈夫?」
「ひぃ~… やっぱりラーティ様怒らせると怖いぃ~…」
怒ってはなかったとは思うけど、あの圧はロトレイ家の遺伝なんだよね。慣れてないと怖いだろう。
まぁその場面をまだ見たことないから、義家族(予定)の圧とやらがどんなものなのか、想像の域を越えない。
その辺に関して、私からは何も言うまい。
それに今は久々に会えている喜びの方を優先したい。アンリしかいないんだろうか。
「リルフィ、もうちょっと奥の方行こう」
「何かあるの?」
「ここだとちょっとヤバいんデス…」
若干片言混じりだった気がするが、まぁここは従っておこう。
この静かな場所に、誰かの来訪を知らせる仕掛けが施されてたりなんかしたらここにいることは邪魔になるからね。
ま、そんなことはないか!
『(それ、ふらぐってやつですよ~)』
フォンセの声が聞こえたがスルーしておいた。じゃないとわざわざここに仕掛ける意味を変に勘繰ってしまう気がしたから。
アンリに付いて奥の方に行くにつれて、だんだんと人の気配と話し声がし始めてきた。それでもこの前会った人数よりも少ないけれど。
剣だったり、魔法だったりそういうのの訓練場所。その光景を見てサーラもうずうずしているのが伝わってくる。
ラティを待つ間、ここを少し使わせてもらってもいいかなぁ。
「リルフィって、何でもできる?」
「何でも、とは…」
「私… メリアもそうなんだけど、まだ新人だから基本的には訓練と雑務なのね。少数で取りかかる仕事にしかつけないの。でもそれはいいの! 新人だし、実力不足な所もあるし、ちょっとずつ経験と力を積んでいけばって思ってるから」
まぁ、そもそもで。この国で騎士団が総動員するような大きな事態はそう起きたりはしない。
前回の総動員は、王様のちょっとした愚行でもあったからカウントしないとして。
要は、魔物討伐や他国との戦争といった「戦闘」をやるような事態にはほぼほぼならないのだ。それぐらい平和ってことなんだけどね。
万が一戦いになったとしても冒険者ギルドとの連携も悪くはないらしいので、戦いの手は足りているといっていい。
しかし、それでは新人が育ちにくい。特に女性騎士はなおのこと育ちにくい。
なんなら冒険者をしている女性の方が一騎士団より強いこともある。私は、例外にしておいてほしいが。
アンリとメリアはまだ優遇されている方らしい。理由は、ラティが第二騎士団にいるからで、定期的にロトレイ家が所有する私兵団とも合同訓練があるからだ。
「ちなみになんだけど、ラーティ様のお兄様、ルセウス・ロトレイ様とルオン・ロトレイ様も以前に第二騎士団に所属していたんだって」
「えぇ!? そうなの?」
「今でもたまーに個人的に訪問してくれることもあるらしいよ。私はまだお会いしたことないけど」
ルセウス義兄様もルオン義兄様もソロの高ランク冒険者だ。実力は言うまでもない。
なるほど、ここで第二騎士団の人たちにあの痣が出ていないことに納得がいった。妖精たちからしたら、この第二騎士団も“ロトレイ家の一部”と捉えられているのかもしれない。
でもそれなら訓練の機会という意味では足りているんじゃないの? アンリたちも実戦経験があまりないだけで、弱いわけではなさそうに見えるし。
「団長や、ラーティ様を始めとした先輩方はすごく良い人たちばかりだよ。容赦のない所とか本当に最高だし!」
「…(それは最高、なのか…?)」
「それでもたまに感じる“男女の違い”っていうか、体格とか筋力もそうなんだけど、なんていうか…」
「なんか理想でもあるの?」
「リルフィのように、とまではいかなくとも、乱戦とかになった時に1人でも対処できるくらいになりたいんだよね。そうしたら他に迷惑かからないし、時間稼ぎができれば助けにもなれるかもしれないからさ」
乱戦になるような事態を想定するのもあれだが、しかしないとも言い切れない。
平和ボケしかけている人もいる中で、こういう「もしも」を考えられるのはとても良いことだ。そしてその「もしも」の為に行動しているのも。
簡単に言えばアンリは私に教えを乞いたい、ということなんだろう。同じ女性で、ロトレイ家に受け入れられる程の実力者とか思ってそうだ。
私としては教えるのは別にいいんだけれど…
「具体的には何を教わりたいの?」
「武器を持てない時の対処法とか!」
「要は素手ってことね… もしくは小回りの利きそうな短剣とか。ちなみに武器って剣?」
「うん! これは訓練時用の木剣だけど、大きさと重さは同じで作ってあるの」
そう言って見せてくれた木剣は、見た目は普通の木剣だった。
でも試しに持ってみるとそれなりの重さがあり、実戦を想定して訓練が行えるように考えて作られたものだと分かる。
だがこれは身体ができていない新人にはただ重く、扱い辛いだろう。身体作りと武器に慣れる目的もあるんだろうけど…
特に女は、男と身体の作りがそもそも違うし筋肉の付き方も違う。女性騎士を増やしたいならそこはこれからの課題として検討すべきことだ。
重いものには重いなりの理由がある。真っ先に思い浮かぶのは耐久性と威力。
安易に軽くすれば、扱いやすいだろうが武器自体の耐久性が落ちて壊れやすくなってしまう。それでは武器としての意味を成さない。
筋力は、頑張ってつけてもらうとして。
「……じゃあ、アンリ。ちょっと見ててくれる?」
「見るって… 何を?」
「フィーラ! ちょっと相手よろしく! 目で追えるように半分以下のスピードでね」
『よしきた! 了っ解!』
元の姿になり、ふわっと地面に足をつける。私はフィーラから少し距離をとった。
まさかと思いつつも何が始まるのか理解したアンリと、何事かと周りの人たちも私たちを見る。しん、と辺りが静まり返った。
何を合図としたわけじゃあない。けれど遠くでパキッと音がした瞬間に双方動き出し、私の持つ解体用小型ナイフと、フィーラの持つ魔力で造り出した短剣がぶつかりあった。
一撃。
二撃。
三撃。
集中してナイフを振るわないと、フィーラのスピードにはついていけない。いつもの半分以下でと言ったから私にとってはだいぶ遅いが、周りにとってはなんとか目で追えているという感じだ。
ピッ… と顔のすぐ側を掠めた音がした。
ナイフで捌ききれなかったフィーラからの攻撃を全てギリギリで避けていく。そして互いの喉元に武器をあてがった時点で動きを止めた。
私も全力は出していなかったけれど、フィーラはこれで半分以下なんだよなぁ。
今でやっと相手できるようになってきた私だけれど、こうなるまでとても長かった。やり始めの頃なんかしょっちゅう転がされてたし。
『考え事? 随分余裕だね』
「おかげさまで、ね」
『あは! あはははは!』
「………サーラ、後よろしく」
『おぉい! 丸投げかい!』
私はサーラと(強制的に)交代し、楽しそうにフィーラは短剣を振るう。
受けるにしろかわすにしろ、本当にギリギリだった。慣れているというのもあるけど、ポイントさえ分かればそう難しいことではない。
楽しくなってきているであろうフィーラの相手をサーラに任せてアンリの方に行く。
アンリの目はものすごくキラキラしていた。
「すっごいね! あんな風に動けるんだ!」
「感じたことは?」
「早いし、すごく軽やかで…」
この子は自分で気づく力を持っている。やる気も根性もあるのできっと強くなるだろう。
何が必要かに気づけば、私は方法を教えて見守るだけだ。後はひたすらに訓練である。
「やっぱりまず走り込みとかやって身体作り…」
「素早さを鍛えるなら風魔法を繰り返し使うのもおすすめだよ。部屋の中でも魔力操作の訓練はできるし」
「寝る前にやるのは?」
「いいと思う」
走り込みとか、魔力操作の訓練とか。地味な作業とかって敬遠する人もいる中でこんなにもやる気に満ちているのは逆に珍しく映る。
メリアも同じ気持ちだというし、故郷がとても大事だというのはすごく伝わってくる。
その気持ちは私もとても理解できるので、彼女たちには友人としてこれからも協力していこうと思った。
『リルフィも面倒見はいいのよねぇ』
「なぁにそれ」
『いいのよいいのよ。貴女はそのままで。でもその頬の傷は早く治した方がいいわ』
「え…」
あぁ、さっきのでちょっと当たっちゃってたか。血も出てなければ痛みもなかったから気づかなかった。
早く治した方がいいって、どうしてだ? このくらいの傷なら薬も使わないぐらいなんだけど。
何でネールはそんなこと言うのかな…?
「団長」
「あー… 分かってる。ラーティの言いたいことはよく分かってる。だからその圧はしまえ」
「やだなぁ、そんなつもりはありませんよ」
「そんなつもりがなくてそれか」
「そんなことより」
「…………あぁ、第三王子殿下のことだろう? 今日は殿下のお守りにウチの番が回ってきたわけだが…」
「なんでそれにメリアを行かせたんですか」
「…殿下の希望だったんだ。仕方がなかった」
「ちゃんとメリアのことも気にかけてくださいよ。今日そのお守りのメンバーに加わっているメリアは殿下の好みに当てはまってしまう」
「それを言うならラーティもじゃないか。リルフィ嬢のことは気をつけておけよ。まぁ、殿下のは“好み”というより“癖”だが」
「一応、イルにも伝えておきますが…」
「やれることをやるしかないな」
団長と会話をしながら廊下を歩く。重要な話は終わったので訓練場に共に向かっているのだ。
リルフィが何かをやっているであろうことは、もういつものことなので気にしていない。アンリ辺りがどう鍛練したらいいか聞いているだろう。
…まぁ、その予想は当たっていたけれど。
「リルフィ、その傷は?」
「え??」
「動かないで。治すから」
「ひゃい…」
……それは予想してなかった。
僕は無言で彼女に治癒魔法を使っていた。




