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四大精霊の契約者  作者: 橙矢雛都
第1章『リルフィ』
49/159

49.やりすぎ盛りすぎ




~*~



「ここ、が…」



目の前にそびえ立つ建物。看板には≪冒険者ギルド アルヘン支部≫と書かれている。

さすが辺境伯領というか… でかいし、立派だ。

ラティが街で用事があるというのでついでと思って付いてきた。今は別行動だけど、後で落ち合う予定である。



「冒険者カードの更新、ねぇ…」

『気が乗りませんか?』

「ランクアップする気なかったから」



ほんとにそれ。こういう状況になってしまったのと、リジィに言われたからランクアップするのであって、のんびり気のまま低ランクでやっていきたかったのに。

今の私はソロのCランク(仮)。何故(仮)なのかというと、申請して受理されたが全ての手続きをするには、トドゥラ支部では時間が足りなかったのだ。

でも私がこっちに向かう移動時間を使って、残りの手続きを済ませておいてくれるとのことで。私がここに来て冒険者カードの更新を行うだけで完了できるらしい。

リジィの手際の良さに感謝だよ。ランクアップはしたくなかったけど。


中へと入って、トドゥラ支部との活気の違いに少し吃驚した。

違うのは当然なんだけど、こうも違うのかと思った。そりゃ暇なワケだよ。



「こんにちは。ご依頼ですか? 新規登録ですか?」



私に気づいた受付嬢さんが声をかけてくれた。

栗色ショートの髪でにこっと笑顔でとても可愛い。歳は同じくらいに見えた。

私は、自身が既に冒険者であること、トドゥラ支部がある町を拠点としていたがこっちに移住してきたこと、カード更新等について、必要なことを全て伝えた。

冒険者カードを見て「あぁ!」と心当たりあるような声を上げた。お待ちしておりました、とさらにニコニコして紙とペンを差し出してきた。

どうやら記入が必要な書類があるらしい。



「トドゥラ支部のフリージアから聞いております。その書類の必要事項を記入していただければ、本日から正式にCランクとなります」

「依頼の受け方は他と変わらないでしょうか?」

「はい。あちらにあるボードに依頼が書かれた紙を貼っておりますので、受けたいと思ったものを取って受付までお持ちください。そこは変わりませんが、Cランクからは指名依頼されることがありますので、その時はまたご説明させていただきますね」



なるほど、と思いながら書類に記入していく。もちろん注意事項も読み逃しのないように端から端までちゃんと見る。

自分にとって不都合なことにならないように、当然のことなのだけど受付嬢さんには感心された。どうやらたまにちゃんとみないで書く人がいるらしい。



「フリージアから聞いていた通りの人のようですね」

「リジィ… いや、フリージアを知っているのですか?」

「冒険者ギルドに就職した時、王都での研修が一緒だったんです。歳も同じだし、話も合うしで手紙での交流は続いています。あ、申し遅れました。私、アルヘン支部所属のトロワといいます」



リジィのことだから、多少なりとも私のことを話していたと思われる。だってリジィだもん。

友達自慢! とか言ってさ。

…私も、彼女とは気が合いそうな気がする。


書けた書類を渡すと、トロワさんは記入漏れがないかをさっと確認し、少しお待ちくださいと言って奥の方へと消えていった。

その間、私は少し辺りを見た。

依頼ボードを見ている人、談笑している人、作戦会議をしている人たちなど、様々な人たちがいてとても賑わっている。

ほとんどの人がパーティーを組んでいるようだ。私のようにソロでやる人はいない、というか珍しいみたい。


そういや、誰に言われたかは忘れたが、ソロで冒険者ランクを上げていく人はとても珍しいし、難しいそうだ。

出来ないわけではないが、パーティーを組んだ方がランクアップはしやすいので、大体が低ランクの内に2人か3人で組んで、後に合体するというのが基本なのだ。

ソロだと上げられてもDランクまで。Cランクからはちょっとランク上げの条件の内容も難易度も変わるから、それでもソロでい続けるのは余程の実力者だという。


例えば、ロトレイ家の人たちとか。

あの家の人たちは、家の方針で成人前から冒険者登録をし、色々と経験を積むらしい。

上の大人2人がSランク、ラティたち兄弟がAランクって聞いた。

なんかもう、あまり考えないようにしよう。



「おい、嬢ちゃん。新人か?」



必要事項の記入を終えてトロワさんを待っていると、後ろから声をかけられた。

振り返ると数人。おそらくパーティーを組んでいる人たちだとは思うけど、肯定も否定もせずに会釈だけしておいた。

私が新人だろうがそうじゃなかろうが、この人たちには関係ないと思ったのだ。

だから余計なことは喋りません。みんながこの人たちを睨んでるけど、姿は見せてないので好きにさせておこう。



「リルフィさん、お待たせしましたー… って、あら? 金光の鬣のみなさん、お帰りなさい。達成手続きですか?」

「おう! トロワちゃん! 心配なんかいらねぇぜ? 依頼はキッチリこなしてきたからよ」



トロワさんの言った言葉の中に「心配」という言葉があっただろうか?

疑問には思ったけど、トロワさんがニコニコと表情を変えずに返していたことから、これはいつものことなんだと理解できた。


金光の鬣。

ラティやルオン義兄様から聞いていた、この街を拠点としていることから、実力は相当であることは容易に理解できる。

……が、なんか、嫌な印象だ。



「少しお待ちいただけますか? 先にリルフィさんの手続きを済ませますので」

「手続き? やっぱ嬢ちゃん新人か?」

「いえ、彼女は()()のCランク冒険者です」



トロワさんが何故かソロを強調していた。

何でもない風を装ってるけど、よく見ると若干口元が引きつっている。苦手…なのかな?

けどまぁ、私もどちらかというと苦手な部類だ。気持ちは分からなくもない。

…に、しても。



「トロワちゃん。仕事終わったら時間ない?」

「ありません」



わぁ、ばっさり。仕事中のリジィそっくり。いるいる。こういう、懲りない人。

後は面倒なことに巻き込まれないように極力会話は控え、関わらないことだ。

だけどそういう私の考えがちゃんとすることはほとんどない。



「アンタ、ソロでCランク? じゃあ戦えんだね」

「……まぁ、ある程度は」



トロワさんに絡んでいる男の人にさえ関わらなければ大丈夫だと、そう思った数分前の自分を殴りたい。

武器は?とか、魔法は?とか勢いよく、そしてしつこく聞いてくるのだが… ただの興味本位か、何かを探られているのかは分からないけど。

私に質問してくる人の後ろで、何やらこそこそと話し合っている数名が。小声なんだけど、フィーラの影響で耳が良いから内緒話とか聞こえちゃうんだよなぁ。昔から。



「Cランクじゃん…」

「でもソロだし」

「可愛いし」



どうやら少し前に欠員が出たから、新メンバーとしてどうかということみたい。

話し合っている所悪いが、入る気はない。たとえ勧誘してきたとしてもだ。適当に受け流しながら、私はトロワさんの手続きが終わるのを待った。



「あー、ダメだダメだ。田舎者を入れたらAランクっていうウチの価値が下がる」

「えーっ! 何でですかリーダー! ソロのCランクならBランク相当ですよ! ねぇ、トロワさん」

「そうですね。それにリルフィさんは後1つの条件さえ満たせればBランクになれます」

「なら実質Aランクじゃん! もったいないよリーダー!」

「前にいた所がルドの町なら大したことねぇよ。あんな森しかねぇ超田舎。場所も人も何の価値もねぇ所」

「何でリルフィさんの出身地知って… …!! アナタ、また盗み見しましたね!? いい加減にしてください!」



盗み見とか、チームには入れないとかはどうだっていい。そっちでなんとかしてくれ。


……

………

…………けど、コイツ、今何て言った?


あの町が田舎なのも、私が田舎者なのもその通りだから否定はしない。ただの事実だし。

けれども… 「場所も人も何の価値もない」という言葉だけは聞き逃せない。大切な人たちを侮辱する言葉だからだ。

トロワさんも、リジィ(友人)が馬鹿にされたと思ったのか、とても怒っているようだ。



「…………」

「…!!」



私はチラリと、トロワさんに視線を送る。コイツをボコボコにできる正当な方法はないかと。

たとえ事情がどうあれ、冒険者同士の私闘だったり喧嘩だったりは規則で禁止されている。だから今の発言でどれだけムカついたとしても手は出せないのだ。

でも正当な方法であれば問題はない。ギルドを介した手合わせだったり、決闘だったりすれば。

いずれもギルドの許可と立ち会いがいるけども。

ギルド側の立会人はおそらくトロワさんがやってくれると思う。後は方法だが…



「ちょうどよかった。金光の鬣のみなさん、試験にご協力ください」

「お? いきなりどうしたトロワちゃん」

「ご協力く・だ・さ・い」



圧強め。有無は言わせないというにっこりとした笑顔。

彼女も、なかなか良い性格をしているようだ。





















冒険者ギルドの扉を開けると、いつものようにざわめきが広がっていた。

…いや、いつもと何か違う。ざわめきの感じも、活気ではなく困惑な気がする。

これは彼女が何かやったかな?



「あ! ラーティ様!」



顔見知りの受付嬢が僕を見つけて、悲鳴に近い声を上げた。その目は涙目だった。

周りの冒険者たちも助かったという安堵の表情を浮かべている。僕は何でも解決できるってワケじゃないんだけどな。

でも一応、確認の為に聞いておこう。



「何があったの? ギルマスは?」

「ギルマスは定例会議中で、今は外していて… ト、トロワさんも珍しく怒っていて止められる人がいなく…」

「厄介事?」

「厄介事というか… 金光の鬣のみなさんがたった1人に叩きのめされてしまいまして」

「……それってさ、ソロのCランクでプラチナブロンドの女の人でしょ」

「はい、そうなん…… …え??」



何で知ってるのかと顔に書かれている。

まぁ、僕とリルフィの関係を知らない人からしたらそう思うんだろうね。

僕としてはやっぱりかと思ったけど、リルフィがそんなことをするのには理由があると思っている。リルフィは理由もなくそんなことをするような人ではない。


それにしても、あの≪金光の鬣≫を叩きのめした、かぁ… リーダーの男の言動がたまに酷いくらいで、冒険者としての実力はリーダーの男だけでなく、それぞれのメンバーもAランクに相応しいと記憶している。直接絡んだことはないけど。

でも、まさにその“リーダーの男の言動”が理由だとは思わなかった。その場面を見聞きしていた冒険者から教えてもらったが、そりゃリルフィが怒るのも無理はないと思った。

リルフィは自分よりも自分の大切な人優先だからなぁ。そして彼らの敗因はリルフィの実力を見抜けなかったことにもある。

相手との力量の差を測れるようになるのも、冒険者として必要な能力だからね。



「あらら… 結構派手にやったねぇ」



騒ぎの中心に来れば地面に突っ伏す面々の中に1人だけ立っているリルフィが。

僕が来たことにも気づいていない。…が、フォンセがこそっと耳打ちしてこちらに気づいたようだ。



「あ… う… こ、これは…」



あわあわとして言い訳の言葉を述べようとするも、上手く考えがまとまらず言葉が出てこないようだった。

そんなリルフィの様子とは対照的に、金光の鬣の人たちは何故か笑みを浮かべている。僕がこの状況の原因を知っていることも、誰の味方であるのかも知らずに。



「何で、笑ってる?」

「え…」

「自業自得の結果だろう? 不適切な言動をしたのは貴方で、それを止めることも諫めることもできなかったのは周りの人たちだ」



実を言うと僕もちょっとだけ怒っている。

だって、彼らはリルフィを馬鹿にしたようなものだからだ。愛する人を馬鹿にされて、黙っていられるほど僕は我慢強くない。



「彼女の故郷のことだけでなく、彼女のことも馬鹿にしたことになる。僕の婚約者(愛する人)を馬鹿にしておいて… 僕が貴方たちを叩きのめしてもよかったけど、もっと彼女に感謝した方がいいよ? まぁ、それでその方たちに許されるならばだけれども」



その存在に、リルフィ()を害されたと判断されたらどうなるか。彼らはまだ知らないから。



「ど、どういうことだ? つか、ラーティの女…?」

「リーダー、今はそこ問題じゃないっす…」

「問題だろうがよ。あのラーティが田舎者を……」


『今すぐその口を閉じなさい。痴れ者が』



あらららら…… 自ら逆鱗に触れにいくとは。

リルフィに叩きのめされた時点で落ち着いていればよかったものを。こうなれば僕にも、リルフィにも、止められない。ただ、ほどほどにねと一応伝えるしかできない。

大分怒っている様子の精霊たち。あの断罪の時ほどじゃなくとも、十分に圧があり相手を萎縮させている。



『さて、どうする?』

『ここでやりすぎてぇ、リルフィの今後に差し支えても嫌だしねぇ~』

『そもそもこの男の言動が悪いんだと思うけど? 反省も原因の理解もしてないっぽいし!』

『じゃあこの男だけでいいんじゃない? “魔力平手打ち”を、私たちで一発ずつ』

『あ、それならボクもやります!』

『じゃあ私も!』

『ツェリはどうするかしら…』

「…… ≪私の分をネールにあげる≫って言ってるよ」

『あら~ じゃあ私は二発いけるのね』



僕にツェリからの念話が届いたからそのまま伝えたけど、本当に伝えてよかったのかなって思うくらい不穏な会話。“魔力平手打ち”がどんなものか知らないけど、手加減はするだろう。…多分、一応。

ネールたちが姿を見せてなかったのはこういうことになった時の為なのだなと察した。より相手を威圧する為とでも言おうか、逆にたち悪い気がするけど…



「ラティ…」



彼女を咎めないといけないことはない。これはやりすぎなどではなく規定内の範疇だ。

Aランクの冒険者パーティーが叩きのめされたのは単純なる実力差。強くあることはこの場所では誇っていいことだ。

だからリルフィがそんな青い顔をすることなんてない。笑う、まではいかなくとも普通ではいてほしいなと思った。




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