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四大精霊の契約者  作者: 橙矢雛都
第1章『リルフィ』
35/159

35.ゼノンの願い

ブックマーク、評価、いいねありがとうございます!

いつもの感じの文字数にまとめきれなかったので、今回はちょっと長いです。





~*~



光があるから闇があり、闇があるから光がある。

対極で、対等な存在。それが光と闇の属性。

ツェリが造ってくれた空間で、私は先代様に魔力を注いだ。本来ならば存在できないが、この空間とかつての契約者の子孫である私の魔力のおかげで、かろうじてだが存在できている。

それでもその身体は、仮初めの存在だとでもいうように透けていた。


少しして閉じていた目は開かれた。

闇の精霊の特徴ともいえる漆黒の髪と瞳。とても綺麗で見惚れるほど。



『……ノワール…? いや、違うか… その血の者か…』

「リルフィといいます。あの、すみません。私の代でオースト家が無くなったのは…」

『なに、キミの代というよりはファルフォネの代だろう。それに俺はオースト家自体には執着していない。ノワールの血の者にしか興味ない』



欠伸をし、ぐっと身体を伸ばす先代様。まるでずっと眠っていた身体を起こすように。

捕らえられていたことを微塵も感じさせないその様子。もしかして、わざと…?



『…そっちのがラカーシュの後任か。アイツも先に逝っちまってたんだな』

『ゼノン様をとても気にしていましたよ。貴方の意図にいち早く気づきながらも、他の精霊様方には何も言わなかった』

『そうか… アイツらしい』



カラカラと笑う先代様。呆気にとられたとはまさにこのこと。

ネールたちに心配と迷惑をかけたのかもしれないけど、あまり気にしていないみたい。

まぁ、怒るのも呆れるのも。どう思うかは本人たちの自由であるが、こんなものなんだろうか? 軽すぎやしないか?

頭に疑問符が浮かびまくってたけど、先代様がこっちを向き、私を見てラティを見てを繰り返し、安心するかのように小さく息を吐く。



『ノワールの血の者、ランシェの血の者たちには迷惑をかけたことを申し訳なく思う。すまなかった』

「…みんなは、貴方の意図に勘づいているようでした。みんなが言おうとしないのなら無理に聞く気はないです。でも、貴方が話してくれるのなら… 聞きたい、です」

『……分かった、ちゃんと話す』



こうやって対面して話して。みんなが言っていた通りの精霊(ヒト)だなと思った。

そしてこの精霊(ヒト)が気に入った私の先祖、ノワール様はどういう人だったのだろう。ある意味ランシェ様に似た人らしいが、伝え聞くランシェ様の人物像がちょっとアレなので、ノワール様の想像が難しい。

周りから聞こえてくる話から、ノワール様の次に気に入った人、という印象なんだけど…

それからポツリポツリと先代様は話し始めた。





~*~



いつ頃か、自分の衰えを感じた。それでも精霊として存在することには何も問題はなかった。

何事もなく、ただただ平穏に過ごしていた。

暇を持て余してもいた毎日に、異物ともいえる変化が。



(おい、生きてるのか)

(……生きてるように見えるってのか?)

(ハッ! そんだけ喋れるならまだ生きてるな)

(…………)



たまたま見つけた子供。大きめのフードを被っていて男か女かは分からない。今にして思えば本当に子供だったかどうかもあやふやだった。

けれど、ぱっと見死んでるかと思うくらいボロボロで倒れていたのだから、声をかけずにはいられなかった。


魔力の感じから、()()()が何者かはすぐに分かった。

どうしてこの国にと思ったが、何か事情があるのだろうと様子を見ることにした。ここにいてもあれだから、知っている空き家に移動する。

意外にもソイツは素直について来た。何を聞いても無言で、何を言っても無反応だったが言うことだけは聞いたのだ。



(名前は?)

(……)



答えない。何かしらの感情も感じられない。

まさに、無。

でも、だだ漏れている魔力だけはどうにかする必要があった。ソイツ自身も危ないし、周囲も危ないからだ。

だから勝手にやった。簡易的なものだけど魔力の漏れに蓋をした。

いつかは壊れてしまう蓋。それまでにコントロールを覚えさせなければ。



(精霊なのに、何で僕を助けるんだ?)



相変わらずの無表情に、無感情の声。

だけど示された疑問に答えない理由はない。だから答えた。とってつけたような理由はいらない、シンプルな答えを。


―――――― ほっとけないだろ。


その時から2人で過ごすようになった。監視… もあったかもしれない。

ほっとけないから始まった関係だったけど悪くはなかった。口数は少ないけど交わす言葉は増えてきたし、表に出る感情も増えてきた。なつかれている自覚もある。

魔力コントロールに限らず教えたことはよく吸収し、すぐに覚えた。

素直に学んでくれることは良いと思えたのだが、不安があった。それはソイツが“素直すぎた”ことだ。


その時点で嫌な予感というのは大きくなっていた。

故郷で、どんな扱いを受けていたのかなんとなく予想できる。他人との関わらせ方次第では、不味い方向にいってしまうだろうと思った。



(おい、どうした?)

(……)

(…! おい…!)



また、無反応になってしまった。

ここ最近、家を空けることが多くなってきたと思っていたが、一体何をしているのか。


こっそりでも付いていくべきか。

でも、ある意味繊細で接し方の難しいソイツを必要以上に刺激したくはない。

どうするべきなのか。一部始終を相談していたラカーシュに、再度相談することにした。



(バカね。ゼノンが動かなくてもいいじゃない。配下のコたちに動いてもらいなさいよ)



確かに、と思った。盲点だった。

配下の妖精が見聞きしたものは共有できるのだ。ノワールの影響で、自ら動いてばかりだった気がする。

早速動いてもらった。

妖精らは任されて嬉しかったのか、言われたことはきちんとこなし、望んだ調査結果を出してくれた。


ソイツがよく行くのは2ケ所。

オースト家の屋敷が見える所と、とある町の大衆食堂といった感じの店。

前者では、ある部屋の窓が見える木に登り、窓が開くのをじっと待っているらしい。

後者では、食事をする客に紛れ、カウンターの端でとある男女を見ているそうだ。


その行動の意味は。そう思ってさらに詳しく聞いた。

両方とも、反応を示し見ている人物は違ったが、オースト家の者であることが判明。言ってしまえばそれは現公爵夫妻だった。

その時、オースト家当主はファルフォネ・オーストという女性で、入婿としてその家に来たシヴァル・オーストとの仲は悪くなく、むしろ良い方だったと思う。恋愛感情があったかどうかは定かではないが、少なくとも人としての情はあっただろう。

その2人を、特にファルフォネを見るソイツの目がヤバいと報告された。



(どうヤバい?)

(えっとねー とにかくヤバいです!)

(常軌を逸しています!)

(目が血走っています!)

(変態的です! 息荒いです!)



……拾って育てたと言っても過言ではないソイツの、そんなことが知りたかったわけじゃないんだが…

どういうつもりなのかは変わらず分からないのだが、今、ファルフォネに手を出させるわけにはいかない。

ファルフォネも魔法使いとしては十分な実力なので、ただ襲撃されただけならば返り討ちにするだろう。…通常ならば。


ファルフォネは今、妊娠中なのだ。無理はさせられない。

オースト家の血筋、大切な我が契約者の血の者。

かなりの魔力と良質な魂を持つ赤ん坊のようだが、四大の奴らや他の奴も黙っていないだろう。


………

……………

……いや、まさかな…

まさか、アイツが狙って(しようとして)いることって…

その可能性が頭に浮かんだ時、間違いであってくれと思った。

確かに、お腹の子の力が手に入れば国1つ落とすことだって造作もないことかもしれないが、そこまでの野心がソイツにあるとは…



(ゼノン様!!!)



突然、念話が飛んできたと思ったらブツッと途切れた。

今のは配下の妖精の魔力だった。急いで探してもその妖精の魔力は一切感じられない。

消えた…? 何故、どうして…

俺はすぐにアイツの近くにいる全妖精に退くように指示した。自分の配下だけじゃない、全てだ。

そうすればたとえ何があっても、他の精霊たちに異変があることは伝えられるだろうと思ったのだ。

今すぐに伝えて、アイツに突撃されては困るし… しかねない精霊(やつら)ばかりだから。


でも、最後に戻ってきた妖精たちから衝撃的なことを聞いて、早く伝えて協力を仰げばよかったと後悔した。

シヴァルと食堂で話していた女が、シヴァルとの子を身籠ったというのだ。

正真正銘、シヴァルの子だ。

だが、シヴァルが正常でないことも同時に伝えられた。



(洗脳の類か… だが何故、どうして…)



アイツの目的がオースト家を引っ掻き回すことだとして。でもそれだけでシヴァルを狙ったのか。

でもそれだけじゃない気がする。

例えば、その子供も代わりとして作らせたのだとしたら。

それはファルフォネと、そのお腹の子が危ないことを示していた。


一度、ちゃんと話す必要があると思った。

話しかけても無反応かもしれない。何も変わらないかもしれない。

でも、ここで突き放すことができるほど非常にはなれなかった。助けた責任、というやつもあるんだ。

アイツを探した。…とはいっても、アイツが行く場所なんて限られていて、探し当てるのは容易かった。

よく行く2ケ所にいないのなら…



(やっぱりここか…)

(……ゼノン、様)



珍しい、フードを外している。

ソイツの声で初めて名を呼ばれ、ソイツの顔を初めてまともに見た。

吸い込まれそうなほどの深い緑の瞳。灰色の髪に、一部メッシュのような目立つ赤。

コイツの外見は、とある種族の中でも特に稀な能力を持った者の特徴そのものだった。



(オマエやっぱり、――か…)

(………やっぱり、か… ゼノン様も、なんですか? この見た目のせいで! 誰も、僕を、見てくれないし認めてくれない!!!)



ある程度は予想していた。けれど、ソイツの反応は想像以上だった。

そんなに心を拗らせてしまうほど、同種族の間でならば忌避される姿でもないはず。これは幼い頃から植え付けられてきた思想というものがある可能性が。

…だとしてもこの拗らせ方は異常だった。

ここまで心が未成熟なことがあるのだろうか?



(…やはり、それしか、ない。邪魔だ。あの女、は… ファルフォネ、は… 邪魔だ。子を産んだら、消してしまおう)

(!! おい、ファルフォネに手を出す気か。ちょっと落ちつけ! それは許さねえぞ!)

(いいんだよ、もう… 僕は、ゼノン様に認められさえすれば、後はもう、どうなっても…)

(だから! そんなことしやがったら許さないしオマエのことは認めねぇ!)



そんな言葉は悪手だと分かっていた。

でも、今すでにファルフォネの傍、というよりその子供の傍にだが四大のアイツらがいる。アイツらがいる限り、()()()きちんと守られるだろう。

だから連絡はラカーシュだけに送った。こっそりと。

今はコイツの意識を俺に向けさせ続けること優先。元々高魔力の持ち主のコイツが次にやろうとすることは1つ。俺はそれをどう利用するかを考えればいい。



(ゼノン様、見て。僕、妖精(コレ)を捕まえられたんだ。ゼノン様と、同じ、闇属性の、妖精)



ふふふ… と病んだ笑みを見せる。どうして捕まえたかなんて聞かなくても分かりきっている。

利用するつもり、だからだ。

今の俺では、その捕らえられた妖精は救えない。でも、今の俺でもその妖精よりは利用価値があるはずだ。

仲間たちにも悪手であると言われることだろう。

でも、枯渇しかかっている力ではやれることの限界がある。おそらくこれが俺の最後のやれることになる。



(ねぇ、ねぇ、妖精(コイツ)に酷いことしない代わりに、ゼノン様が、僕と、一緒になってよ)

(…本当に、妖精(ソイツ)には何もしないな?)

(しない、よ。だから、僕を…)

(分かった。やってくれ)



何か言いかけたソイツの言葉を遮った。いや、俺が聞きたくなかったのかもしれない。

どうにでもする時間はちゃんとあった。気づかず、何もしなかったのは、俺だ。

……きっと、次に外に出てきた時は自分が消える時なんだろう。

別にいい。元々力は枯渇していた。世代交代は時間の問題だった。

みんなは… 怒るだろうか。呆れるだろうか。

後任となるヤツには面倒なことしか残していけないな。申し訳ないとは思うが、頑張ってくれることを願おう。


ノワール… 俺はいつもこうだ。お前のように上手くはやれない。

だんだんと意識が薄れていく。なに、感覚としてはちょっとの間眠るだけだ。


オマエの内側から時間を稼がせてもらうぞ。

……でも、お前をちゃんとした道で歩かせてやれなくて悪かったなぁ。一度でも、お前の名前をちゃんと呼びたかった。


名前くらい、教えてくれてもよかったじゃねえか。






~*~



「…今、あの人に何か言うとしたら。何を言いますか?」

『アイツを否定したかったわけじゃないからな。みんなに任せたのならもう会うことも言葉を交わすこともないし… ただ、1つだけ文句がある』



怒ってるとかじゃなくて、文句?

むんっとした感じで言っているけど、その様子はむしろ可愛らしかった。

可愛いなんて、精霊様に言っちゃいけないんだろうけど… あれか? サイズのせいか?

先代様も“誰かの為”に怒れる精霊(ヒト)だ。文句と言いつつあの人を思ってのことだろう。

あの人、あの様子からして伝わりにくそうだったし。



『…結局、アイツの名前は何だったんだろうな』



そういやさっきも言っていた。基本的に無口で無反応だと言っていたけれど、名前を教えないほど?

それはなんていうか、筋金入りである。



『(…なぁ、リルフィ。そのまま聞いてくれ)』

「(…ゼノン様?)」

『(俺からキミに残す願いは2つ。1つは後任のアイツに名前をあげてやってくれ)』

「(それって…)」

『(今すぐじゃなくていい。いつかでいい。もう1つは、どうか、生きてくれ)』



先代様が抱いていた切なる願い。

きっと、大切な人(ノワール様)を見送ったことも理由の1つなのだろうと思った。

何があっても、負けずに精一杯生きてくれ。

そうも言われた気がした。


不意に、肩を抱き寄せられた。

そちらを見るとラティが真剣な表情をしている。

先代様との念話はラティには聞こえていないはず。でも、おおよその内容はラティは分かっているようだった。



『…感受性が高いのも問題だな。そこはランシェそっくりだ』

「ゼノン様、僕は…」

『…いい。ラーティになら、任せられる。お前たちも、後頼むぞ』

『『……はい』』



光と闇の精霊様が今にも泣きそうな顔で頷いた。

その様子を見て満足そうにする先代様。だからなのか、元々透けていた身体が更に透け始めた。


あっ… なんか……

あともう少しだけ、待ってほしいと思った。

最後に、あとちょっとだけ。



「あの、光の精霊様、闇の精霊様」

『…!』

『リルフィ様? どうされましたか?』



本当にそれが良いことなのかは分からないが、()()そうしたいと思った。

ダメだと言われた時はその時に怒られよう。



「ちゃんと名前で呼びたいのですが、かまいませんか?」

『『えっ!!』』

『くくっ… 即断即決、いいねぇ。2人はどんな名前になるんだ?』

「闇の精霊様がフォンセ。光の精霊様がルーチェ」

『『~~~っっ!!!』』



声も出ないくらい嬉しいというように、手足をバタバタさせくるくる回りながら飛ぶ。

2人の身体が微かに発光している。ネールたちの時と同じで、名を与え、精霊側がそれを受け入れたら契約成立となる。身体の発光はその証なのだ。

なんかどんどん契約していく気がするが、まぁ、今は気にしないでおこう。



『フォンセ、ルーチェ』

『ゼノン、様…』

『俺も、名を貰った時が一番嬉しかった。良い名だな。名前も、主も大切にしろ』



その言葉を残して、先代様の身体は粒子となって完全に消えた。悲しいというかなんというか、何とも言えない気持ちになった。

消えていく光の粒子を眺めていたら、誰かに頭を撫でられた気がした。

大きいような、小さいような、というか両方?

その時に私は先代様が言った『生きてくれ』という言葉を思い浮かべた。


…大丈夫、私には共に生きたい人たちがいるから。

貴方の願いはちゃんと、守りますよ。

そう伝えるように私はそっと目を閉じた。




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