28.「おかえり」と「ただいま」
一応、やることは決まった。
万一に備えて騎士団の人たちは分散させて配置することに。実力に合ったエリアの担当も決めた。
オークの出現が確認された真ん中辺りは、ジェルマ様を始めとした現場経験が多くある人たちが。騎士ならばオークぐらいワケないと思うが、まぁ一応。
そして、経験があって実力がありかつ、精霊の加護を得ている私とラティが奥地を担当。奥地はスピード勝負になりそうだから2人だけで。深追いと無理はしないと念を押された。
…まぁ、多少無茶して解決できるようならゴリ押すけど。
「……リルフィ、気をつけてね」
「ありがとう。大丈夫だよ」
「全部終わったらランク上げるから」
「え゛…」
ジェルマ様とギルマスが最終確認をしている時に、リジィからそう言われて思わず固まった。
リジィとギルマスいわく、こんな実力過多なEランクがいてたまるかとのことだった。冒険者を辞めるつもりもないのなら昇級してもらうと言われた。
そんな簡単に上げられるのかと思ったが、そこは色々と権力を捻じ込むらしい。何する気なのか怖くて聞けなかった。
でもロトレイ領に行くつもりなら、ランクは上げておいて損はないようで。
うーん… ならいい、のか?
どんな依頼だとしても、受けるか受けないかはその時によるだろうし、まぁいいかと深く考えないでおいた。
けれどなんだかんだで一番疲れたのは去り際。
「リ゛ル゛フィ゛ざぁぁぁん!!」
「わ… ちょっ… ニーコちゃん!?」
冒険者ギルドに何かの依頼に来たらしいニーコちゃんと、偶然鉢合わせしたのだった。
ニーコちゃんは持っていた荷物を全て落として、ぼろぼろと涙を零して、顔もくしゃくしゃにして。その姿を見たらすごく申し訳なく思った。
泣き続けるニーコちゃんに、私は用が終わったら必ず宿の方に会いに行くと約束した。
指切りする手にすごい力が籠められる。こ、小指の力だよね? これ…
約束した後も少し不安そうにしていたニーコちゃん。私のせいだし、どうしたものかと思っていたけれど、ラティが自分も一緒に行くとニーコちゃんに言ってくれたおかげでやっと彼女の笑顔を見ることができた。
……けどまぁ、そこで終わらないのがこの町だ。
仮拠点に向かう為に町中を歩く。道行く子供たちや、行きつけのカフェのオーナー、よくおしゃべりしてた薬師の人たちなどなど…
大半の人に泣かれてしまったが、軽く要点をまとめた説明をすれば、みんな理解を示してくれた。
そして、何回聞いたか… 「頑張ったね」という一言。
それを聞くたびに鼻の奥がつんとなり、私まで泣きそうになる。
「こうして後ろを歩いているだけで、リルフィがどういう生活をして、どういう交流をしてきたかよく分かるよな…」
「そうですね… とても温かい町だ… ガラの悪いチンピラまでまとめ上げてるとは思いませんでしたけど」
『あら、それに関してはたまたまだと思うわよ』
『そうそう、突っかかれては撃退するを繰り返していたからあの規模になってたってだけで』
「「…………」」
…ん? 後ろの2人が静かになった。何話してるんだろう。
また余計な情報をうっかり口にしてるんじゃ…? 気にするのも疲れたから気づかなかったふりをしようかな。
そんなことよりも、町の人たちから貰い続けた食料やらなんやらが多すぎて持ちきれない。際限なく手に乗せてくるから落としそうなんだが。
話してないで助けてほしい…
ようやく仮拠点地へ。
他の団員たちに詳細を伝え、明日に備えて今日はもうゆっくりしようか。それとも軽く体を動かすか。
「あれ、にぎやかだね…」
そうラティが言う方向に目を向けると、騎士団の人たちに加えてなにやらたくさんの声が。でもそのたくさんの声は全て聞き覚えのある声で。
やっぱりというか、予想した通りだったようだ。
「あ! リルフィねえちゃんだ!」
1人が気づけば全員に伝わる。私はそこに着く前に、駆け寄ってきた子供たちに囲まれることとなった。
子供たちは少し変わった私の外見など気にもせずに、私の名を呼び、満面の笑みで迎えてくれた。
いつもどおり。外見が変わったからなんだ。事実がどうであれ、だからなんだ。
ここは、どういう子でも気にしない。そういう場所だ。
「…よし、久々に遊ぼっか!」
「「「わーい!」」」
「フィーラ、ネール」
『ふふっ、いいわよ』
『りょーかい!』
きゃっきゃと子供たちの楽しそうな声が飛び交う。フィーラの風で浮き、ネールの水で宙を泳ぎ、テンションMAX、フルスロットルの状態だ。
普段ならこんな遊び方しないし、怒られてしまう可能性があるからやらないんだけど今回ぐらいは許されるよね。万が一落ちたとしてもこれだけ人がいるのだから誰かしら受け止めてくれるでしょ。…多分。
けれどもしもの場合でも、子供たちには多少の自衛手段は学ばせてあるから大丈夫だと思う。教えていたのはポーション作りだけじゃないのだ。
「サーラは混ざらないの?」
『俺はいいんだよ。…火なんて、子供にとっちゃ危ないだけだし』
『そうは言うけどぉ… ほんとは寂しいんでしょ~?』
『ばっ…! そんなんじゃねぇよ!』
「じゃあサーラ、ちょっと僕に付き合って」
いつもは見てるだけのサーラをラティが連れていった。アースもそっちに行ったみたい。
自分の火は子供たちには危ないからって、子供たちと遊ぶ時は絶対に混ざろうとしなかったサーラ。見守ってくれている様子だったけど、時折、ほんとにたまに見せていた暗めの表情が私はずっと気になっていた。
本当は、人の楽しそうな声や表情が大好きなはずなのに。
ラティはサーラに、火の魔力について何か聞いているようだった。
いくつかの魔法が使えるラティだけど、それだけで満足せずに熱心に鍛錬に取り組んでいる。
最初は表情が硬かったサーラも、その熱意によって余分な力が抜け、ちょっとスッキリした感じになったように見えた。
…あぁ、いつのまにか本格的な鍛錬になっている。本人たちがいいならいいが、あれ、後から来た子供たち数名もそっちに行った。
その中に、孤児院にいる子供たちの現在の最年長の子もいる。まぁいいか。何事も勉強になるし経験になる。
「リルフィねえちゃん!」
「ん? どうしたの?」
1人、また1人と子供たちが再度集まった。私を見上げ、にこにこと笑っている。
可愛い、けどそうじゃない。何も話さないが、みんな何か言いたげだったのでじっと言葉を待ってみる。
声を揃えようとしているのか「せーのっ」と小声で聞こえてそれも可愛いと思った。
「「「おかえり!」」」
「…! …うん、ただいま」
~*~
今日はもう何もしないので、これでもかってくらい子供たちと遊んだ。
日が落ちかけると子供たちは孤児院の方に帰っていった。シスターに手紙を渡してほしいと頼んだけど、落ち着いたら私から会いに行くことにしよう。
もしかしたら叱られるかもしれないけど、自分が蒔いた種だ。素直に受け入れよう。
そんなことはさておき、明日の事を考えないと。
今回の遠征には十分な日数が確保されているので、考えていたよりもじっくりと調べることができそうだった。
とはいえ、想定していた時間内で有益な情報が見つかるとは限らない。他の所でもちょっとした異変が起こっていて、それぞれに騎士団が派遣されているらしいけど何が見つかることやら。
この国は基本的に平和だが、4つの国に囲まれているからそれなりに問題は起きる。同じ内容であれば幾分か楽なんだけど…
何であれ、対処するしかないわけだが。
「隣いい?」
「いいけど… まだ寝てなかったんだ」
「まぁね。…それに、何か考え事してるなーって感じの後ろ姿が見えたし」
少し離れた所で座って考え込んでいた私にラティが声をかけてきた。
明日、どう動くかはラティにもう伝えてある。何か他に話すことあったか、と考えたけど、何も話さなくてもこんなに落ち着くものなんだね。
ラティの肩に頭を乗せるようにして寄りかかる。風で揺れる草木の音を聞きながら、孤児院の子供たちにラティをちゃんと紹介したいなぁとか、シスターにも会ってほしいなぁとかそんなことをぼんやりと考えていた。
…自分が、こんな風に思う時が来るなんて。
浅すぎず、深すぎずを心がけてたつもりの私にとって、ラティのような「たった1人」はそれはそれは特別な存在。
「一回来たけど、良い所だね」
「…うん。よかった、そう思ってもらえて」
「辺境とか田舎の町や村とかだと王都に憧れを持つ人が多いけど、僕はこういう自然がある方が好きだなぁ。ゆっくり過ごすのも悪くないしね」
スローライフってやつ? 確かにこの辺は忙しなく動く人はほとんどいないかもしれない。
ラティは生まれが生まれだから、子供の頃はともかく忙しい日々を過ごしてきたのかな。まぁ、ロトレイ辺境伯領がどういう所か、ちょっとは知っているからなんとなくは想像できるが、そんなに歳の変わらない異母妹の姿を見てきているから“子供が忙しくする”ということにたまに疑問符が浮かぶ。
特に、貴族生まれの子供なら。
たとえ平民でも、遊ぶ暇や寝る暇もないなんて事はありえないのに。
「ウチの領地に行ったらね、力を貸してほしいことがあるとは言ったけど、急いでないし忙しくもないから街を案内したいんだ。父や兄にも会ってほしい」
「一番上のお兄さん?」
「うん、次期当主様。それと、イルもこっち来るみたい」
「…えっ!? 王、太子殿下が…?」
「大きな案件を片付けてからになるからまだ先の事だけどね。まぁ、王城で会うよりかは安心だし、来るのはかまわないだろうと父や兄も思うと思うよ」
王太子殿下は私の事を考慮してくれているらしく、他の王族に会ってしまう万が一を防ぐ為に自ら赴いてくれるとのこと。
な、なんか… それはそれで申し訳ないのだけど。
「気にしなくていいよ。というかイルの方が、父が申し訳なかったって言ってたくらいだし」
「…それを受け入れられるほど私は図太くないんです」
『あら、アナタいい感じに図太いじゃない』
「そこ、ウルサイ」
ネールよ、余計なことを言うんじゃない。図太くなれる対象というものがあるんだよ。ましてや相手は王太子様でしょうが。
いくら王家が嫌いだと言ってもちゃんと分別はあるつもりだよ。…あの王様は論外だが。
…なんか、ロトレイ領に行くのが恥ずかしいやらで緊張してきた。
ラティの故郷。どんな所なんだろう。
緊張もしているけど、楽しみでもある。




