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四大精霊の契約者  作者: 橙矢雛都
第1章『リルフィ』
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13.この場の唯一




~*~



広場からまっすぐにこの城を目指し、この広間に突っ込んだ。

それはもう、派手に。

だってこそこそしても仕方がないし、そもそもみんなの魔力も相まってここまでの威力になったんだから、派手になったのは私だけのせいじゃない。

そんなことはさておいて、派手に壊したせいでその場にいた人たちの注目は私に集まっている。


狼狽える者、腰を抜かす者、逃げようとする者。

騎士の人たちはさすがの動きをしている。国王だったり貴族をだったり、偉い人を守ろうとするのは騎士ならば当然。

けれど、父親(あのひと)を含む断罪中の3人を守ろうとする騎士は誰一人としていなかった。



「何者だ貴様っ!」

「…あの娘……」

「陛下! お下がりください!」


「心配しなくても興味ないわよ。貴方になんか」



自分でもびっくりするくらい、低く冷たい声が出た。

その一声でその場はしん、と静まり返る。

誰も話そうとしない、動こうとしない空気の中で唯一動いた騎士がいた。

父親(あのひと)たちの前に出て、端から見れば守ろうとしているように見えるかもしれない。

父親(あのひと)も、義母も、異母妹も、そう思ったのかホッとしたような表情を浮かべている。

でも一度も3人を見てもいないし、見ようともしていないのに… そのことには気づいていないのかな?



「ロトレイ様…!」



異母妹のサリーは頬を赤らめてうっとりとした顔をしている。

久々に見たが、なんだか気持ち悪いな。仮にも血の繋がった妹なんだけどな。

私もサリーもそれぞれの母親似。髪色も私はプラチナブロンド、サリーはピンク。

顔もまぁ、似ていない。別に似たくはないけども。


その騎士様はラーティ様だった。

3人の前に立ってはいるが守ろうとしているわけではなく、その真っ直ぐな目は私を見つめている。



「…今、この場の、この一度だけ… こう呼ぶことをお許しください」



そう言ってラーティ様は膝をつき、頭を下げ、最敬礼の姿勢を私に向ける。

やっぱり口にしなかっただけで、この人は全部分かっていたのかもしれない。



「シルヴィア・オースト様」



その名を呼んだその声はとても優しく、温かかった。

ラーティ様がどういう思いで私を探していたのかなんて分からない。

でも、とても心配して、気にしてくれていたというのは伝わっていた。幼かったが故に何もできなかったことをずっと悔いていたのも知っている。それが、嘘などではないことも。

ラーティ様は貴族だけど、私の知る貴族ではなかった。この人なら、大丈夫だと思えた。



「……その名は、その名の人物は、とうの昔に死にました。私は、リルフィです。…ラティ」

「……うん、そうだね。リルフィ」



呼んでほしいと言っていた呼び方で呼ぶと、彼は嬉しそうに微笑みながら私の今の名前で呼び返す。

ラーティ様、もといラティは身体を起こし、私に一歩ずつ近づく。

その時にラティの後方から聞こえたのは癇癪混じりの悲鳴に似た声。

誰だなんて確認するまでもない。サリーしかいない。



「ロトレイ様! そんな野蛮な人に近づいてはいけません!」

「君は何を言っているの? 野蛮、とは彼女のこと? それとも“シルヴィア”様のこと? …どちらにしても、姉に吐く言葉ではないね」

「どうやったのかは知りませんが、壁を破壊しながら現れたのですよ!? それに、その人がお姉さまなんてありえない! お姉さまは死んだのよ!」

「…………そうね、シルヴィアはあの日、死んだわ。貴女のお望みどおりにね」

「ひっ…!」



冷え切った目でサリーを見れば、サリーはいとも簡単に威圧されガタガタ震えだした。

意識的に睨んだつもりはないけど、サリーの口から嘘でも「お姉様」と出た瞬間、背筋がゾッとし気持ち悪くなった。

どうやら私は、父親(あのひと)の次にこの異母妹(サリー)が大嫌いらしい。拒否反応がすごい。

しかし弱いな。本当に16歳か? まだ孤児院にいる子供たちの方がしっかりしていて強かな気がする。

甘やかされ、ワガママ放題で育ったのだろう。やってもらって当たり前精神が身に染み付いていて、貴族令嬢としての嗜みもあったものじゃない。

…うん、まぁ、貴族令嬢ではない…んだけどね。性格と、元平民ということもあって勉強なんてしてないだろうし。

ある意味、可哀想な子で、彼女も被害者かもしれない。同情はしないし助けないが。



「鬱陶しかったのでしょう? 煩わしかったのでしょう? よかったじゃない。貴女が本心で姉と呼ぶ人は最初からいなかったのだから。都合のいい時だけ、姉という言葉を使うな。それこそ鬱陶しい」



サリーに関しては殴る気はない。そんな価値さえないと思っているから言葉攻めくらいでちょうどいい。何かしてこようものなら返り討ちにするだけだ。

私じゃなくて、みんなが。

そう、みんなも一緒になって怒ってくれているからか、この場に来ても思ったより冷静でいられる。


サリーから父親(あのひと)へと視線を移せば、こちらを見ていたらしく目が合った。

そこで少し驚いたのが、その目に戸惑いが浮かんでいたから。憎しみや蔑みなどの感情を向けられると思っていたから、そんな目を向けられる意味が私には分からない。

それに、ひどく懐かしく感じた。そんな感情はとっくに無くなったものだと思っていたのに。きっと理由は、結果はどうあれ過去に家族という時間が僅かながらあったからかもしれない。


だからこそ、余計に、悔しいし腹が立つ。

最初から最後まで疎ましく思っていたということの方がどれほど楽だったか。

ほんの一瞬でも、一欠片でも、“愛”情というものがあったから悔しいし、苦しいのだ。

私はゆっくりと、父親(あのひと)の元へと歩みを進めた。



「私のこと、知っているのですか?」

「え……」

「先程から、私のことを見ては驚いているようだから、その視線が煩わしいのでできれば止めていただきたい」

「……本当に、シルヴィアなのか?」

「何を言っているのか分かりません。寝言は寝て言ってください。仮に、そうだと私が言ったとして、貴方に何の関係が?」



私に冷たい視線、そして否定的な言葉で返す気力を失っていた。

先程までの勢いはどこへ行ったのだろう。

内心、拍子抜けしてしまった。父親(そのひと)への怒りや恨みが無くなったわけではない。でもこの態度は調子が狂う。

何と表現したらいいか分からないけれど、なんていうか… 例えるなら、正気に戻った、かな。

けれど物心ついたころからずっとあの父親像なので、違和感というほどのものではない。…でも、何かがモヤモヤとまとわりついて離れてくれない。


このままだと、怒りたいのに怒れなくなるような気がする。

なので別の視点から罰を受けてもらおう。

怒っているのは、私だけではないのだから。



「……自分が何をしたか、分かっているのですか?」

「今までのことなら謝る! だからどうか公爵家に戻っ……がっ!」



私は魔力を圧縮し、球にして父親(あのひと)にぶつけた。かなり強めに。

直で、グーで殴ってもよかったんだけど、今は近づきたくもない。というよりも、ラティの傍の安心感がすごいので離れたくなかった。

だから平手打ちをイメージしたつもりだったんだけど、力んだのか予想より強かったみたい。



「どの口が言うのですか? それと、1つ忠告です。貴方たち3人に対して怒りを向けているのは、私だけではないのでご注意を。あぁ、でも… 回避するのは無理でしょうねぇ」

「な、何を…」



父親(そのひと)が何かを言いかけたその瞬間。

みんなの魔力が一瞬にして膨れ上がった。

そしてみんなの魔力が3人に容赦なくぶつかる。火の魔力、水の魔力、風の魔力、土の魔力。4つの魔力がぶつかるので、予想を超える痛みが彼らを襲っているようだった。

痛い、苦しいと、泣き叫ぶ義母と異母妹。父親(あのひと)は声こそ上げていないものの、その表情は苦痛で歪んでいた。



「あなたっ! 痛い、痛いわ! 助けてぇぇ!」

「お父様ぁ…!」



何の、感情も湧かない。心が動こうともしない。

助けようとは微塵も思わなかった。だって、この人たちが私に何をした?

私から恩を返されるようなことをしただろうか。答えは否だ。

自分たちが何故このようなことになるのかも、おそらくは分かっていないのだろう。ほんの少しでも反省の色があったならば、何かが違ったかもしれないけど。



『何が痛い、よ! リルフィはもっともっと痛かったんだから!』

『この程度のことで泣くとか、ほんとねぇわ』

『ねぇ、これで終わると思わないでねぇ? まだまだ序の口ってやつなんだからさぁ』

『貴方たちのしてきたこと、私たちは全て分かっています。私たちの大切な人を、そして私たちの愛し子を傷つけたこと、その命尽きるまで悔いなさい!』



みんなが本来の姿になり、その場にいる全ての人々の前に姿を現した。

元々混乱していた所に、更に混乱させる要因が。四大精霊なんて、お目にかかれるものではないからね。本来は。

そんなある意味畏怖の対象でもある四大精霊が、私を守るように囲い、敵意をむき出しにしている。

…さぞかし怖いでしょうね。



『ファルフォネとの誓約以前に、私たちはリルフィを主として認めているの。貴方たちが、そして王族貴族たちがファルフォネとシルヴィアの親子に危害を加えた… 私たちが、怒らないとでも思っていたの?』



ネールは不敵な笑みを浮かべると、騎士を含むその場にいた全員が凍りついた。

その目が全く笑っていなかったからだ。それに私でさえも、ここまで怒っているネールを見たことがなかったので、平静を装っているけど内心は冷や汗がすごい。

そんな中でもラティは私の手を取り、私を背にして父親(あのひと)たちとの間の壁となってくれている。

その行動に私は酷く安堵した。


今、この場で… “人”の味方はラティだけだと言っても過言ではないのだから。

手から伝わる温もりが嬉しくて、私は繋がれた手を軽く握り返した。

振り向いたラティと目が合った。



「…ねぇ、あの言葉は、本気なの?」

「え?」

「それとも、私がシルヴィアではないから、無効かしら」



初めて会ったあの日、彼は言った。

上が無理矢理するようなら僕が貰うと。

そして私も、この人にならと思い始めていた。


私が、唯一、この場で信用している人。




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