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四大精霊の契約者  作者: 橙矢雛都
第1章『リルフィ』
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10.理想だった家族




~*~



2日後。日が落ちかけた夕暮れ時に、子供たちのご両親が帰ってきた。

もちろん、子供たちは大喜び。帰ってくるのはまだ先だと思っていたおばあさんは、分かりやすく驚いている。

今日はあれをやった、これをやったなどと、嬉しそうに両親に報告している子供たち。中には私に教わって作ったポーションを見せている子もいた。

つい数日前まで作り方はおろか、どの薬草が必要だったかもまだ分からなかった子もいたのに。それなのに、自分が作ったと嬉しそうに笑顔いっぱいに伝えてくる子供たちに、ご両親は驚きつつもどこか誇らしげに子供たちの頭を撫でていた。



「早かったね、もっとかかると思ってたよ」

「準備は終わったんだ。例の公爵家の断罪は予定より早く、明日の昼頃に中継付きで行われるそうだ。各町の広場に設置されたモニターにも映るようになってるから、なるべく多くの人に見てもらおうとしてるみたい」

「じゃあその公爵様のご令嬢は見つかったのかい?」

「いや、見つかってないようだ。…全く、迷惑な話だよ。その公爵家はもちろん、国王様にもさ。人探しに騎士の手を全部充ててその他の準備は国民を使うんだからさ」

「オースト公爵家って、不思議な魔力に恵まれる家系なんでしょう? だから直系のシルヴィア様を探しているのもその魔力目当て。一番の被害者はシルヴィア様なのに、その身を案じる理由が欲まみれで、呆れて見つからなければいいのにって思っちゃった」

「でも10年前か… シルヴィア様、どこにいらっしゃるのかしら。ご無事だといいけど」



ここにいます。なんて言えない。

戻ってきた両夫婦からの愚痴という名の情報が止まらない。

そうか、私が執拗に探される理由はオースト公爵家の血筋の魔力か。今回断罪される3人には欠片もないものだろう。



『実を言うと、リルフィのご先祖様と契約していたことがあるのよ。私たち』

『ま、それぞれだけどな』

『そうねぇ。誰か1人に複数の精霊がっていうのは前代未聞よね』

『だって気持ちいいんだもん、リルフィの魔力。僕好みだぁ』

『ほんとそれ! それに私たちだけじゃないんだよ? 契約したがっている精霊は』

『確か… 雷のとか、氷のとか…?』

『光のと闇のと時のもよぉ。名前欲しがってたわ』

『アイツらも!? ていうか、全員じゃないよな…?』



予想していなかった事実だ。つまりはオースト公爵家は、精霊との契約者が生まれやすいということか。

その事をどのくらいの人たちが知っているんだろうか。

噂だとしても、平民の人が知っていたくらいだから、結構有名なのかもしれない。

国王やその周りの人たちがどういう考えかは知らないけど、さっき聞いた話から利用しようとする人たちに対する嫌悪感が溢れて止まらない。


国王陛下。直接会ったことはないけど、その顔を見たことならある。一見優しそうだが、よく見ると欲深いのが駄々漏れだったのを今でも覚えている。

それでも父親(あのひと)と比べたらマシな方なのではと思う。あくまで比べてマシなだけだから嫌いなことには変わりないけど。

でもさっきも思ったが、会ったことはない。


あれだけ連れまわされていたのに、国王どころか王族の誰とも会ったことないことを思い出した。

何代か前の王族が臣籍降下して、オースト公爵家に入ったというのは何かで知った。一応は王家の血が入っているということで、何かしらの交流はあると思うんだけど…

まぁ、いいか! 関わり合いたいわけじゃないし、関わりなんてなくていい。



「リルフィさん、手間かけさせて申し訳なかった」

「いえ、今後の為の勉強にもなりますから。もしよければ、もう少しお手伝いさせていただいてもいいでしょうか?」

「それはありがたい! 遅れている分も取り戻さなきゃいけないから助かるよ」

「兄貴、どうせ手伝ってもらうんなら、いっそのことポーション作りは彼女と子供たちに任せてみたらどうだろうか。肥料作りは力がいる工程もあるから俺たちがやった方がいいけど、もう作れるようになった子供たちとそれを教えたリルフィさんになら任せられると思う」

「確かに… 残ってる薬草の量からして、それならポーションは余裕を持って終わらせられる。肥料もそんなに遅れなくてよくなるかもしれない」

「むしろ予定より早く終われるよ」



仲の良い、兄弟だ。

ここは… ここの人たちは温かい家族だ。

羨ましくないと言ったら嘘になる。もしも母様が生きていたなら、何かが違っただろうか。

父親(あのひと)と母様は、別に仲は悪くなかったはずだ。政略結婚だったかもしれないが、それなりに情が互いにあった。…たとえそれが“愛”情であったかどうかは分からなくても。



「またおねーちゃんとやれるんだね!」

「おねーちゃん、僕分からない所があったの。教えて」

「こらこら、一気に話したらリルフィさんが困っちゃうだろ」

「でもリルフィさん教え方上手いよね。分かりやすかったし優しいし!」



こっちの兄弟姉妹も仲が良いな。兄弟でもあり、いとこ同士でもある彼ら。そういや私にいとこなんていたっけ?

会ったこともなければ、いるのだと聞いたこともない。本当にいないのかもしれないけど、確か父親(あのひと)には兄弟がいるはず。母様にそう教えてもらったことがあるから。

えーっと、侯爵家…だったかな。一度しか聞いたことないし会わなかったものだから忘れてしまった。


それならば妹のことも忘れたかった。一応、父親(あのひと)の娘であることは本当らしいから私の妹であるんだけど、腹違いなうえに態度が態度だったから、どうしても彼女のことを妹として見ることはできなかった。

たったの、一度も。当時5歳の子供がだ。

妹のその態度が子供らしい小さな嫉妬とかだったら、まだ可愛いと思えたかも。…まぁ、可愛いのかの字もなかったけれど。

どうしてあんなに敵意というか、邪念というか… そういったものが剥き出しだったのかな? 幼い子供がする態度じゃないだろうに。



「話はそれくらいにして、夕飯を作ろうかね」

「あ、お手伝いします」

「リルフィちゃんはよく働くねぇ。ゆっくりしてくれていいんだよ」

「まぁ、孤児院で慣れてますからね。やれることがあるなら常に動く。シスターの教えです」



孤児院のシスターや子供たち。一時の息吹亭の人たちやルドの町の人々。

私の周りの人は、私にはもったいないくらい温かい人たち。元の家の人たちとは違う。比べるのもおこがましいほど。

だけど、そんな大切な人たちの温かさに触れるといつも思う。いつから、道を違えたのだろうって。

父親(あのひと)はいつから母様に不満を持ち、外に愛人を作ったのだろう。

異母妹は私の1つ下。平民の子だと、みんなに教えてもらった。

彼女は初めて会った時から、最後となるあの日までずっと、いつも私を小馬鹿にしたような態度だった。


「お姉さま」と言いながらも、そこには良い感情なんてたったの一欠片も入ってなくて。

ドレスを奪い、髪留めを奪い、父を奪い…

いや、父親(あのひと)に関しては最初からどうでもいいけど、その他のものに関してはかなりの憤りを感じている。

本当に、彼女は私からこれでもかというほど奪っていった。


あの頃の私が所持していたもののほとんどが、母様から貰ったものだ。母様が使っていたものだったり、祖母から受け継いだものだったり色々。

空間収納魔法付きのバッグもその内の1つだ。途中からバッグに入れていったものもあるから、全体の5分の1くらいは無事だけど… でも、全部大事なものだったのに。


中には精霊の加護が付与されたものもあった。

それらを全て、異母妹(あの女)は奪うか壊すかしたのだ。当時の私は、泣いてやるものかと涙を必死で堪えるしかなかったけど、今だったら一発殴りたい気持ちだ。

…いや、一発じゃ足りないな。数十往復ビンタくらいはしないと。

あれだったら顔の原型、変えるぐらいのつもりでも許される気がする。

そんなだからか、あの3人が断罪されることに一切心が動かない。情も、未練も何もないから。



「おとーさん、国王様ってどんな人?」

「うーん… どんな、かぁ… あまり姿を見ることもないからなぁ」

「俺はあんまり好きじゃないけどな」

「おいおい… そんなはっきり…」

「好きか嫌いかの2択でと言われたら、ほとんどの平民が嫌いって答えると思うわよ。能力はあっても国民からの人望はないに等しいもの」

「まだ王太子殿下の方が好かれている気がするわ」



あららら… すごい評価だ。初めて聞いた。

やっぱり貴族と平民とで感じ方は違うみたい。けどその考え方はよく聞く話でもあったりする。

一番よく聞くのは孤児院がある領地の領主様のこと。伯爵? 子爵? 知らんけど、良い評価はほとんどない。

正確には良い評価もないが、悪い評価もない、だろうか。期待していない、とも言えるかも。

……大丈夫かな、この国…



「おねーちゃんは国王様好き? 嫌い?」

「……え、大っ嫌い」



………………はっ!?

考え事をしていたからついポロッと本音が出た。

あまりにはっきり言ってしまったからおばあさん家族たちみんなきょとんとしている。精霊たちは爆笑してるけど… そんな笑うほど面白いこと言ったつもりないんだが?

リルフィとしての私も、もちろん会ったことない。そもそもであんな田舎にいたら会うことも見ることもないのが普通なのに、どこで拗らせたんだろうと思われてそうだ。



「………あぁ、もうできるよ。子供たちはお皿運んでちょうだい」

「「「はーい!」」」



おばあさんが良い感じにスルーしてくれた。

子供たちも、私が「大嫌い」と答えてしまう意味を深くは考えなかったみたい。又は興味が薄れたかのどちらかだけど。

でもまぁ、今はそのスルーがありがたい。

別に理由を問われたら答えられなくもないけども、結局はぼかす部分も出てくるから言えないのとたいして差はなかったりする。


「…まぁ、何かがあったのだろう」くらいの認識で済むのならそれでいい。

それからは、会話の中に国王に関する話題は出てこなかった。

薬草のこと、ポーションのことが子供たちの口から中心に語られる。私も孤児院で薬草を育てていること、作り方を教えていることなど話すと、今度は大人たちの目の色が変わった。



「何を育てているんだ?」

「立地は? 土は?」

「肥料は? …へぇ! 枯葉を敷きこんで…!」

「水は? …え!? 魔法で!?」



おぅ… 子供たちより圧がすごいぞ… 職業病ってやつ?

この両夫婦は似たようなタイプの人同士でくっついたのか。そりゃあ仲良いわけだ。

おばあさんに呆れながら諫められるまでその勢いは続いた。この両夫婦の熱心な所は、長所でもあり短所でもあるらしい。語る相手によって変わるみたいだけど、私にとっては長所となった。

なんだかんだで楽しいし。


…でも、そんな感情の端っこに父親(あのひと)のことがちらついた。

未練なんてない、はず。会いたいとも思ってない、はず。

なのに何故こんなに脳裏に浮かぶのか。今はどんな顔しているんだろうと、初めて興味を持った。ちょこっとだけ。

明日の断罪。中継、するんだったよね。最後に今の顔くらい、拝みに行こうか。




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