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四大精霊の契約者  作者: 橙矢雛都
第1章『リルフィ』
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1.過保護な保護者たち


前に投稿した短編『公爵家に戻れと言われてもお断りいたします』を連載化させました!

短編をベースにして作り直しているので、短編の方を見なくても読めると思います。






~*~



あなたなら大丈夫よという母の言葉。

言われた時はどういうことか分からなかった。でも、今ならそれをどういう意味で言ったのか分かる気がする。



「あ、リルフィさん! おはようございます!」

「おはよう、ニーコちゃん。今日も元気だね」

「元気が私のとりえですから! 朝食と、頼まれていたお弁当できてますよ」

「ありがとう。食材の方はどう? 調達してくる必要があるなら今日してくるけど…」

「助かります! ではいつもどおりにお願いします」



私、リルフィは孤児院暮らしの平民だ。

けれどもう少しでこの国の成人年齢である18歳になるので、孤児院から巣立たなければならない。

だからこうしてたまに町へ出て、自分の為の勉強を色々としている。冒険者となって知識と人脈を手に入れたり、世間の情報を手に入れたりと様々だ。

そして私の人脈の1つがここ、≪一時の息吹亭≫という宿。

冒険者となってからずっと利用している馴染みある場所。



『……! …!』

『…! ……、…!』

「…はぁ」

「リルフィさん? どうしました?」

「いやぁ… なんでもないよ」



私にだけ聞こえる声が耳に届いて、思わずため息をつく。

ため息をつく私に、ニーコちゃんがきょとんとしながらどうしたのかと聞いてきた。

でも、聞こえていない彼女に説明ができるはずもなく、なんでもないと言うしかなかった。

誤魔化すように笑いながらいつもの席に着き、朝ご飯を食べ始める。私が一番早いので他の客はいない。すごく静かだ。



『リルフィ! 食材の調達なら森へ行くんだよね?』

「そうだねぇ… 薬草やキノコ、果実なんかも採れるといいんだけど」

『それなら今の時期は北東側がオススメだよぉ。いっぱい実ってるから~』

「北東… ホーンラビットもいるね。肉も調達できる」

『久々だし俺もやるか!』

『サーラ、ちゃんと加減してよ? じゃないと森が消し炭になってしまうわ』



私の周りに1つ、また1つと姿と声が増えていく。

彼らは精霊だ。しかも四大元素ともいわれる四大精霊たち。

火、水、風、土の4つ。

他にも、この4人も含めた十二精霊っていうのもいるらしいけど、正直な所、関わるのはこの4人だけでお腹いっぱいだ。

責任とか使命とか、そういうのがないのなら別にいいんだけど。


でも、みんながいてくれたおかげで今の私があるのだから、嫌とかそういうのではない。

むしろみんなのことは大好き。



「ニーコちゃん、ごちそうさま! じゃあいってきます!」

「はーい、いってらっしゃーい!」



家族の温かみがあるこの宿も、私は好き。


7歳。

私の中から家族というものが無くなった時だ。

それからずっと孤児院暮らし。

けっして楽な暮らしではないけど、不幸だと思ったことはない。

むしろ今の方が、きっと、ずっと幸せだと思う。

あんな家、なんかより―――







~*~



行く予定の北東方面の森に、ついでにやれるような手頃な依頼がないかと冒険者ギルドに寄った。

日常の、何気ない行動だったのだけど、依頼板に貼られていた1枚の紙が目に留まる。



「緊急依頼…?」



【緊急依頼! 人員募集!】と大きく書かれたその紙。内容はどうやら人探しのようで。

冒険者にまで依頼を出して、そうまでして探し出さなければいけない重要人物なのかと思いながら読み進めていった。別に受ける気はないのだけどね。



「…っ!!」

『リルフィ、どうしたの?』



水の精霊、ネールが心配して声をかけてくれたけど、依頼書のとある部分を見て、私と同じように固まった。

他のみんなも同様に。


火の精霊、サーラは額に青筋立てて口元がピクピクしている。

風の精霊、フィーラは少しの放心状態の後、『なんでよ!』と叫んでいた。

周りに見えてなくてよかった…

そして土の精霊、アースは笑顔を貼り付けたまま硬直している。

反応は様々だけど、考えていることはきっと同じ。



『見なかったことにしましょう』



私はネールの言葉に同意するように視線を外し、隣に貼られていたシシリの花の蜜採取の依頼書を取った。

受付に持っていって、自生場所を確認して準備には念を入れる。

いつもはこんなにきっちりしない。やっぱりちょっと動揺してる…のか?



『気にすることないわよ。もう終わったことだし、今のリルフィには関係ないことだもの』

「…うん、そうだね」



そうは言うものの、忘れたいことに限ってしつこく残る。私にとっては忘れたい記憶。苦い苦い、幼い頃の記憶だ。

良い記憶なんて、あったかな。

あるとすれば母との事だけど、もうほとんど覚えていない。

薄情かな? でも覚えてない、分からないということが苦になったことないから、どう思うのが正解なんだろう。



『リルフィ~?』

「…………はっ!?」

『また無心になってたわ。リルフィは考え事してると絶対そうなるよね!』

『だからといってこの数は狩りすぎだろ…』



私の周りにはホーンラビット、エレキウルフの亡骸が積まれていた。もちろん、やったのは私。

無心ではあったけど、納品する素材やお肉のことを傷つけまいとした戦い方をしてたっぽい。

風魔法と体術のみで、最小限の傷ばかり。


でもサーラの言うとおり、少し狩りすぎたかもしれない。

お肉の為とはいえ、ホーンラビットを4~5匹倒せればいいと思っていたのに。全部で20体以上倒しちゃってないかな?

そもそもエレキウルフがいることも少し珍しいように思えた。

ラビット種を狩るのがウルフ種だから、いること自体は不思議じゃない。ただ、その数が異常な気がする。

それに、エレキウルフは山岳地帯に生息しているウルフ種なはずだけど。

つまりは森には本来いるはずのない生物ってことだ。



「…フィーラ、アース。ちょっとこの辺りの、今現在の生態系を探ってくれる?」

『まかせて!』

『了解だよぉ~』



生物探知ならフィーラが、森のことならアースに任せるのが早い。

森に何か異変でもあるのか。一過性かそうでないか。

この森は全体的に、薬草や木の実などが多く採れる。だから冒険者になりたての人や、おこづかい稼ぎの子供もよく来る所。

奥に行けば行くほどホーンラビットなどの生物が出るが、冒険者であれば簡単に対処できる。

でも、さっきのように大量に出くわしたら少し危険だ。

私はまぁ、大丈夫だけど。

なんだかんだでみんなに鍛えられたからね。



「なんか、花が少ない気がする」

『そうね… 今の時期ならもう少し咲き誇っててもいいはずだけど…』



平穏そうでも、一応周りを気にしながら森の奥へと進んでいく。

まだ、目的のシシリの花を見つけられていない。

あの花の蜜はとても甘く、お菓子作りに用いられている。鎮痛作用もあるので、子供用の薬を作るのにも使われる。

年中咲く花ではあるけど、群生地がこういう森の奥だから一般の人が自力で採取しに来ることは難しい。だから冒険者ギルドに依頼が来る。


群生地はこの辺りのはずなんだけど、見当たらない。

気候が悪いわけでもなさそうだし、考えても理由が分からない。

これは… ギルドに報告しておいた方がいいかも。



『お、あったぞ』



サーラが示す先に咲いていたシシリの花は、まるで隠れるように存在していた。

見つけられてよかった。でも規定の量を採取するにはまだ足りない。

植物のことならアースに聞くのがいいんだけど、アースは今、私の頼み事をしている最中。ならばと、アースの配下ともいえる土属性の妖精たちに協力を仰いだ。



「じゃあお願いねー」

『はーい!』

『まかせてー!』



小さな声が方々に散っていく。これらも普通の人ならば、見えないし聞こえない。

精霊たちの力を借りているんだ。これで何かしらの情報は得られると思う。

この森は私の大切な収入源。荒れるのは困る。

ラビット種もウルフ種も集団で出くわすのがちょっとまずいだけで、基本的にそこまで害があるわけではない。

でもいすぎると、余計なものまで呼び寄せてしまう可能性がある。

だからこそ、常時討伐依頼が出ているんだけどね。



「あっちにも…」



少し歩いてまた見つけたシシリの花。

とりあえず、探せばあるようだから今回は根気勝負かな。幸い、食材調達は終わってると言っていい成果だし、こっちに時間をかけることができる。

冒険者として出世をしたいとかは望んでないし、私にとってはついでの作業のような感じだから。

とはいっても、このままではいけないからどうにかしたいところだけど。



『『リルフィ!!!』』



ネールとサーラの声が同時に聞こえた。

振り返って見えたのはオークが5体。しかも囲まれている。

なんで、どうして。

この森はオークが出るような森ではないはずなのに。

それに気配を感じなかった。気づかないなんて、みんなもいるのにそんなはずがない。

そんなことを考えながらも、私の体は動いていた。


咄嗟という表現よりも速い反応速度。付け入る機会なんて与えないほど早く、確実に仕留めるために首元を狙って、持っていた短剣を振りかざす。

攻撃力を上げるため、風魔法を剣に纏わせて。

正面の3体を倒し、後ろの2体をネールとサーラが1体ずつ倒した。

一瞬だった。たぶん、オークの存在に気づいてから5秒もたってない。だからちょっと油断していた。



「瞬、殺……?」



しまった、と思った時にはもう遅かった。

人がいた。ていうか見られた!?

こんな奥まで来るような人はあまりいないことと、いるはずのない魔物(オーク)に多少とはいえ気を散らされた。その辺りの気の緩みかな。この失態は。


あまり私と歳の変わらなさそうな男の人。服装からして、騎士団の人だと思う。

……何故ここに、騎士団が?





~*~

やってみたかったというのもあって連載化させました!

短編を見てくださった方にも、初めましての方にも見ていただけるように頑張ります。


感想、ブックマーク等、ぜひお待ちしております。


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