第九十八話 殺戮兵器生成
戦いとは、武器だけで勝敗が決まるものではない。
歴史を見ても、少数で大群を打ち破った記録は多数ある。
土地の特性、天候、指揮官の性格、兵の心理状態、武器の使い方……。
様々な条件を利用し、不利な戦いで勝利を治めた事例も少なくない。
そして、勝敗を左右する重大な要素の1つが情報だ。
だからカズトの長所や短所。
性格やクセ。
交友関係、友好関係、敵対関係。
果ては食べ物の好き嫌いから、好みの女性のタイプまで。
何が役に立つか分からないので、可能な限りの事を調べたい。
という福田の要望に、シャドウは冒険者ギルドに案内する。
「まずはカズトとリムリアという者の姿を実際に見ていただきましょう」
そして福田はジャーマニア冒険者ギルドへと足を踏み入れた。
この世界の常識は、船旅の間に教わっている。
だから福田は、依頼を物色する冒険者を装う事にした。
そしてトウコツと護衛の兵士も、冒険者を装っている。
まあ、彼らは本当の冒険者でもあるが。
というより、冒険者の認識票を持っている者で構成している。
もちろん、ジャーマニア領で円滑に行動できるように、だ。
ちなみに、冒険者ギルドには酒場は併設されている事が多い。
冒険者が情報を交換したり、良好な人間関係を築く手助けとして。
そんな酒場の一画で、福田はシャドウに尋ねる。
「で、カズトとリムリアは、よくココを利用するのか?」
「冒険者ですから、絶対に訪れる筈です。まあ、今日とは限りませんが」
「呑気な事だな」
福田は不平そうな顔になるが、直ぐに思い直す。
「カズトとリムリアを発見するまでの間に、戦いで地の利を生かせる情報を集めれば良い、という事か?」
「その通りです。カズトとリムリアは、冒険者の間では有名人です。だから様々な情報を得る事ができる筈です。少なくとも他の酒場より、遥かに多くの情報を耳に出来る筈です」
「そうだな。では、適当な冒険者に酒でもおごって話を聞いてみるか」
と、福田が冒険者を見回した、その時。
「あの2人がそうです。今入ってきた、青年と少女です」
シャドウが囁いた。
そこで和斗とリムリアに目を向け、そして福田は。
「なぁんだ、ガキじゃないか」
気抜けした声を漏らした。
大学生くらいの男に、高校生くらいの少女。
どう見ても一般人だ。
と、和斗とリムリアを見下す福田に、シャドウが進言する。
「油断禁物です。ああ見えても彼らはSSS超級の冒険者なのですから」
「SSS超級!?」
シャドウの言葉に福田は目を剥く。
冒険者の戦闘力区分は、既に教わっている。
だからSSS超級が意味する事を、福田は十分に理解した。
しかし。
福田が夢破れた『俺TEEEEE――』を和斗が体現している。
その事実は、福田の嫉妬心を刺激した。
「くっそぉ! 上手いコトやりやがって! チクショウ、羨ましいぜ! しかしどれほど個人の力が優れていても、数の暴力には勝てないんだぜ! 近代兵器で武装した大軍にはな!」
心の底から悔しがると同時に、福田は本気で和斗を倒す事を決意する。
和斗は1000万のクーロン軍を、アパッチで壊滅させたらしい。
しかしそれは、この世界の軍備が貧弱だったから。
近代兵器を装備させたら、和斗がいくら強くでも、物量で押し潰せる。
あるいは作戦によって、どんな強い敵も葬り去る事は可能。
それは歴史が証明している。
そして自衛官であった自分は、それらの作戦を知り尽くしている。
だから全知力を振り絞れば、和斗を倒せる筈。
福田は、そう考えたのだった。
ここは高級レストランの個室。
福田はトウコツとシャドウと共に、計画を話し合っていた。
「さてと。問題は、どこでカズトと戦うか、だな」
福田はそう呟くと、シャドウに視線を向けた。
「アパッチとF15の数は分かるでありますか?」
「アパッチとやらが10、F15とやらが5です」
「カズトとリムリアだけで、どうやって10機のアパッチと5機のF15を操作しているのでありましょう?」
福田の質問に、シャドウが首を横に振る。
「それがサッパリ。どうやら考えただけで操れるらしい、としか……」
「ならカズトが直接乗り込んで操縦しているのではないのでありますな?」
「それは間違いなく」
「う~~ん」
福田は唸ってから、シャドウに問いかける。
「ところで、その四神とやらを倒したのはF15なんでありますよね?」
「はい。四神も四神の軍も、体当たりで倒されてしまいました」
「体当たりだと!?」
福田は思わず聞き返す。
四神を倒したのはF15という事は聞いていた。
しかしそれは、F15が装備するミサイルによるもの。
そう思っていたのだが、まさか体当たりとは。
「という事は、普通のF15ではない、という事でありますか?」
福田は冷や汗を流す。
四神は100メートルもの巨体だったと聞く。
その四神にF15が体当たり。
そんな事をしたら、普通ならF15も無事に済まない。
例え四神を倒せたとしても。
しかもシャドウの話によると、衝撃波だけで兵士を倒したらしい。
それ程の衝撃波を発生させるなど、F15の速度では不可能だ。
つまり和斗のF15は、福田の知るF15ではない。
「地球から召喚された人間だと思ったが、別の世界の住人という事か?」
福田は考え込むが、ここでいくら考えても無駄な事。
それに気が付き、福田は更にシャドウに尋ねる。
「カズトの武器は、それだけでありますか?」
「火を吐く、動く鉄の箱があります。その威力も凄まじいものでした」
その言葉に、福田はマローダー改の絵を思い出す。
重機関銃にチェーンガンに戦車砲、ミサイルまで装備していた。
それほどの武装なら、クーロン軍が負けたのも当然だろう。
しかし装甲車は装甲車。
戦車を投入すれば、一発だろう。
そう楽観する福田だったが。
「その鉄の箱は尋常ではない防御力で、ドラクルのプラズマ攻撃すら跳ね返したと聞きます」
シャドウの報告で、考えを新たにする。
もしもそれが本当なら、つまりプラズマを跳ね返したとしたら。
その防御力は、装甲車のレベルを遥かに超える。
「という事はつまり……普通ではないF15と、あり得ない防御力を誇る装甲車との戦いになるかもしれない、という事か。普通に戦えば苦戦するだろうが……やり方によっては、勝てない相手ではなさそうだな」
様々な状況の中で、勝利を収める。
そんな戦法を、自衛隊では幾つも教え込まれた。
それを活かす時がやってきたのだ。
「なら素人に本物の戦闘ってヤツを教えてやるであります」
福田はニヤリと笑うと、和斗との戦いの計画を練る。
「アパッチは91式携帯地対空誘導弾で撃ち落せるとして、問題はF15と装甲車であります。さて、どうやって無力化させるか……」
そう口にした福田に、シャドウが口を開く。
「実は、こんな情報があるのですが……」
「なるほど。それは使えそうな情報でありますな」
「更に、このような情報も手に入れましたが……」
「ほほう、それも利用できるでありますな。となると、それらを最大限に生かすには……」
こうして深夜まで福田をシャドウは話し合ったのだった。
ちなみに。
トウコツは立案には役に立たない為、ただ話を聞いていただけだった。
そして福田はクーロン帝国に戻ると、ゴルライスに報告する。
「作戦は整ったであります。そこで確認したいのでありますが、本当に5000万人の生け贄を使っても構わないのでありますか?」
「勿論だ。帝国に逆らう者、犯罪者、役に立たない老人や浮浪者、非協力的な民族など、生け贄候補は幾らでもおる」
「そうでありますか。では、クーロン帝国にカズトとリムリアの首を捧げるであります。ついでにチャレンジ・シティーも滅ぼしてみせるであります」
「チャレンジ・シティーだと? ドラクルの一族が治める大陸で、最強の軍事力を誇る都市ではないか。それを滅ぼせる、と言うのか?」
強欲は笑みを浮かべるゴルライスに福田が頷く。
「はい。カズトとリムリアを殺すには、チャレンジ・シティーの存在が欠かせないのであります。そしてカズトとリムリアを倒した後、せっかく大軍を派遣したのでありますから、この大軍によって、ついでにチャレンジ・シティーを滅ぼそうと考えたのであります。構わないでありますか?」
「もちろんだ。止める理由はない」
グフグフと笑うゴルライスに、福田は確認する。
「それから、トウコツ殿から100万の軍隊をドラクルの一族が治める大陸に転送できるのと聞いたのでありますが、事実でありますか?」
転送の情報を聞いた時、福田は飛び上がって喜んだ。
上陸作戦という危険を冒さないで済むからだ。
「うむ。10万人ほどの生命エネルギーを使えばな。まあ、普通は戦場で捨て石として利用した方が有効なので、そんな使い方はしないのだが、今回はその価値があるからな。10万人の命と引き換えに、フクダが作り上げた軍隊を、望む場所に転送させてやろう」
「感謝するであります! では、武器の訓練に3日ほど費やしますので、4日後の早朝に、転送して頂きたいのでありますが、宜しいでしょうか?」
「うむ。用意しておくように命じておく」
鷹揚に答えたゴルライスに、福田が敬礼する。
「では4日後に」
そして福田は、生け贄の元へと向かうと。
10式戦車 1000台
16式機動戦闘車両 1000台
MLRS 1000台
Ⅿ2重機関銃を搭載した軽装甲戦闘車両 4万台
M2重機関銃と武装兵20人を乗せた7tトラック 4万台
秘密兵器を搭載した7tトラック 100台
そして切り札が1。
を生み出した。
10式戦車は、最新鋭の自衛隊の主力戦車。
その速度は時速70キロ。
120mm戦車砲、12・7mm重機関銃、7・62mm機関銃を装備。
地上最強の兵器といえよう。
16式戦闘車両とは、キャタピラの替わりにタイヤで走る戦車だ。
時速100キロで走行する。
武装は105mm砲、12・7mm重機関銃、7・62mm機関銃だ。
攻撃力・防御力共に戦車より少し劣るが、機動力が高い。
MLRSとは多連装ロケットシステム自走発射機の事。
2基の6連装ロケット砲を搭載した装甲車だ。
このMLRSに、ユックリとロケット砲を発射させる。
F15で防げる程度の発射速度で。
これによりF15を無力化する。
軽装甲先頭車両とは、普通車サイズの装甲車。
速度は16式機動戦闘車両と同じく、時速100キロ。
どの車両にも、20基から30基の91式携帯地対空誘導弾を搭載する。
天井部分のハッチから体を乗り出して、91式携帯地対空誘導弾を撃てる。
7tトラックについて言うと。
最初は馬で武器を運ぼうと考えた。
しかし馬は武器の発射音でパニックを起こしてしまう事が判明。
そこで7tトラックを生み出す事にしたのだ。
その7tトラックに12・7mm重機関銃を搭載。
同時に89式小銃を装備させた兵士20名を運ぶ。
ちょっとした移動砲台として戦果を上げる筈だ。
加えて対アパッチ兵器として30基の91式携帯地対空誘導弾を搭載する。
ちなみに武器の重量と、それを生み出す為に必要な生け贄の数は。
切り札 72808t=生け贄970774人。
切り札の燃料 6300t=生け贄 84000人
秘密兵器 5t=生け贄 67人
10式戦車 44t=生け贄 587人
16式機動戦闘車量 26t=生け贄 347人
MLRS 25t―生け贄 335人
軽装甲機動車 4・5t=生け贄 58人
7tトラック 11・86t=生け贄 159人
となる。
だから、全車両を生み出す為の生け贄の人数は約1000万人。
しかも、それに加えて。
89式小銃。
その弾倉と弾丸。
車輌に搭載するM2重機関銃。
M2重機関銃が消費する大量の弾丸。
91式携帯地対空誘導弾。
こうした大量の殺戮兵器に加えて、訓練で消費する燃料に弾薬。
それも、福田は生み出した。
その為の生け贄は、1000万人を遥かに超える。
いや、1500万人近い。
とんでもない犠牲者の数だ。
しかし。
これほどの人間を犠牲にしたのに、福田は何1つ後悔していなかった。
福田の頭を占めているのは、たった1つ。
和斗とリムリアを殺し、金と権力とハーレムを手に入れる事。
それだけだ。
その為なら、1500万人の命すら気にも留めない。
福田の精神は、完全に異常をきたしていた。
2021 オオネ サクヤⒸ




