第九十七話 その能力を見せてみろ
「ではフクダミノル。武器を生み出すという、その能力を見せてみろ」
「できれば福田と呼んでいただければ」
おずおずと口を開く福田に、ゴルライスが怒鳴る。
「いいから、早く見せろ!」
「は、はい! って、先程言ったように、生け贄がいないと生み出す事が出来ないのでありますが……」
「分かっておる。おい!」
ゴルライスの言葉と共に、衛兵が数人の男を連行してきた。
「帝国に逆らう愚か者共だ。コイツ等を使って、武器を生み出してみせよ。それとも、これでは足りぬか?」
涼しい顔で恐ろしい事を口にするゴルライスに、福田は慌てて首を横に振る。
「い、いえ、これで十分であります! で、ではさっそく」
福田は連行されてきた男に1人に目を向けると、能力を発動させる。
(創造=89式小銃)
その瞬間、福田の目に。
89式5・56ミリ小銃 =重量3500グラム。
対象人間 =体重77542グラム。
89式5・56ミリ小銃創造可能数 =22
実行しますか?
そう表示された。
「実行する」
福田がそう答えると同時に。
ガシャガシャガシャガシャ!
福田が目を向けた男の姿が22丁の89式小銃に変わり、床に転がった。
「ほう、これが武器か?」
目を輝かすゴルライスに、福田は首を横に振る。
「いえ、これだけでは役に立たないであります。もう少しお待ちください!」
89式小銃の3500グラムというのは本体だけの重量。
弾倉は含まれていない。
つまり弾倉と弾丸を生み出さないと役に立たないのだ。
だから福田は、次の男を弾倉に変化させようと、目を向けた。
最初の男が小銃に変化するのを見ていたのだから、その男は暴れ出す。
と思ったが、男は無反応。
トロンとした目で、されるがままになっている。
何かの薬品で意思を奪われているのだろう。
そして男の体は。
カシャカシャカシャカシャカシャカシャ。
大量の弾倉となって、床に散らばった。
福田は、続いて弾丸を生み出そうとするが。
(いや、大量の弾丸が床に散らばったら拾い集めるのは大変だ)
そう思い直し、福田はゴルライスに頭を下げる。
「皇帝陛下。申し訳ありませんが、大きめの箱を用意して頂けないでしょうか」
その言葉にゴルライスが頷く。
と同時に、衛兵が、人間が入れるサイズの箱を運び入れた。
福田はその箱に、次の生け贄を立たせて弾丸に変えると。
「では、自分の国では兵士が装備している武器を披露するであります」
弾倉に弾丸を装填し、89式小銃に取りつけた。
そして福田は、ゴルライスに目を向ける。
「衛兵が身に付けている鎧を1つ、用意して頂きたいのですが」
その言葉に、すぐさま1人の衛兵が鎧を脱いで福田に差し出した。
「では。これが標準的な武器の威力です」
福田はそう口にすると。
タン!
鎧を狙って、89式小銃を発射した。
その弾丸は、見事に鎧を撃ち抜き。
「おお!」
「鎧に穴が開いたぞ!」
「30メートルも離れていたのに!」
「これが異世界の武器……」
「何て強力な武器なのだ!」
「これが幾らでも生み出せるのか……」
「恐ろしい能力だ」
「しかしこの武器があれば、世界支配も……」
謁見の間は、驚きの声に包まれた。
だが、その声も。
タタタタタタタタタタタタタン
福田がフルオートで鎧をハチの巣にすると、一瞬で静まり返った。
今、この瞬間なら。
福田は、この場にいる誰だろうと殺せる、と理解したからだ。
それが例え、ゴルライスだろうと。
が、そんな事をしても、福田に利はない。
なにしろ協力すれば、金と権力とハーレムが手に入るのだから。
だから福田はゴルライスに微笑んでみせる。
「どうでありますか、我らの武器は?」
「う、うむ、素晴らしい威力だ。これなら、そのアパッチとかいう武器を破壊できるのだな?」
「いえ、この程度ではアパッチを撃ち落す事は出来ないであります」
アパッチはM2重機関銃の直撃にも耐える。
89式小銃の5・56ミリNATO弾程度で撃ち落せる筈がない。
「なんと! これほどの威力でも、そのアパッチとやらには通用せぬと言うのか!? では、どうするのだ?」
やや焦りを含んだゴルライスの問いに、福田はニヤリと笑う。
「コレで撃ち落すのですよ」
福田は更に連行された男に視線を向ける。
(創造=91式携帯地対空誘導弾)
考えると同時に、フクダの目に。
91式携帯地対空誘導弾 =重量11・5キログラム。
対象人間 =体重72・5キログラム。
91式携帯地対空誘導弾創造数 =6
実行しますか?
という表示が浮かび上がった。
実行。
そう答えかけて、福田は危うく思い止まる。
91式携帯地対空誘導弾は、肩に担いで発射する対空ミサイルだ。
全長は約1430ミリメートルで、胴体直径は約80ミリメートル。
小型ながら、戦闘機を撃ち落す爆発力を持っている。
そんなミサイルが床に落下して、もしも爆発したらどうなる?
だから福田は、フカフカのベッドを用意させてから。
(実行)
と心の中で言葉を発した。
そして出現した91式携帯地対空誘導弾の1つを手に取ると。
「では、威力をご覧ください」
福田はバルコニーへと移動した。
そして皇帝城の広い中庭に生える、大木を指差す。
直径1メートルはあろうかという、巨大な樹だ。
「あの樹を的にして宜しいですか?」
その問いにゴルライスが頷くと。
「では、アパッチを撃ち落す武器の威力、しっかりとご覧ください」
福田はそう口にしてから、91式携帯地対空誘導弾を発射した。
91式携帯地対空誘導弾は、カメラによる画像誘導も可能。
だから対空ミサイルは、見事に大木に命中すると。
ドカァァァァァン!
轟音と共に大木をへし折った。
「これがアパッチを撃ち落せる武器であります」
胸を張って報告する福田に、王者の威厳を保ってゴルライスが答える。
「素晴らしい威力だ。これならきっとカズトとリムリアを殺す事ができよう。福田よ、褒めてとらすぞ」
ゴルライスは、そこで言葉を区切ると。
「トウコツ!」
「は!」
改めてトウコツを呼び寄せた。
「トウコツよ。フクダがやるべき事を説明せよ」
「は! では……」
トウコツは和斗とリムリアの事を、福田に説明した。
「なるほど。そのカズトとリムリアという者達が、アパッチとF15を操ってクーロン軍を打ち破った。そのカズトとリムリアを、自分が生み出す武器で倒せ、という事でありますか」
「その通りだ」
トウコツの言葉に、福田は考え込む。
そのカズトという人間は、自分と同じく地球から召喚されたのだろう。
でなければアパッチやF15の事を知っているワケがない。
しかし軍事知識は大した事なさそうだ。
少なくとも、自衛官だった自分の方が、遥かに優れている筈だ。
そう判断した福田は余裕の笑みを浮かべる。
「了解であります。そのカズトとリムリアという者達。自分が必ず倒してみせるであります!」
金と権力とハーレムの為。
福田は、地球人を殺す事を即決した。
これだけで福田がどんな人間だかよく分かる。
「ですが、色々必要なものが……」
そう付け加える福田に、ゴルライスが頷く。
「かまわん。トウコツよ、福田に最大限の便宜を図ってやれ」
「は!」
頭を下げたトウコツを、ゴルライスが福田に紹介する。
「第五皇子のトウコツだ。このトウコツの軍を好きに使うがよい」
「了解であります!」
即答する福田に、ゴルライスが尋ねる。
「ところで、必要なものとは何なのだ?」
「アパッチとF15を撃ち落す武器を生み出すのは簡単です。が、自分1人でアパッチとF15を撃墜する事は不可能です。だから、まずアパッチとF15を撃ち落せる武器を生み出し、そして兵士にその武器の訓練を施します。そして、これが1番重要なのですが……」
「なんだ?」
ギョロリの睨んでくるゴルライスに、福田は頭を下げる。
「敵をこの目で直接見たいのであります。敵の正確な情報。これが近代戦において1番重要な事なのであります」
どうやらカズトとリムリアと敵対しているものの。
現在、戦争状態という訳ではないらしい。
ならば現地で直接偵察しても、それほど危険は無い筈。
そう考えての言葉だ。
「なるほどのう。其方の言う事、もっともだ。ではトウコツよ、そのように手配してやるがよい」
という事で。
福田はドラクルが治める大陸へと偵察に出る事が決まったのだった。
当然ながら、クーロン帝国とドラクルの一族が治める大陸との交流はない。
しかしクーロン帝国がある大陸と、となると話は違う。
数は少ないものの、定期的に商船が行き来している。
そんな商船に福田は乗り込んでいた。
同行するのはトウコツと、トウコツ軍の精鋭10名。
全員、89式小銃の使い方は練習済だ。
ちなみに他の89式小銃は、ゴルライスを護る衛兵が装備している。
そして道案内はシャドウ。
四神が和斗と戦った時、道案内した男だ。
年齢も性別も不明だが、今は目立たない男の姿をしている。
そのシャドウが、前方を指差す。
「あれが、四神軍が上陸したノルマンドです。1度はクーロン軍が蹂躙したのですが、今は要塞を再建して以前以上に強固な護りを誇ります」
確かに上陸作戦を展開するには都合の良い場所だった。
長い海岸線は、どこからでも上陸部隊を進軍させる事が可能だから。
しかし福田はノルマンド要塞を目にするなり、上陸作戦は困難と判断した。
城壁は分厚く、そして高かったからだ。
しかもその城壁の上には、様々な武器が備え付けられている。
原始的な武器だが、その威力は侮れない。
ヘタしたら装甲車すら破壊されてしまうだろう。
もっとも、爆撃を行えば簡単に攻略できる。
が、その為には爆撃機が必要だ。
そして、爆撃機を操る訓練が必要となる。
必要となるのだが、福田は元海上自衛官。
航空機を操る訓練は受けていない。
つまり爆撃機の操縦を教える事ができないのだ。
また、滑走路を作るのも、この世界の技術では難しい。
他にも給油、整備など問題が多過ぎる。
だから爆撃や空中支援は諦めざるを得ない。
となると、地上部隊だけで攻める事になる。
その場合、多数の戦車が必要となるだろう。
だが、そんな多数の戦車を運べる船を用意するのは、かなり難しい。
なにしろ自衛隊最新鋭戦車=10式戦車の重量は44トンもあるのだから。
「これは上陸作戦のような大規模戦闘は、考えから除外すべきだな」
福田はそう呟くと、シャドウに目を向ける。
「で、そのカズトとリムリアは、今どこにいるのでありますか?」
「ジャーマニア領の首都、チャレンジ・シティーです」
「では案内、よろしくお願いするであります」
「はい」
という事で。
福田はシャドウの案内で、チャレンジ・シティーへと向かったのだった。
「これは……ノルマンドなど比べ物にならない程、強固は街だな」
チャレンジ・シティーを目にするなり、福田は感心する。
「この街は強力な戦士を育成する為にあると言っても過言ではありません。ハッキリ言えば、クーロン兵など足元にも及ばない戦闘力を持った者が、数え切れないほど暮らしています。世界最強の都市といっても良いでしょう」
「それ程なのか?」
シャドウの説明に、普通の人間である福田は、残念そうな声を漏らした。
できれば自分も、ソッチ方面のチート能力が欲しかった。
などと無い物ねだりをしても仕方がない。
使いようによっては世界を支配できる能力者なのだから、マシだと思わねば。
と自分で自分を慰めると。
「さて、では敵を探りに行くでありますか」
福田はチャレンジ・シティーに足を踏み入れたのだった。
2021 オオネ サクヤⒸ




