第九十四話 思ってたより簡単だ!
サーベルタイガー型ビーストゴーレムの動きは速かった。
和斗は照準を合わせると同時に戦車砲を発射するが。
「くそ、外した」
戦車砲弾は掠りもしなかった。
そしてサーベルタイガー型ビーストゴーレムが飛び掛かって来た。
が、当然ながら。
キャリン。
マローダー改の装甲は、牙にも爪にも傷一つ負わない。
しかし。
「ゲームならゲームオーバーの状況だよな」
和斗は不満気な声を漏らした。
「俺の最高速度は2万4千キロなんだから、照準を合わせて撃つくらい簡単な筈なんだけど……どうも感覚が上手くつかめないな。仕方ない、徐々に馴らしていくしかないか。はぁ~~」
和斗がため息をついた、その時。
――今のマスターなら、コントローラーは必要ありません。
サポートシステムが話しかけてきた。
「コントローラーが必要ないって、それじゃあどうやって武器を操作するんだ?」
首を傾げる和斗に、サポートシステムが説明を始める。
――現在、サポートシステムが操作可能なドローンの数は200。
そしてマスターの能力はマローダー改の30パーセント。
だからマスターは、60のドローンが操作可能です。
「へえ、60機のドローンを操れるのは凄いな。でも、それとマローダー改の武器と、何の関係があるんだ?」
――ドローンだけではなく、マローダー改の武装も操作可能だ、という事です。
つまり操作できるドローンと武器の総数が60という事です。
「なるほど。でも、それってどうやるんだ?」
――マローダー改のハンドルを握って、心の手で武装を掴んでください。
「難しいコト言うな……」
そう口にしながらも、和斗はサポートシステムの言う通りにしてみる。
すると。
「お! 思ってたより簡単だ!」
和斗は直ぐに、武器を操る感覚をマスターしたのだった。
「こりゃ凄い! 武器が体の1部みたいだ!」
和斗はそう口にすると。
ドカァァァン! ドカァァァン!
10万倍強化戦車砲を2連射した。
その戦車砲弾は。
ボカッ! バカッ!
サーベルタイガー型ビーストゴーレムに命中し、撃ち砕く。
さっきまでとは別人のような、スピーディーな砲撃だ。
「なるほど、この感覚か」
和斗は他の武器も操作してみる。
チェーンガン、バルカン砲、重機関銃、そしてレーザー砲。
そのどれもが、まるで自分の手足のように、自在に操作できた。
そんな和斗の滑らかでシャープは動きに、リムリアが声を上げる。
「ねえサポートシステム、ボクにも出来るかな?」
――マローダー改のレベルアップにより、リムリアのステータスも上昇しました。
今のリムリアは、マローダー改の10パーセントの能力を得ています。
だから合計20のドローンとマローダー改の武装を操作できます。
「マローダー改の10パーセント!? ボクのステータスって、そんな凄いコトになってたの!?」
驚きながらも、リムリアは喜びを隠せない。
「ってコトはボク、最高時速は8千キロで重さは14万トン、鋼鉄7万キロメートル相当の防御力を持ってるってコトだよね! これってボクは世界で2番目に強いってコトだよね! 凄いや!」
確かにマローダー改の10パーセントでも、凄いステータスだろう。
しかし世界で2番目かどうかは分からない。
四神やべリアルより強いモノが存在しても不思議はないのだから。
が、リムリアはそんなコトには考えが及ばないらしい。
興奮した様子で、更にサポートシステムに問いかける。
「で、どうやったらボクも和斗みたいにマローダー改の武装を操作できるの!?」
ワクワクしているリムリアに、サポートシステムが冷静に告げる。
――リムリアの場合も、コントローラーを握って、武器を心で操作する場面を想像してみてください。
「こう?」
リムリアは言われた通りにやってみると。
「あ、簡単だ!」
満面の笑みを浮かべた。
20の武器を自在に操れる。
それはマローダー改の武装全部を同時に操れるというコトだったからだ。
が、そこでリムリアは、ある事に気付く。
「あ、でもサポートシステム。カズトとボクが、同時に同じ武器を操作しようとした場合、どうなるの?」
――その場合、先に操作しようとした者が優先になります。
相手が操作している武器は感覚で分かりますから、混乱しない筈です。
「ホントだ」
和斗が武器にアクセスしようとした瞬間。
その武器をリムリアが操作している事が、感覚的に理解出来た。
――もちろん、武器の操作の受け渡しも簡単です。
サポートシステムが答えると同時に、リムリアは武器の操作を和斗に譲ってみる。
「なるほど、これなら混乱しないな」
まるで手渡しのようにスムースな感覚に、和斗は納得した。
これなら何の支障もなく戦闘を行えそうだ。
となれば、後は実際にやってみるダケ。
というコトで。
「じゃあリム。このフロアで実験だ」
「うん!」
和斗とリムリアは、感覚で武器を操作する練習を始めた。
和斗の最高時速は2万4千キロ。
リムリアの最高時速8千キロ。
そんな2人が、自分の体と同レベルで武器を操ったのだ。
それ程の高速になると、クリーチャーは止まっているのと大差ない。
だから和斗とリムリアは。
たった数秒で、ブラックタワー1階のクリーチャーを全滅させたのだった。
そして。
動くモノがいなくなった1階を見渡しながら、リムリアは呟く
「全部の階が広いフロアだったら数分で10階をクリア出来そうだね」
たしかにこのやり方なら、直ぐにクリアできるだろう。
「でも簡単過ぎて、逆に物足りないかも」
リムリアの贅沢な悩みに、和斗は苦笑する。
「なら、またアサルトライフルで戦うか? 武器を心で操る感覚は、もう掴めたコトだし」
和斗の言葉を耳にするなり、リムリアはⅯK2の手を伸ばす。
「そうだね。やっぱアサルトライフルの方が楽しいかも」
「じゃあマローダー改から降りて、また射撃ゲームを再開するか」
M16を手に取る和斗に、キャスが声を上げる。
「でもカズト様。まだフロアボスを倒していませんが」
そうだった。
まだフロアをうろつくクリーチャーを倒しただけ。
フロアボスを倒して、初めてフロアをクリアしたコトになるんだっけ。
「でもフロアボスは、ドコにいるんだろ?」
和斗の呟きに。
「ボクに任せてよ」
リムリアが、キョロキョロと辺りを見回しながらサーチを発動させた。
その直後。
「アッチだよ」
リムリアは、MK2を構えて駆け出す。
そんなリムリアに。
「張り切ってるな」
ボソッと呟きながら、和斗も続く。
その後ろを走るのは、ヒヨを肩車したキャス。
この4人で1階フロアを駆け抜けた先に。
3体のヒドラ型ゴーレムが待ち構えていた。
5つの首を持つヒドラの姿をした、全長10メートルの金属製ゴーレム。
これがブラックタワー1階のフロアボスのようだ。
「今までの敵より、ボスっぽいビジュアルだな」
和斗はそう口にするとM16を構えた。
が、和斗が引き金を引くより早く。
「てい」
ドグワァッ!
リムリアがヒドラ型ゴーレムを蹴り砕いた。
そのフロアボスを1撃で粉々になった光景に、和斗は呆気にとられる。
「おいおい、マジかよ?」
間抜けな声を漏らす和斗に、リムリアが屈託のない笑顔を向ける。
「ねえカズト! さっきマローダー改の10パーセントの力を得てる、って聞いたから試してみたんだけど、ホントにボク、凄く強化されてるね!」
そう口にしたリムリアが、残った2体にも蹴りを放つと。
ゴシャ! グシャン!
2体のヒドラ型ゴーレムも、その1撃で砕け去った。
そんな自分の破壊力に、リムリアは弾んだ声を上げる。
「ねえカズト! アサルトライフルで撃ち倒すのも楽しいけど、素手でクリーチャーを倒すのも快感だね!」
リムリアが興奮するのも無理ない。
無敵ともいえる戦闘力を手にしたのだから。
その無敵の力で敵を打ち砕く快感は、和斗にも理解できる。
きっとリムリアは今、自分の力を試すコトが楽しくてしょうがない筈だ。
だから和斗は、リムリアに思う存分、力を振るわせるコトにする。
「じゃあリム。次のフロアも素手でチャレンジしてみるか?」
「いいの!?」
目を輝かせるリムリアの防御力は、鋼鉄7万キロに相当する。
10万人や100万人相当の戦闘力でダメージを受ける筈がない。
だから和斗はリムリアにグッと親指を立ててみせる
「ああ。今のリムの防御力なら危険なんかないだろうから、試しに素手で戦てみたらいい。俺がフォローにまわるから、思いっ切りやってみな」
「やったぁ!」
飛び上がって喜ぶリムリアに笑みを返すと。
「じゃあ俺も武器を変更するか」
和斗はM16を、400万倍強化日本刀に持ち替えた。
接近戦を愉しむリムリアをフォローするなら近接武器の方がやり易い。
そう判断したからだ。
こうしてリムリアは。
ブラックタワー2階のクリーチャーに素手で挑むコトにしたのだった。
全速力で接近して、思い切りのビンタ。
あるいはキック。
リムリアの戦法は、コレだけ。
しかしその破壊力は、時速8千キロで激突する直径7キロの鋼鉄と同じ。
20万人相当のクリーチャーごときが耐えられるレベルではない。
そして和斗も日本刀での戦いを愉しんでいた。
1刀の元にクリーチャーを斬り裂く。
いざやってみると、これが意外に面白い。
綺麗に両断できた時の快感は、銃で仕留めた時とは違う快感だ。
というコトで。
和斗とリムリアは、10分ほどで2階をクリアしたのだった。
こうして広いフロアはマローダー改の武装で。
狭いフロアは力と刀で突き進んだ結果。
和斗とリムリアは、たった1時間で10階に到着。
そして1撃と2斬撃で、フロアボスを倒したのだった。
が、リムリアは不満顔だ。
「全部ボクが倒そうと思ってたのに、カズトったら2体も斬ってしまうんだもん」
というコトらしい。
「ゴメンな、リム。そんなつもりはなかったんだけど、2体が俺に襲いかかってきたから、つい反射的に斬ってしまった」
「まあ、それなら仕方ないかな……」
リムリアを何とか宥めた後。
「とにかく10階をクリアしたんだ。クリスタルのある部屋に行こうぜ」
そして進んだ、ブラックタワー10階のクリアボーナスの部屋で。
「で、長老はドコにいるのかな?」
和斗は、宙に浮かぶクリスタルに質問した。
が、クリスタルが答えるよりも早く。
「こちらです」
澄んだ声と共に、クリスタルの後ろの壁が2つに分かれた。
その先に進んでみると、そこは直径1キロほどの広場のなっており。
「ブラックタワーをクリアした者は初めてですね」
「せやな、大したモンや、ここまで辿り着くやなんてな」
「……めんどくさい」
広場の中心には3人の女性が立っていた。
「待っていましたよ」
そう口にしたのは、水色の髪の女性。
年齢は20代後半くらいだろうか。
緩やかな緑のドレスを身に付けており、水の妖精のように美しい。
「私がジャーマニア領の長老、ケーコです。そして彼女達が」
ケーコは、残りの2人の女性へと目を向けた。
1人は16~7歳くらいの少女。
神がかった美少女だが、綺麗というより可愛い雰囲気だ。
豪華な男性用の服を身に付けているが、何故か妙に似合っている。
もう1人は男装美少女より1つか2つ年下だろうか。
美術品のような美少女だが、気だるそうな表情が印象的だ。
ユッタリとした黒い服を身に付けているが、気のせいだろうか。
着崩したパジャマのような?
そんな2人の美少女の名を、ケーコが口にする。
「暴食のベルゼブブと、怠惰のベルフェゴールです」
2021 オオネ サクヤⒸ




