第九十三話 こりゃ難しいな
ブルータワーをクリアした翌日の朝。
和斗とリムリア、そしてヒヨを肩車したキャスはイエロータワーの前にいた。
「射撃ゲーム3日目だね。よーし、今日も愉しむぞぉ!」
リムリアは楽しそうに目を輝かせると、イエロータワーに足を踏み入れた。
が、いきなり。
ガサガサガサガサガサガサ!
ブルータワー10階のラスボス=ゴキブリ3000匹が襲いかかってきた。
「うわひぃッ!」
「どわ!」
リムリアと和斗は、顔色を変えながらも。
バコン! バコン! バコン! バコン! バコン!
バコン! バコン! バコン! バコン! バコン!
M16とⅯK2に装着したⅯ26ショットガンをブッ放した。
タワーチャレンジの傾向として。
階を1つ進んだ時、その前の階のラスボスといきなり遭遇する事も多い。
だからブルータワー10階のラスボスへの対策として。
和斗とリムリアが選んだのが、M26ショットガンだ。
具体的にいうと。
使用散弾を400発のタイプに変更。
加えて威力を1万倍化。
その1万倍化Ⅿ26を、和斗とリムリアはⅯ16とⅯK2に装着したのだった。
つまり400発×5連射×2人=4000発の散弾を撃ち込める。
そして計画通り、4000発の散弾はゴキブリの殆どを撃ち砕いた。
しかし、それでも全滅に成功したワケではない。
どれほどの弾幕であっても、潜り抜ける個体はいるものだ。
その弾幕を潜り抜けたゴキブリを。
「リム! 1匹残らず殲滅するぞ!」
「うん、カズト! 任せて!」
タタタタタタタタタタタタタタタタタン!
タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタン!
和斗とリムリアは、フルオート並みの射撃速度で撃ち落した。
「ふう~~、ボク達のスピードなら、落ち着いて対応したら余裕なんだけど、物凄くドキドキするね、カズト」
大きく息を吐くリムリアに、和斗が頷く。
「そうだな。こんなに緊張したのは久しぶりだ。迎撃に失敗しても肉体的ダメージを受ける事はないけど、ゴキブリの海に呑まれたら、どれほどの精神的ダメージを受けるか見当もつかないからな」
「うえ~~、そんなコトになったらボク、死んじゃうかもしれない」
心の底からウンザリした顔になるリムリアの背中を、和斗はポンと叩く。
「だから油断は禁物だ、リム。しっかりサーチを頼む。最低でもゴキブリだけは見逃さないでくれ」
本気で頼む和斗に、リムリアも真剣な顔で答える。
「もちろんだよ! ゴキブリだけは命に替えてでも発見してみせるから!」
リムリアがフンスと鼻を鳴らす。
今までで1番気合いが入っているように見えるが、それも当然だろう。
全身ゴキブリまみれになるなど、想像するだけで恐ろしい。
そして……何故かゴキブリとの遭遇率は高かった。
精神的な強さを鍛える為だろうか?
こうして何度もゴキブリの大群と戦った後。
やっと辿り着いたイエロータワー1階のラスボスは。
「何で巨大ゴキブリなんだよ……ボクもう、気絶しそう……」
リムリアが涙交じりに口にしたように、10メートルもあるゴキブリだった。
しかも細部まで作り込まれている。
本物以上に本物らしいゴキブリのクリーチャーだ。
その巨大ゴキブリが3匹。
夢なら覚めて欲しい、と心の底から願う和斗とリムリアだった。
が、残念ながら現実。
巨大ゴキブリは、1直線に襲いかかってきた。
戦闘力は1000人相当しかないから、戦えば必ず勝てる。
が、その外観がもたらすプレッシャーは、気が遠くなるレベルだ。
なにしろ普通サイズのゴキブリでさえ、見つけた瞬間、身がすくむ。
まして10メートルもあるゴキブリだ。
そのインパクトは計り知れない。
「でも、たった3匹だ! リム、やるぞ!」
「そ、そうだね! 死ねェ!」
敵のサイズは10メートル。
狙う必要はない。
ただ銃口を向けて、引き金を引くだけだ。
という事で和斗とリムリアは。
タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタン!
タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタン!
Ⅿ16とⅯK2をフルオートでブッ放した。
そして1万倍に強化された弾丸は巨大ゴキブリをハチの巣にし。
「「はぁ~~~~」」
和斗とリムリアは、倒した巨大ゴキブリを前にして、深い深い溜め息をついたのだった。
イエロータワーの1階は精神を削られるフロアだった。
しかし2階以降は、グロいクリーチャーは皆無。
つまりタワーチャレンジは、再び射撃ゲームに戻ったワケだ。
だから和斗とリムリアは、1日でイエロータワーをクリアしたのだった。
その翌日には、パープルタワーをクリア。
そして遂に今日。
和斗とリムリアは、遂にブラックタワーに挑むコトにしたのだった。
「さ~~て、今日で最後のタワーチャレンジだね」
リムリアは、10万倍に強化したⅯK2とⅯ26を手にして塔を見上げる。
「これでやっと長老に会えるね。あ、そうだカズト。もし広いフロアがあったらマローダー改でチャレンジしてみない? 最近はサポートシステムに任せっきりだったけど、偶にはマローダー改の武器を使う練習もしておきたい」
「そうだな、新しくしたマローダー改の搭載武器を試してみるのも悪くないか。まあマローダー改で戦えるくらい広い場所があったら、だけど」
M16やⅯK2による射撃ゲームは楽しい。
しかしマローダー改の武装を使った射撃ゲームだって楽しそうだ。
なにより武器を使いこなす練習は、無駄にはならない筈。
そんなに広い場所は、そうは無いだろうけど。
……そう思っていたのだったが。
「さっそく出くわしたな」
和斗はブラックタワーの1階を目にして、呟いたのだった。
そこは、まさかに大平原。
20キロほど先に、ラスボスの間が見て取れる。
そして、そこまでの道のりにクリーチャーがうろついていた。
様々な武器を装備したアシュラスケルトン。
多種多様なビーストゴーレム。
防御力に特化した金属製ゴーレム。
攻撃力に特化した戦士型ゴーレム。
制空権を握るガーゴイル。
どれも強力なクリーチャーばかりだ。
その数は3体から45体。
どうやら強い個体との戦闘力が求められるフロアのようだ。
しかも、このフロアは見晴らしが良い。
他のクリーチャーに気付かれる前に倒す事が求められているのだろうか。
「圧倒的な強さか速度が必要なフロアってコトかな?」
呟くリムリアに、和斗は付け加える。
「それとも暗殺技術、かもな」
10万人相当の戦闘力を持つクリーチャーを瞬殺する戦闘力か速度。
あるいは気付かれない技術が要求されるフロアだとしたら。
普通の冒険者にとって、とてつもなく高いハードルだ。
しかし。
「マローダー改の武装なら楽勝だね」
リムリアが、自信満々の笑みを浮かべた。
「そうだな」
和斗は、そんなリムリアに微笑み返すと。
「ポジショニング」
マローダー改を呼び寄せた。
と同時にリムリアは。
「よーし、やるぞぉ!」
マローダー改に乗り込むと、和斗に笑顔を向けた。
「ねえカズト、ナニを使ってみようかな?」
そしてリムリアは、マローダー改の武装を確認してみる。
マローダー改の武装
3連装戦車砲 100倍強化
10万倍強化
400万倍強化
3連装チェーンガン 100倍強化
10万倍強化
400万倍強化
3連装バルカン砲対空システム 100倍強化
10万倍強化
400万倍強化
3連装M2重機関銃 ノーマル
5倍強化
20倍強化
レーザー砲 最高焦点温度2兆℃(威力は可変式)
「レーザー砲なら1撃で終わりだけど、それじゃつまらないし……チェーンガンじゃ爆風で視界が悪くなるかもしれないし……重機関銃は狙撃用だから、このフロアをクリーチャーには力不足。となると、戦車砲かバルカン砲かぁ。ねえカズト、どっちにしよう?」
リムリアは、ヒヨ、キャスと一緒に乗り込んで来た和斗に尋ねた。
「そりゃあ、好きな方を使ったらイイ。マローダー改に乗っている限り、何の危険もないんだから」
「そうだね、じゃあ取り敢えず、10万倍強化戦車砲にしてみるね」
そう口にすると同時に。
ドッカァン!
リムリアは、10万倍強化戦車砲を発射した。
その砲弾は、1番手前にいたアシュラスケルトンを直撃し。
バカァン!
粉々に打ち砕いた。
10万人相当の戦闘力のクリーチャーに、10万倍強化戦車砲。
比率でいうと、人間に戦車砲を撃ち込んだようなものだから、当然の結果だ。
だがアシュラスケルトンは、まだ2体残っている。
「どんどんいくよ!」
リムリアは、2体目のアシュラスケルトンに照準を合わせた。
が。
「うわ! 動きが速くて照準が合わないよ!」
慌てるリムリアに、和斗は冷静に指示する。
「ならバルカン砲だ! 一気に薙ぎ払っちまえ!」
「うん!」
リムリアはコントローラーを切り替えると。
ブォォォォ!
10万倍強化バルカン砲を発射した。
発射といっても、スイッチを一瞬触っただけ。
それでも発射速度100発/秒のバルカン砲は数十発を撃ち出した。
その数十発のバルカン砲弾は。
ドパパ!
2体のアシュラスケルトンを簡単に砕いたのだった。
「ふ~~、つい焦っちゃったよカズト。マローダー改に乗ってるんだから、そんな必要なんか無かったのにね」
リムリアはそう漏らすと、他のクリーチャーに視線を移す。
「でも、仲間が倒されたのに、他のクリーチャーは動かないね。バルカン砲の轟音が聞こえない筈ないのに」
リムリアは、首を傾げた。
「何で襲ってこないんだろ? 直ぐに次のクリーチャーが動き出すと思っってたんだけど。1度に何組ものグループが襲いかかってきたら、このフロアの難易度を超えちゃうからかな?」
リムリアの推理に、和斗も考え込む。
「そうかもしれないし、制限時間を超えたら他のグループも動き出すのかもしれないし、近寄るのが襲いかかる条件なのかもしれない。まあ、いつ襲いかかってきてもイイように、他のクリーチャーにも注意しながら進もう」
「うん」
が、和斗には、それよりも気になるコトがあった。
たった3体のクリーチャーを、撃ち損ねたコトだ。
「しかし素早く動く敵に反応出来ない、ってのはマズいよな。サポートシステムに任せたら間違いないんだろうけど、俺達もマローダー改の武装を使いこなす練習をしておかないとな」
和斗の呟きに、リムリアも考え込む。
「そうだねカズト。今まで考えた事もなかったけど、マローダー改の武装も使えないとダメだよね。よーし、マローダー改の武装の練習が出来そうなフロアは全部マローダー改でチャレンジしよ!」
真剣な顔でコントローラーを握り直すリムリアに、和斗は頷く。
「よし、じゃあリムはそのままバルカン砲の練習をしてくれ。俺は戦車砲の練習をするから」
和斗は戦車砲のコントローラーを手にした。
「じゃあリム。まず俺が戦車砲でクリーチャーを撃つ。で、撃ち漏らしたクリーチャーが接近してきたらバルカン砲で薙ぎ払ってくれ」
「了解!」
リムリアの元気な声を耳にしながら、和斗はコントローラーを操作する。
標的は1番近い、サーベルタイガー型ビーストゴーレム3体だ。
その1体に、和斗は戦車砲の照準を合わせだ。
「さてと、初弾を命中させるのは簡単なんだけどな」
和斗はそう呟くと、発射ボタンを押した。
と同時に。
ドッカァァン!
10万倍強化戦車砲が火を吹き。
ゴガン!
サーベルタイガー型ビーストゴーレムは、見事に砕け散った。
が、ここからが本番だ。
仲間を倒されたビーストゴーレム2体が、襲いかかってくる。
そのうちの1体に照準を合わせようとする和斗だったが。
「こりゃ難しいな」
和斗はコントローラーを操作しながら呟いたのだった。
2021 オオネ サクヤⒸ