第九十二話 わきゃ――――――!!!
ブルータワーの6階。
そのフロアから、魔法の武具を装備したクリーチャーが出現するようになった。
焔や雷を纏った剣。
カマイタチやウォータージェット、氷や石の槍を撃ち出す武器などだ。
いや、魔法を撃ち出すのは武器だけではない。
兜、鎧、ガントレットなどの防具も、魔法を撃ち出す。
その威力は、6階だけあって600人相当。
つまり6階からは、強力な魔法攻撃への対処も求められるようになった。
が、逆に言えば、たかが600人相当の魔法攻撃。
リムリアが無意識に張り巡らせている魔法障壁が、全ての魔法を無効化する。
さすがドラクル最強というべきだろう。
それにもし直撃しても、600人相当の威力ではノーダメージだ。
しかし、それではゲームとして面白くない。
だから、よりゲームを楽しむ為、和斗は魔法を拳で叩き落とす事にしてみる。
「ふん!」
和斗は正拳突きを放ち、攻撃魔法を掻き消した。
が。
バゴ!
正拳突きの風圧に直撃され、クリーチャーまで砕けてしまう。
「しまった……これじゃあゲームにならないな」
和斗は苦笑を浮かべると。
「これならどうだ!」
パン!
飛んで来た魔法を握り潰した。
「うん、これならゲームとして楽しめるかな」
しかし、この方法では片手が塞がってしまう。
つまり両手でホールドするM16は、使えない。
「M500で戦うか? でもM16も捨てがたいしな……」
悩んだ結果。
和斗は魔法攻撃を躱す事にした。
「敵の攻撃を躱しながら撃ち返す、か。ま、射撃ゲームの基本だよな。まあゲームでは3回避け損ねるとゲームオーバーになるコトが多かったけど、今は失敗してもペナルティー無しだから緊張感に欠けるけど、まあボーナスの無敵ステージと思って愉しむか」
そう口にした和斗が手にしているのはM16。
M26ショットガンを装着し、100連マガジンを装填している。
銃身の下の装着したⅯ26ショットガンは。
バゴン!
1撃で敵を叩き伏せる破壊力が魅力だ。
そして100連マガジンは。
タタタタタ! タタタ! タタ! タタタタタタタタタタタタタ!
連射の爽快感を味わえる、というワケだ。
もちろん和斗だって、他の武器を一通り試してみた。
そして和斗が最終的に選んだ武器。
それがM26と100連マガジンを組み合わせたM16だ。
アメリカ軍が正式採用しているだけあって、実に使いやすい。
とはいえM16にも欠点はある。
汚れに弱く、少しの汚れや砂で、動作不良を起こす事だ。
だからイラク戦争では故障が多発したという。
しかし故障しても、和斗ならレストアによって瞬時に治せる。
だからそのM16の欠点は、和斗にとって大きなマイナスではなかった。
ちなみにリムリアのⅯK2は、この欠点を克服している。
頑丈で有名なAK47と同じ構造だからだ。
ブルータワー7階は、直径3メートルほど洞窟型迷路だった。
多くのモノは、迷路攻略にかなりの時間を浪費するだろう。
その上、不意打ちにも神経を尖らせなければならない。
心理的な強靭さを試されるフロアだ。
しかしリムリアは、サーチの魔法が使える。
お蔭で迷う事も不意打ちを食らう事もない。
が、そんな安全プレイにも飽きてきたのだろう。
「でも、ナンでもサーチでわかるのもスリルが足りないよ。試しにサーチなしで進んでみない?」
リムリアが、そんなコトを言い出した。
「う~~ん、そうだな。この程度の敵じゃ俺達にけがをさせるコトなんか出来る筈ないから、それもありかもな」
というコトで。
和斗とリムリアは、サーチなしで射撃ゲームを楽しむコトにしたのだった。
ちなみに。
狭い迷路は和斗達にとって戦いにくいフロアだ。
遠距離から致命傷を与える銃の利点が、大きく損なわれてしまうからだ。
しかもサーチなし。
つまり見通しが悪いので、曲がり角を曲がった瞬間、戦闘となるかもしれない。
この状況は、和斗が大好きなゲーム、○イオ・ハザードそっくりだ。
まあゲームでは、メインの敵はゾンビだったから、もっと不気味だったが。
それでもやはり、このドキドキ感はイイ。
これも射撃系ゲームの楽しみ方の1つといえよう。
ところでリムリアの説明によると。
チャレンジタワーは戦闘力を計るものらしい。
つまり冒険者としての能力は、それほど重要視されてない、との事。
だからだろう。
ホワイトタワーのトラップレベルは、そう高いものではなかった。
しかしブルータワー6階から、トラップの難易度はアップした様に思う。
やはり最低限のサバイバル技術は持っておけ、という事なのだろう。
とはいえ、そのレベルはC級冒険者(250人相当の戦闘力)程度。
和斗達にとってはアトラクションみたいなモノだった。
こうしてアトラクション付きの射撃ゲームを楽しんだ後。
和斗達は、10階のラスボスの間に辿り着いた。
「さて、ブルータワー最後のラスボスはナニかな?」
リムリアはそう言いながら、ⅯK2とⅯ500の弾丸をリロードで補充すると。
「カズト、行くよ!」
ラスボスの間に飛び込んだ。
6階のラスボスは、マンティコア型ビーストゴーレム。
7階のラスボスは、下半身が馬のアシュラスケルトン。
8階のラスボスは、剣技を使いこなすスケルトン。
9階のラスボスは、ブレスを放つドラゴン型ビーストゴーレムだった。
では、10階のラスボスは、どんなクリーチャーなのだろう。
どんな敵と戦うのか楽しみなリムリアだったが。
ガサガサガサガサガサガサガサガサ!
10階ラスボスの出現と同時に。
「わきゃ――――――!!!」
リムリアは、恐怖の悲鳴を上げたのだった。
もちろんブルータワー程度のクリーチャーなど敵ではない。
しかし、最後のラスボスは。
「なんでゴキブリの大群なんだよ――!!」
リムリアが涙交じりに叫んだように、ゴキブリ型ゴーレムだった。
その数、1000×3=3000匹。
つまり人間1人相当の戦闘力を持つゴキブリ3000匹がラスボスだ。
しかも、本物のゴキブリにしか見えない。
「イヤぁ――! ゴキブリだけはダメ―――!」
リムリアが泣き声を上げながら、和斗の背中に隠れた。
が、和斗も。
「マジかよ!」
完全に腰が引けていた。
和斗の最高速度は、マッハ27を超える。
そんな和斗にとって、クリーチャーなど射撃の的でしかない。
もしゲームの画面ごしだったら、余裕で撃ち落しただろう。
しかし今の状況はリアル。
3000匹ものゴキブリが一斉に襲いかかってくる光景に和斗はパニくり。
「ぬおぉぉぉぉぉ!」
全力で正拳突きを放った。
その正拳突きは、衝撃波と共に無数のカマイタチを発生させ。
ドパッ!!!!!
ゴキブリの大群を完全に消滅させたのだった。
まあ和斗のステータスなら、この程度の敵など瞬殺なのは分かりきった事なのだが。
とにかく。
こうして和斗とリムリアは、ブルータワーをクリアした。
精神的大ダメージを受けながら。
それでも最上階の魔法陣から外に出たところで。
「やったァ」
リムリアは、右手に浮かび上がるビッグブルーに満足そうな目を向けた。
どうやら精神的ダメージから、立ち直ったようだ。
が、そこでリムリアは、もう午後の2時である事に気が付くと。
「うわ~~夢中になっちゃった。ヒヨ、ゴメンね。お腹減ったよね?」
ヒヨに謝った。
もちろんリムリアも、腹ペコだ。
「ヒヨ、とにかくナニか食べにいこうか。カズト、タワーサイド食堂でも仕方ないよね?」
リムリアはそう口にすると、タワーサイド食堂に向う事にする。
タワーサイド食堂は、ヒヨがタイラントに絡まれた場所。
本当なら他の場所に行きたいトコロだ。
でも空腹過ぎて、もう我慢できない。
だから和斗とリムリアは、タワーサイド食堂に飛び込んだのだった。
そして大量の料理をトレイに並べてテーブルを選ぶと。
「「いただきます!」」
和斗とリムリアは、料理を一気に掻き込んだ。
「うん、やっぱり料理は美味いな」
上機嫌の和斗にリムリアも頷く。
「そうだね、味は一流だね」
「はむはむはむはむ」
ヒヨに至っては、一心不乱で料理を頬張っていた。
「ワタシのセンサーも、この料理が美味だと判断しています」
分かりにくいが、キャスも嬉しそうだ。
やっぱり美味い料理を味わうのは、人生でも最大級の喜びだなあ。
と、和斗は思う。
だが、そこに。
「やっと見つけたぜ」
幸せを台無しにする声が。
「まさかオレ達を忘れてないよな」
「今度こそ、ケジメをつけさせてもらうぜ」
「顔をかしてもらおうか」
声の主は、数名の獣人だった。
その中のライオンの獣人には見覚えがある。
獣撃破山流とかいう道場のヤツだ。
「射殺します」
「ちょっと待ってくれ」
カズトは、ジャキッと銃口を獣人達に向けるキャスを慌てて止めると。
「また叩きのめされたいのか?」
ライオンの獣人に視線を向けた。
もちろん、襲いかかってきたら叩きのめす気だ。
しかし、ここは沢山のヒトが食事を楽しんでいる場所。
そんな憩いの場での争いは避けたい。
「仕方ない、場所を変えるか」
そう言って立ち上がる和斗に、ライオンの獣人がニヤリと笑う。
「まあ慌てるな。相手はオレじゃない。獣撃破山流史上、最強とまで言われた達人だ。今度こそキサマを叩きのめしてやるぜ! 姉さん、頼みます!」
ライオンの獣人がそう口にして後ろに目をやる。
それと同時に。
「まったく仕方ないな。まあ、獣撃破山流には世話になったからな、悪いけど叩きのめさせて貰うぜ。あ、そうそう、命までは取らないから安心しな」
獣人達をかき分けて、虎の獣人が現れた。
身長180センチほどの女性の獣人だ。
年齢は20歳くらいか。
鍛え抜かれた筋肉質の体をしているが、女性らしい美しさを失っていない。
ゴツイというよりカッコイイ体型だ。
って、その姿には見覚えが。
「ジュン?」
和斗の呟きに、虎の獣人=ジュンが目を丸くする。
「ええ!? カズトぉ!?」
そして固まってしまったジュンに、リムリアが尋ねる。
「なんでココにジュンが? サンクチュアリでメイルファイターしてたんじゃないの?」
「いや、どうしても助けて欲しいって頼み込まれてさ。まあ世間のしがらみってヤツだったんだけど」
ジュンはガリガリと頭を掻くと、獣人達を睨み付けた。
「おい、オマエ等バカか! この人を誰だと思ってるんだ!? ゲスラーの正体が地獄の君主だったコトくらい知ってるだろ!? その地獄の君主を倒したのが、このカズトだ!」
『ええ!!』
驚く獣人達に、ジュンが更に語気を荒げる。
「こんなバケモンにケンカ売るなんて正気か!? アンタ等ごときじゃ、アクビをした拍子に手が当たった程度でも体を打ち砕かれるぞ! これは誇張でも何でもない、単なる事実だぞ」
『そ、そんなに……』
真っ青になる獣人達を、ジュンが更に追い詰める。
「そしてカズトはアタシの恩人でもある。アタシの目に届く範囲でカズトに失礼な事してみろ、その瞬間から貴様らはあたしの敵だ!」
その声には、サンクチュアリトップランクの戦士の殺気が籠っていた。
『ひぃぃぃ……』
もう死人の顔色になっている獣人達を、ジュンが一喝する。
「分かったら失せろ! そして2度とカズトに失礼なマネすんなよ! もしそんな事しやがったら、アタシがオマエ等をぶち殺すからな!!」
『はぃぃぃぃ!』
一斉に逃げ出す獣撃破山流の獣人達にフン! と鼻を鳴らすと。
「カズト、アタシの馬鹿な知り合いが迷惑をかけたみたいだな。キッチリとシメとくから勘弁してやってくれ」
ジュンは和斗に頭を下げたのだった。
そんなジュンに、和斗は軽い声で答える。
「いやジュンの所為じゃないだろ? 気にするなよ」
「そう言ってもらえると助かる」
ジュンはニコリと笑うが、直ぐに真顔になった。
「ところでカズト。またクーロンが悪巧みをしてるらしいぞ。ヤツ等、カズトを恨んでる筈だから、気を付けた方がいい」
「そうか、情報ありがとな。まあ立ち話もナンだ、座ったらどうだ?」
和斗は椅子を進めるが、ジュンは首を横に振る。
「それは有難いんだが、、今から獣撃破山流の道場のヤツ等全員をシメに行く。このままじゃ、どんなバカな事を仕出かすか分からないからな。じゃあカズト、会えて嬉しかったぜ」
「ああ、俺もジュンの顔が見れて嬉しかったぜ」
和斗の返事にジュンは少し顔を赤らめた後。
「じゃあな、アタシの力が必要な時は、何時でも呼んでくれ!」
そう言い残してタワーサイド食堂を出ていった。
実に慌ただしい別れだが、コレはコレでジュンらしい。
そして風の噂によると。
獣撃破山流の道場では、全員が虎の獣人に正座させられていたという。
2021 オオネ サクヤⒸ




