第九十一話 他の武器も使ってみたいな
今までの人生で1番、贅沢な夜を過ごした翌朝。
和斗とリムリアは、第二の塔の前に立っていた。
「第二の試練の塔、ブルータワーか」
青く輝くブルータワーを見上げる和斗に、リムリアが元気に声を上げる。
「カズト、早く早く!」
「おう。今日も楽しもうぜ」
気分は射撃ゲーム、第二ステージ。
ホワイトタワーより少しだけ難度の上がった、ゲームの攻略だ。
ブルータワーの最上階をクリアする為に必要な戦闘力は1000人相当。
だから今日の武器も1000倍に強化した、M16とⅯ500だ。
「よーし、行くぞぉ!」
リムリアは腰に装着したⅯ500のホルスターをパンと叩く。
M500をぶっ放したくて、うずうずしているみたいだ。
まあ、その気持ちも分かる。
射撃ゲームにハマった、あの日。
和斗も1日中プレイしたものだった。
と、そこで和斗は重要な事を思い出す。
「そういやヒヨはクリーチャーに襲われないって話だったけど、昨日のタワーチャレンジじゃ、それが本当か確かめる事が出来なかったな」
が、その和斗の言葉にキャスが即答する。
「その件については検証済です。ヒヨはクリーチャーに襲われるコトはないと思われます」
「「え!? ホント!?」」
声を揃えた和斗とリムリアに、キャスは淡々と続ける。
「昨日のタワーチャレンジで襲いかかってきたクリーチャーが標的としていたのはカズト様とリムリア、そしてワタシです。ヒヨを襲おうとしたクリーチャーは1体もいませんでした。昨日のデータによると99・999%の確率で、クリーチャーはヒヨを攻撃対象と認定していません」
「そうか。ならナンの心配もなくタワーチャレンジを楽しめるな」
ホッとする和斗の横で、リムリアが目を輝かせた。
「そうだね。これで射撃に集中できるね」
そう口にすると、リムリアはブルータワーに向かって歩き出す。
「じゃあ、ブルータワーにチャレンジだい!」
弾んだ声を上げるリムリアを追いながら、和斗はキャスに声をかける。
「キャスは今日もヒヨを肩車して、後ろから付いて来てくれないか? そして万が一の時は、頼む」
「了解です。99・999%襲われないという事は、0・001%の確率で襲われる危険があるという事ですから。どんなに小さくても危険を放置しない。1流の軍人なら当然の事です」
いや、そこまで深く考えたワケじゃないんだけど。
和斗はそう思ったが、敢えてそれは口にしない。
「じゃあキャス、背後の護りは任せたぞ」
「はい」
という事で。
ブルータワーチャレンジは幕を開けたのだった。
ゴーレム、ガーゴイル、スケルトンにアシュラスケルトン。
それがホワイトタワーに出現するクリーチャーだった。
そしてそれは、ブルータワーの1階でも同じだった。
もちろん戦闘力はアップしている。
100人相当の戦闘力を持つストーンゴーレム3体。
300体のスケルトン。
10人相当のスケルトン30体の場合もある。
あるいは100人相当のアシュラスケルトン3体。
しかも魔法で攻撃してくるクリーチャーも多かった。
半分くらいは魔法攻撃してきたような気がする。
つまり魔法攻撃に対処する能力も必要なのがブルータワーなのだろう。
ついでに迷路をショートカットした時のガーゴイルもパワーアップしていた。
ちなみにホワイトタワーの10階のラスボスの強さは100人相当。
そしてブルータワー1階攻略に求められるも強さも100人相当。
同じ難易度と考える者もいるだろうが、そうではない。
ホワイトタワーで100人相当の戦闘力を持つのはラスボスのみ。
言い換えればマグレでラスボスを倒した可能性だってあるワケだ。
対してブルータワー1階では、常に100人相当の戦闘力が必要となる。
コンスタントに100人相当の戦闘力を発揮できない者は、クリアできない。
だからリトルブルーは、ビッグホワイトより安定した強さを誇る。
そんなブルータワーのクリーチャーを、M16とⅯ500で撃ち倒しながら。
「う~~ん、快感!」
リムリアは、弾んだ声を上げていた。
「やっぱ敵を1発で撃ち砕くのって爽快だね!」
その気持ちは良く分かる。
「M16の連射で仕留めるのも堪らないや!」
それも良く分かる。
「数が多過ぎて弾倉交換が忙しいのも、ちょっとスリルがあって楽しい!」
だろ?
「ちょっと手強い敵との遭遇もイイね!」
それも、実によく分かる。
そして、遂に1階のラスボスの元に辿り着くと。
これだけは、初めて目にするクリーチャーだった。
見た目は、金属性の虎。
ただし頭は2つで前脚は4本もある。
ジェミニタイガーと呼ばれる魔獣と同じ姿だ。
そのクリーチャーを目にして、キャスが説明を始める。
「動物の動きを再現したゴーレム、ビーストゴーレムです。素早い動きを再現する為、実物の魔獣と同じ動きが出来るよう、関節などを作り込んだ金属人形を魔力で制御しています」
ラスボスなのだから100人相当の戦闘力を持っているのは当然。
しかしクリーチャーにも、様々なタイプがある。
パワー特化型。
スピード特化型。
防御力特化型。
魔法攻撃特化型。
魔法防御特化型。
スタミナ特化型。
そしてビーストゴーレムは、その全てを兼ね備えた強敵だった。
……あくまで100人相当の戦闘力程度の挑戦者にとっては。
だから。
ドコォン! ドコォン! ドコォン!
多くのチャレンジャーを退けてきたクリーチャーだと思われるが。
3体のビーストゴーレムは、リムリアのM500によって瞬殺されたのだった。
「ちょっと変わった動きをしたから、コレはコレで楽しめたかな」
リムリアは爽やかな笑みを浮かべてから、和斗に駆け寄る。
「ねえカズト、今度は他の武器も使ってみたいな」
その気持ちもよく分かる。
様々な武器を使ってみるのも、射撃ゲームの大きな楽しみなのだから。
という事で。
和斗はラスボスの間にマローダー改を呼び寄せて、リムリアに聞いてみる。
「今度は何を使う?」
「ええとね、ナニにしようかな。そういやカズト、M16の銃身の下にショットガンを装着してたでしょ? アレ使ってみたい」
「M26か?それもイイけど、購入できる個人装備武器が少し増えてたような気がするから、ちょっと見てみようぜ」
和斗はマローダー改に乗り込むと、サポートシステムに尋ねてみる。
「なあサポートシステム、今、どんな個人装備武器が購入できるんだ?」
その問いに、個人装備武器の一覧がカーナビに表示される。
個人装備武器 必要 オプションポイント
ベレッタ 10
Ⅿ500 15
ツェリスカ 200
Ⅿ16 20
MK2 20
M26 8
100発マガジン 3
バレット 60
連射型ショットガン 30
連写型グレネードランチャー 50
カールグスタフ 1000
ナイフ 1~~10
クレイモア(使い捨て) 2
カールグスタフ弾各種 80
日本刀 180
「やっぱり、前より少し武器が増えてるな。って、なんで日本刀が? って、まあイイか。さてと、どうするかな?」
必要なくなれば、何時でもポイントに還元できる。
だから和斗は全ての武器を購入してみた。
そしてズラリと並べた武器を前に、和斗はリムリアに聞いてみる。
「リム、どれを使ってみる?」
「う~~、そうだね……とりあえず順番に使ってみようかな」
「そうだな。実際に使ってみないと分からないよな」
という事で。
まずはベレッタを使用する事にした。
ベレッタ、正確に言うとベレッタF92。
アメリカ軍が正式採用していた拳銃だ。(2017年頃よりM17(シグP320)に更新されています)
9×19ミリ弾を使用する。
もちろん1000倍に強化している。
その1000倍強化ベレッタで挑むのは、ブルータワーの2階。
つまり200相当の戦闘力を持つクリーチャーが出現するフロアだ。
しかし。
パンパンパンパンパンパンパン!
「ねえカズト。なかなか倒せないね」
リムリアが口にしたように、10発くらい撃ち込まないと倒せなかった。
200人相当のクリーチャーに対して、1000倍強化ベレッタ。
1発で倒せそうな気がするが、弾が小さい為だろうか。
弾が貫通してしまうので、何発も撃ち込まないと破壊できない。
「なんか爽快感が足りない……」
「ならコレを使ってみるか?」
と、リムリアが不満そうなので、和斗はツェリスカを手渡した。
ツェリスカは全長55センチ、重量6キロ、使用弾薬は600NE。
全長38センチ、重量2キロのM500より遥かにデカい。
そして使用弾薬も、M500の2倍近い威力を持つ。
おまけに1000倍化している。
だからリムリアはツェリスカで。
ドッゴォン! ドッゴォン! ドッゴォン!
襲いかかってきた虎のビーストゴーレムを、簡単に打ち砕いたのだった。
しかし。
「重さは気にならないケド、ちょっと持ちにくい」
リムリアは不満顔だった。
やはり55センチもあるツェリスカは、小柄なリムリアには大き過ぎらしい。
「ハンドガンならM500が1番かな?」
ツェリスカをM500に持ち替えるリムリアに、和斗は尋ねる。
「メインウェポンは何にする?」
M500は、確かに強力な拳銃だ。
しかし一般に、拳銃は護身用がメイン。
戦闘ではライフルを使うコトが多い。
今まで使っていたM16も、そんなアサルトライフルだ。
「え~~と、それじゃあね……」
と、そこでリムリアは、Mk2に目を止める。
MK2アサルトライフル
全長 616ミリ
重量 2608グラム
装弾数 30
発射速度 700発/分
有効射程 200メートル
弾薬 5・56×45NATO弾
つまりM16と同じ弾を使うのに、M16より40センチも小型のアサルトライフルだ。
そんなMK2を手にして。
「あ! コレ持ちやすくてイイ!」
リムリアは目を輝かせた。
やはり小柄なリムリアにとって、銃も小さい方が使いやすいらしい。
ⅯK2を嬉しそうに構えるリムリアに。
「ついでにコレも使ってみたらどうだ?」
和斗は100連マガジンを差し出した。
文字通り、100発の弾丸を装填できる弾倉だ。
「100も撃てるの!? やった!」
リムリアは100連マガジンをⅯK2に装填すると。
タタ! タタタ! タタ! タタタタ!
嬉々としてクリーチャーを撃ち倒していった。
「カズト、これ最高だよ!」
「そうか、良かったな。でも、まだ1度も使った事が無い武器があるぞ」
「そうだね。使ってみないと分からないよね。じゃあ次は……」
こうして一通り、武器を使ってみる事にする。
もちろんクリーチャーも様々なタイプが出現するようになってきた。
剣技や打撃を使いこなすモノ。
気配を消して不意打ちしてくるモノ。
遠距離攻撃を仕掛けて来るモノ。
それらクリーチャーを相手に、リムリアは武器の使い心地を試す。
「う~~ん、連射型ショットガンも捨てがたいね。1度に何発も弾丸を発射するから、狙いが甘くてもクリーチャーを撃ち砕けるもん」
「連射型グレネードランチャーの破壊力も捨てがたいね。1発で複数のクリーチャーを破壊できるもん。でも、クリーチャーとの距離が近いと、爆風と破片を浴びるのはマイナスだね」
「バレットの威力は凄いね。超遠距離からの狙撃も可能だし、バレットも捨てがたいな。1・5メートルもあるから、ちょっと使いにくいケド」
「カールグスタフも威力は凄いけど、連射できないし、コレは没かな」
こうして武器を取り換えながらブルータワー5階をクリアした時。
リムリアの使用武器は、ⅯK2とⅯ500に落ち着いたのだった。
2021 オオネ サクヤⒸ




