第八十六話 あら~~、リムちゃんじゃない~~
「し、しかもギルドレベル13なんて……初めて見た……」
ダラダラと冷や汗を流すスリーブルー男に、和斗は声を上げる。
「分かったら、さっさとしろ!」
怒鳴るつもりなどなかったのだが……やっぱりイラッとしていたからだろう。
かなり大きな声を上げてしまった。
そんな和斗の一喝に、スリーブルー男は飛び上がると。
「はいィ――――!!」
何度も転びながら、奥へと駆けこんだ。
そして。
「なにぃ――! SSS超級の冒険者に、そんなコトを仕出かしたのか!? この大バカ野郎が! 鉄拳制裁だ!!!」
「そ、そんなァ――!」
などという大声が聞こえた後。
「大変、失礼いたしました! この者はキッチリとシメておきましたので、どうか怒りを治めてください!」
ボコボコにされたスリーブルー男を引きずった大男が、土下座したのだった。
「この者は、たまたま事件が発生した為、臨時で受付をやらせた者なのですが、まさかここまで礼儀を知らない者とは思ってもいませんでした! 不愉快な思いをされたでしょうが、この件で、ジャーマニア冒険者ギルドを判断しないで頂けないでしょうか?」
「それはギルドマスターに会わせてくれる、って事か?」
「勿論でございます!」
その言葉通り。
「こちらがギルドマスターの執務室でございます!」
和斗、リムリア、そしてキャスは、ギルドマスターの部屋に案内された。
が、案内した大男が、ドアをノックする前に。
ガチャ。
「ユイコいる?」
リムリアは、勝手にギルドマスターの部屋に入っていった。
その、いきなりな行動に。
「お、お待ちください!」
大男は顔色を変えて止めようとするが。
「あら~~、リムちゃんじゃない~~」
呑気な声が、ギルドマスターの部屋から聞こえてきた。
声の主は、絶世の美女の見本のような女性だった。
リムリアと違って、成熟した女性の魅力にあふれている。
妖艶といってもいいだろう。
非の打ち所のないスタイルに、怖いくらい整った顔の女性だ。
が、全身に纏うユルイ空気が、親しみやすいモノに変えている。
「久しぶりね~~、どうしたの~~?」
喋り方もユルイ。
が、それすらも魅力的だ。
そんな超絶美女に、リムリアは何の遠慮なく続ける。
「長老に会いに来たんだよ。カズトのコトを認めさせる為にね」
「あらあら~~。そっかぁ、リムちゃんも、そういう年頃なのね~~。で、そっちの男の子がリムちゃんのお相手なの~~? ユイコにも紹介して~~」
どうやら、この美女の名はユイコというらしい。
「え、え~~と、カズトっていうんだ。いつでもボクを助けてくれる、1番大切な人だよ」
真っ赤になりながらも平静を装うリムリアを、ユイコがツンツンとつつく。
「よかったじゃない~~、ついにパートナーを見つけたのね~~」
「うん。だからユイコ、長老に会わせて」
「それがね~~、今ドコにいるのか分からないの~~」
「え? 行方不明ってコト?」
首を傾げるリムリアに、ユイコはフルフルと首を横に振る。
「そうじゃなくて~~、チャレンジタワーから戻ってこないの~~。ブラックタワーのてっぺんからね~~」
「なら簡単じゃん。ブラックタワーの頂上まで登ったらイイだけだモン」
リムリアの答えに、ユイコは微笑む。
「そうね~~、ブラックタワーをクリアした人なんて1人もいないけど~~、リムちゃんとカズトくんなら大丈夫だよね~~。でも第一の塔から順番にクリアしないといけない規則だから~~、それは守ってね~~」
実力もないモノが、無謀な挑戦をしないようにする為の規則らしい。
なるほど、それは必要な規則だろう。
だからリムリアは。
「よーし、ならカズト! 全部の塔をクリアしよ!」
和斗に輝くような笑顔を向けたのだった。
「これが第一の塔かぁ」
第一の塔=ホワイトタワーを前にして、リムリアが呟く。
塔の直径は200メートルほど。
高さは1キロメートル以上あるだろう。
しかも中は異空間となっており、見た目より遥かに広いらしい。
「でも、塔をクリアするのに必要な戦闘力はたった100人相当なんだから、大した難度じゃないって事だよね。さっさとクリアしよ!」
マローダー改のステータスを得ているリムリアと和斗だ。
100人相当のダンジョンクリアなど、散歩と変わらない。
もちろんキャスにとっても。
だから3人は、気楽な顔で第一の塔に足を踏み入れた。
塔の入り口の先は、高さ5メートル、横4メートルの回廊。
その回廊の真ん中に、3体のゴーレムが立ち塞がっていた。
おいおいゴーレムを、たった10人で倒せるワケないだろ!
と和斗は驚くが、よく見たら木で出来ている。
初めて見たが、これがウッドゴーレムというヤツだろう。
これなら10人で、倒せるかもしれない。
「これがフロアに配置されてるモンスターなのかな?」
疑問を口にするリムリアの横で。
「3体とも、戦闘力10人相当の木製ゴーレムです」
キャスがゴーレムを分析する。
「あれ? 1階をクリアするのに必要なのは10人相当の戦闘力だよね? なのに何で10人相当のゴーレムが3体もいるんだ?」
「3人でチャレンジしているからだよ」
「なるほど。そういう計算かぁ」
リムリアの答えに和斗が納得している横で。
「敵意を察知しました。排除します」
キャスが、手に出現させた銃口をゴーレムに向け。
ドン!
バカン!
1発で破壊した。
「では先に進みます」
そして回廊を先に進むと、そこは広大な空間となっていた。
東京ドームの10倍くらいだろうか。
ただ、ひたすら荒野が広がっている。
とても塔のサイズに収まり切るサイズではない。
「ホントに中は、異空間なんだね」
そうリムリアが呟くと同時に。
ガシャガシャガシャガシャ!
地面からスケルトンが這い出してきた。
その数、30体。
手にしているのは、剣や槍に斧。
しかし、動きは普通の人間と変わらないように見える。
つまり30人に相当する戦闘力という事なのだろう。
そのスケルトン30体が、一斉に襲いかかって来た。
しかし。
ガガガがガガガガ!
キャスが発射した弾丸が、全てのスケルトンを撃ち砕いた。
「この程度の敵、マスターが相手にする必要などありません」
そしてキャスは先に進もうとするが。
「ねえカズト。このままキャス1人に任せてもクリアできるんだろうけど、それじゃつまらないね」
そうリムリアに言われて、和斗も頷く。
「俺達にとってこの塔は、安全にスリルを感じる事が出来るゲームみたいなモンだもんな。なら楽しまないと損だよな」
という事で。
和斗はマローダー改をポジショニングで呼び出すと。
「リム。久しぶりに銃を撃ってみないか」
子供みたいな笑みを浮かべた。
「そうだね。今のボクならM500だって撃てるよね。前から思ってたんだ、強力な銃をぶっ放してみたいな、って。へへへ、ちょっと楽しくなってきた」
M500とは、ベレッタの8倍近い威力を持つ拳銃だ。
和斗と出会った当初。
リムリアはM500を撃ってヒドイ目にあった事がある。
しかしそれでもリムリアは、M500の威力に心惹かれていたらしい。
そして今のリムリアのパワーなら、M500の反動など楽勝だ。
それに、よく考えたら素手で倒すのも面倒だ。
という事で。
和斗とリムリアは武器を装備する事にした。
腰のホルスターにⅯ500と大型ナイフ。
背中には、米軍正式採用アサルトライフルであるM16だ。
もちろん、1000倍に強化したモノだ。
「以前は、頼りになる相棒だったよなぁ。よーし、久しぶりにM500とⅯ16を使ってみるか」
和斗が弾んだ声を上げれば、リムリアも上機嫌でM500を手に取る。
「よーし、撃ちまくるぞぉ!」
こうしてリムリアは、出現するモンスターを楽しそうに撃ち倒していった。
なにしろモンスターの戦闘力は、最強でも10人に相当する程度。
撃ち倒すのは簡単だ。
こうして和斗とリムリアは、射撃ゲームを楽しむ感覚で進んでいくと。
大空間の先は、また通路になっていた。
通路を塞ぐのは、単体で強いモンスターだ。
広い場所は物量戦、狭い場所には強い個体という事なのだろう。
こうして進んでいくと。
「あれ? 何だろ?」
通路は鉄の扉で、行き止まりになっていた。
「ねえカズト。これって、どう考えてもボスモンスターの部屋だよね?」
リムリアの言う通り。
この扉を開けるとボスモンスターとの戦闘が始まるのだろう。
普通なら、ここは体力を回復させる場面だ。
しかし和斗達に、そんなもの必要ない。
だから。
「いこうか」
和斗は、そのまま鉄の扉を押し開けた。
扉の先は、直径20メートルほどの、ドーム状の部屋だった。
そして、その部屋の中心には、当然ながらモンスターが3体。
スケルトンだ。
しかし普通のスケルトンではない。
頭が3つ、腕が6本ある。
その3体のスケルトンを目にして、リムリアが説明を口にする。
「アシュラスケルトンだよ」
なるほど、特徴通りのネーミングだ。
そして目立つのは、6本の腕に、別の武器を装備している事。
ナイフ、剣、槍、大斧、そして弓矢だ。
それらの武器を目にして、和斗は感心する。
「へえ、近距離はナイフ、中間距離は剣による鋭い攻撃。そしてリーチの長い槍の攻撃に混じって大斧の破壊力を叩き付けてくる、か。しかも弓矢による遠距離攻撃で、死角もなし。本当に10人相当の戦闘力がないと、生きて帰れないモンスターだな」
が、リムリアは、和斗の言葉を耳にするなり。
「でも、たかが10人相当だよね」
ドコォン! ドコォン! ドコォン!
M500で、アシュラスケルトン3体を粉々に撃ち砕いたのだった。
「ミもフタもないな」
苦笑する和斗に、リムリアが笑顔を向ける。
「だって時間の無駄だもん」
今のリムリアは、マッハで動ける。
時間の無駄だと口にするのも当然かもしれない。
そして3体のアシュラスケルトンが砕け散ると同時に。
『第1階クリアと認めます。ボーナスルームに進んでください』
不思議な声が響き、入り口と反対側の扉が開いた。
「ボーナスルーム? ナンだか楽しそうな響きだね。じゃあカズト、行こ!」
嬉しそうに扉に駆け込むリムリアに続いてみると。
「殺風景な部屋だね」
リムリアが口にした様に、そこは白一色の部屋だった。
縦横10メートルくらい。
天井は高く、部屋の中央にはクリスタルが浮いている。
『では、クリアアイテムを選んでください』
どうやらクリスタルが喋っているみたいだ。
その声の直後、部屋を左右の壁が開く。
『左の部屋は、このフロアをクリアする度、何度でも入れますが、1度に持ち出せるのは、1人あたり1つだけです。右の部屋は、特殊なアイテムばかりですが、1度アイテムを持ちだすと2度と入れません。よく考えて選んでください』
とりあえず左の部屋を覗いてみると、そこは広い部屋だった。
ホームセンターに匹敵する広さだ。
その広い部屋に、様々な武器、防具、アイテムがならんでいる。
『ストーンゴーレムすら切り裂く武器、ストーンゴーレムの攻撃を受けても壊れない防具、回復に必要なポーション類など、どれをとってもこれからのタワーチャレンジに必要な物ばかりです。何度か第1階をクリアして、必要な武具を揃えてから2階にチャレンジする事を勧めます』
なるほど。
何度でもチャレンジして、実力を高める事を狙っているのだろう。
この塔は強さを測定すると同時に、訓練施設としての面も持っているらしい。
などと思いながら、中を見て回った後。
右の部屋に入ってみた。
こちらもホームセンター並みに広い。
『こちらの部屋の武器も防具もアイテムも、左の部屋のアイテムより遥かに上の性能を持っています。しかし先ほど説明したように、持ち出せるのは1つだけ。しかも今後、何度クリアしてもこの部屋が開く事はありませんので、持ち出す物は慎重に選んでください』
とはいえ、今の和斗にとって必要な武器などあるワケがない。
いくら素晴らしいと言っても、10人に相当する者にとっての物だから。
と、そこで。
「おいおい、何で幼児がこんなトコにいるんだ?」
和斗は膝を抱えて座り込む、女の子を発見したのだった。
2021 オオネ サクヤⒸ




