第八十四話 ボク達が、ウソついてるっていうの(怒)
「ちょっと待ってくれ」
ザクセンが、和斗に視線を向ける。
「空の彼方からやって来た宇宙戦艦? この世界の手に余る強力な兵器? たしかにキミ達はSSS超級の冒険者だが、にわかには信じられない」
「ボク達が、ウソついてるっていうの(怒)」
リムリアにジロリと睨まれて、ザクセンが慌てて付け加える。
「いや、嘘の報告をしたと疑っているワケではない。だが、その、証拠となるモノを何か見せてもらえないだろうか?」
和斗とリムリアがクーロンを打ち負かした事は、多くの者が知るトコロだ。
アーマードラゴンを倒した事も、べリアルを倒した事も。
そんな超絶戦闘力の持ち主が不機嫌になったのだ。
ザクセンは真っ青な顔で付け加える。
「副ギルドマスターという立場上、何らかの確認をしなければならないのだ。これは、全ての冒険者にしている事。SSS超級の冒険者といえども、例外を認める訳にはいかないのだ」
そんなザクセンの隣で、ニーダが頭を深々と下げる。
「不愉快な思いをされたのなら、お詫び致します。しかしギルドの健全な運営の為には、規約に例外を認める訳にはいかないのです。D級の冒険者だろうとSSS超級の冒険者だろうと、報告は口頭だけではなく、何らかの客観的事実を提示して貰う事になっているのですから」
たしかにSSS超級なら口頭でイイが、D級は証拠を見せろ。
そんな事になったら『公平ではない』という声が上がるだろう。
少なくとも和斗がD級冒険者なら、間違いなく不公平だと口にする。
だから和斗は。
「分かりました」
そう答えると、笑みを浮かべてみせた。
「そ、そうですか、ありがとうございます」
ホッとした顔になるザクセンに、和斗は続ける。
「証拠品を持ち帰っているのですが、どこで確認しますか?」
「証拠品? ここで見せる事に、何か問題が?」
「証拠品の大きさは4メートルくらいあるから、この部屋じゃあ狭すぎます」
「う~~ん、それではギルドの訓練場ではどうでしょうか?」
という事で。
ザクセンはギルドの地下に造られた、訓練場に和斗達を案内したのだった。
「ここなら十分な広さがありますし、我々以外は立ち入り禁止にしていますので秘密が外に漏れる心配もありません」
そう言うザクセンに頷くと、和斗はキャスに視線を向ける。
「キャス、星間戦争対応型惑星制圧兵器の姿になってくれないか?」
「了解です」
キャスが、そう答えると同時に。
ガシャン!
キャスの姿が一瞬で戦闘兵器の姿に変わった。
「こ、これは!?」
「女の子が!?」
「これが未知の兵器ですか!?」
驚くウィルヘルム、ザクセン、ニーダにリムリアがニヤリと笑う。
「どう? これが世界すら滅ぼせる戦闘力を持った兵器だよ」
「その力を見せてもらう事は出来るだろうか?」
震える声で尋ねたザクセンに、リムリアが答える。
「破壊しても構わないモノを用意してよ。そしたら、それを標的にしてキャスの威力を見せてあげるから。って、キャス、勝手に話を進めちゃったけど、それでいいかな?」
「問題ありません」
「よし!」
即答したキャスに頷いてから、リムリアはザクセンに視線を向けると。
「という事で、出来るだけ頑丈な的を用意して!」
満面の笑みを浮かべたのだった。
「これから開墾して畑を作る予定地です。ここなら、どれほど破壊されても問題ありません」
ザクセンが案内したのは、広大な森林だった。
様々な大きさの樹が生えており、太いものは直径2メートルもある。
高さも100メートルを超えているだろう。
開墾するのが惜しい程の、大自然だ。
説明によると、縦横20キロメートルもの広さがあるらしい。
そしてその森の彼方には、高さ2000メートル級の岩山がそびえ立っていた。
「何なら、あの岩山も破壊して貰って構いません」
ザクセンの説明が終わったとこで、和斗はキャスに声をかける。
「じゃあキャス。威力が低いモノから披露してくれるかな?」
「了解です。では対人弾から発射します」
そう言うなり、キャスは3連機銃を発射する。
パパパパパパパパパパパパパパ!
対人弾。
キャスは、そう口にした。
が、その威力は凄まじく、直径20センチ程度の樹なら1発でへし折る。
直径1メートルの樹でさえ、数発でなぎ倒す。
Ⅿ2重機関銃並みの威力だ。
対人弾とは、人間を1発で即死させる威力の弾という事なのだろう。
「何という威力でしょう……」
「1000人くらいなら、秒殺できる威力だ……」
「恐ろしいまでの破壊力ですね」
顔色を変えているギルドメンバーに、キャスが淡々と告げる。
「次は対戦闘車両弾です」
「え?」
「まだ上が?」
「これ以上の攻撃があるのですか!?」
驚くギルドメンバーを気にする事なく。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!
キャスは対戦闘車両弾を発射した。
その1発1発が、戦車砲と同等の威力を持っているのだろう。
直径1メートルほどの樹なら、1発で打ち砕いている。
太さ2メートルの樹でさえ、1発だ。
そんな高威力の掃射は、数秒で1キロ平方メートルを更地に変えた。
「まさか、こんなに凄まじいとは……」
「A級冒険者1000人でも秒殺できる威力だぞ……」
「いえ、それ以上でしょう」
真っ青になるギルドメンバーに、キャスが続ける。
「次は対艦弾です」
「「「これ以上が!?」
ギルドメンバーが声を揃えたところで。
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
キャスが対艦弾を発射した。
「「「おお……」」」
もう言葉も出でないギルドメンバーの目の前では、森林が消滅していた。
キャスの、たった一薙ぎでだ。
対戦艦弾の名の通り、戦艦を沈める威力なのだろう。
そんな強力な砲弾をマシンガンのように連射したのだ。
大森林があっという間に荒れ地に変わったのも当然だ。
「ねえカズト。ギロチンダンジョンじゃあ装鎧で簡単に防御したから分からなかったけど、キャスの攻撃力って中々のモンだね」
「中々どころか、この世界じゃ無敵なんじゃないかな? なにしろサポートシステムによると、キャスの弾丸は神霊力を纏ってるらしいから」
「ええ!? じゃあキャスの攻撃は、四神や悪魔にも通用するってコト!?」
「サポートシステムによると、そういうコトらしい」
「心強い味方が出来たモンだね」
ふぇ~、と声を上げるリムリアに、和斗は頷く。
「ああ。俺が繰り出せる神霊力を纏った攻撃は、マローダー改の直接攻撃と、F15の体当たりだけだからな。この先、きっとキャスに助けられる場面が出て来るだろうな」
などと和斗とリムリアがヒソヒソと話している横では。
「「「これ程とは……」」」
ギルドメンバーが、死人の顔色になっていた。
が、まだ驚きは続く。
「プラズマキャノン、発射します」
キャスが、2連装砲をぶっ放したのだ。
その熱線は岩山を紙のようにアッサリと撃ち抜いた。
「「「!!」」」
その威力にギルドメンバーが言葉を失うが、まだ終わらない。
ボファ!
プラズマキャノンは、岩山を蒸発させたのだった。
跡形もないくらいに。
「最大出力なら、この星を6秒で撃ち抜きます」
キャスの追加の説明に。
「「「は、は、は……」」」
ギルドメンバー3人は、渇いた笑いと共に、地面にへたり込んだのだった。
「いや、よく分かりました。たしかにコレは、この世界の手に余る兵器です。ギロチンダンジョンの調査依頼を達成したと認めます」
やっと我を取り戻したウィルヘルムが、そう口にした。
「では依頼料は冒険者認識票に振り込んでおきます。ところで確認なのですが、ギロチンダンジョンは閉鎖された、という事で良いのでしょうか?」
その質問には、キャスが答える。
「現在、ナナホシは第一級警戒態勢にあります。なので、ワタシと同等の戦闘力以下では侵入する事は不可能です。仮に侵入できたとしても、惑星制圧級の防御システムによって迎撃されます」
「防御システムによって迎撃?」
思わず聞き返したウィルヘルムに、キャスが続ける。
「惑星制圧兵器10機による、対戦艦弾の一斉射撃です」
「10機!? そんなに!?」
目を丸くするウィルヘルムに、キャスが平然と付け加える。
「10機で排除出来ない場合、最大100機まで出撃してきます。それでも排除に失敗した場合、星間戦争対応型惑星制圧兵器20機が出撃します。つまり40のプラズマキャノンの一斉攻撃によって撃退します。それに耐える事が出来るなら、戦艦ナナホシを手中に収める事が可能です」
惑星を撃ち抜く攻撃が40発。
それに耐えられるモノなど存在する訳がない。
マローダー改、そして和斗とリムリア以外には。
「事実上、今後はギロチンダンジョンに立ち入るのは不可能という事ですか」
ウィルヘルムは、ホウ、と息を吐いてから考え込む。
「使いようによっては、世界を滅ぼせる兵器です。誰の手にも入らないのなら、その方が良いのかもしれませんね」
ウィルヘルムの呟きに、ザクセンが慌てて口を挟む。
「いや、ここに1機、存在しているぞ。この兵器を巡って、とんでもない争いが起きるのではないか?」
「そうですね。例えばクーロン帝国のヤツ等なら、この兵器を手に入れる為に、どんな汚い真似でもするでしょうね」
ニーダもザクセンに同調するが、リムリアは自信満々に答える。
「大丈夫だよ。キャスを手に入れる為には、キャスよりズッと強いカズトを倒さないといけないんだから」
「「「ええ!?」」」
ギルドメンバー達は、暫く絶句して固まるが。
「それは本当なのですか!?」
「今見た破壊力は想像を絶するものだった! なのに、それ以上だと!?」
「SSS超級というのは、それ程のものなのですか!?」
直ぐに我を取り戻すと、和斗に詰め寄った。
「ええ、まあ、その……」
彼らの余りの勢いに口ごもる和斗に変わって、キャスが答える。
「その通りです。カズト様の戦闘力を正確に測定する事は不可能なので正確ではありませんが、それでもカズト様の戦闘力は、最低でもワタシの100倍はあると思われます。いえ1万倍以上の可能性の方が高いでしょう」
「「「1万倍……」」」
「そのカズト様を倒してワタシに対する命令権を得る事など、不可能です」
キャスが言い切ったところで、ギルドメンバー達は顔を突き合わせた。
「どうでしょう、皆さん。ギロチンダンジョンは消滅した、というコトにしませんか? どうせ誰も入る事が出来なくなったのですから」
ウィルヘルムの提案に、ザクセンが頷く。
「そうだな。確認する必要はあるだろうが、誰も入れなくなったのは間違いなさそうだし」
「それにヘタに発表しても、混乱を招くだけです。どうせこの世界に不要なものなのですから、このまま闇に葬ってしまいましょう」
ニーダも同意した事により。
『ギロチンダンジョンは消滅した』
ザッハブルグ冒険者ギルドとしては、そう発表する事になったのだった。
と、そこでウィルヘルムが、改めて和斗に尋ねる。
「でもカズトさんは、その戦闘兵器をどうするツモリなのです? カズトさんの方が遥かに強いのなら、武器としての価値は低いでしょう」
「そうだな。戦闘兵器など必要無いのなら、我がギルドに譲ってくれないか? ギルドなら有効に活用するぞ」
ザクセンの意見に、ニーダも身を乗り出す。
「そうですね! 我がザッハブルグ冒険者ギルドなら、平和の為に有効に活用してみせます! ぜひ譲ってください!」
世界最強の武器を手に入れる事が出来るかもしれない。
そんな幸運に興奮するのは、よ~~く分かる。
まあ、やっと巡って来た幸運ではなく、破滅の罠かもしれないが。
とにかく彼らの気持ちは良く分かるが、和斗は静かに首を横に振る。
「戦闘兵器じゃない、キャスだ。そしてキャスは、俺の仲間だ。だから譲るとか譲らないという話じゃない。諦めてくれ」
言い切る和斗に、ウィルヘルムが微笑む。
「そうですか。これは、諦めるしかなさそうですね」
「本当に残念だ。戦闘兵器、いやキャスの力があれば、ザッハブルグ冒険者ギルドも安泰だったのだが……」
未練タラタラのザクセンの肩を、ニーダがポンと叩く。
「たしかに頼りになるでしょうが、過ぎた力は身を滅ぼしますよ。ここはカズトさんの仲間となって頂いた方が、安心できるのではないでしょうか」
ザクセンはニーダを暫く見つめていたが。
「そうだな。オレ達じゃ制御できない力だよな。そんな過ぎた力など不要かもしれないな」
ザクセンはそう口にすると、和斗に右手を差し出した。
「今言った事は忘れてくれ。SSS超級の冒険者カズト。キミの活躍に、これからも期待している」
「ありがとうございます」
もちろん和斗は、その手をシッカリと握り返したのだった。
2021 オオネ サクヤⒸ




