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   第八十一話 ギロチンダンジョン





「実はこの依頼はよ、カズトとリムリア嬢ちゃんの噂を聞きつけたザッハブルグ冒険者ギルドから是非に、と頼み込まれた依頼だったんだ。だから受けて貰えて安心したぜ。というワケで、ジャーマニア領のザッハブルグって街の冒険者ギルドを尋ねてくれや」


 というシュッツガルドの言葉に従って。

 和斗とリムリアは、ザッハブルグの街を目指す事になった。


「ねえカズト。出来ればザッハブルグに向かう商人の護衛をやりたかったね。やっぱり人の役に立ちたいもんね」


 はふぅ、と溜め息をつくリムリアに、和斗が苦笑する。


「シュッツガルドに『1週間も待たしておいて言いにくいが、急ぎの依頼だと念を押されててな。悪いが急いでザッハブルグに向かってくれ』って頭を下げられたから仕方ないさ。それにザッハブルグに向かう商人も、いなかったからな」

「そうだね。メイルファイトの大改革でランス領も大忙しだからね。今は他の領地に向かう商人が少なくても仕方ないか」


 リムリアは、もう1回溜め息をついてから、和斗にギュッと抱き付く。


「でも、2人きりの旅も悪くないね。カズトとのコトは認めて貰ったし、偶には呑気な旅もイイかも」


 ランス領観光も、2人で駆けずり回って楽しかった。

 しかし、のんびりと2人で旅するのも悪くない。


 いや、素直に認めよう。

 リムリアとイチャイチャしながらの旅は最高に楽しい。

 こんなにノンビリとした旅は久しぶりだ。

 だから。


「悪くないどころか、最高だ」


 和斗はリムリアの肩を抱き寄せたのだった。



 こうして旅を楽しむコト3日。

 和斗とリムリアは、ジャーマニア領ザッハブルグに到着した。


 ザッハブルグはパラリスと比べると、質実剛健な印象を受ける。

 だが、歴史を感じさせる美しい街だ。

 人口も多いらしく、活気に満ちている。

 メインストリートに並ぶ店も清潔で、重厚なものばかり。

 出来ればユックリと観光し、料理を楽しみたいトコだが。


「シュッツガルドの話によると急ぎの依頼らしいから、まずは冒険者ギルドに向かうとするか」

「そうだね。ここはシュッツガルドの顔を立ててあげようか」


 というコトで。

 和斗とリムリアは、真っ直ぐに冒険者ギルドへと向かう事にした。


 街の入り口から500メートルほどの所にある大きな建物。

 それがザッハブルグ冒険者ギルドだった。

 石造りの建築物で、要塞としての機能も備えているようだ。

 パラリスの冒険者ギルドの建物もそうだった。

 これはギルド共通なのだろうか。

 

 まあ、それはおいといて。

 そんな頑丈そうなザッハブルグ冒険者ギルドの入り口を潜るなり。


「こんにちわ! シュッツガルドの紹介で依頼を受けに来たよ!」


 リムリアは、元気な声を上げた。


「え~~と、誰か話の分かる人、いる?」


 ギルド内を見回しながら、リムリアが受付カウンターに向かうと。


「あ、お待ちしておりました。カズト様とリムリア様ですね」


 カウンターの中から1人の青年が声をかけてきた。

 ギルドの職員だと思うが、気弱そうな青年だ。

 こんな様子で、冒険者に舐められたりしないのだろうか。


 と心配になるが、その目は落ち着いた光を放っている。

 見た目より、シッカリした人物らしい。


「私はザッハブルグ冒険者ギルドのギルド長、ウィルヘルムです」


 シッカリどころか、ギルド長だった。


 そういえば、ギルドには荒んだ雰囲気がない。

 20人以上の冒険者がたむろしているというのに、だ。

 きっとウィルヘルムが、上手く冒険者達をまとめているのだろう。

 しかし。


「SSS超級の冒険者が依頼を受けてくれる、とシュッツガルドさんから連絡を頂いたので、首を長くして待っていました」


 というウィルヘルムの一言で、ギルドは大騒ぎに陥る。


「SSS超級だと!?」

「あんな若造と子供がか!?」

「何のジョークだ?」

「いや、ちょっと待て! ノルマンドで見たぞ!」

「アーマードラゴンを倒したSSS超級の2人に間違いない!」

「アーマードラゴン!?」

「あの伝説の邪竜を!?」

「アタシも見たよ。というか、アレを見て自信を失ったんだよ」

「A級のアンタがか!?」

「ああ。SSS超級なんて人間が辿り着ける領域じゃないって思い知ったよ」

「A級冒険者にそこまで言わせるなんて……」

「それがSSS超級なのか……」


 この言葉を最後に、冒険者達は黙り込んでしまった。

 そして冒険者達の視線が集まる中。


「ではさっそく依頼の説明をしたいと思いますが、宜しいでしょうか」


 ウィルヘルムが、にこやかな顔をリムリアに向けた。


「もちろん!」

「では、これを」


 即答したリムリアに、ウィルヘルムは依頼書を差し出す。


「ザッハブルグから馬で3時間ほどの所に、ダンジョンがあります。そのダンジョンを探索して欲しいのです。依頼主はザッハブルグ冒険者ギルド。依頼料は3000万ユルです」

「3000万ユル? ダンジョンの調査にしては、高額の依頼料だね」


 首を傾げるリムリアに、ウィルヘルムが表情を曇らせる。


「もちろん高額なのは理由があります。そのダンジョンに足を踏み入れて、帰って来た者が1人もいないからです」

「1人も?」

「はい。戻ってきた冒険者がゼロなので、どんな危険が待ち構えているのか、見当もつきません。もちろん、どのくらいの規模のダンジョンかも分かりません。ひょっとしたらダンジョンではないのかもしれませんが」


 そこでウィルヘルムは、大きく息を吸ってから話を続ける。


「ただ、首を突っ込んだら必ず死ぬ事から、そのダンジョンはギロチンダンジョンと呼ばれています」


 なるほど、美味いコト言うな。

 ブラックだけど。


「生きて帰った者が1人もいないダンジョンの調査だから、依頼料が3000万ユルなんだね」


 う~~ん、と唸るリムリアに、ウィルヘルムがパンと手を合わせる。


「お願いします、ギロチンダンジョンを調査してください! 現時点では危険は無いようですが、冒険者が生きて帰れない何かがあるコトは間違いありません。そして、その何かがザッハブルグの脅威とならないという保証は無いのです」


 そしてウィルヘルムは、ザッハブルグの街並みに視線を向けた。


「私には、このザッハブルグの街を護る義務があります。でも、どんな危険があるのか分からなければ、対策の打ちようがありません。お願いです、ザッハブルグの安全の為に、ギロチンダンジョンを調査してください! 地獄の君主すら倒したカズトさんとリムリアさんなら、きっと達成できる筈です!」


 リムリアは、ウィルヘルムの真剣な目を見つめてから和斗に尋ねる。


「どうする、カズト?」

「そうだな、受けてイイんじゃないか? マローダー改の戦闘力と、リムのサーチの魔法があれば大丈夫だろうし」

「そうだね。じゃあ、この依頼、ボク達が引き受けるね」

「ありがとうございます!」


 ホッと胸をなで下ろすウィルヘルムの後ろで、またしても冒険者達が騒ぎ出す。


「おいおい、ギロチンダンジョンの調査だってよ!」

「凶棒なモンスターがいる、って噂だよな」

「凶悪な罠が仕掛けられてる、って噂もあるぞ」

「地獄に続いている、って噂もな」

「S級冒険者ですら戻ってこなかったんだから、噂でしかないけどな」

「しかしSSS超級の冒険者なら、生きて帰るかも……」

「これでダメなら打つ手なしか」


 コソコソと冒険者達が話す中。


「は! アイツ等が帰って来れないワケないだろ!」


 A級冒険者が声を上げた。

 さきほどアーマードラゴンを倒す所を見たと言っていた冒険者だ。

 という事は、ノルマンド支援ボランティアに参加していたのだろう。

 まあ、和斗とリムリアは全く覚えていなかったが。


「アタシは見たんだ。アーマードラゴンを素手で倒すトコをな。ありゃあ人間の技じゃない。人間が到達できる強さじゃない。そんなSSS超級の冒険者が向かうんだ、ギロチンダンジョンの正体が解明されるに決まってるさ!」


 そこまで持ち上げられると、さすがに恥ずかしい。

 だから和斗は。


「と、とにかくリム、さっそくギロチンダンジョンに向かおうぜ」


 リムリアを連れて、そそくさと冒険者ギルドを後にしたのだった。




 馬で3時間ほどの所と、ウィルヘルムは言っていた。

 もちろんマローダー改の最高速度なら一瞬だ。

 しかし、それをやると何人轢き殺すコトになるか見当もつかない。


 だからユックリと、ギロチンダンジョンに向かう。

 まあ、それでも20分で到着したが。


「ふぅん、これがギロチンダンジョンかァ。ねえカズト。どう考えても普通のダンジョンじゃないね」


 リムリアが、そう口にするのも無理ない。

 ギロチンダンジョンの入り口は、金属製だったのだから。


「何だろ? 古代文明の遺跡かな?」


 マローダー改から飛び降りたリムリアと一緒に、和斗も覗きこんで見る。


「床は金属製、壁も金属製、天井も金属製か。しかも天井にはライトが設置されてるから、中は凄く明るい。なあリム。俺には古代の遺跡というより、遥か未来の建築物に見えるぞ」


 和斗の感想にリムリアが頷く。


「うん、ボクが知ってる古代文明の遺跡は全部、石で出来てた。物凄く頑丈な石だけどね。でも、このダンジョンは金属で出来てる。絶対とは言い切れないけど、古代の遺跡じゃないと思う」

「参考までに聞いておくけど、リムはこんな金属製のダンジョン、今までに見た事あるか?」

「ううん、金属製のダンジョンなんて、聞いたコトもないよ」

「ってコトは、世界にたった1つしかないダンジョンかもしれないってコトか」


 和斗の呟きに、リムリアが真剣な目で頷く。


「しかも1度も調べられてない、ね」

「そうだな、誰も生きて帰った者がいないんだもんな。まあ、考えてても仕方ないし、そろそろ中に入ってみるか」

「うん!」

「待った!」


 いきなりダンジョンに駆け込もうとするリムリアを、和斗は慌てて止めた。


「どんな危険が待ち構えているか分からないんだから、俺が先に行く。リムはサーチの魔法で探りながら、俺に指示してくれ」

「ボクも強くなってんだから大丈夫だと思うんだけどなァ」


 口ではそう言ったものの、和斗に心配されたのが嬉しかったらしい。

 リムリアはニコニコしながらサーチの魔法を発動させた。


「どうやら罠はなさそうだよ。この金属、サーチの魔法が効きにくいけど、50メートル内なら完璧に把握できるよ」

「よし、じゃあ探検開始だ」


 自信満々でそう口にしたリムリアに頷いてから、和斗は歩き出した。

 そんな和斗にリムリアが首を傾げる。


「ねえカズト、この通路の広さなら、マローダー改に乗ったままでも入れるんじゃないの?」


 通路の幅は6メートルほどで、高さは5メートルほど。

 確かにマローダー改が入れるサイズだ。


「ああ、マローダー改の本体だけなら入れただろうな。でもマローダー改には武器を搭載してあるだろ? その武器が邪魔になって中に入れない。なら生身でダンジョンを進んで、危険と判断したら装鎧で戦ったほうがいい」

「そっか、そうだよね。じゃあギロチンダンジョン、本格的に調査開始だね」

「ああ」


 というコトで、通路を進んでいくが。


「ま、まさか……何で……」


 和斗は通路の床に描かれた文字を目にしてフリーズしたのだった。


「……カズト?」

「あ、ああ、大丈夫だ」


 リムリアの声に和斗は我に返ると、もう一度、文字に目をやる。


『B3・7通路』


 という、日本語の表示に。


「何で日本語が? 俺は異世界に召喚されたんじゃないのか? ひょっとしてココは異世界じゃなくて、未来の日本なのか? それとも並行世界かナンかか? まさか夢を見てただけなんてオチじゃないよな? いや、落ち着け俺。まだ何も分かってないんだ。まずは、しっかり調査するんだ。そうすれば、きっと答えに辿り着ける筈だ」


 和斗は何度も深呼吸して自分を落ち着かせると、周囲を見回す。

 すると。


『格納庫』

『転送室』

『B2―3階段』


 と書かれた、色違いの矢印に気が付いた。

 どの矢印も、前方に続いている。


「何が何だか分からないけど、この先に何かがある事は間違いなさそうだな」


 和斗はそう呟くと、通路の先に目を向けた。


 ここが何なのか、一刻も早く知りたい。

 日本と、どんな関係があるのだろう?

 しかし焦りは、どんな危険を招くか分からない。


 だから和斗は。


「落ち着け俺。急がば回れっていうだろ。いや、急いては事を仕損じる、か。とにかく慎重に進むんだ。焦って重要な手がかりを見落としたらバカだぞ」


 駆け出したい気持ちを押し殺し、ユックリと通路を進んでいった。

 こうして50メートルほど進んでいくと。


「曲がり角が。直角に曲がってるみたいだな」


 通路は左に曲がっていた。


『格納庫』『転送室』『B2-3階段』と書かれた矢印と同じ方向だ。

 その曲がり角に身を隠しながら和斗はリムリアに囁く。


「リム、曲がり角の先をサーチしてくれ」

「オッケー。……今度も通路が真っ直ぐに伸びてるダケだよ。罠は無し。敵もいないよ」


 報告を聞くなり、和斗は躊躇する事なく曲がり角を先に進む。

 リムリアを信頼しているからだ。

 それはリムリアも分かっている。


 だから全力で魔力を研ぎ澄まして、常にサーチの魔法を展開させる。

 もしも危険があった場合、直ぐに和斗に警告できるように。

 と、そのサーチに異常を感知し、リムリアが叫ぶ。


「カズト! 前から何かが、凄い速さで向かってきてるよ!」





2021 オオネ サクヤⒸ

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