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第八話  ボクも銃を撃てるようになりたい


          

 


「ボクも銃を撃てるようになりたい」


 リムリアがそう言いだしたのは、マローダー改がレベル7になった翌日だった。


「これから先ナニが起きるか分からないんだから、ボクだって戦えるように、銃を使えるようになっておきたい!」

「分かったって。じゃあまずはコレを使って練習したらイイ」


 和斗はリムリアと一緒に狙撃スペースに入り込むと、レーザーポインター付きベレッタを渡して、両手でシッカリと構えさせる。


「銃口を向けた方向に、赤い点が浮かび上がるだろ? その赤い点を標的に合わせてから、引き金を引くんだ」

「こう?」


 10メートルほど離れた枝にぶら下がった実に、レーザーポインターの赤い点が浮かび上がったところで、リムリアはベレッタの引き金を引く。


 パン!


 ビシャ!


「やった!」


 木の実を見事に撃ち抜いて顔を輝かせるリムリアに、和斗は頷いてみせる。


「いいぞ、ドンドン撃って慣れたらいい」

「うん♪」


 パン! パン! パン! パン!


 赤い点が浮かび上がった場所に命中するように調整されているので、引き金を引く時に銃がブレさえしなければ的を外す事はない。


 逆に言えば、銃がブレないように引き金を引く事が難しい。

 のだが、それも練習すれば克服できる課題でしかない。

 リムリアは覚えがいいようで、予備弾倉4個を使い切ったところで、殆ど的を外す事はなくなった。


「よし、これで疾走ゾンビまでなら簡単に撃ち殺す事ができる筈だ」


 和斗は笑みを浮かべるが、逆にリムリアは顔を曇らせる。


「疾走ゾンビまでなら、って……このベレッタって銃じゃビーストゾンビは倒せないの?」

「倒せない事はないけど……ベレッタじゃ9発くらい撃ち込まないと、ビーストゾンビを倒せなかったんだよな」

「ええ~~? じゃあ、どの銃なら1発で倒せるの?」


 唇を尖らせるリムリアに、和斗は腰のホルスターに納めたⅯ500を叩く。


「コレなら楽勝だ」

「分かった!」

「あ、それは……」


 リムリアは和斗が止めるより早くⅯ500を抜き取ると、そのままぶっ放した。


 ドゴン!


「きゃ!」


 Ⅿ500の威力はベレッタの7・7倍もある。

 という事は、単純に計算すると銃を撃った時に発生する反動も7・7倍ある事になる。

 その7・7倍もの反動は、リムリアの両肩を脱臼させた上、狙撃スペースの壁に叩き付けた。


「あぐ……あぃ……」


 和斗は、余りの痛みで言葉を口にする事も出来ないでいるリムリアに慌てて駆け寄ると、大声で叫ぶ。


「リムにメディカル!」


――了解。


 狙撃スペースからは見えないが、カーナビのモニターにそう表示され、次の瞬間リムリアの脱臼した両肩が完全に回復した。


「よかった……」


 和斗はリムリアを抱き締める。


 ⅯPで出来る事をチェックした時、カーナビを操作しなくても、音声だけでメディカルを発動出来る事を発見したので、音声による発動を可能にしておいたのは大正解だった。

 そう自分で自分を褒める和斗の腕に中で、リムリアが苦しそうな声を漏らす。


「カ、カズト、苦しいよ」

「あ、ああ、ごめんな。いきなりリムが怪我したから、焦ってしまった」

「でも、焦ってくれて嬉しい」


 可愛らしい事を口にするリムリアをもう一度抱き締めてから、和斗はⅯ500を拾い上げる。


「リムにⅯ500は、ちょっと無理だったな」


 そして和斗はⅯ500を腰に戻すと、狙撃スペースに立てかけた状態で固定しているⅯ16を取り外してリムリアに手渡す。


「このⅯ16ならリムでも使いこなせると思うぞ。ビーストゾンビの頭だって一発で撃ち抜けるし」

「ん、やってみる」


 Ⅿ500で懲りたのか、リムリアは慎重にⅯ16を構えてから引き金を引いた。


 タン!


「あ、これいい。スゴく撃ちやすい」


 ライフルであるⅯ16は、ストックを肩に当てて体全体を使って反動を制御する。

 だから手だけで反動を制御する拳銃よりも遥かに使いやすい。

 そんなⅯ16の弾倉を上機嫌で撃ち尽くしたリムリアに、弾倉の取り換え方を和斗が教えた直後。


「あ! ビーストゾンビが来るよ!」


 リムリアが声を上げた。

 おそらく銃声を聞きつけたのだろう。

 20匹ほどのビーストゾンビが、マローダー改に向かって来ている。


「よし、これから実戦練習だ。狙撃スペースの鉄格子に弾を当てないように気をつけながらビーストゾンビの頭を撃ってみろ」

「うん!」


 リムリアがⅯ16の銃口を鉄格子の隙間から突き出すと、狙撃を始めた。

 さっき使い始めたばかりだというのに、200メートルもの距離から、ビーストゾンビの頭を的確に撃ち抜いている。

 ハッキリ言って、和斗より遥かに上手い。


「驚いたな。リムは俺より射撃の才能があるぞ」

「ホント? やったァ!」


 リムリアは嬉しそうな声を上げながらもビーストゾンビの頭を正確に撃ち抜いていった。

 その結果。

 リムリアは、マローダー改に辿り着く前にビーストゾンビを全滅させたのだった。


「全部で23匹か。リム、弾倉には何発弾が残っている?」

「え?」


 キョトンとするリムリアに、和斗は真剣に教え込む。


「Ⅿ16の弾倉には30発の弾丸が装填されているから、残りは7発だ。弾切れは命を左右する事もあるから、残弾数は常に頭に入れておいた方がいい」


「分かった。これからそうする……ってヤバ! カズト、ゾンビマンティコアがコッチに向かって飛んでくる!」


 リムリアが指差した方向に目を向けると……。

 サソリの尾と翼を生やしたライオンが4匹、空を飛んでいた。


 ゾンビというだけあって、アチコチの肉が抉れていたり、大きな傷があったり不気味な事この上ない。

 しかしゾンビマンティコアの体長は5メートルほど。

 このサイズなら、Ⅿ16の弾丸でも頭を撃ち抜けるはずだ。


「よしリム。またⅯ16で撃ってみろ」

「でもゾンビマンティコアは毒ガスを吐くよ!」

「な!?」


 その一言で和斗は青ざめる。


 狙撃スペースの上部は鉄格子だ。

 現在のマローダー改の装甲は、鋼鉄1メートルに相当する。

 だから鉄格子の強度も、鋼鉄1メートルに匹敵する筈だ。

 しかし当然ながら、鉄格子は隙間だらけ。

 毒ガスを防ぐ事は出来ないだろう。


「マジかよ!」


 和斗は慌てて下降ボタンを押した。


「頼む、間に合ってくれ!」


 焦っているせいか、和斗には下降速度が物凄く遅く感じられる。


 が、それでもゾンビマンティコアが襲いかかってくる前に、何とか狙撃スペースはマローダー改に収納された。

 次の瞬間。

 

 どん。ごん。がん。ずん。

 

 ゾンビマンティコアがマローダー改に激突する音が鈍く響いた。

 もちろん鋼鉄1メートルに匹敵する強度を待つマローダー改はビクともしない。


「とりあえず安心だね」

「まだ安心するには早い! マローダー改は完全密閉じゃないから、毒ガスが隙間から侵入してくるかもしれない!」


 その和斗のセリフが聞こえたかのように、ゾンビマンティコアが口から紫色のガスを吐きだした直後。

 マローダー改の中の空気が薄い紫色に変わったように見えたかと思ったら、息が苦しくなり、手足が痺れだした。


「しまった……」


 苦しい息の中で、和斗がリムリアに目を向けると、床に倒れて痙攣していた。


「リム!? くそ、リムと俺にメディカル!」


 和斗はメディカルを発動させてリムリアと、ついでに自分の毒を治癒してから状況を整理する。


(とりあえず解毒したけど、車内は毒ガスに汚染されてしまった。まずは防水性能を得て密閉状態にしてから、クリーニングで空気を浄化するのがベストだな)


 などと考えている間にもつい呼吸をしてしまう。

 また息苦しくなり、手足も動かなくなってきた。

 それはリムリアも同じらしく、見る見るうちに顔色が悪くなっていく。


「く……急がないと」


 和斗は動きが鈍った体に苦労しながらも運転席に転げ込み、気力を振り絞ってカーナビを操作する。


「防水性能は……あった! 20メートル防水は10スキルポイント、50メートル防水だと20ポイント、100メートルは30で……」


 息苦しさと体の痺れに加えて、頭までガンガンと痛み出した。

 もうこれ以上、何も考えられない。

 だから和斗は100メートル防水を選択してクリックすると、すぐさま叫ぶ。


「車内にクリーニング! リムと俺にメディカル!」


 言い終わった直後。

 室内の空気が、ウソのように清浄に変わった。

 と同時に死ぬほどの頭痛と息苦しさ、体の痺れが消え失せる。


 どうやらオーダーの順番通り、室内の空気をクリーニングで浄化した後、メディカルが発動したようだ。


「はぁ~~~~」


 和斗はパタリと運転席に倒れ込み、大きく息を吐いた。


「あと少し遅れていたら、間違いなく死んでたな」


 マローダー改の防御力が上がり、強力な銃を手にした事で、またしてもゲーム感覚に陥っていたようだ。

 しかしこれはゲームじゃない。一つの失敗が死に直結する現実だ。

 それを改めて思い知った和斗だった。

 そんな和斗に。


「ボク、もうダメかと思った」


 リムリアが弱々しい声を漏らしてグッタリと寄り掛かってきた。

 メディカルで体調は全回復している筈だが、精神的なダメージが大きいのだろう。

 そんなリムリアを抱き寄せながら、和斗は呟く。


「くそ、万が一に備えて、防御をもっと考えておくべきだったぜ」


 この世界はマンティコアやグリフィン、ヒドラにドラゴンといった生物が存在するという事は、とっくにリムリアから聞いていた。

 ならば火や冷気、雷や毒を吐く敵の存在に対する防御をシッカリと考えておくべきだった。


「俺のミスだ。リム、ごめんな」

「ううん。カズトがいなかったら、ボクは旅の始めで死んでたもん。それに今回も何とか生き残れた。なら、今回の事は、良い教訓を得たと思えばいいんだよ」

「リムがポジティブで助かる」


 和斗はリムの頬にそっと触れてみる。

 あともう少しで、この神レベルの美少女を失うところだった。

 やはり防御性能を上げておくべきだ。


 そう考えた和斗は、再びカーナビに手を伸ばす。

 と、そこで防水性能の隣に新しい項目が増えている事に気付く。


「防水性能を獲得したコトにより、スキルポイント50で自動空気浄化機能を取得できるようになりました、だって?」


 なるほど。100メートル防水にしたのだから、今のマローダー改は完全密閉状態となっている。

 つまり定期的にクリーニングを発動させて空気を浄化しないと窒息してしまうワケだ。

 クリーニング発動に必要なⅯPは1だから、その度にクリーニングを発動させて室内の空気を清浄にしても良いのかもしれない。


 しかし寝ている間に窒息する可能性もあれば、戦闘に必死になって気が付くのが遅れる可能性だってある。


「これはやっぱり習得しておくべきだな」


 和斗はスキルポイント50を消費して、自動空気浄化機能を取得した。


「これでよし、と」


 和斗は、ハァ、と大きく息を吐きながら天を仰いだ。

 もう少しで死ぬトコだった。

 けれどリムリアが口にしたように、マローダー改は一段と安全性がアップした。

 怪我の功名と言えるかもしれない。

 しかし。


「まだコレじゃ不十分だな」


 和斗はそう呟くと、再びカーナビに手を伸ばしたのだった。




2020 オオネ サクヤⒸ

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[一言] ここまで読んで。 リムってガイジ?
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