第八十話 何で私達が待たなきゃいけないの?
悪魔との戦いの翌日。
驚いた事に、シュッツガルドはゲヘナの構成員全員を逮捕した。
まあゲヘナの構成員の大半は悪魔で、人間は1000人ほどだったらしい。
それでも1000人の犯罪者を、たった1日で拘束したのだ。
冒険者ギルドの治安部門とは、想像以上の力を持っているようだ。
まあ、妻と子供ごと人質にされて怒ったオーギュの働きも大きかったらしいが。
しかし逮捕して終わり、というワケではない。
司法の裁きを下し、それぞれの罪に相応しい罰を与える必要がある。
そしてゲヘナの処理を終えた後。
シュッツガルドは和斗を冒険者ギルドに招いたのだった。
「おうカズト、リムリア嬢ちゃん、よく来てくれたな」
笑顔で出迎えるシュッツガルドに、リムリアが冷たい視線を向ける。
「まさか1週間も待たされるとは思ってなかったけどね」
「がはははは、いやすまねぇ。逮捕したものの、全員の罪状を明らかにして裁判にかけて刑務所にぶち込むのに手間取ってな」
豪快に笑うシュッツガルドを、リムリアが睨む。
「あの人数を1日で捕まえて1週間で裁いたのは凄いと思うけど、何で私達が待たなきゃいけないの?」
「そりゃあ、この為だ」
そう言いながら、シュッツガルドが手を差し出す。
「ちょっと認識票を貸してくれないか?」
「「?」」
とりあえず言う通りにしてみると。
「おい! これを頼む!」
シュッツガルドは、ギルドの職員に認識票を手渡した。
職員は認識票を持ってギルドの奥へと姿を消す。
が、直ぐに戻ってきて、シュッツガルドに認識票を返した。
シュッツガルドは、その認識票をリムリアに差し出すと、得意そうに口を開く。
「これでカズトとリムリア嬢ちゃんは、ギルドレベル13になった。これは現在発行されている認識票の中では、最高ランク。つまりカズトとリムリア嬢ちゃんは世界一のギルドレベル冒険者となったワケだ。今後、冒険者ギルドでは最上級のビップとして扱われる。かなりの無理も、聞き入れて貰えるぞ」
和斗とリムリアは、SSS超級の冒険者だ。
このSSS超級というのは、戦闘力を表す。
それに対して冒険者レベルというのは、ギルドへの貢献度を表す。
つまり、どれだけ依頼を解決してきたか。
これが冒険者のレベルだ。
困難な依頼を解決したら、ポイントが多く貯まる。
しかし困難な依頼は、解決するのに時間がかかる事が多い。
簡単な依頼なら、得られるポイントは少ないが、短時間で済む。
結果、簡単な依頼でも、多くこなせば、多くポイントが貯まる。
そのポイントの量によって冒険者レベルが決まる。
ちなみに、必要ポイント量は。
レベル
1 50ポイント
2 250ポイント
3 1000ポイント
4 5000ポイント
5 2万ポイント
6 10万ポイント
7 50万ポイント
8 250万ポイント
9 1000万ポイント
10 5000万ポイント
11 2億ポイント
12 5億ポイント
13 10億ポイント
となっている。
「冒険者ギルドでコレを見せたら、長老にも最優先で会えるように手配してくれる筈だ。これが俺にできる最大の礼だ。なにしろオマエ等なら、金なんか稼ぎ放題だろうからな」
確かに金なら幾らでも稼げる。
最大限の協力をギルドから得られる方が、今後の旅に役立つだろう。
「そういう事なら、有難く貰っておくね」
「ああ。ところで、さっそく旅立つ気か?」
「うん。とりあえず次の街を目指すコトにする。ってコトで、次の街までの護衛の依頼はない?」
即答するリムリアに、シュッツガルドが苦笑する。
「その前にサンクチュアリに顔を出してやれや。黙って旅立つと恨まれるぞ」
「そうだね。フィオやジュンやルアーブルにお別れを言ってからにする!」
ところで。
サンクチュアリはゲヘナが壊滅した後、一から出直す事となった。
もちろん全てを運営していたゲヘナがいなくなってサンクチュアリは大混乱。
そんな混乱を立て直したのは冒険者ギルドだ。
サンクチュアリに職員を派遣し、運営に必要な人材を集めて教育。
メイルファイトを健全に運営できるように手配した。
そして運営委員会を立ち上げ、上位ランカーにも運営に協力してもらう。
その上位ランカーとの話し合いの議長はシュッツガルドだ。
しかし細々とした事を仕切るのは、フィオらしい。
つまりサンクチュアリの実質のナンバーワンは、フィオという事だ。
「いきなりサンクチュアリのトップか。凄いな」
和斗の言葉に、フィオが苦笑する。
「トップといっても冒険者ギルドの出向職員ですから、生活は中位ランカーより下ですよ。それに先日行われた、サンクチュアリチャンピオントーナメントで優勝したジュンさんと、準優勝したルアーブルさんが手助けしてくれるから、私は議長としての役目を全うできるのです」
フィオにそう言われて、ジュンが首を横に振る。
「カズトに買って貰った、フルオーダーのファイターメイルのお蔭さ。アタシ1人じゃチャンピオンになれなかった」
「でも、次はワタシがチャンピオンになってみせる。このファイターメイルの性能をフルに引き出す事さえできれば、ジュンちゃんに勝てる筈だから。師匠、見ててくださいね。師匠の1番弟子がチャンピオンになる所を」
ルアーブルに続いて、レパードが和斗の前に進み出た。
「オレもアニキに買って貰ったファイターメイルで、上位ランカーになる事が出来たッス! 32位なんで、ギリギリッスけど。でも、もっともっと強くなってアニキに恩返しするッス!」
子犬のような眼を向けて来るレパードに、和斗は言って聞かす。
「俺に恩を返す気があるなら、フィオを助けてやってくれないか? 俺はリムリアとの旅を続けるから、今後はサンクチュアリを助ける事が難しくなる」
「そ、そうッスか」
カズトの言葉にレパードは俯くが、直ぐに元気に言ってのける。
「できればサンクチュアリに残って欲しかったッスけど……でもいつかまた、サンクチュアリに来てくださいッス!」
そんなレパードに、ジュンが続く。
「カズト、受けた恩は一生忘れないぞ! だから、だからまたアタシに会いに来てくれよな!」
「師匠~~、絶対にまた来てくださいね~~」
ルアーブルに至っては、滝のように涙を流していた。
そんなメイルファイター達に、和斗は最高の笑顔を向ける。
「ああ、またな」
「ミンナ、またね!」
こうして和斗とリムリアは別れを告げ、再び冒険者ギルドへと戻ったのだった。
「お、戻ってきたか」
和斗とリムリアを目にするなり、シュッツガルドが依頼書を差し出す。
「これから旅を再開するんだろ? この依頼なんてどうだ?」
依頼内容は、ジャーマニア領のダンジョン調査だった。
ジャーマニア領はランス領の隣。
次の目的地でもある。
「丁度いい依頼だね。どう思う、カズト?」
リムリアがキラキラした目で尋ねてきた。
依頼内容は、ダンジョン調査。
やはりダンジョンと聞いただけで、ワクワクしてくる。
それにアタックしたダンジョンはランス大迷宮だけ。
もっと色々な冒険もしてみたい。
だから。
「いいな。その依頼、受けようぜ!」
和斗は即答したのだった。
これで第3章は終わりです。
次の投稿は7月ころの予定です。
次の第4章では、旅の仲間(?)が2人増えます。
そしてクーロン帝国との闘いとなります。
2021 オオネ サクヤⒸ




