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   第七十二話  スイートルーム獲得





 ルアーブルを倒して控室に戻った和斗を。


「カズト様、おめでとうございます」


 執事が出迎えた。


「ルアーブル様を破られたので、カズト様はランキング5位を獲得されました。その結果、カズト様はスイートルームの権利者となられました。ではカズト様の部屋にご案内致しましょう」


 そして案内されたスイートルームは。


「凄い。ボクの部屋より立派だ!」


 リムリアが口にしたように、ワラキアの姫の部屋より豪華なものだった。

 入り口を潜ると、15メートル四方もある大広間。

 豪華なソファが並び、ヘタな店より立派なホームバーが設置されていた。

 大広間の壁には、幾つもの扉が並んでいる。

 扉の先は寝室、書斎、物置、ファイターメイル部屋、バスルームだった。


「凄い! この絨毯、このまま寝れるほどフカフカ!」

「なに、このホームバー! ボトルが200本以上並んでる!」

「このベッド、5人でも寝れるんじゃない!?」

「色々なジャンルの本がある! これなら退屈しないよ!」

「これが物置!? 馬小屋より広いじゃん!」

「ファイターメイル用の作業場も付いてるんだね!」

「このお風呂、広い! 1度に10人は入れるんじゃない!?」


 リムリアが騒ぐだけ騒いだ後、首を傾げる。


「でもこの部屋、誰のだったの? ルアーブルが追い出されたの?」

「いいえ、ルアーブルは、まだスイートルームの権利者です。メイルファイトに負けてもランキングが1つ下がるだけですから」


 答えたフィオに、リムリアが更に尋ねる。


「ってコトは、ランキング32位の選手が追い出されたってコト?」

「それはですね……」


 フィオの説明によると。

 ランキング5位のルアーブルに勝った和斗はランキング5位になった。

 負けたルアーブルはランキングが1つ下り6位に。

 それ以下の者も、自動的にランキングが1つ下がる。


 そして。

 ランキング32位だった者は中位ランカーが使う大きな部屋へ強制移動。

 ランキング124位の者は下位ランカーの小部屋へ強制移動。

 そしてランキング248位だった者は。

 次の試合に負けたらサンクチュアリを追放される。

 馴れ合いを避け、全体のレベルをアップさせる為の仕組みらしい。


 だから強いメイルファイターを見つけると、サンクチュアリに招待するのだ。

 和斗がそうだったように。


「じゃあカズトは、部屋を追い出された上位ランカーに恨まれたんじゃない?」

「もちろんそうです。でも追い出されたメイルファイターは、それを糧にして強くなればいいのです。弱い者はいらない。それがここ、サンクチュアリですから」

「なるほどね」


 フィオの説明にリムリアが納得したトコで。


「では、今後のコトを相談しましょう」


 フィオが顔を引き締めた。


「まずサンクチュアリを調査する為に、この建物の見取り図が欲しいですね。これは精密なら精密なほど良いので、設計図が望ましいです」

「次は情報収集です。メイルファイターやメカニックから話を聞いて、犯罪組織に関する情報を集め、最終的には誰が犯罪組織のメンバーか特定したいですね」

「メカニックが出入りできるのは、下位ランカーが使える大食堂と大浴場に限られています。だからカズトさんには、中位ランカーが使う特別食堂と特別大浴場に潜り込んでもらいます」


 フィオが口にした3つに、和斗は考え込む。


「情報収集以外、かなり難しいってコトか」


 和斗の呟きにフィオが頷く。


「設計図は警備室にあると思いますが、盗み出すのは大変でしょうね。カズトさんは上位ランカーですから特別食堂と特別大浴場に出入りする事は可能です。まあ目立ってしまいますが」

「それを、どうやって疑われずにやってのけるか、か」


 と、そこに。


 コンコンコンコン。


 スイートルームの扉がノックされた。


「何でしょう?」


 フィオが扉を開けてみると、そこには1人の少女が立っていた。

 オドオドした雰囲気の少女だが、その顔は実に美しい。

 まだ幼さを感じさせる、華奢な身体つきをしている。

 しかし、このエリアに入れるのは関係者のみ。

 ではこの少女は、一体何者だろう。

 まさか、もう犯罪組織が?


「ええと、どちら様です?」


 警戒するフィオの問いに、少女はブン! と頭を下げた。


「私を弟子にしてください!」

「は?」


 予想外の言葉に、フィオの動きが止まってしまう。

 そのフィオの横をすり抜け、少女は和斗に駆け寄った。


「師匠! 私を弟子にしてください!」

「し、師匠!?」


 目を白黒させる和斗に、更に少女が詰め寄る。


「お願いです! どんな厳しい訓練にも耐えます! 何でもします! 体を差し出しても構いません! だから私を弟子にしてください!」


 体を差し出す。

 その言葉に、和斗より速くリムリアが反応する。


「な、なに言ってんだよ! カズトはボクのモンだい! って、それよりもダレなんだよ!?」

「私ですよ、忘れたんですか!?」

『だれ?』


 声を揃えた一同に、少女が頬を膨らませる。


「ルアーブルですよ! さっき戦った相手を忘れるなんてヒドいです!」

『……ええええええええ!!!?』


 一同揃って絶叫した後。


「え~~と、どういうコトなのかな?」


 和斗が尋ねると、ルアーブルは子犬のような目で語り出す。


「え~~と私、1年前にゲスラーに両親を殺されたんです。その頃はもうメイルファイターとして有名だったんで、仇を討つ為にサンクチュアリで戦うコトにしました。メイルファイトは私にとって、ゲスラーを殺す為の修行なんです!」


 なるほど。

 あの狂気は、両親の仇を討つ為に必死だったかららしい。


「ランキング5位まで負け知らずでした。これならゲスラーを倒せるかも、と思えるまで強くなりました。ううん、なったつもりでした。でも今日、師匠に負けて思い知ったんです。私は自分が思っているほど強くないと」


 そこでルアーブルは、いきなり和斗の脚にしがみ付く。


「お願いします師匠! 私を鍛えてください! 両親の仇を討ちたいんです!」


 どうしたモンだろう?

 という和斗の視線に、フィオが口を開く。


「ルアーブルさん。ゲスラーが犯罪組織を作り上げて、沢山の人を苦しめているのを知ってますか?」

「え? 私以外にも、酷い目に遭った人が?」

「ああ、山ほどいる」


 ルアーブルの言葉に答えたのはジュンだ。


「アタシの場合、村ごとゲスラーに滅ぼされた。善良な人々を地獄に叩き落とす犯罪組織のボス、それがゲスラーなんだ」

「く! ゆ、許せない!」


 目に狂気を宿すルアーブルに、フィオが語りかける。


「私達はゲスラーごと犯罪組織を壊滅させる為に、サンクチュアリに潜り込んだのです。ルアーブルさん、協力してもらえませんか?」

「私に出来る事ならナンでも!」


 意気込んで答えるルアーブルに、現状を説明すると。


「サンクチュアリの設計図? 手に入りますよ」


 ルアーブルは、アッサリと言ってのけたのだった。





「これがサンクチュアリの設計図だ」


 和斗のスイートルームで設計図を広げたのは、警備隊長だった。

 ガッシリした体格をした、髭面の男だ。

 ルアーブルが『紹介したい人がいる』というので連れて来てもらったのだが。

 まさか警備隊長を案内してくるとは思わなかった。


「でも警備隊長がこんなコトしてイイの?」


 リムリアの素直な感想に、警備隊長がフンと鼻を鳴らす。


「いいんだよ。オレが警備しているのはメイルファイトの聖地であって、犯罪組織の隠れ蓑じゃねェ」

「え!? ってコトは、ゲスラーがやってるコトを知ってるの!?」


 驚くリムリアに、警備隊長が首を横に振る。


「知らねぇ。いや分からねぇんだ。怪しい事をやっているとは、薄々感じているんだがな」


 そして警備隊長は、設計図の一画を指差す。


「こっから先は、おれ達も入れねぇ区画だ。何かやってるとしたらココだろうな」


 そして警備隊長はルアーブルの頭を撫でた。


「この子の両親とは幼馴染みだった。だからこの子に力を貸す事にしたんだが、この子だけを危険な目に遭わせている自分の無力さが悔しくてならなかった。だから何でも協力する。その代り……」

「ああ。絶対にゲスラーと犯罪組織を壊滅させる」


 言い切る和斗に、警備隊長はニッと笑うと。


「ルアーブルの事、頼んだぜ」


 そう言い残して、スイートルームを出ていった。

 バタン、と扉が閉まると同時に。


「これで方針が決まりました」


 フィオが声を上げる。


「ワタシは、立ち入り禁止区画に忍び込んで調査します。盗賊としての訓練も受けていますから。だから皆さんには聞き込みをお願いします」


 という事で翌日の朝。

 和斗はリムリア、ジュン、ルアーブルと共に大食堂に向かったのだった。


「でもルアーブルが大食堂に入ってもいいの? 大食堂は下位ランカーが利用するトコなんでしょ?」


 歩きながら問いかけるリムリアに、ルアーブルがコクンと頷く。


「下位のメイルファイターが上位のエリアに入るのは許されません。でも上位の者が下位のエリアに行くのは問題ありません。それに下位から上位に這い上がったメイルファイターも多いんです。だから大食堂のメニューが、時々無性に食べたくなる者も多いんです」


 だから私も偶に利用します、とルアーブルは付け加えた。

 なら目立たないかな、と考えながら通り掛かった訓練場では。


 ドカッ!


「下位ランカーごときが、目障りなんだよ!」


 目付きの悪い牛の獣人が、豹の獣人を蹴り倒していた。


「訓練?」


 リムリアが漏らした言葉にジュンが鼻を鳴らす。


「フン、そんな筈ないだろ! 中途半端な事実力しかないメイルファイターが、才能ある若者を潰そうとしてるだけさ」

「うわぁ、見苦しい」


 リムリアの呟きが聞こえたらしい。


「なんだと、おらぁ!」


 牛の獣人が凶悪な目をリムリアに向ける。


「見かけない顔だな? オレはランキング113位! 中位ランカーなんだぞ!」


 そして牛の獣人はズカズカと近づいてきた。


「いいか!? ここじゃあ強さが全てなんだ! 弱いヤツは、何されても下を向いてるしかネェんだよ! それにここは訓練場だぜ! 弱いヤツを、訓練してやってたダケなんだよ!」


 そう怒鳴る牛の獣人の前に、和斗は進み出る。


「なら俺にも、その訓練ってヤツをしてくれないか?」

「ああん!? キサマもオレにボコボコにされたいのか? 上等だ、その顔の形を変えてやるぜ! って、どっかで見た顔だ……な……って、ま、まさかキサマ、いやアナタは……」


 急にガクガクと震えだした牛の獣人に、ルアーブルがニヤリと笑う。


「私に勝ってランキング5位を獲得したカズト師匠だ。いやぁ、凄いなランキング113位。私が手も足も出せずに負けたカズト師匠にケンカ売るなんて」


 ルアーブルの言葉に、訓練場全体に騒ぎが広がる。


「おいおい、ホントにランキング5位のカズトだぜ!」

「あの狂乱のルアーブルに圧勝したカズトか!?」

「あのファイトは凄かった」

「ああ、見てて体が震えたぜ」

「次元が違うって、アレを言うんだろうな」

「5位でさえ気を失ったんだ、113位じゃあ……」

「間違いなく、殺されるだろうな」

「運がよくても廃人かな」

「5位にケンカ売るなんて、アイツも馬鹿な事したもんだ」

「あ! でもこれで、勝手にランクが1つ上がるぞ!」

「そりゃあいい!」

「よっしゃ、殺せ!」

「殺しちまえ!」


 悪意に満ちたヤジのなか、牛の獣人は死人の顔色になる。


「いや、そんな、オレは何も……」


 冷や汗を流して固まってしまった牛の獣人を、和斗が怒鳴り飛ばす。


「下位ランカーをイジメる暇があったら、自分を鍛え直せ!」

「はいィィィ! スンマせんした!」


 こうして。

 和斗に一喝された牛の獣人は、転がる様に逃げていった。

 その後ろ姿を睨んでから、和斗は豹の獣人に視線を向ける。


「おい大丈夫か? ってその腕、折れてるぞ! なにが訓練だ、ムチャクチャしやがって」


 和斗は顔をしかめるとメディカルで豹の獣人を治してやった。


「これで大丈夫だ」


 和斗が笑みを浮かべた、その瞬間。


「ありがとうございます、アニキ!」


 豹の獣人はそう叫んで頭を下げたのだった。





2021 オオネ サクヤⒸ

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