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   第七十一話  仇を討ちたい


  



 バルフールを倒した和斗の強さは圧倒的だった。

 今まで見た事もない強さだった。

 それは新たなチャンピオンの誕生であると同時に。


『ゲスラーすら倒せるヒーローが誕生したのかもしれない』


 そう観客が確信するに相応しい強さだった。

 時代が変わる瞬間に立ち会ったのかもしれない。

 その予感に観客は興奮し。


『カズト! カズト! カズト! カズト! カズト! カズト!』


 いつまでもカズトコールを続けていた。

 そんな大歓声の中。


「凄い……あのバルフールがゴミに見える程の強さだなんて……」


 ジュンは呆然と呟いていた。


「カズト、アンタはアタシの想像を超える漢だったんだね……でもこれで、アタシの夢は終わっちまった……サンクチュアリに潜り込んで、アタシの手でゲスラーをブチ倒して家族の仇を討ちたかった……」


 そう口にした直後。


「こっちに来て」


 ジュンはフィオによって酒場の外に引きずり出される。


「な、なんだよ」


 戸惑うジュンに、フィオが囁く。


「聞いたわよ。サンクチュアリに潜り込んで家族の仇を討ちたいって」


 その瞬間、ジュンの体から殺気が立ち昇った。

 そして。


「ち! 聞かれちまったか。しかたねぇ、医者の世話になってもらうよ!」


 ジュンの両腕、背中、両足に魔方陣が浮かび上がった。

 それを目にしたフィオが、驚嘆の声を上げる。


「込める魔力によって強化レベルを調整する無段階型の強化魔方陣? これほどレベルの高い魔方陣、初めて見たわ。でも」

「でも?」


 ジリジリと距離を詰めるジュンに、フィオがニコリと笑う。


「SSS超級の冒険者に通用するレベルじゃないわね」

「は?」


 ジュンが間の抜けた声を上げると同時に。


 ずし。


 地獄に引きずり込まれるような、圧倒的な力の籠った手が肩に置かれた。

 不用意に動いたら、生きた痕跡すら残さず消滅させられる!

 そんな恐怖の中、ジュンが目だけを向けてみると。


「とりあえず、ボク達の話を聞いてよ」


 こちらもニコリと笑うリムリアの姿があった。





 一方。


『カズト! カズト! カズト! カズト! カズト! カズト!』


 歓声に包まれている和斗に、観客の1人が握手を求めてきた。


「素晴らしいメイルファイトでした」

「ありがとうございます」


 和斗は観客の手を握り返す。

 が、そこに感じる違和感。

 そして。


「では、また会いましょう」


 そう口にして観客が立ち去った後、和斗の手には。


 サンクチュアリで開催されるメイルファイトに招待します。その気があるなら明

 日、サンクチュアリの受付にこのカードを見せてください。

                             ――アズブルック


 そう書かれたカードが残されていた。


「作戦成功ってコトか」


 和斗はそう呟くと、大歓声に見送られながら酒場を後にする。

 そんな和斗に、先程の観客以外、誰も話しかけてこない。

 スーツ男もだ。

 さっき握手した男と、何らかの取り決めがあるのだろう。

 そして酒場の扉を潜ると。


「カズト、ジュンにも協力してもらう事にしたんだ」


 リムリアがフィオとジュンを引き連れて声をかけてきた。


「協力?」


 聞き返す和斗の腕を、フィオが引っ張る。


「説明しますから、コチラへ」


 こうしてフィオに案内されたのは『銀の子猫亭』という宿屋だった。

 部屋数は3つしかないらしい。

 しかし食堂の料理は充実しており、風呂も大きく、ベッドは清潔だ。


「良い宿屋だね」


 満足そうなリムリアに、フィオが片目をつぶる。


「冒険者ギルドが陰で運営している宿です。ここなら盗聴されるコトもないし、セキュリティーもシッカリしているので、サンクチュアリに潜り込むアジトとして最適です。ではジュンさん」


 フィオに促されてジュンが口を開く。


「今から7年前、アタシの村はゲスラーに襲われた。あらゆる物は強奪され、13歳だったアタシは娼館に売られた。でも客を取らされる前にアタシは逃げ出すコトに成功したんだ」


 そして年老いたメイルファイターに拾われメイルファイターの修行を始める。

 といっても13歳の子供がファイターメイルを買えるわけがない。

 ひたすら基礎を学び、体つくりに励んだという。

 そしてジュンを拾ったメイルファイターが引退した後。

 彼が使っていたファイターメイルを譲り受けたらしい。


「それからは賭け試合で生き抜いてきた。修行してくれた師匠の教え方は優秀だったみたいで、アタシは今まで負けた事なんかなかった。だからバルフールに挑戦したんだ。けど、アタシはメカニックに裏切られちまった。師匠からファイターメイルを受け継いでからの2年間、一緒に戦ってきた仲間だったのに」


 唇を噛むジュンに、フィオが悲し気な視線を向ける。


「メカニックの中にはメイルファイターを金儲けの道具としか思ってないヤツがいて、そう言うヤツは、大きく儲けられると思ったら、平気でメイルファイターを売るんです」


 そしてフィオは、ギリリと歯を噛み鳴らす。


「でもゲスラーのヤツ、絶対に許せない! だからジュンさん、一緒にゲスラーを倒しましょう!」


 フィオに両手を握られて、ジュンは戸惑った声を漏らす。


「そりゃあ協力したいと思うけど、アタシに何が出来るんだい? メイルファイト以外、何の取り柄もないぜ?」

「それで十分です。メイルファイターなら、ある程度メカニックの知識があるでしょう? ワタシがカズトさんのメインメカニック、ジュンさんがサブ、リムリアさんは見習いとしてサンクチュアリに潜り込みます。そこで犯罪組織を調査する手伝いをしてください」


 と、話がまとまったトコで。


「ところで、バルフールを叩きのめした後で、こんなモノを渡されたんだけど」


 和斗は酒場で受け取った、サンクチュアリへの招待カードを見せる。


「これ本物かな?」


 その疑問にフィオが頷く。


「アズブルックってサインが入ってますよね? これサンクチュアリのナンバースリーです。だから、間違いなく本物です」

「じゃあ、まずは第一関門突破突破だね! これでサンクチュアリに潜り込めるワケだね!」


 はしゃいだ声を上げるリムリアに、フィオが顔を引き締める。


「そうですね。これで一般人は立ち入り禁止の場所の調査が可能となります。でもリムリアさん、ここからが本番です。そして危険度も、一気に跳ね上がります」


 が、リムリアは余裕の態度を崩さない。


「だからカズトに頼んだんでしょ? 大丈夫、カズトより強いメイルファイターなんか居るワケがないよ。なにしろヒヒイロカネゴーレムなら素手で砕けるくらい強いんだから」

「ヒヒイロカネゴーレムを!?」

「素手で!?」


 大声を上げるフィオとジュンに、リムリアは意外そうな顔になる。


「あれ? ボク達がSSS超級の冒険者になれたのはヒヒイロカネゴーレムを素手で倒したからだけど、この話、あんまり知れ渡ってないんだ? けっこう凄いコトだと思ったんだけど」

「いやいやいや! 凄すぎるからだと思いますよ!」

「お、おう、そんな話、誰も信じないだろうからな。バルフールに圧勝したトコ見てるから、アタシは信じるけど」


 フィオとジュンは暫くの間、慌てふためいていたが。


「こんな頼りになる味方はいませんね」

「ああ、安心して協力できるぜ」


 やっとで落ち着くと、和斗とリムリアに笑顔を向けたのだった。





 そして迎えた翌日。

 和斗はリムリア、フィオ、ジュンと共にサンクチュアリへと向かった。

 サンクチュアリの入り口は、空港の搭乗口のような造りになっている。

 おそらく入場券を持たない者を中に入れない為のものだろう。

 その搭乗口のような造りの先には8枚の大扉が並ぶ。

 その両脇に立っている逞しい男の1人に。


「これを見てくれ」


 和斗は招待カードを見せた。

 ひょっとしたら騙されただけかも。

 などと和斗は心配していたが。


「ようこそ、サンクチュアリに」


 逞しい男は、アッサリと鉄扉を押し開けた。

 そして扉の中には。


「カズト様、ようこそいらっしゃいました」


 執事姿の老人が、柔和な笑みを浮かべて立っていた。


「ではサンクチュアリの中を、ご案内いたしましょう」


 説明によると。

 ランキング125~228位のメイルファイトは、下位ランカーと呼ばれる。

 下位ランカーには小さな個室が与えられ、大浴場と大食堂を無料で利用できる。

 ランキング33位~124位のメイルファイターは中位ランカー。

 大きな個室を与えられ、特別食堂と特別大浴場を無料で利用できるらしい。

 ランキング32位以上のメイルファイターは上位ランカー。

 高級ホテル並みのスイートルームが与えられる。

 全ての部屋には大きなバスが付いており、食事もルームサービス、との事。

 

 そして。

 どのランクのメイルファイターも、訓練施設を自由に使える。

 ファイターメイル調製施設もだ。

 ただしメカニックは、3~10名で大部屋に詰め込まれるらしい。

 しかし中位以上のランカーのメカニックは優遇される。

 上位ランカーのメカニックに至っては、個室が与えられるらしい。


「カズト! 絶対に本戦参加資格を手に入れてね!」


 気合いの入った顔で両手を握るリムリアに、執事が微笑む。


「それならば、今夜行われる上位ランカーとのメイルファイトに挑戦する手続きを致しましょうか?」

『ぜひ!』


 リムリア、フィオ、ジュンが声を揃えた。


「かしこまりました」


 そして執事は深々と頭を下げ、和斗の戦いが決定した。





 そして日が沈み、観客席が埋まった頃。

 和斗はサンクチュアリのメイルファイト控室にいた。

 どうやらサンクチュアリでは、毎日メイルファイトが行われるらしい。

 その数は5から6。

 ランキングの低い者のメイルファイトから始まる。


 最後は当然、メインイベント。

 上位ランカーに下位の選手が挑戦する試合だ。

 そして本日、上位ランクを賭けて、和斗は戦う。


「いきなり上位ランカーの地位を賭けた戦いが出来るなんてな」


 呟く和斗に、フィオが微笑む。


「上位ランカーの試合相手は、基本的に執行部が決めます。けど上位ランカーは挑戦されたら拒否出来ない規定です。だからカズトさんは、初日なのに上位ランカーとの試合が出来るんです」

「でも他にも挑戦を希望するメイルファイターがいたら、どうするんだ?」

「その場合、挑戦を希望するメイルファイターによるトーナメントによって決められるんです。場合によっては、その日の試合が全てトーナメントになる場合もありますね」

「しかしメイルファイターなら誰でも上位に食い込みたいモンだろ? なのに今日の挑戦者は俺だけなのか?」


 首を傾げる和斗に、フィオが続ける。


「上位ランカーが挑戦を受ける順番は決まっていて、今日の順番はルアーブルなんです。ランキングは5位ですが、審判の制止を聞かず相手を殺して反則負けになった以外では負けなしのメイルファイターです。だからルアーブルを指名したメイルファイターは初めてという事で、注目の一戦らしいですよ」


 そんなフィオの説明にジュンがウンウンと頷く。


「狂乱のルアーブル。ひょっとしたらサンクチュアリで1番危険なメイルファイターかもしれねぇ。今のアタシじゃ絶対に勝てない相手だ」


 ジュンの言葉に、和斗は引っ掛かりを感じて口にする。


「今の? ってコトは、今じゃなければ勝てるってコトか?」

「性能の良いファイターメイルさえあれば絶対にアタシの勝ちさ!」


 自信満々に言い切るジュンにフィオが頷く。


「そうですね。ジュンさんの身体能力と技術はズバ抜けていますから、ファイターメイルさえ優秀ならルアーブルにだって負けないでしょうね。でもルアーブルの1番の特徴は、その狂気に染まった戦闘スタイルです。アレは相手にとって悪夢でしかないでしょうね」

「いきなりイヤなヤツと当たったな」


 顔をしかめる和斗に、リムリアがプッと吹き出す。


「ナニ言ってるの! カズトの方が、遥かに悪夢だよ」


 ケタケタと笑うリムリアに、フィオもジュンも声を揃える。


「それもそうですね。」

「ああ、比べ物にならないくらいの悪夢だぜ。アタシはルアーブルが気の毒でならないぜ」


 そして3人の美少女と美女が、気楽な笑い声を上げたところで。


「カズト選手、時間です」


 和斗はメイルファイト会場へと呼び出されたのだった。




 試合会場は、観客席に囲まれた直径30メートルほどの広場だ。

 観客席と試合会場を遮るものは何もない。

 が、安全を確保する為、魔法障壁が張られているらしい。

 その広場の中心には、すでに1人の女性が立っていた。

 おそらく、この女性がルアーブルなのだろう。

 しかしメイルファイターなのだから、鍛え抜いた相手を想像していたが。


「ギキキキキキ」


 不気味に笑うルアーブルは、華奢な身体つきをしていた。

 顔は……整っている方だと思う。

 しかしにじみ出る狂気が、その顔を背筋が寒くなるモノに変えている。


「うわぁ。ヤバい領域にイッてるヤツだ」


 リムリアが、そう漏らしながら和斗をツツく。

 たしかに精神を病んているようにしか見えない。

 と和斗がゲンナリしていると。


「両者、ファイト用意!」


 良く通る声が響いた。

 どうやら観客席の最前列に作られた特別席から声を届けているようだ。

 その特別席の男の声に、ルアーブルがファイターメイルを着用していく。

 この過程もメイルファイトの醍醐味なのだろう。

 鎧姿が完成に近づくほど、観客が盛り上がっていく。


 が、装鎧は一瞬で終わってしまう。

 これでは盛り上がりに欠けるかもしれない。


「観客は残念がるだろうが、仕方ないな。装鎧」


 和斗は観客に悪いコトをしたような罪悪感を覚えるが。


「うおおおおお!?」

「どうやったんだ!?」

「一瞬でファイターメイルを装着したぞ!」

「スゲーぞ挑戦者!」


 意外にも観客は大いに盛り上がった。

 そしてルアーブルがファイターメイルを装着し終えると。


「10! 9! 8! 7!」


 メイルファイト開始のカウントダウンが始まった。

 この試合開始スタイルは、メイルファイト共通のものらしい。

 そしてルアーブルのファイターメイルに魔方陣が浮かび上がったところで。


「2! 1! ファイト!」


 和斗のサンクチュアリ初戦が始まった。


「イキキキキキキキ!」


 嫌な笑い声を上げながらルアーブルが突進してくる。


「さて、拳か? 蹴りか? 体当たりか? それとも意表を突く攻撃をしかけてくるのか?」


 そう呟く和斗に。


「ひゃっは――!」


 ルアーブルが、左腕から伸ばした鞭で攻撃してきた。

 それは常人の目では捉えられないほどの高速攻撃だったが。


「へえ、ファイターメイルには武器を内蔵したモンもあるのか。確かに意表を突かれたけど……よ、と」


 和斗は楽々と鞭を叩き落とした。


「おお! ルアーブルの鞭を防御したぞ!」

「ルアーブルの初撃で倒れない挑戦者なんて久し振りだな!」

「今日のメイルファイトは面白くなりそうだな」

「なにしろルアーブルは強すぎるからな」

「しかし今回の挑戦者には期待できそうだな」

「でもルアーブルの勝ちは揺るがないだろ」

「そうだな。挑戦者が何分持つかに賭るのが普通だもんな」


 などお、観客が騒ぎ出すなか。


「キキキキキ! いい! オマエいい! ギキキキキキ!」


 ルアーブルは顔に一層の狂気を浮かべ、右手からも鞭を伸ばした。

 そして2本の鞭を高速で振り回す。


「目にも留まらない鞭による攻撃が2つ。しかもフェイント付きだァ! さあ、どう対処するゥ? それともオマエも、これで終わるのかァ!?」


 そして襲いかかって来る2本の鞭。

 ルアーブルの言葉通り、不規則な動きでフェイントを織り交ぜた攻撃だ。

 しかし装鎧のトップスピードからしたら、スローな攻撃でしかない。

 だから。


「終わるワケないだろ」


 和斗は慌てる事なく2本の鞭を掴み止めた。

 そんな和斗に、観客が騒然となる。


「ルアーブルの鞭を防御したヤツないたが……」

「掴んで止めたヤツなんか、初めて見たぞ!」

「あの光速の鞭を見切って止めるなんて……」

「神業だ!」

「凄いぞ挑戦者!」

「いいモン見せてもらったぜ!」


 そして歓声が大きくなるが。


「ウヒヒヒヒヒヒヒ!」


 ルアーブルの奇怪な笑い声に、一気に会場は静まり返る。


「おい、笑ってるぞ?」

「最強の武器が通用しなかったのに?」

「ついにオカシクなっちまったのか?」

「まあ最初からオカシかったけどな」


 などと観客が声を殺しながら見守るなか。


「初めて全力を出せるゥゥゥ!」


 ルアーブルの鬼気迫る声が響き。


 ヒュヒュヒュヒュン!


 ルアーブルの背中から、更に4本の鞭が飛び出した。


「鞭を6本使うと頭が痛くなるからァ、今まで使わなかったァ! でも頭の痛みは無視だァァ! 痛みは無視して戦いに勝つゥゥゥ!」


 そしてルアーブルは6本の鞭を操作する。

 その動きは上位ランカーですら見切れないモノだったが。


「残念だったな。俺には通用しない」


 和斗は6本の鞭を指の間で掴み止めた。

 そして和斗は。


「そ、そんなァ。最後の切り札だったのにィ」


 どこか感情の抜け落ちた声を漏らすルアーブルを。


「これで終わりだ」


 鞭をグイッと引っ張って、魚のように釣り上げると。


「死なないでくれよ」


 ドォン!


 思いっ切り手加減して、床に叩き付けた。

 手加減したのだが、その衝撃は深さ5メートルのクレーターを作り。


「……くはッ……」


 そのクレーターの底で、ルアーブルがカクリと意識を失った。

 と同時に。


「勝者、カズトぉぉぉぉぉ!」


 サンクチュアリに、和斗の勝利を告げるアナウンスが響き渡ったのだった。








2021 オオネ サクヤⒸ

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