第七話 1匹で15ポイントも稼げるのか!
「ナイス!」
和斗は大急ぎでモニターを操作した。
狙撃スペースの中にビーストゾンビの攻撃は届かない事は分かっている。
が、それでも唸り声を上げながら鉄格子に爪を立て、噛み付いている光景に焦ってしまう。
「ええと、ナニを選んだらいい?」
和斗は購入可能な武器に目を走らせる。
Ⅿ500 (ハンドガン) 15
Ⅿ16 (アサルトライフル) 20
バレットⅯ82(対物ライフル) 60
それぞれのデータも表示されるが、どの武器がベストなのか良く分からない。
そこで和斗は、それぞれの銃が使用する弾丸の比較表を呼び出してみた。
弾薬のエネルギー(ft‐lbs)
9×19ミリ (ベレッタ) 350
500S&W (Ⅿ500) 2700
5.56×45ミリNATO弾(Ⅿ16) 1250
12.7×99ミリNATO弾(バレットⅯ82) 13500
『ft‐lbs』という単位が何なのか和斗には分からなかったが。
Ⅿ500はベレッタの7、7倍の威力の弾を発射するリボルバーで装弾数は5。
Ⅿ16は軍用ライフルで、威力はベレッタの3・6倍。装弾数は30。
バレットはベレッタの38・6倍の弾を10発撃てる対物ライフル。
という事らしい。
そして予備の弾倉が10個、あるいは10回分の弾丸がセットのようだ。
「よし決めた!」
和斗は市販されている拳銃の中では最強のⅯ500と、アメリカ軍の正式採用アサルトライフルのⅯ16を購入クリックする。
すると和斗の目の前に、Ⅿ500がホルスターと予備の弾丸と共に、Ⅿ16が替えの弾倉10個と共に出現した。
「まずはⅯ500を装備するか」
和斗は腰に装着したベレッタをホルスターごと外すと、狙撃スペースに設置されている棚に置き、Ⅿ500を収納したホルスターと付け替える。
そしてⅯ500の予備の弾丸とⅯ16の予備弾倉10個に手を伸ばして棚に並べてから、Ⅿ16を手に取った。
「よし、狙撃開始だ!」
和斗はⅯ16を構えると、ビーストゾンビの頭に狙いを定めて引き金を轢く。
タン!
軽快な音が響き、Ⅿ16から発射された5・56×45ミリNATO弾が、ビーストゾンビの頭を打ち抜いた。
「よかった」
購入できる銃の中では1番強力なバレットを買うべきだったかもしれない。
とも考えたが、バレットの弾倉は10発しかない。
10個の替え弾倉が付いているとはいえ、バレットでは合計110発しか弾薬がない。
それに比べてⅯ一16なら予備弾倉10個を合わせると、合計330発の弾丸が使用できる。
そして幸いなことにⅯ16は、1発でビーストゾンビを倒せた。
つまり、残りの弾丸で329匹を倒す事が可能だ。
という事で。
タン! タン! タン! タン! タン!
和斗は、次々とビーストゾンビの頭を撃ち抜いていった。
ちなみにⅯ16の射程距離は400メートルもある。
だが、そんな遠距離から標的を撃ち抜く技術など、和斗にある筈がない。
しかしビーストゾンビは自分から射殺できる距離に近づいて来てくれるので、至近距離から頭に銃口を向けて引き金を引くだけでいい。
ただし鉄格子に銃弾を当てないように気をつける必要がある。
鉄格子が壊れても困るが、それ以上に弾が跳ね返って自分に当たってしまう事が一番怖い。
だから和斗は、鉄格子の間からⅯ16の銃身を突き出すようにしてビーストゾンビを撃っている。
が。
ガシ。
「ち!」
その銃身を1匹のビーストゾンビに捕まれてしまった。
ゾンビのクセに感情があるのか、ビーストゾンビがニヤリと笑うが。
「残念だったな」
和斗はニヤリと笑い返すと。
ドゴン!
すかさず腰からⅯ500を引き抜いて、銃身を掴んでいるビーストゾンビの頭を打ち抜いた。
Ⅿ16の銃身を掴まれた時に備えて購入しておいたⅯ500が、役に立ってくれたわけだ。
「よし、これならいける!」
和斗は射撃を続ける。
タン! タン! タン! タン! タン! タン! タン!
ドコン!
タン! タン! タン!
ドコン!
タン! タン! タン! タン! タン! タン!
ドコン!
押し寄せるビーストゾンビの頭をⅯ16で撃ち抜き、銃身を掴まれたら即座にⅯ500をブッ放す。
これを5分ほど繰り返したところで、ビーストゾンビを全て撃ち倒す事ができた。
「動いているヤツは……いないな。ふぅ、これで良し、と」
撃ち漏らしたビーストゾンビがいない事を確認してから、和斗は下降ボタンを押して狙撃スペースをマローダー改に収納する。
と、そこにリムリアが駆けよってきた。
「カズト、大丈夫!?」
「ああ。狙撃スペースのおかげで無傷で倒せた」
「良かったぁ。ビーストゾンビに鉄格子を破壊するほどの力はない筈だけど、それでも心配だったんだから」
不安だったらしく、リムリアがキュっと抱き付いてきた。
うん、胸の奥がキュンとなるほど可愛い。
そんなリムリアの背中にそって手を添えると、和斗は運転席へと向かう。
「俺もちょっと怖かったけど、でもな、リム。それ以上に、どれだけポイントは稼げたか楽しみだ」
和斗がワクワクしながらカーナビを操作すると。
――ビーストゾンビ85匹を倒しました。
経験値1275
スキルポイント1275
オプションポイント1275
を獲得しました。
累計経験値が2000を超えました。
そう表示され、そして。
パラパパッパッパパ――!
レベルアップのファンファーレが流れた。
「よし!」
キュっと手を握り締めた和斗の目の前で、表示が続く。
――装甲車レベルが6になりました。
最高速度が150キロになりましました。
加速力が10%、衝撃緩和力が21%アップしました。
登坂性能が64度、車重が40トンになりましました。
装甲レベルが鋼鉄100センチ級になりました。
セキュリティーがレベル3になりました。侵入者をⅯ16レベルで排除します。
ⅯPが35になりました。
「って、ちょっとまてよ、1275も稼げたのか!? って事は……ビーストゾンビ1匹で15ポイントも稼げるのか!」
そこで和斗は考え込む。
「そうだな。ポイントが15も稼げるのなら、オプションポイントも結構たまった事だし、バレットを購入してみるか」
なにしろバレットなら2キロ先からの狙撃も可能。これなら安全にポイントが稼げる。
「まあ、最初から上手くいかないだろうけど、練習する価値はあるよな」
そのチャンスは直ぐに訪れた。
昼食後、出発して5分もしないうちに、遠くにビーストゾンビの群れを発見したのだ。
「よーし、早速バレットを購入だ」
和斗はベレッタの38倍もの威力を持つ弾丸を発射する対物ライフル、バレットⅯ82をオプションポイント60で購入すると、狙撃スペースに乗り込んで狙いを定めた。
ちなみにバレットによる狙撃の世界記録は2815メートルだ。
しかし初めてバレットを撃つ和斗に、そんな真似が出来る筈もない。
思った通り、大きく的を外してしまう。
そして当然ながらバレットの轟音はビーストゾンビに聞きつけられてしまい、ビーストゾンビは群れを成して襲いかかってきた。
「ま、そうなるよな」
それでも和斗はバレットの練習を重ねる。
何事も練習だ。少しでもバレットに慣れて、射撃の腕を向上させるしかない。
と、そこで1匹のビーストゾンビに命中した。
ボン!
残念ながら命中した胸だったが、バレットが発射する弾丸の威力は凄まじく、命中と同時にビーストゾンビの胸を消失させた。
そして千切れ飛んだ腕がクルクルと宙に舞い、頭が何メートルも離れた位置に落下する。
「これが対物ライフルの威力か……想像以上だ」
和斗は再びバレットの引き金を引くが、命中したのは腹だった。
今度は下半身を引き千切り、ビーストゾンビは上半身だけになる。
「う~~ん,這いずりゾンビになっちまったか。ま、これなら後で轢き潰せばいいだけだから、結果オーライかな」
その後も頭を吹き飛ばす事に失敗し、大半のビーストゾンビが狙撃スペースの和斗へと辿り着いてしまった。
しかし昼と同じ戦法をとれば何の問題もない。
和斗はⅯ16で頭を撃ち抜き、Ⅿ16を掴まれたらⅯ500をぶっ放して、ビーストゾンビを全て撃ち倒したのだった。
「後はビーストゾンビの上半身や頭を踏み潰したら終わりだ」
和斗はマローダー改を発車させると、ビーストゾンビの頭を踏み潰して全滅させてから、カーナビを覗き込んだ。
――ビーストゾンビ71匹を倒しました。
経験値1065
スキルポイント1065
オプションポイント1065
を獲得しました。
累計経験値が3500を超えました。
「お! これはレベルアップしそうだな」
和斗が嬉しそうに呟いたように。
パラパパッパッパパ――!
レベルアップのファンファーレが心地よく響き渡り。
――装甲車レベルが7になりました。
最高速度が160キロになりましました。
加速力が10%、衝撃緩和力が25%アップしました。
登坂性能が65度、車重が50トンになりましました。
装甲レベルが鋼鉄130センチ級になりました。
ⅯPが40になりました。
マローダー改は、またしても強化されたのだった。
ゾンビの15倍ものポイントを稼げるビーストゾンビのおかげで、この日2回目のレベルアップだ。
こうなると、ゲームをやっている感覚が戻ってきて、またしても楽しくなってきた。
「この調子だったら、次のレベルアップも直ぐだな」
和斗は嬉しそうに呟くが、残念ながらこの後、ビーストゾンビの群れを新しく発見する事はなく、疾走ゾンビ3匹とゾンビ6匹を仕留めただけで1日が終わってしまった。
風呂に入り、夕食を楽しみ、そして後はベッドに潜り込むだけ、となったところで。
和斗はいつものように、ⅯPを消費して明日に備える。
「マローダー改にクリーニング発動」
これで風呂やトイレを含めた、マローダー改の室内全部を掃除できるのだから有難い。
そして次は。
「燃料満タン、消費アイテム回復」
これで明日も1日走れるし、今日食べた食料の補充出来た。
後はリロードで武器の弾丸を補充したら、1日の終わりだ。
「あれ、武器の手入れは?」
「おっと、いけね」
リムリアに言われて和斗は思い出す。
銃というものは映画やゲームと違い、必ず手入れが必要だ。
これを怠ると故障が発生する。
だから和斗は狙撃スペースに並べた武器に、クリーニングを発動させる。
武器を1ヶ所に集めて発動させた場合、クリーニングは1回でイイから大助かりだ。
「よし、これで良し。リム、忘れたモンはないかな?」
「うん、大丈夫だと思うよ」
「そうか、なら安心だ。じゃあリム、おやすみ」
「おやすみカズト」
こうして和斗は、この日を終えたのだった。
2020 オオネ サクヤⒸ