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   第六十九話  調査なんかした事ない





 サンクチュアリに巣食う犯罪者の一掃を引き受けた後。


「で? 言っておくが、俺の取り柄は強さだけだ。ゲスラーを叩きのめせ、って言うのなら簡単に出来るが、犯罪組織の調査なんかした事ないし、やり方だって知らない。そんな俺に何をしろと?」


 和斗はシュッツガルドに尋ねた。


「そうだな。まずはサンクチュアリに潜り込んで貰おうかな。その為にゃあ、まずはメイルファイターとして有名になるのが1番の近道だ。サンクチュアリじゃあ毎日、試合が行われている。しかしその試合に、いきなり出場するなんて事は出来ないから、まずはローカルチャンピオンを目指して貰う」

「で? どうやってローカルチャンピオンになるんだ?」

「そらあデカい酒場で開催されてるメイルファイトに飛び入り参加して、強いヤツをブチのめしゃあイイんだ。装鎧とかいうヤツなら楽勝だろ?」

「ナンでカズトの装鎧を知ってんの?」


 警戒を顔に表すリムリアを、シュッツガルドが笑い飛ばす。


「わはははは! そんな顔すんなよ! ボルドーのゴリアテに聞いたんだ。だからカズト、その装鎧とやらで戦ってみろ。ナンなら酒場に居るメイルファイター全員を倒しちまっても構わんぞ! がはははは!」


 そんなシュッツガルドに、和斗も笑みを返す。


「分かり易いな。チャンピオンになるのは簡単だと思う。けど、サンクチュアリに潜り込んでから、どうしたらイイんだ?」

「ソコんトコは、ちゃんと考えてるさ。現場を指揮する人間を用意した。今後はコイツの指示で動いてくれ。おいフィオ!」


 シュッツガルドの大声と共に、1人の少女が部屋に入ってくる。


「フィオです! 豹の獣人です!」


 年の頃は17、8といったところか。

 小柄で、可愛らしい顔をしている。

 ネコミミと尻尾以外は、普通の少女にしか見えない。

 豹の獣人、というよりネコの獣人みたいだ。


「調査担当です! 表向きは、カズトさんのファイターメイルを整備するメカニックです! 宜しく!」

「メカニック?」


 聞き返す和斗に、フィオが説明を始める。


「ファイターメイルの性能をフルに生かすには、体にピッタリとフィットしている必要があるんですよ。でも完全に体型に合わせたファイターメイルを作ってもらうには最低でも2000万ユルは必要なんです。1億を超えるファイターメイルも珍しくありませんから」


 2000万ユルから1億ユル超え。

 日本円換算で、2000万円から1億円以上。

 という事は、ファイターメイルは超高級車みたいなモノなのだろうか。


「だから中古のファイターメイルを自分の体型に合わせて再調整して使うのが普通なんです。その再調整に加えて修理や改造、手入れまでも行うのが、メカニックという職業なんです」


 レーシングチームのメカニックのようなモノだろうか。


「カズトさんは装鎧というモノで戦うのですよね? その装鎧ですが、手入れや修理や改造は必要ないんですよね?」


 フィオの質問に、和斗よりも速くリムリアが答える。


「もちろんだよ! 故障した事なんか無いし、もし故障してもレストアで瞬時に元通りになるモン!」

「ならメカニックは必要ないでしょうが、普通のメイルファイターは、自分専用のメカニックを雇っているものです。だから敵に疑われないように、ワタシがメカニックとして同行します。そしてリムリアさんも同行するのですよね?」

「もちろん! ボクだってSSS超級の冒険者なんだから!」


 即答するリムリアに、フィオが注文を付ける。


「ならリムリアさん。表向きはワタシに付いてメカニックの修行中という事にしておいてください。いきなりメカニックとして働ける筈がありませんから」

「え~~? ボクもメイルファイトしたいなァ」


 リムリアは自分の役目に唇を尖らせるが。


「メイルファイトに参加する目的は、ゲスラーが作り上げた犯罪組織を壊滅させる事なんです。その為に、1番強いカズトさんにメイルファイターとしてサンクチュアリに潜り込んでもらう。これが1番効率的だと思うんですけど?」


 フィオの説明に、渋々、首を縦に振る。


「そ、そうだね」

「そんな残念そうな顔をしないでください。リムリアさんには、カズトさんの影に隠れてワタシと犯罪調査をする、という大仕事をしてもらうのですから。でも、ワタシはそれほど強い冒険者ではないので、リムリアさんの戦闘力を頼らせてもらいます。大丈夫ですよね?」

「任せて! でもフィオ、弱そうには見えないよ?」


 首を傾げるリムリアに、フィオは残念そうな笑みを浮かべる。


「弱くはないと思いますけど、メイルファイターと戦える程は強くありませんから」

「そっかぁ。ま、いいや。じゃあ調査ガンバろ!」

「はい、よろしくお願いします」


 フィオはリムリアに頭を下げてから、和斗に真剣な目を向けた。


「では、さっそく調査を開始したいと思いますが、宜しいですか」

「ああ、いつでもイイぜ」





 という事で。

 和斗は、ギルドから徒歩5分ほどの場所にある酒場に案内された。


 ゴールドヘルム。

 それがこの酒場の名らしい。

 色とりどりの魔法の明かりでライトアップされた、石造りの重厚な建物だ。


「メイルファイトファンの間じゃ、5本の指に入ると噂されてる酒場です。当然ながら強いメイルファイターがひしめき合ってます。カズトさん、ここで飛び入り参加して勝てば、サンクチュアリから大会の参加要請がくる筈です」


 フィオがゴールドヘルムの大きな扉を押し開けると。

 店の真ん中では虎の獣人と、熊の獣人が向かい合っていた。


「オマエをブッ倒して、チャンプの座をいただくぜ!」


 そう怒鳴った虎の獣人は、驚いたコトに身長180センチほど女性だった。

 フィオと同じく、トラ耳とシマシマ尻尾以外は人間と変わらない。

 年齢は20歳くらいか。

 鍛え抜かれた筋肉質の体をしているが、女性らしい美しさを失っていない。

 ゴツイというよりカッコイイ体型だ。 

 一方。


「出来るもんならヤッてみな。しかし分かってるんだろうな? 掛け金は300万ユルだぞ」


 そう言って下品な笑みを浮かべたのは、熊の獣人の男だ。

 年齢は30歳くらい。

 身長2メートルの体は、重装甲鎧並みの筋肉で覆われている。

 顔も体も、クマと人間の中間といった姿だ。

 もし生身の戦いだったなら、虎の獣人は瞬殺されてしまうだろう。


「アタシがオマエなんかに負けるワケないだろ!」


 吼える虎の獣人に、クマの獣人が怒鳴り返す。


「それが負けるんだよ! 残念だったな!」


 睨み合う2人に、酒場内が一気に盛り上がる。


「いいぞ!」

「ブチ殺せェ!」

「いい試合で盛り上げろよ!」

「ジュン、頑張れ!」

「バルフール、勝てよ!」

『ジュン! ジュン! ジュン! ジュン!』

『バルフール! バルフール! バルフール! バルフール!』


 2つの名が、何度も何度も斬り返される。

 ジュンというのが、虎の獣人の名前なのだろう。

 熊の獣人はバルフールだ。

 そんな大歓声の中。


「では両者、ファイト用意!」


 スーツ姿の男が高らかに声を上げた。

 何かの魔法らしく、その声が酒場の端にまで届く。

 と同時に、ジュンとバルフールが鎧を身に着け始める。

 それを手伝っているのが、メカニックなのだろう。


 金属のブーツ、鎧、ガントレット。

 ファイターメイルのパーツを1つ装備する度に、酒場は盛り上がっていく。

 ジュンのファイターメイルは虎のサイボーグのような外見をしていた。

 優美で、見るからにスピードに優れているシルエットだ。

 バルフールのファイターメイルは、重装甲鎧タイプ。

 見るからに堅牢でパワーに溢れている。

 そして最後に。


『うおぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 両者が兜を被ったところで酒場の歓声は、最高潮に達した。

 その大歓声の中。


「レッドスタンドぉぉぉ! 疾風のメイルファイター、ジュンンンン! ブルースタンドぉぉぉ! ゴールドヘルムが主催するメイルファイトで不敗を誇る、剛力のメイルファイター、バルフールぅぅぅ!」


 スーツ男が、ジュンとバルフールの名を呼び上げた。

 

 と同時に。

 今まで騒ぎがウソのように、酒場が静まり返った。

 ピィンと空気が、息苦しいほど張り詰める中。


「10! 9! 8! 7! 6!」


 スーツ男がカウントを始めた。


 と同時にジュンのファイターメイルに魔方陣が幾つも浮かび上がる。

 あれが只の鎧をファイターメイルに変える、強化の魔方陣なのだろう。


 少し遅れてバルフールのファイターメイルにも魔方陣が浮かび上がった。

 しかしその魔方陣は、ジュンのものとは明らかに違う。


「ジュンの魔方陣は速度強化がレベル5、力強化がレベル3、防御力強化がレベル2といったところですね。バルフールのファイターメイルは力強化がレベル7、防御力強化がレベル5といったところでしょうか」


 フィオの分析にリムリアが目を丸くする。


「見ただけで分かるの!?」

「そりゃあメカニックですから」


 とフィオが微笑む間にも。


「5! 4! 3! 2! 1!」


 スーツ男のカウントが進んでいく。

 それに従って酒場の緊張が圧縮されていき、そして。


「ファイト!」


 開戦の合図と共に。


『いけぇええええええええええええええ!!!!』


 観客の声援が爆発した。

 その爆風に吹き飛ばされるように、ジュンとバルフールがぶつかり合う。


「ゴォオオオオオオオオ!」


 バルフールが丸太のような腕で、ジュンに殴り掛かる。

 が、それよりも速く。


「ガァアアアアアアアア!」


 ガン!


 ジュンの拳が火花を散らして、バルフールの鎧に打ち込まれた。

 しかしバルフールの重装甲の前には効果が薄い。


「なら何発でも殴り回してやるよ!」


 ジュンが更に拳を打ち込もうとするが。


「なんの!」


 バルフールがジュンを薙ぎ払う。

 その太い腕に込められたパワーは城壁さえ砕くものだったが。


「アクビがでるぜ!」


 ジュンは楽々とバルフールの腕を掻い潜ると、またしても拳を叩き込んだ。

 そんな攻防に。


「勝負あったな。ジュンというメイルファイターの勝ちだ」


 和斗は静かに言い放った。


「そう? まだ分からないんじゃないの? バルフールはタフだし、それにあのパワーだもん。1発当たれば逆転するんじゃない?」


 リムリアの感想に、和斗は首を横に振る。


「いや、バルフールのスピードじゃあ、1日戦ってもジュンに当てる事はできないだろう。逆にジュンの拳は、確実にダメージを蓄積させている。多分、あと30発ほどジュンの拳を受けたトコで、バルフールは倒れるだろうな」


 和斗の分析にフィオが頷く。


「さすがですね、的確な評価です。ジュンの勝ちは間違いないでしょうね」


 しかし、その直後。


「な!?」


 ジュンのファイターメイルの魔方陣から輝きが失われた。

 と同時にジュンの動きが一気に悪くなる。


 それも当然。

 速度強化のないファイターメイルは、重い鎧でしかないのだから。

 その動きが鈍ったジュンに。


「おらぁ!」


 バルフールが殴り掛かる。


「ち!」


 ジュンは何とかバルフールの拳を受け流すが、威力を殺し切れていない。


「おらおら、さっきまでの威勢はどうした!」


 バルフールが連打を放つ。

 今度はジュンがダメージを蓄積させていく。


「ねえカズト、あれってマズいんじゃないの!?」


 パシパシと和斗を叩くリムリアに。


「はい。ジュンは大ピンチですね」


 和斗より速くフィオが答える。


「魔方陣がなければファイターメイルは只の鎧です。只の鎧がファイターメイルの攻撃に耐えられる筈がありません。このままでは負けてしまうどころか、命も危ういかも」

「ファイターメイルが故障したのかな?」


 リムリアの疑問に、フィオが険しい顔を横に振る。


「いえ、仕組まれたモノだと思いますよ。ファイターメイルに刻まれた魔方陣が全て1度に消え失せるなんて事、有り得ませんから。多分ジュンのメカニックが、バルフールに買収でもされたのでしょう。その証拠に、まだメイルファイトの途中だというのにメカニックの姿が見えません」


 確かにジュンのメカニックの姿は消えていた。

 バルフールのメカニックは後ろで戦いを見守っているのに。

 そして、その直後。


 ドカン!


 金属と金属が激突する音が響き、バルフールの拳がジュンの腹にめり込んだ。

 その一撃に、ジュンのファイターメイルはボコンと凹み。


「がは!」


 ジュンは血を吐いて、床に膝を突いたのだった。





2021 オオネ サクヤⒸ

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