第六十五話 ボコボコにしてやるから掛かって来い
「さて、チンピラ。ボコボコにしてやるから掛かって来い」
訓練場の中央に進み出る和斗に、レンヌが怒鳴る。
「テメェの相手はアタシだと言っただろ! 弱いクセにシャルルと戦おうなんて10億年早いよ!」
「1億年じゃなかったのか?」
「うるせぇ!」
レンヌはワーウルフに姿を変えると、襲いかかってきた。
先程のSS級拳闘士との戦いと違い、最初から全力だ。
空気を撃ち抜いて拳が襲ってくる。
だが時速19500キロで動ける和斗にとって、アクビが出る速度でしかない。
「よ、と」
和斗は気の抜けた声と共にレンヌの拳を躱した。
そして挑発する。
「おい、俺はシャルルと戦うには10億年早いくらい弱いんだろ? その弱者にすら躱されてるオマエは、どんだけ弱いんだ?」
その言葉に、レンヌの目が一瞬で血走った。
「テメェ! 殺してやる!」
その言葉通り、レンヌは殺気を込めた攻撃を放ってくる。
爪。
蹴り。
拳。
頭突き。
全身のあらゆる部分を使った攻撃だったが。
「ほいほい、ほいっと」
和斗は全てを楽々と躱した。
その光景に、シャルルの部下達が顔色を変える。
「姉御の打撃を躱した!?」
「今まで躱した者なんて1人もいないんだぞ!」
「躱すどころか、目で捕らえる事すら不可能なのに!」
「ナンでそんなコト出来るんだよ!」
騒ぐシャルルの部下達に和斗は。
「俺の方が強いからだ」
そう言いながらレンヌの攻撃を躱し続ける。
どんな攻撃しても当たらない。
その事実をイヤというほど思い知らせてから、和斗はレンヌを笑う。
「その程度か?」
「こ、こんな馬鹿な……」
レンヌは自慢の攻撃を全て躱されて呆然となるが。
「チクショウ! 今度こそ当ててやる!」
怒り狂って、更に苛烈な攻撃をはなってきた。
空気を斬り裂く爪。
うなりを上げる蹴り。
全体重をかけた拳。
岩すら砕きそうな頭突き。
全身のあらゆる部分を使った、その攻撃の嵐を。
「そら」
和斗は柔らかな動きで、攻撃の軌道を逸らした。
ダメージを一切受けない防御技=空手の『受け流し』だ。
その光景に、シャルルの部下達は真っ青になる。
「マズいぜ!」
「打撃を命中させる事が出来ないコトを証明した後……」
「今度は技術でも上だと証明しやがった……」
「このままじゃ姉御は……」
「んなワケあるか!」
「そうだ! 姉御は不敗だ!」
元気を取り戻したシャルルの部下達に、和斗はフンと鼻を鳴らすと。
「そら、まさかコレで終わりじゃないよな? ドンドン来いよ」
そう口にした。
この和斗の更なる挑発に。
「当たれェェェェェ!」
レンヌは叫びながら攻撃してくるが、和斗は全てを受け流す。
「何でだ! 何で当たらない!」
地面を殴って悔しがるレンヌを和斗は嘲笑う。
「お前がトロイからだ」
「テメェ! くそ、攻撃さえ当たりゃあ……攻撃さえ当たればこんなヤツ!」
悔しそうに呻くレンヌに、和斗は両手を広げてみせる。
「そうか。当たりさえすれば勝てるのか。じゃあオレは動かないから当ててみろ」
「何だとォ。ナメやがって! ならお言葉に甘えさせてもらうぜ! 血反吐を吐きながら後悔しやがれ! いや、後悔する暇すら与えねぇ! 瞬殺してやるぜ!」
レンヌは目を狂喜に染めながら攻撃にかかってきた。
空間ごと斬り裂くような爪。
轟音を上げる蹴り。
渾身の力を込めた拳。
鋼鉄すら叩き割りそうな頭突き。
全身を凶器と化した、その攻撃の暴風雨を和斗は身動きもせず受け止めた。
そして。
レンヌの爪は砕け散り。
脚はへし折れ。
拳は潰れ。
頭はバックリと割れた。
和斗の防御力は鋼鉄22000キロメートル相当。
当然の結果だ。
しかしその光景に、シャルルの部下達は死人の顔色になる。
「装甲板すら切り裂く姉御の爪が通用しない!?」
「蹴った方の脚がへし折れるなんて、こんなのアリかよ!」
「ミスリルすら砕く姉御の拳が潰れた!?」
「バトルアックスすら跳ね返す姉御の額が、骨が見えるほどの傷を負っただと!」
「信じられねぇ!」
シャルルの部下達の悲壮な声が響くなか。
「ひぎぃいいいいいいいいいいい!」
レンヌは血塗れになって地面に崩れ落ちていた。
普通なら戦闘不能の重傷だ。
が、そこに。
「上位回復魔法! 再生魔法!」
シャルルの声が響き、レンヌの体が元通りに復元する。
「ほう。チンピラのクセに回復魔法も使えるのか」
和斗に視線を向けられたシャルルが、傲慢な態度で答える。
「オレは天才だからな。それよりどうする? オレがいる限りレンヌを倒す事は出来ないぜ?」
「問題ない」
シャルルにそれだけ告げると、和斗はレンヌに歩み寄る。
「お前の攻撃を躱す事は簡単だ。そして無効化する事も。そしてお前の攻撃力では俺に傷一つ付けられない。理解したか?」
ジロリと睨む和斗に、レンヌはバッと襲いかかる。
「ふざけんな!」
だが和斗の動きの方が速い。
「今度は俺のターンだ」
そして和斗は拳を突き出した。
殴ったのではない。
レンヌに向かって腕を伸ばしただけだ。
その拳はズシン! とレンヌを捉えた。
しかしレンヌは和斗の拳を右腕でガードしている。
「テメェの拳こそ、大した事ねぇな!」
口では強がったものの。
レンヌは内心、冷や汗を流していた。
(なんだい、今の一撃は! 力を入れたように見えなかったし、スピードだってアクビが出るくらい遅かった。なのにこの、全身を砕かれたような衝撃! 何なんだよコレは!?)
焦りで真っ青なレンヌに。
「そうか?」
和斗はそれだけを口にしてから、腕を振り上げる。
そして。
「これならどうだ?」
軽い口調と共に、振り下ろす。
というより腕を、自然落下に任せた。
その落下させただけの和斗の腕は。
ドシン!
ガードした右腕ごと、レンヌを地面に叩き付けたのだった。
「がはッ!」
レンヌはビチャっと血を吐きながらも。
「この程度じゃアタシを倒す事は出来ないぞ!」
必死の形相で立ち上がった。
「テメェはアタシの攻撃を全部、受けきりやがった! ならアタシもテメェの攻撃を全て受けきってみせる!」
「そうか」
和斗はレンヌの咆哮をアッサリと聞き流すと。
「そら」
先程より少しだけ力を乗せて、腕をレンヌに落下させた。
「今度こそ受けきってやらァ!」
レンヌは両手をクロスさせ、しっかりと踏ん張ってガードするが。
ドッシィン!
「がはぁあああああ!」
レンヌは訓練場の床を砕いて、地面にめり込んだのだった。
「どうだ? 負けを認めたらどうだ? 自分で思うほど、お前は強くない」
心をへし折る為、和斗はワザとレンヌを言葉で追い詰めるが。
「かかったねェェェ!」
レンヌは砕けた床を撥ね飛ばしながら和斗に襲いかかった。
その狙いは、和斗の眼球だ。
「どれほど鍛えても生物には鍛えられない場所があるんだよ! ここは甘っちょろい試合の場所じゃない! 綺麗も汚いもない殺し合いで勝つ訓練をする軍隊の訓練場だ! 自分の甘さを地獄で後悔しやがれ」
レンヌの爪は今までにない速さで和斗の眼球へと突き出された。
この1撃の全てをかけたのだろう。
そのレンヌの全身全霊を込めた爪は和斗の眼球を捉え、そして。
キン。
小さな金属音を立てて、へし折れたのだった。
「鍛えても鍛えられない場所? お前等みたいなゴミの理屈で物を言うな」
和斗はさきほどのシャルルと同じ言葉を口にすると。
「だが、お前の戦い方には、少しイラっとした。ちょっと対応を厳しくするぞ」
和斗は初めて空手の構えを取った。
そして軽い正拳突きを繰り出す。
軽いが手を抜いた一撃ではない。
破壊力を極めた拳撃のフォームそのままに、速度と力をセーブした攻撃だ。
そして空手の技は、形さえ正しければ、相応の破壊力を発揮する。
だから和斗の、一見スローに見える正拳突きは。
ゴシャ。
レンヌの腕を、骨ごと破壊したのだった。
「ヒギャァァ!」
悲鳴を上げるレンヌに、更に追撃の正拳突き。
「何度も食らってたまるか!」
今度は何とか直撃を避けるレンヌだったが、和斗の正拳突きは。
ガシュ!
レンヌの脇腹を僅かに掠り、そして脇腹の肉をゴッソリと抉り取った。
「ウギャァアアアア!」
レンヌがバシャリと血が零れる脇腹を押さえてうずくまるが、そこに。
「再生魔法! 上位回復魔法!」
またもやシャルルの声が響き、レンヌの傷が元通りになる。
だがレンヌはうずくまったまま動かない。
やっとで心を折る事に成功したかな?
などと和斗が考えていると。
「レンヌ! お前はオレのワーウルフなんだぞ! そんなオーラも纏えない弱者に負けるなんざ、許される事じゃねぇんだよ!」
そこにシャルルの怒鳴り声が響いた。
「レンヌ、戦え! ここは訓練場だから死ぬ事は絶対なェんだ! それに、どんな怪我を負おうがオレが絶対に治してやるからよォ、最後まで諦めずに死力を尽くして戦え!」
「分かったよ! まったく人使いの荒いパートナーだぜ。今から特攻を仕掛けるから、ちゃんと援護しろよ!」
「ああ、任しとけ」
シャルルの答えを聞いて、レンヌはユラリと立ち上がる。
「という事だからよ。テメェをブッ倒すまでアタシは止まらないよ!」
そのレンヌの後ろでシャルルが叫ぶ。
「攻撃力強化! 速度強化! 防御力強化! 恐怖無効! 精神不屈!」
「きたきたきたァ! これで勝利間違いなしさ!」
様々な強化を受けて、レンヌは今まで以上に苛烈な攻撃を放ってくる。
その攻撃を顔色も変えずに体で受け止めると。
「効かんな」
和斗はニヤリと笑い。
「な! 今までの5倍の破壊力なのに無傷だと!」
愕然とするレンヌに正拳突きを放った。
速度は先程と同じ。
だが、空手の基本通りに放たれた、その一撃は。
グチャン!
レンヌのあばら骨を8本、へし折った。
しかし。
「ぐはぁ! ……まだだよ!」
レンヌは動きを止めず、攻撃して来る。
が、その瞬間。
「ごぱ!」
レンヌは大量の血を吐いて蹲った。
あばら骨を砕く事もできた。
しかし折るだけに留めたのは理由がある。
「折れたあばら骨が内蔵に突き刺さった。動けば更に深く刺さるぞ」
「ひ!」
和斗の説明にレンヌは怯えた目になるが。
「治療魔法! 回復魔法!」
シャルルに回復され、またしても襲いかかってくる。
「致命傷を与えるのは簡単だけど、それじゃあ心を折る事にならないし……そうだな、コレでいくか」
和斗はそう呟くと。
バチィン!
レンヌの太腿を蹴り抜く。
その蹴りはレンヌの太腿の筋肉を潰し、大腿骨を砕いた。
「ぎゃひぃ!」
砕けた足の痛みに耐えきれず、レンヌは地面に倒れ込む。
「脚くらいでどうした! 致命傷には程遠いだろうがァ!」
シャルルが怒鳴り、レンヌを回復させる。
しかしシャルルは分かっていない。
脚へのダメージは、他の場所へのダメージとは違う。
戦闘意欲を消失させる程の痛みを相手に与える打撃。
それが足への蹴りなのだ。
同時に。
脚へのダメージは、全ての攻撃が弱体化してしまう。
足を蹴られると、その痛みでシッカリ踏ん張る事が出来なくなるからだ。
踏ん張りが効かない攻撃では、敵にダメージを与えられない。
「そら!」
バチィン!
和斗の蹴りがヒットする度に。
「ひぎゃ!」
レンヌは足を繰り潰されて悲鳴を上げた。
「チクショウ!」
それでもレンヌは反撃してくる。
だが、レンヌの攻撃が通用しない事は、本人が1番分かっている。
そしてシャルルに回復されても。
バチィン!
「あぎぃ!」
直ぐに足を蹴り砕かれ、痛みにのたうち回る。
シャルルは何度でもレンヌを回復させるが。
その直後にレンヌは足を蹴り砕かれる。
それが何度も何度も繰り返された後。
「もう止めてくれ……もう蹴らないでくれよぉ……」
レンヌは床にうずくまって動かなくなった。
こうして和斗はレンヌの心を折る事に成功したのだった。
2021 オオネ サクヤⒸ




