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   第六十四話  訓練場にて





「死ねぇ!」


 レンヌのパンチが顔面にヒットした、その瞬間。


 バシュ!


 SS級拳闘士の姿は消えてしまった。


「あ、あれ? どうなったの?」


 身を乗り出すリムリアに、モンターニュが訓練場の外れを指差す。


「致命傷を受けた場合、その攻撃を無効化して場外に転送する魔方陣が設置されているのです。怪我なら治療魔法で治せますので」


 しかし、SS級拳闘士はピクリとも動かない。

 そんなSS級拳闘士に。


「いかん!」

「とんでもない重傷だぞ!」

「医療兵、早く!」

「ワーウフルロードの肉体を、ここまで破壊するなんて!」

「回復魔法だけじゃダメだ、再生魔法も急げ!」


 医療兵が駆け寄り、治療を始める。

 致命傷を受けたら転送するが、負った怪我はそのまま。

 それが、この訓練場の特徴のようだ。


「少しくらい痛いメに遭わないと、本気の訓練にはならないから?」


 リムリアの質問に、モンターニュが頷く。


「はい。ここは軍隊ですから」

「でも、これはやり過ぎだよね?」

「はい。やり過ぎです」


 モンターニュはリムリアにそう答えると、レンヌに向かって叫ぶ。


「レンヌ! ここまでやる必要が、どこにある! これは訓練だぞ!」


 上官からの叱責にも関わらず、レンヌはにやけた顔で返す。


「軍隊ってのは、敵を殺す為に存在してるんだろ? 戦場で相手をぶち殺す為の訓練をして、何が悪い? それに」


 そこでレンヌはニィッとと笑う。


「文句があるのなら止めたら良かったんだ。腕ずくで、な」

「ぐ」


 モンターニュは『腕ずく』を強調されて唇を噛む。

 自分達より強い者がいないと分かった上での発言だ。


「くそ!」


 小さく吐き捨てるモンターニュに、今度はシャルルがニヤリと笑う。


「コイツ等に負けてオレ達は大人しくなる事を期待してたんだろうが、残念だったな。レンヌにコテンパンに負けちまったぞ」

「うるさい! まだ2人残っている!」


 怒鳴るモンターニュに、シャルルが楽しそうな目を向ける。


「そうかい。じゃあ今度はオレが戦おう。つまらない事を2度と考えないように2人揃って相手してやる」


 その言葉に反応したのは、SS級剣士とSS級魔法使いだった。


「SS級2人を相手にするだと! ふざけやがって!」

「まあいいじゃないか。アイツが自分から言い出したんだ。SS級2人を相手にする事が、どれほど無謀だったか思い知ってもらえば良い」


 SS級剣士とSS級魔法使いに、シャルルは鼻を鳴らす。


「ふん。口じゃあなんとでも言える。さっさと掛かって来い」


 そしてクイッと指を動かしたシャルルに。


「キサマァァァ!」


 SS級剣士が斬りかかった。

 と同時に。


「メガサンダー!」


 SS級魔法使いが雷撃を放つ。


「どうだ! 物理障壁と魔法障壁を同時に展開する事は出来ない! 斬撃を物理障壁で防御すればメガサンダーを、メガサンダーを魔法障壁で防御すれば斬撃を食らうしかないぞ!」


 そして斬撃を躱そうとしても、ドラクルの一族の身体能力では不可能だ。


「口ほどにもなかったな」


 SS級剣士はシャルルに剣を振り下ろした。

 しかし、その斬撃は。


 ギャリン!


 シャルルが展開した物理障壁によって止められてしまった。

 だがSS級剣士は落胆などしない。

 斬撃を止めた以上、シャルルは攻撃魔法を防ぐ事が出来ないからだ。

 

 これでシャルルはメガサンダーによって致命傷を受けて退場だ!

 SS級剣士は勝利を信じて疑わなかったが。

 

 バチィ!

 

 メガサンダーは魔法障壁によって防御されてしまった。


「斬撃とメガサンダーを同時に無効化だと!」

「そんな事、出来る訳がない!」


 目を見開くSS級剣士とSS級魔法使いを、シャルルが嘲笑う。


「物理障壁と魔法障壁を同時に展開する事は不可能? オマエ等みたいなゴミの理屈で物を言うな。オレほどの天才なら不可能も可能にするんだよ。エア・カッター」


 言い終わりに合わせて、シャルルは風の刃を飛ばした。

 それは不可視の攻撃だったが。


「なんの!」


 SS級剣士は風の刃を剣で切断し。


「魔法障壁!」


 SS級魔法使いは魔法障壁で弾き返した。

 が、シャルルは更に笑みを濃くして。


「エア・ジャベリン」


 風の槍を撃ち出した。

 これも切り落とされ、弾き返されると。


「エア・キャノン」


 今度は風の砲弾を撃ち出した。

 シャルルは笑みを浮かべながら、少しずつ魔法を強力にしていく。

 その風の砲弾も切り落とされ、弾き返されるが。


「どうした! 余裕が無くなってきたぞ」


 シャルルの笑みに、邪悪なモノは混じる。


「なら次にいこうか? エア・ミサイル!」


 シャルルが、更に強力な魔法を放った。

 SS級2人が耐えられない事を確信して。

 そして、その風のミサイルは。


「ぐは!」


 SS級剣士の剣をへし折り。


「がは!」


 SS級魔法使いの魔法障壁を撃ち抜いた。


「けど、まだ致命傷じゃないみたいだね。エア・バルカン」


 今度の魔法は、エア・キャノンよりも威力は下だ。

 しかし貫通力が強い風の弾丸を、魔力が尽きるまで撃ち出す魔法だ。

 シャルルは、その風の弾丸で。


「ぎゃぁあああああああああああああああああ!」

「うぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 SS級剣士とSS級魔法使いの手足に、執拗に撃ち込んだ。

 手足がハチの巣のなり、ミンチになり、付け根から消失したとこで。


「げふッ!」

「ぎゃば!」


 今度は腰から下に着弾を集中させる。

 そして下半身が消失し、胸に弾丸を撃ち込み始めたところで。


 バシュ!

 バシュ!


 SS級剣士とSS級魔法使いの体は場外へと転送された。


「さすがSS級、頑丈だね。ぎゃはははは!」


 シャルルの馬鹿笑いが響く中。


「大変だ、死にかけてるぞ!」

「蘇生魔法を使える者! 非常招集!」

「回復魔法を使えるヤツを全員呼んで来い!」

「再生魔法を使えるヤツも全員だ!」


 医務兵が大騒ぎに陥っていた。

 シャルルは、そんな大騒ぎを眺めながらニヤニヤと笑っている。

 レンヌにいたっては、腹を抱えて笑い転げていた。


「弱っちいヤツがチョーシこいて跳ねまわってるからさ!」


 そんなシャルルとレンヌの態度に、和斗は。


「確かにこれは、徹底的に痛めつけないとダメだな」


 そう口にした。

 べつに怒鳴ったワケではない。

 しかし和斗の声は訓練場全体を貫いた。

 当然ながら。


「あ?」

「今、何て言ったんだい?」


 シャルルとレンヌの耳にも届いたらしく、2人揃って顔を歪めた。


「もう1度、良く聞こえるように言ってくれないか?」


 凄むシャルルに、和斗はハッキリと言い切る。


「弱い者イジメしか出来ないカスは、ゴメンナサイと泣いて謝るまで情け容赦なくボコボコしてやる。そう言ったんだ」

「てめぇ!」


 シャルルは顔を真っ赤にしてカズトに掴み掛かろうとするが。


「くくくく、くははははははは!」


 いきなり大笑いを始めた。


「くははははははは! 強者ってのは無意識にオーラを纏うモンなんだよ! なのにキサマからはオーラの欠片も感じねぇ! そんなキサマが、ランス領最強のオレ様をボコボコにするだァ? 出来るモンならやってみろ!」


 先程までのバカ丁寧な話し方から、チンピラの口調になっている。

 これが本来のシャルルなのだろう。

 そのチンピラに、レンヌも続く。


「本当だ、コイツからは全くオーラを感じない。これじゃあノルマンド軍の1番下っ端の方がよっぽど強いじゃねぇか。こんな弱いヤツがシャルルに挑戦するなんて1億年速いんだよ!」


 そしてレンヌは発達した犬歯を剥いて和斗に吼える。


「テメェみたいな弱者、シャルルが相手をするまでもない! アタシが相手してやるよ! いや、待ちな」


 急に冷静になったレンヌがモンターニュをジロリと睨む。


「ノルマンド軍の訓練場に、1度も見た事がないヤツがいる。って事はこれ、アンタの差し金なんだろ?」


 上官、いやノルマンド軍の最高司令官をアンタと呼ぶ。

 これは軍隊では、絶対に許されない行為だ。


 そのレンヌの言葉に訓練場が凍りつく。

 部下の反抗的な態度を許していたら、戦場では全員に危険が及ぶ。

 だから上官は反抗的な部下を殺しても、何の処罰も受けない。

 ならばモンターニュはどうするのだろうか?

 この場に居る全員が、息をする事も忘れて注目する中。。


「どうだい? アタシと賭けをしないかい?」


 レンヌの声が響き渡った。


「もしアタシがコイツに勝ったら……そうだな。今度一切、アタシ達がやる事に文句を言わない。どうだい?」


 ニヤリと笑うレンヌに、シャルルも続く。


「それはいい。オレ達がソイツに勝てば、オレの部隊は今後、独立部隊として独自の活動をする。以後、軍の制約はうけない。どうだ、この条件を呑むか?」


 そのシャルルの条件にシャルルの部下が歓声を上げる。


「いいぞ!」

「ヒュウヒュウ――!」

「ボスについてきて良かった!」

「でも勝ったらだろ?」

「バカ、レンヌの姉御が負けるわけないだろ!」

「それもそうか」

「ってコトは、遊んで金が貰えるって事だよな」

「やった――!」

「これで掃除洗濯しなくて済むぞ!」

「皿洗いもな!」

「イモの皮むきもだ!」

「ひゃっほ――!」


 シャルルの一党が大騒ぎする中。


「その程度の条件でいいのか? なんならノルマンド連隊の連隊長の座を受け渡してもいいぞ」


 モンターニュは、そう言い放った。


『え!?』


 モンターニュのとんでもない発言に、訓練場は大騒ぎに陥る。


「連隊長、本気ですか!」

「そんな無茶な!」

「考え直してください!」

「我々はアナタの部下です!」

「アナタ以外の上官なんて考えられません!」

「シャルルの部下なんて耐えられません!」

「もしそんな事になったら除隊願いを出します!」


 どうやらまともな兵士の方が多いみたいだ。

 そんなまともな兵士に、モンターニュは自信満々の顔を向ける。


「大丈夫だ、ワタシを信じてくれ。そしてワタシが信頼したカズト殿を、皆も信じてくれ!」


 そしてモンターニュはシャルルに冷たい視線を向ける。


「シャルル! キサマはランス領最強なんて言っているようだが、弱いクセに自分が強いとカン違いして偉そうにしているイタい馬鹿に、カズト殿が負けるワケがなかろう!」


 モンターニュの挑発に、シャルルの額に青筋が浮かぶ。


「そこまで言った以上、もう後には引けねぇぞ。面白れぇ。そのナンのオーラも感じない弱者をブッ倒して、オレがノルマンド連隊の連隊長になってやる。そしたらお前はオレの慰安兵だ! ヒイヒイ泣かしてやるからな!」

「ランス領に慰安兵など存在するか! この愚か者が!」


 本気で腹を立てるモンターニュに、シャルルが下品な笑みを浮かべる。


「ノルマンド連隊にはあるんだよ! オレが連隊長になったらなぁ」

「そうか、このクズが! 分かった、お前が勝てば好きにするが良い!」


 そう怒鳴ってから、モンターニュは和斗に向き直る。


「カズト殿、いきなり戦うコトになってしまって済まない。つい冷静さを失ってしまった。連隊長失格だ」


 頭を下げるモンターニュの肩に、和斗はポンと手を置く。


「謝る必要なあんかない。最初に挑発したのは俺なんだから」


 そして和斗はシャルルに視線を向けた。


「さて、腐ったカスをボコボコにするか」





はい、わかる人には分かりますね。名作アニメ映画の、あのシーンです。

天空の城の映画、大好きです。


2021 オオネ サクヤⒸ 

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