表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/211

   第六十三話  モンターニュからの依頼


  



 ランス地下大迷宮での、至高神との会話の後。

 ボルドー冒険者ギルドを後にした和斗とリムリアは、ドンレミに戻って来た。

 今まで通りの旅を続ける為に。


「ねえカズト。次の街までの護衛の依頼があったらいいね」

「ああ。ミナみたいな善良な商人を手助けできたらイイな」

「そうだね」


 というワケで。


「マクロン~~! 護衛の依頼ある~~?」


 和斗とリムリアがドンレミ冒険者ギルドに顔を出すと。


「アーマードラゴンを倒したカズト殿とワラキアの姫君に、ぜひお願いがあります!」


 ギルドの入り口から、モンターニュが必死の形相で飛び出して来た。


「え~~と、どゆコト?」


 リムリアが、モンターニュの勢いに引いていると。


「ランス軍からの依頼だ」


 モンターニュの後ろから、マクロンが顔を出した。


「まあ、あまり人に聞かれたくない話なんでな。オレの部屋まで来てくれ」


 という事で。

 ギルドマスターの執務室で、マクロンは説明を始めた。



 ノルマンドを護る為にモンターニュが引き連れてきたのは。


 ドラクルの一族    30名

 ワーウフルロード   30名

 ハイ・ワーウルフ  900名

 ワーウルフ   15000名

 冒険者      1000名


 ノルマンドを護っていた人員と、ほぼ同じ規模の軍だ。


 逆に言えばランス領は。

 これほどの戦闘要員を、クーロンとの戦闘で失ったワケだ。

 これほどの人数を、同じレベルで揃えるのは不可能。

 だからノルマンドでは毎日、軍事訓練に明け暮れているらしい。


 ちなみに。

 冒険者に必要なのは個人としての戦闘力だ。

 パーティーを組む事もあるので、チームワークが必要な事もあるが。

 

 しかし軍隊は違う。

 集団で戦う事を前提として個人の戦闘力を高める。

 言い換えると。

 統率のとれた集団戦により、個人の戦闘力を何倍にも高める。

 これが軍隊の戦い方であり、軍人に求められる戦い方だ。


 個人の強さや技量は、当然ながら求められる。

 しかし集団戦の訓練も必要不可欠だ。

 だから軍隊では毎日、厳しい訓練を行っている。

 個人の戦闘力を高める為の訓練と、軍隊としての戦闘力を高める為の訓練だ。


「そんな軍隊に、ボク達が手伝うコトあるの?」


 首を傾げるリムリアに、モンターニュが唇を噛む。


「それが、その……軍事訓練は、当然ながら軍事教官が行うのですが、今回の新人には異常なほど戦闘力が高い者が混じっていまして、自分より弱い教官が言う事など聞けない、と訓練を拒否しているのです」

「ならソイツ等より強い教官を呼んでくればイイじゃん」


 即答するリムリアに、モンターニュが言いにくそうに言葉を絞り出す。


「もちろんランス領最強の戦士を呼び寄せました。そして摸擬戦で戦わせたのですが、それが……」


 ドラクルの一族が治める土地では、最強の魔力を持つドラクルが統治者だ。

 そして、その統治者のワーウルフロードが軍のトップとなる。

 もちろんランス領も、例外ではない。

 つまりランス領最強の戦士とは、最強のワーウフルロードという事になる。


「それが負けたの!?」


 目を丸くするリムリアに、モンターニュが弱々しく頷く。


「はい。つまりその新人は、実質ランス領最強。ですので天狗になってしまい、上官の命令にも従いません。罰を与えようにも戦闘力はアチラが遥かに上。ノルマンド軍は崩壊寸前です」

「ならクビにしたらイイんじゃないの?」


 リムリアの疑問に、モンターニュが首を横に振る。


「それが問題の新人というのはランス領主様の次男様で、解任したくても出来ないのです」

「ランス領主ってバカなの!? バカ息子の為に、ノルマンド軍が崩壊してもイイっての!?」


 怒りを爆発させるリムリアに、モンターニュが困り果てた顔を見せる。


「それが、領主様も困っているのです。領主様は、我が儘に育ってしまったので鍛え直して欲しい、と次男様を軍に入隊させたのです。ところが流石領主の血筋、この次男様の戦闘力はランス領最強だったのです」


 そこでモンターニュは和斗の両手をガシッと握った。


「だからカズト殿! 其方のアーマードラゴンを倒すほどの力で、次男様を立ち直らせてほしいのだ!」

「腐った性格は死ぬまで治らないよ」


 呆れ気味のリムリアに、モンターニュは真顔になる。


「それでもかまいません。上には上がいる事を思い知って謙虚になるのが1番望ましいのですが、救いようがないほど腐っていれば、立ち直れないほど心をへし折ってください」


 その言葉に、今まで黙って聞いていた和斗が声を上げる。


「いいのか? 領主の次男なんだろ?」

「かまいません」

「バカを叩き潰すのは構わないけど、モンターニュの立場が悪くなるんじゃないの? 最悪、処刑されるとか?」

 リムリアの心配に、モンターニュはキッパリと言い切る。


「いえ、これは領主様もご存じです。もし次男様がランス領の害となるなら排除もやむなし、と」


 領主としてやるべき事は分かっているのだろう。

 救いようのないバカ親ではないらしい。


「さすがは領主だな」


 感心する和斗に、リムリアがため息をつく。


「ランス領主が、バカ息子の為に軍を崩壊させるような無能だったら、とっくに長老会から領主を解任されてるからね。そこは領主として判断したみたい。まあ、遅すぎとも思うけど」


 そんなリムリアに、モンターニュの表情が鋼鉄に変わる。


「だからこれが、彼にとって最後のチャンスなのです」


 そこに秘められたモンターニュの覚悟を覚り。


「わかった。リムもそれでいいか?」

「うん」


 和斗とリムリアは、依頼を引き受ける事にしたのだった。




 かつてノルマンド要塞が築かれていた場所には荒野が広がっていた。

 その見渡す限りの荒野の一画に、大きなテントが幾つも設置されている。

 軍隊関係のテント群と、民間人の為のテント群だ。

 その民間人の為のテントには、ドンレミに逃げて来た、あの人々がいる。

 そう思っただけで胸にこみ上げてくるものがある。




「頑張ってね。ボクも応援するから、負けないで」


 ギュッと拳を握るリムリアの肩を、和斗がポンと叩く。


「大丈夫だ。ドンレミを出発する時の彼らの顔を見ただろ?」


 和斗とリムリアが素材狩りに同行した、あの日。

 実はノルマンドの民も、再建を手伝う為にノルマンドへと出発していた。


「しっかり復興資金を稼いでくるからね!」


 そう叫ぶリムリアに、ノルマンドの人々は。


「ありがとよ」

「でも無理しちゃダメだよ」


 逆にリムリアの心配をしながら、でも、実に明るい顔で旅立っていった。

 あの笑顔を浮かべる事が出来るのなら、きっと心配はいらない。




「うん、そうだね」


 ニコリと笑うリムリアに、モンターニュが声をかける。


「やっと瓦礫の撤去が終わりました。ノルマンド再建はここからなのです。ではこちらへ」


 モンターニュが案内したのはテント群の中で1番大きなテントだった。


「ここが臨時の司令部です」

「おっきいね」


 キョロキョロとテントを見回すリムリアに、モンターニュが説明する。


「情報管理部、作戦部、会議室なども一緒ですから。興味があれば、ご案内いたしますが」


 その申し出に、和斗は首を横に振る。


「いや、それより問題の次男を見たい」

「わかりました。今の時間なら訓練場にいる筈です」


 モンターニュに案内されたのは、サッカー場ほどの広場だった。

 魔方陣を刻んだ鉄柱が4隅を囲んでいる。

 そんな訓練場の片隅で。


「ぎゃははははははは!」


 訓練時間だというのに、座り込んで下品な笑い声を上げている男がいた。

 ドラクルの一族だから実年齢は分からないが、見た目は20歳くらい。

 ヒョロッとした体型だが、弛んだ腹をしている。

 運動不足の所為だろう。

 とても訓練を受けた兵士には見えない。


「あれが領主様の次男、シャルル様です」

「部下なのに『様』をつけてるの?」


 リムリアの非難の響きを含んだ質問に。


「もちろん、公式の場では呼び捨てですよ」


 そう口にすると、モンターニュは声を張り上げる。


「シャルル分隊長! 訓練時間に何をしている!」

「これはこれは連隊長殿。いえね、訓練相手がいないので、ちょっと休憩していたところです」


 あ、こいつ腐ってる。


 和斗はシャルルを見た瞬間、そう思った。

 捻じ曲がった根性丸出しの下品な顔。

 人を見下した態度。

 嫌味で、つけ上がった喋り方。

 害にしかならない人間の典型だ。


「そう言うと思って、良い訓練相手を用意してやったぞ」


 さて、自分の出番だ。

 和斗はそう思ったが。


「冒険者ギルドし紹介してもらった冒険者だ。彼らなら十分だろう?」


 モンターニュの言葉と共に、3人の男が進み出る。


「SS級の拳闘士と剣士、そして魔法使いだ」

「へえ」


 シャルルが顔を醜く歪める。


「SS級、つまり5万人相当の戦闘力という事ですか。ま、暇つぶしくらいにはなりそうですね。しかし折角SS級の拳闘士がいるのですから、パートナーにも遊ばせてやりますか。おいレンヌ、お前の獲物だぞ」

「え~~、メンドくさいなァ」


 シャルルの言葉に文句を漏らしたのは20歳くらいの女性。

 身長はシャルルの同じで170センチくらい。

 しかしシャルルと違い、その体は鍛え挙げたアスリートのもの。

 この女性、レンヌがシャルルのワーウルフなのだろう。


「ま、いっか」


 レンヌはフワァ~~~と大きなアクビをすると。


「たまには本気で戦わないと、腕がにぶっちまうからね」


 表情を一変させ、獰猛な笑みを浮かべた。


「SS級の拳闘士か。久しぶりに本気で遊んでみるか」


 そしてレンヌはワーウルフに姿を変えると。


「さあ、かかってきな!」


 ゴウ! と吼えた。


 そんなレンヌに、レムリアはモンターニュに小声で尋ねる。


「え~~と、いつの間にかパートナーが戦うコトになってるけど、腐った次男をシめるんじゃなかったの?」

「勿論そうですが、ドラクルの一族とパートナーのワーウルフは一心同体。腐った次男を叩き直すには、腐ったパートナーの根性も叩き直す必要があります。だからレンヌの戦いを、まずは見てください」


 モンターニュの言葉に、和斗とリムリアが視線を向けると。


「じゃあやるか」


 ワーウルフに変身したSS級の拳闘士が、レンヌと向かい合うトコだった。

 そのSS級拳闘士が変身したワーウルフを見て、リムリアが呟く。


「あれ? あの拳闘士、ワーウフルロード?」


 それを聞きつけたモンターニュが頷く。


「SS級の強さの拳闘士など、ワタシの知る限りワーウフルロード以外にはいません。逆に言えば、物理攻撃でSS級になれる者は、強力なドラクルの一族のパートナーだけなのです」

「つまりシャルルはワーウフルロードを生み出せる魔力を持ってるワケか。思い上がるのも無理ないかな?」


 などと話している間に、戦いは始まっていた。

 レンヌとSS級拳闘士が無数のパンチとキックを繰り出す中。


 ドン!


 SS級拳闘士の蹴りがレンヌの腹にヒットした。

 その瞬間。


「あ、こりゃマズいぞ」


 黙って戦いの見つめていた和斗が声を上げた。


「あのレンヌってヤツは確かに強い。けど強いから相手をナメて手を抜いてたんだけど、1発イイのを貰っちまった。こういう場合、ああいうヤツは凶暴になる事が多いんだ。これは止めたほうがいい」


 和斗の言葉に、モンターニュが戦いを止めようと声を上げようとするが。


「このヤロウ!」


 レンヌは一瞬でSS級拳闘士に肉薄し。


「りゃああああああああああああ!」


 先程までの3倍の速度で、無数のパンチを打ち込む。

 そのレンヌの打撃の雨は。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 SS級拳闘士の両手と肋骨を、粉々に砕いた。

 人間なら死んでいても不思議ではない重傷だ。

 しかしレンヌは止まらない。


「死ねぇ!」


 レンヌは怒鳴ると。


 バシュ!


 SS級拳闘士の顔を、拳で撃ち抜いたのだった。







2021 オオネ サクヤⒸ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 第55話ではワーウルフは15000となってたけど、ここでは1500。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ