第六話 個人装備武器に限り、この端末でも購入可能です
「へ? 203匹で609ポイントってコトは、疾走ゾンビ1匹のポイントは3って事か」
和斗は目を丸くしてから、ニンマリと笑う。
「凄いな、疾走ゾンビを倒したらゾンビの3倍もポイントを獲得できるのか。これなら思ったよりも早く、レベルアップできそうだな」
レベルアップは何度やっても嬉しいものだ。
それにマローダー改の性能は生死に直結するものだから、1つでも多くレベルを上げておきたい。
しかしソレはソレとして。
朝イチで疾走ゾンビとの戦闘に突入したものだから腹ペコだ。
「とにかく、朝飯にしようぜ」
「うん」
嬉しそうにリムリアが抱き付いてきた。
昨日一緒に呑んだせいか、2人の距離が縮まったような気がする。
こうなると生活をもっともっと快適にして、リムリアに喜んでもらいたくなってしまう。
そこで和斗は、カーナビを操作してリビルドを見てみる。
家具
テーブルセット 2人用 10
4人用 15
6人用 20
ベッド(収納スペース付き)シングル 10
ダブル 12
クイーンサイズ 15
チェスト 小型 1
中型 2
大型 3
「空スペースはかなりあるから、2人掛けのテーブルセットと、クイーンサイズのベッドが欲しいな……二つで二五ポイントか。後は大きめの風呂も……2~3人サイズなら100ポイントか」
合計で125ポイントだけど、これからの生活を楽しむ為には、このくらいイイだろう。
そう考えた和斗は、クイーンサイズベッドと二人用テーブルセット、2~3人サイズのバスをクリックした。
新しく何かを購入した時は、無料で間取りを変更できるらしいので、間取りも整える。
運転席から見て左側に大型冷蔵庫、トイレ、バスルームを並べ、右側にミニキッチン、テーブルセット、ベッドの順だ。
こうなると、もうトレーラーハウスと変わらない。
「わ、凄い! 一瞬で配置が換わった! それに新しいモノまで! でも、新しく出来たアレはナニ?」
新たに出現したバスルームを目にしてリムリアが首を傾げる。
「覗いてみれば分かる」
「そ、そう? じゃあ……うわ、嬉しい! お風呂に入れる!」
リムリアの嬉しそうな顔を見ているとコッチまで嬉しくなってしまう。
「それじゃあ、朝食にしよう」
和斗は冷凍パスタ2人前を電子レンジに放り込むと、ミニキッチンでベーコンエッグを焼きながら、冷蔵庫から取り出したミックスサンドを皿に並べる。
続いて、スーパーで買ったとはいえ、一番高いケーキを取り出してテーブルに並べた。
そして仕上がったパスタとベーコンエッグをテーブルに運ぶと、これもミニキッチンで温めたペットボトルのカフェオレを、カップに注ぐ。
「朝一でゾンビと戦ったおかげで腹ペコだろ? だからちょっと朝メシ、頑張ってみた」
「やった―――!」
世界最高の笑顔を咲かせるリムリアと一緒に食卓につくと。
「頂きます」
「いただきます」
一緒に頂きますを口にしてから、和斗とリムリアは朝食に手を伸ばした。
この世界がどのようなモノか和斗は知らない。
しかし和斗は『腹が減った時に普通に食事が出来る』という事に対しては、謙虚に感謝すべきだと思っている。
だから和斗は食事の時は必ず『頂きます』と口にするようにしていた。
そんな和斗の考えを知ったリムリアも、今は食事の時に『いただきます』と口にするようになっている。
そして。
「あ~~、美味しかった♡ ごちそうさまでした」
特上ケーキを食べ終え、ユックリとカフェオレを味わってから、リムリアは幸せそうにパンと手を合わせた。
これも和斗の影響だ。
「さてと。それじゃ、ドラクルの聖地を目指して、今日も走るか」
「うん!」
和斗はキュッと腕に抱き付いてくるリムリアと共に運転席に移動すると、マローダー改のハンドルを握る。
さあ、楽しいドライブの始まりだ。
「出ッ発~~!」
上機嫌に声を上げるリムリアに笑みを浮かべてから、和斗はマローダー改を発車させる。
「よし、今日も疾走ゾンビを狩りまくって、3倍のポイントを稼ぐぞ」
そう張り切る和斗だったが……もう昼近くになるというのに、1匹もゾンビを見かけない。
「どうなってんだ? 旅が順調なのは有難いけど、レベルアップできないと不安になってくるな」
そんな事を口にした所為だろうか。
「カズト! ビーストゾンビだよ!」
リムリアが緊張した声を上げると同時に。
ドン!
大きく裂けた口から長い牙が伸び、鋭く長い爪を生やしたゾンビがボンネットに飛び乗ってきた。
一応サイズは人間だが、全身の筋肉が隆起している為、一回り大きく見える。
見た目の不気味さは疾走ゾンビ以上だ。
「リム。これがビーストゾンビってヤツか?」
「うん。疾走ゾンビの2倍のスピードと5倍のパワーを持つ、もの凄く強力なゾンビだよ」
ガキン!
その2倍のスピードと5倍のパワーで、ビーストゾンビがフロントガラスに拳を叩き付けてきた。
しかしマローダーの窓は元々、厚さ10センチもある防弾ガラスだ。
その上、装甲車レベルがアップした事により、今は窓ガラスを含めて、マローダー改の全ての部分は80センチの鋼鉄に匹敵する強度になっている。
2倍のスピードと5倍のパワー程度ではビクともしない。
しかし。
キキィ――!
和斗がボンネットから振り落とそうと急ブレーキを踏むが、ビーストゾンビはその長い爪を上手くボンネットの凹凸に引っ掛けて落下しない。
「ち! ゾンビのくせに器用なマネしやがって! リム、シートベルトをシッカリ締めて、どこかに捕まってろよ!」
グォン! キキィ! グォン! キキィ!
和斗はリムリアがシートベルトを締め直してからダッシュボードにしがみ付くのを確認してから、急発進と急停車を何度か繰り返した。
が、やはり振り落とす事は出来ない。
ビーストゾンビの攻撃で、マローダー改にダメージを受ける事はないだろう。
しかし今のマローダー改にもビーストゾンビを攻撃する手段はない。
そのうえボンネットに飛び乗ってくるビーストゾンビの数が徐々に増えている。
これでは前方が見えないし、無理に走って事故っても馬鹿らしい。
「ふう。どうしたモンかな」
和斗はカーナビをスクロールして、攻撃手段を捜す。
ベレッタで撃ち殺すにはマローダー改の外に出なければならない。
しかし和斗は普通の人間だ。
マローダー改の外に出た瞬間、ビーストゾンビに殺されてしまうだろう。
「ん?」
リビルドの項目に、狙撃スペースという文字が。
クリックしてみると、どうやらマローダー改の天井部分にセリ上がる鉄の檻みたいなモノらしい。
この鉄の檻の内側からなら、ゾンビに攻撃される事なく敵を狙撃できる、というワケだ。
「狙撃スペース設置に必要なスキルポイントは100か。仕方ないな、リビルドするか」
和斗は狙撃スペースを設置すると、生活スペースに向かう。
「へえ、これがそうか」
狙撃スペースとは、直径2メートルほどの鉄の筒だった。
腰から上の部分は鉄格子になっており、鉄筒の部分には弾薬を並べる為の棚が設けられている。
その上部を覆う鉄の棒の間隔は5センチほど。
これならゾンビが中に入ってくる事は勿論、腕を突っ込まれる事もないだろう。
「よし」
和斗は狙撃スペースに入ると内側からロックして、上昇と書かれたボタンを押した。
すると狙撃スペースは天井版ごと上昇し、鉄格子の部分だけが外にでた状態で停止する。
「なるほど。狙撃に必要な部分だけが外に出るってワケか」
和斗は早速ベレッタを引き抜くと、レーザーポインターの赤い点をビーストゾンビの頭に合わせて引き金を引く。
パン!
弾は見事にビーストゾンビの頭に命中したが、ビーストゾンビは倒れない。
倒れないどころか、濁った眼を和斗に向けて飛びかかってきた。
「うお! 拳銃じゃ脳を打ち抜けないのか!?」
そう叫びながらも和斗がベレッタを連射すると、九発目が命中したところで、ビーストゾンビは絶命してマローダー改から落下した。
が、1匹仕留めただけ。
和斗の存在に気付いたビーストゾンビが、一気に狙撃スペースに群がってくる。
「一匹仕留めるのに九発も弾が必要なのかよ! これじゃ弾が足りない!」
そこで和斗は、鉄の筒の部分にモニターが設置されている事に気付く。
「何だ?」
モニターに表示されているのは。
――個人装備武器に限り、この端末でも購入可能です。
だった。
2020 オオネ サクヤⒸ