第五十九話 アーマードラゴン
――マンティコアロード 127匹
ギガントコブラ 203匹
オーガキング 162匹
バトルミノタウルス 98匹
カイザーワイバーン 155匹
ガントレット・コング 114匹
バーサーカーユニコーン 135匹
スティールバッファロー 136匹
を倒しました
経験値 3717500
スキルポイント 3717500
オプションポイント 3717500
を獲得しました。
累計経験値が1758687700になりました。
サポートシステムの声が告げた。
それを耳にしたリムリアが、残念そうに漏らす。
「ねえカズト。3717500って凄い経験値だと思うけど、レベルアップしなかったね」
「そりゃそうだろ。累計経験値なんて17億を超えてるんだから、レベルアップするには億単位の経験値が必要だろうからな」
和斗がそう返すと、そこにサポートシステムの声が。
――累計経験値が22億に達したらレベルアップします。
「次のレベルアップまで、あと5億か。自分で言っておいてナンだが、とんでもない数字だな」
苦笑する和斗に、リムリアが首を傾げる。
「5億なんて、もう1度ランス地下迷宮の地下2階にいったら稼げる程度の経験値なんじゃない?」
「あ! そういやそうだったな。忘れてた」
「忘れるレベルなんだ……」
などと和斗とリムリアがじゃれ合っているところに。
「そろそろドラゴン狩りに向かういたいと思うが、イイか?」
マクロンが尋ねてきた。
その背後では、冒険者達が疲れ切った顔で素材を集めている。
「あれ? 戦闘もしてないのに、グッタリしてない?」
リムリアの疑問に、マクロンがユックリと首を横に振った。
「聞かないでやってくれ。余りにも次元の違うモノを目にして、立ち直るのにちょっと時間が必要なダケだ」
「? ナンのコトか良く分かんないけど」
キョトンとするリムリアに、マクロンは苦笑する。
「ワラキアの姫さんには永遠に分からないかもな。ま、そんなコトは、この際どうでもいい。カズトよ、このままノルマンド復興資金を稼ぐ為のドラゴン狩り、行けるか?」
「ああ」
「そうか。さすがだな」
余裕で答える和斗に頷くと、マクロンは歩き出す。
「じゃあ当初の計画通り、ドラゴンを狩りにいこうぜ!」
こうして向かったボナパルト山脈の奥地。
そこにいたのは、記憶にあるドラゴンの姿ではなかった。
全長300メートル。
和斗が遭遇したドラゴンゾンビよにもずっと大きい。
しかし1番の特徴は、全身が装甲板に覆われている事。
そして牙も爪も、やたらと長く鋭い事だ。
ドラゴンゾンビの経験値は15000だった。
が、このドラゴンの経験値が1500とは思えない。
ドラゴンゾンビより遥かに上だろう。
「あれナニ?」
リムリアの疑問に、マクロンが震える声で答える。
「アーマードラゴンだ。ランス領に伝わる昔話に出て来る、幾つもの国を滅ぼした邪竜だ。普通、あそこまで成長したドラゴンは神へと進化して龍になる。しかし怒りに呑まれたのか、恨みに呑まれたのか、知性を失って凶暴なだけの厄災になっちまったのがアイツだ」
「でも、伝説に出て来るドラゴンが何でここに?」
「さっぱり分からん。しかし予定変更するしかなさそうだ。アーマードラゴンと戦うのはヤバ過ぎる。ヤツに見つかる前に逃げ出すぞ」
冒険者達に退却の合図を送ろうとするマクロンだったが。
「ちゃっと待った」
そのマクロンを止めると、和斗はアーマードラゴンを見つめた。
いきなり話は変わるが。
空手には試し割りというものがある。
木の板、レンガ、ブロック、自然石などを素手で叩き割るのだ。
和斗も様々なモノを試し割りしてきた。
もちろん成功する事もあれば失敗する事もある。
そして様々な試し割りに挑戦してきた結果。
叩く前から、その試し割りが成功するか失敗するか分かるようになった。
その和斗の経験が言っている。
アーマードラゴンを叩き割るのは簡単だと。
だから。
「ナンの問題もない」
和斗はそう口にすると、アーマードラゴンに向かって歩き出す。
その姿に冒険者達は、ハッと我に返って大騒ぎを始める。
「おいおいおい!」
「マジかよ!」
「九つ首ヒドラ程度の強さじゃ無いのよ!」
「SSS級冒険者ですら失敗したって噂すらあるんだぞ!」
「噂じゃねぇよ!」
「ああ。SSS級が瞬殺されるのを、オレは確かに見た!」
「SSS超級といえども、無茶だ!」
「命を無駄に捨てるな!」
「戻って来い!」
「まだ間に合う!」
そんな冒険者達が見つめる中。
グォオオオオオオオオン!!
和斗を発見したアーマードラゴンが、咆哮を上げた。
『ひぃ!』
さすが伝説のドラゴン。
その咆哮に、D級冒険者が腰を抜かして座り込む。
いや、C級冒険者ですら震えて動けなくなっている。
B級とA級は辛うじて立っているが、その脚はガクガクと震えていた。
「く、情けねぇ」
「叫び声だけで心をへし折る。これがアーマードラゴンかよ」
「参りましたね。これほどとは」
「あんな化け物を、本当に倒せるのかい?」
そう漏らしたA級冒険者に、リムリアは自信に満ちた笑みを向ける。
「見てたら分かるよ」
その瞬間、誰かが叫ぶ。
「くるぞ!」
と同時にアーマードラゴンは鎌首をもたげると。
シャァアアアア!!!
和斗に飛びかかった。
一般に、毒蛇は持ち上げた鎌首の2倍の距離まで飛びかかる事が可能だ。
しかしさすがアーマードラゴンというべきか。
1キロもの距離を一瞬でゼロにする。
その余りの速さに。
『!』
冒険者全員が息を呑むが。
「ふん」
バチィン!
和斗は飛びかかって来たアーマードラゴンを片手で受け止めた。
まさか自分が受け止められるのは思いもしなかったのだろう。
シャギャァアアア!!!
アーマードラゴンは怒りの咆哮を上げた。
「やっぱり思った通りだ。この程度なら予定通り、素材を手に入れられるな」
和斗はトトトとアーマードラゴンの体を駆け登ると。
「よ」
首を踏み付けた。
これで首の骨を砕いて、素材ゲット。
和斗はそう思ったのだが。
グォオオオオオオオオン!!
アーマードラゴンは和斗を跳ね除けたのだった。
「スゴイな。今の俺を跳ね除けるのか」
和斗は素直に感心する。
3万4000tもの和斗を跳ね除ける存在がいるとは思わなかった。
「なら空手の打撃を使ってもイイかな」
和斗はニヤリと笑うと、アーマードラゴンの首に正拳突きを放つ。
もちろん素材を傷めないように、力は加減した。
しかし、それでも本当の空手の突きだ。
アーマードラゴンごとき一発で仕留められる。
と、信じて疑わない和斗だったが。
カン!
驚いた事に、和斗の拳はアーマードラゴンの装甲に跳ね返されてしまった。
「な!?」
目を見開く和斗に、アーマードラゴンが口を開く。
「何をカン違いしているか知らぬが、ワシは神へと進化しておる。その上で世界に厄災をもたらす事を選んだ、言わば破壊神だ。其方ごとき未熟な技で、ワシを倒せると思うなよ」
「喋れるのか!?」
驚く和斗にアーマードラゴンはフンと鼻を鳴らす。
「神へと進化したワシだぞ。あらゆる生物の言語を操れるわ」
そしてアーマードラゴンは和斗をギロリと睨む。
「ふむ。神霊力を纏っているようだが、そんなチンケな神霊力でワシに挑むなど笑止千万! 己の愚かさを悔やみながら死ぬがよい」
その言葉の直後。
バチィン!
和斗は交通事故に遭ったように吹き飛んだ。
アーマードラゴンの尾の一撃だ。
見切れないスピードではなかった。
その証拠に、ちゃんとクロスした腕でガードしている。
しかし圧倒的な神霊力を纏った一撃の重さは想像以上。
和斗は踏みこたえる事が出来なかった。
「くそ、マジかよ」
そうグチった直後。
ドッカァン!
和斗は空から降って来た尾によって、地面にめり込む。
「ナンだよ、この威力は!」
遠くから見たアーマードラゴンは、強そうに見えなかった。
だから和斗は安心して戦いを挑む事ができた。
しかし今のアーマードラゴンは、とてつもなく強そうに見える。
「どうなってるんだよ!」
そう怒鳴った和斗に。
「お前が弱いだけだ」
アーマードラゴンが、更に爪を振り下ろしてきた。
ギラリと輝く、長くて鋭い爪。
このままでは殺されてしまう!
そう悟った瞬間。
「うぉおおおおおおおお!」
和斗は無意識に、雄叫びを上げていた。
そして拳でアーマードラゴンの爪を迎え撃つ。
体に染みついた、空手の正拳突きだ。
その正拳突きはアーマードラゴンの手の平に激突し。
バチィィン!!
今度は威力に押される事なく、アーマードラゴンの攻撃を跳ね飛ばした。
と同時に。
ゴキンという音が響き、アーマードラゴンの腕がダラリと垂れ下がる。
「なにぃ!」
今度はアーマードラゴンが目を見開く。
先程までとは桁違いの神霊力を和斗が纏っていたからだ。
「なぜだ! なぜ、神であるワシを傷つける事が出来るのだ!? なぜ神を傷つける事が出来るほどの神霊力を纏っているのだァ!?」
叫ぶアーマードラゴンを無視して、和斗は拳に目を落とす。
「そうか、そういうコトか。最初の突撃は片手で止められたのに、尻尾の攻撃は異常なほど強力だと思ったが……神霊力の差だったんだな」
今、落ち着いて考えてみると、アーマードラゴンが飛び掛かってきた時。
勢いに驚いて本気で気合いを入れたように思う。
しかし、その後。
素材を傷めないように、気を抜いた攻撃を繰り出していた。
だからアーマードラゴンの攻撃を受け止める事が出来なかったのだろう。
本気の気合い。
きっとこれによって、和斗の攻撃は神霊力を纏うのだろう。
「神霊力のコトは、まだ良く分からないが、これなら……いける」
戦いの構えを取る和斗に、アーマードラゴンが怯えた声を上げる。
「ワシが人間に倒される!? そんなコトがあってたまるかァ!」
和斗は必死の形相で襲いかかってくるアーマードラゴンの体を駆け登ると。
「残念だったな。せりゃ!」
気合を込めて蹴りを放った。
踏み付けたのではない。
空手の蹴りの中で最強の威力を持つ、踏み込み蹴りだ。
その最強の蹴りは。
ゴキン!
一撃でアーマードラゴンの首をへし折ったのだった。
2021 オオネ サクヤⒸ




