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   第五十八話  素材集め


 



 ユックリとした動作で、正しい正拳突きを確認する。

 その程度の打撃だった筈だが。

 それだけでカイザーワイバーンの首は、跡形もなく消滅してしまった。

 つまり素材の売値が下がってしまったワケだ。


「手加減が足りなかったか」


 そういえば空手の先生が言っていた。

 動作さえ正しければ、軽い一撃でも破壊力を発揮する、と。

 そしてこうも言っていた。

 いい加減な打ち方をしたら、いい加減な撃ち方が体に記憶されてしまう、と。


「ってコトは、打撃は使わない方がイイかな?」


 と、そこで和斗はサポートシステムに頼んでみる。


「参考までに、コイツ等の経験値を教えてくれるか?」


――了解です。


 マンティコアロード       1500

 ギガントコブラ         1200

 オーガキング          6000

 バトルミノタウルス       1300

 カイザーワイバーン       5000

 ガントレット・コング      5000

 バーサーカーユニコーン     4200

 スティールバッファロー     2000



「ふぅん、九つ首ヒドラよりも弱いのか。しかし、2番目に戦闘力が高いカイザーワイバーンでも、打撃を加えたらグチャグチャになっちまったからな。やっぱり打撃で倒すのは諦めた方がいいな」


 そう和斗が決めたところに。


 ゴルルルルルルルル!


 マンティコアロードが飛び掛かってきた。

 その速度は推定、時速400キロ。

 人間だったら反応する事も出来ずに食い殺されていたかもしれない。

 しかし。


「ほい」


 和斗はマンティコアロードを楽々と受け止めると。


「これならどうだ」


 太さ1メートルもあるマンティコアロードの首をそっと抱え込んだ。

 そして慎重に力を加えていく。

 が、和斗の感覚では力を入れる前に。


 ゴキン。


 マンティコアロードの首は、ポッキーよりも簡単にへし折れたのだった。


「危ねぇ~~。もう少し力を入れてたら、首が千切れてしまうトコだったぜ。でも何とか素材を傷めずに済んだようだな」


 和斗はホッとした声を漏らすと。


「この調子で慎重にいくか」


 そう呟いた。

 と、そこに。


 ブオーーン!


 オーガキングが拳を振り下ろしてきた。

 中々の攻撃力だ。

 直撃すれば、B級冒険者でも即死するだろう。

 が、和斗にとって、この程度の攻撃を躱す事など何でもない。


「よいしょ」


 和斗に身を躱されたオーガキングの拳は。


 ドガァン!


 轟音と共に地面に突き刺さった。

 

 この程度の威力なら躱す必要はなかったかな?

 とも思うが、和斗は直ぐに自分を戒める。


「油断大敵だ。気を引き締めて、素材集めに集中しないとな」


 和斗はそう呟くと、地面に突き刺さったオーガキングの腕を駆け上がる。

 なにしろ天井を歩けるのだ。

 腕を駆け登るなど、普通の道を歩くのと変わらない。

 そしてオーガキングの肩に辿り着くと。


「そら」


 和斗はオーガキングの首を、手の平でポンと叩いた。


 いや、叩いたのではない。

 羽毛布団をボフッと手で押す感覚だ。

 だが、その何気なく押しただけで。


 ボキ。


 オーガキングの首の骨は音を立てて砕け散り。


 ズシィン!


 身長20メートルもあるオーガキングの巨体は、地面に崩れ落ちたのだった。

 ただの素材と化したオーガキングを眺めながら。


「これが経験値6000か。脆すぎて、経験値5000のカイザーワイバーンとの違いがよく分からないな」


 和斗は静かに呟いた。


 マローダー改のステータスは、数字が大き過ぎてピンとこない状態だ。

 だから20パーセントを得ていると言われても、やはりピンとこなかった。

 しかし今、体感して初めて理解できる。


「今の俺の戦闘力は、経験値5000と経験値6000の違いを感じないくらいのレベルってコトか。やっぱマローダー改のステータス、ヤバ過ぎる」


 と、そこに背後から。


 シャ―――――――!


 ギガントコブラが奇襲をかけてきた。

 いや、和斗にとって、これは奇襲ではない。

 戦いの時は、常に周囲を視界に納めるように動き、立ち位置を変えろ。

 実戦空手の先生の教えだ。

 その教え通りに動いた和斗は、ギガントコブラの動きも視界に捕らえていた。

 だからギガントコブラの攻撃を余裕で躱すと。

 

 ゴシャ。


 ギガントコブラの首をソッと踏み付け、首をへし折る。

 しつこいようだが、蹴りではない。

 踏んだだけだ。

 しかし、たったそれだけでギガントコブラは命を絶たれたのだった。

 

 だが魔獣の群れは、襲いかかってくるコトを止めない。

 今度はバトルミノタウルスが。

 

 ブモォォォォォ!

 

 蹴りを放ってきた。

 間違いなく、戦車すら蹴り飛ばせる威力だった。

 直撃すれば、B級冒険者ですら即死しただろう。

 しかし和斗にとって。


「止まって見えるぜ」


 その程度の攻撃でしかない。


「よ、と」


 和斗はバトルミノタウルスの脚を、バシッと手で受け止めた。

 それはホントに、ただ受け止めたダケだったのだが、それだけで。


 バキン。


 バトルミノタウルスの脚はへし折れてしまう。

 そして片足を失ったバトルミノタウルスは。

 

 ドドォン!

 

 地面を揺らして崩れ落ちたのだった。

 

 バトルミノタウルスの身長は20メートルほど。

 普通の状態では、その顔に手が届くハズもない。

 しかし地面に倒れた今。

 バトルミノタウルスの顔は、手の届く位置にある。


「こりゃあ丁度いいトコに頭が下がったな」


 和斗は呟きながらバトルミノタウルスに駆け寄ると。


「ほい」


 首に足を乗せた。

 その直後。

 全体重をかけた訳でもないのに。

 

 バキ。

 

 首の骨が折れる音が響き渡り、バトルミノタウルスは動かなくなった。

 だが、これで終わる筈もない。

 

 ビヒィィィィィィィ! 

 

 今度はバーサーカーユニコーンが、槍よりも大きな角で突きかかってきた。

 どうやら全力らしいが、スローモーションのように遅い。

 対処するのは簡単だ。

 和斗はヒョイと飛び上がると、跳び箱の要領で、その長い首に手を突く。

 それだけで。

 

 ゴキャ。

 

 バーサーカーユニコーンの首の骨は砕け散ったのだった。

 

 次の相手は。

 

 ガオォォォォォン!

 

 ガントレット・コングだ。

 魔獣にしては鋭い突きを、和斗に放ってきた。

 拳のサイズは1メートルほど。

 しかも鉄のように硬質化している。

 だからガントレット・コングの打撃は、かなりの破壊力を誇る筈だ。

 

 しかしそれは、魔獣にしては、だ。

 和斗にとってガントレット・コングの拳など角砂糖みたいなモンだ。

 いや、角砂糖より遥かに脆い。

 だから和斗は。


「さあ、拳比べだ」


 ガントレット・コングの拳を、自分の拳で受け止めた。

 と同時に。


 ドッカァァァン!


 爆発音が響き渡り。


 ギャヒィィ!


 ガントレット・コングは、自慢の拳を砕かれて悲鳴を上げた。


「どうだ! って、しまった! つい調子に乗って拳比べなんかしちゃったけど売値が下がったかな?」


 和斗は反省しつつも、ガントレット・コングの下に潜り込むと。


「そら!」


 飛び上がって、ガントレット・コングの首に、下から手を添える。

 それは和斗にとって、正に手を添えただけ。

 だが、それにはマローダー改の2割のパワーが宿っている。

 だから、その結果。


 グィ――――!


 ガントレット・コングの首は異様なほど伸び、そしてその直後。


 ボクン!


 ガントレット・コングの首の骨は、音を立てて外れたのだった。

 そして和斗が手を放すと、ガントレット・コングは。

 

 ドッタァン!

 

 糸の切れた操り人形のように倒れ込むが、そこに。

 

 バフォォォォ!

 

 スティールバッファローがガントレット・コングを飛び越えて突進してきた。

 中々の突進力だ。

 しかし一直線に突撃するダケ。

 実に単純。

 

 しかし鋼鉄並みの強度を持つ、25メートルの巨体の突撃だ。

 直撃を食らえば、SS級冒険者でも命に係わる。

 しかし和斗の目には、子犬が駆け寄ってくる程度にしか見えない。

 だから和斗はその必殺の突撃をヒョイっと受け止めると。


「丁度いい場所に角があるな」


 両手でスティールバッファローの角を掴み。


 クイ。


 スティールバッファローの首を捻った。

 それだけでスティールバッファローの首は180度、回転し。


 ボキン!


 スティールバッファローの首の骨は、アッサリとへし折れたのだった。


 だが倒したのは、魔獣の群れ一部でしかない。

 戦いはまだまだ続く。

 いや戦いという言葉は相応しくないだろう。

 単なる素材集めだ。

 だから和斗は。


「さっさと片付けるか」


 淡々と魔獣の首の骨をへし折っていくのだった。


 しかし、そんな和斗の戦闘力を目の当たりにして。

 冒険者達の声から、だんだん生気が失われていった。


「オレ達、ナニしに来たんだっけ?」

「ナンか役に立つのか?」

「冒険者として、それなりの力を持ってると思ってたんだけど……」

「SSS超級冒険者から見たら、赤ん坊と同じなんだろな」

「はぁ~~、力が抜けちゃったわ」

「SSS超級冒険者って、こんなバケモンだったんだ」


 そこで1人の冒険者が、B級冒険者にポツリと尋ねる。


「確かアンタ『魔獣狩りならSSS超級冒険者にだって引けを取らない自信はある!』って言ってたよな?」


 その言葉に、他の冒険者も問いかける。


「それならA級冒険者の姉ちゃんだって言ってたぞ。『いずれはSSS超級になってみせるわ! たとえSSS超級冒険者が相手だろうと、互角以上に獲物を狩ってみせるわよ!』ってな」

「オレはSSS超級の力を見て、いかに自分が無力か思い知っちまった。なあ、聞かせてくれよ。アンタ等は、まだSSS超級冒険者にだって引けを取らないって言えるのかい?」


 その声に非難の色はない。

 これほどの戦闘力を目にしても、心は折れていないのか?

 という純粋な問いだった。

 しかし純粋だからこそ、B級冒険者とA級冒険者の心を鋭くえぐる。


「や、やめてくれぇぇぇぇぇ! 言わないでくれぇぇぇぇぇ!」


 その傷の深さに、B級冒険者は皆からの視線から隠れてうずくまり。


「アナタ達が、どんな答えを期待してるか分からないけど、ワタシも自分の限界を思い知ったわ。SSS超級なんて、誰も辿り着く事なんか出来ない。実際にSSS超級の力を見て、思い知らされたわ」


 A級冒険者は、ガックリと肩を落として黙り込んでしまった。






2021 オオネ サクヤⒸ

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