第五十七話 マローダー改の弱点
全滅したボナパルト湿地の、ヒドラの残骸にチラリと視線を送った後。
「ええと、ミンチにしなければ何とかなるのかな?」
リムリアは小さな声で聞いてみた。
それは和斗の心の声でもある。
が、マクロンも冒険者達も首を横に振った。
どうやらドラゴンの体に捨てるトコなど無いらしい。
牙も爪も超貴重品。
だから折れるのはもちろん、欠けたダケでも価値は下がってしまう。
ドラゴンの皮だって貴重品だ。
防御力が高く、高額で取り引きされる。
Ⅿ2重機関銃でハチの巣にするなんてとんでもない。
ましてや弾丸が爆発するチェーンガンなど問題外だ。
なら急所を撃ち抜けば良い。
とも思うが、頭蓋骨だって高く売れるし、脳は霊薬の材料だ。
だから眉間を狙撃しても莫大な損失が生じてしまう。
ついでに言えば。
肉も骨も内蔵も破格の値で売れる。
生き血にいたっては、寿命を延ばす効果があるので、誰もが大金を惜しまない。
食べれば肉体が強化される心臓も。
つまりどこを狙撃しても、大金が手に入らなくなってしまう。
「じゃあミンナ、どうやってドラゴンを倒してるの?」
リムリアの質問に。
「普通は死闘の末に倒しますから、素材はボロボロです。僅かに残った、無傷の部分が市場に流通するのみ。だからドラゴンの素材は、とんでもない値で取り引きされるんです」
A級冒険者がオズオズと答えた。
そのA級冒険者の言葉に、マクロンが続ける。
「しかし今回の目的は、少しでも多くノルマンドを支援する資金を稼ぐコトだ。だから可能な限り少ない損傷で、ドラゴンを倒したいんだ。カズト、ワラキアの姫さん、出来るか?」
「「う~~ん」」
マクロンの質問に、和斗とリムリアは考え込む。
「思いもよらない事態が発生したね」
リムリアの呟きに和斗は頭を抱える。
「マローダー改の弱点が、武器が強力過ぎるコトとは思いもしなかったな」
ドラゴンの防御力を撃ち向くには、それなりの威力の弾丸が必要だ。
しかしその威力を発揮するには、弾丸を高速で発射するコトになる。
そして高速で撃ち出された弾は、当然ながら音速を超えてしまう。
問題は、音速を超えたら発生する衝撃波だ。
ドラゴンの肉体をグチャグチャに破壊するのは間違いない。
貴重な内臓や肉や皮や骨も、売り物にならなくなる。
もちろん高値で売れる生き血も、飛び散って失われてしまう。
つまり爆発するミサイルやロケット砲、チェーンガンは問題外。
戦車砲もアウト。
バルカン砲やⅯ2重機関銃でさえ商品価値を大きく下げてしまうのだ。
「つまりマローダー改の搭載武器は一切使えない、ってコトか」
溜め息をつく和斗に、リムリアが尋ねる。
「Ⅿ16やベレッタを強化してもダメかな?」
「ダメだろうな。ドラゴンを倒せるレベルにⅯ16やベレッタを強化したら、その弾速はⅯ2重機関銃よりも遥かに速くなってしまう。速くなった分、発生する衝撃波も大きくなってしまって、ドラゴンに与える損傷はⅯ2重機関銃より大きくなってしまうと思う」
「ちぇ」
リムリアは舌打ちしてから。
「あ、そうだ」
何かを思いついたらしく、急にマクロンへと向き直った。
「ねえマクロン。逆に、どんな倒され方をしたドラゴンなら高く売れるの?」
「つまり売値に影響しない、ドラゴンの殺し方か。そうだな、綺麗に首を切断されたのなら、それほど値段に影響はないだろうな。しかし普通の武器じゃドラゴンを傷つける事なんて出来ないぞ。後は、そうだな。首の骨をへし折るくらいか。しかしドラゴンの首を折るなんて巨人でも無理だけどな」
「つまりマローダー改の武器は、全部使えないってコトかぁ」
リムリアはそう呟いてから、不思議そうな顔をマクロンに向ける。
「でもドラゴンの首の骨をへし折るくらい、ワーウルフロードだったら楽勝だよね? さっきA級冒険者が『ドラゴンとは普通は死闘の末に倒すモノ』みたいなコト言ってたけど、今までワーウルフロードがドラゴン狩りしたコトないの?」
ドラゴン(ゾンビ)の経験値は15000。
それに対して、ワーウフルロードの経験値は10万だった。
というコトは。
ワーウフルロードなら、ドラゴン(ゾンビ)を簡単に倒せる筈。
そうリムリアは考えたのだ。
そんなリムリアの言いたい事を察したのだろう。
マクロンが、難しい顔で首を横に振る。
「そりゃあ倒せるだろうが、ワーウルフロードなんてモン、大抵はドラクルの一族のパートナーだぞ。冒険者として稼ぐ必要なんかないし、永遠の命を持ってるから寿命が延びるドラゴンの生き血にも興味ない。そんなワーウフルロードが、わざわざドラゴン狩りなんて面倒なコト、するわけないだろ」
「そっかぁ」
納得するリムリアだったが、直ぐに目的を思い出して和斗に向き直る。
「ワーウフルロードだったら楽勝なんだから、和斗ならもっと楽勝だよね? 装鎧があるんだから」
と、そこでリムリアは、今の和斗はマローダー改のステータスの20パーセントを得ている事を思い出す。
「ねえカズト。もしかして今の和斗なら、生身でもドラゴンの首の骨をへし折れるんじゃない?」
「それは……」
リムリアに言われて和斗は考え込む。
今のマローダー改のステータスは、とんでもないレベルにある。
そのとんでもないステータスの20パーセントを得ているのだ。
ドラゴンなど素手で倒せても不思議ではない。
いや、倒せない方が不思議だ。
ちなみにドラゴンといえば、誰でも知っている強力な魔獣だ。
ゲームではラスボスだったコトもあった。
そのドラゴンを素手で倒す。
そう考えただけで、和斗はワクワクしてきた。
だから。
「よし。試してみるか」
和斗はそう口にして、ニヤリと笑った。
そんな和斗にマクロンが顔を綻ばせる。
「お? イイ手を思いついたのか?」
ワクワクした顔のマクロンに、和斗は頷く。
「はい。ドラゴンを高く売れる倒し方を思いつきました」
「そ、そうか!」
マクロンは顔を輝かせると、志願者一同に。
「よし、ドラゴン狩りだ!」
興奮した声で怒鳴った。
こうして志願者達は、再びボナパルト山脈へと戻ったのだった。
ボナパルト山脈の、更に奥。
山と山の間を抜けた先に広がる荒れ地がドラゴンの生息地だ。
が、そのドラゴンの生息地に辿り着く前に問題発生。
ゴルルルルルルルル!
シャ―――――――!
グォオオオオオオン!
ブモォォォォォォォ!
シャギャァァァァァ!
ガオォォォォォォン!
ビヒィィィィィィィ!
バフォォォォォォォ!
1000匹を超える魔獣が襲いかかってきたのだ。
見た所、魔獣の種類は8種ほど。
マンティコアの上位種=マンティコアロード。
全長30メートルの毒蛇=ギガントコブラ。
オーガの最上位種=オーガキング。
ミノタウルスの10倍の戦闘力を持つ希少種=バトルミノタウルス。
ウイングドラゴンを除けば、空の支配者であるカイザーワイバーン。
鋼鉄の拳で敵を打ち砕く希少種ゴリラ=ガントレット・コング。
戦闘力が異常に高いユニコーンの希少種=バーサーカーユニコーン。
金属製の巨体で突進してくるスティールバッファロー。
どれもB級冒険者では勝てない魔獣ばかりらしい。
というか、A級冒険者ですら勝てない魔獣が半分もいる、との事。
そんな超強力な魔獣の群れが襲いかかってきたのだ。
冒険者達はパニックに陥る。
「何で上位種や希少種ばかりなんだよ!」
「有り得ねぇだろ!」
「普通種の何倍もデカいぞ!」
「まるで小山の群れが動いてるみたいだわ!」
「しかも何で数だよ!」
「勝てるワケない!」
「それに速いわよ! これじゃ逃げられない!」
「どうすんだよ!」
「A級冒険者なら勝てるんじゃないか!? 行け!」
「無知な冒険者がテキトーなコト言うんじゃないわよ! 1対1ですら勝てない魔獣が無数にいるのよ! 勝てるワケないでしょ!」
そんな大騒ぎの中。
「狼狽えるな!」
マクロンの大声が轟いた。
「カズトとワラキアの姫さんがヒドラを瞬殺したのを忘れたのか!? この程度の魔獣なんかSSS超級にとってアリンコと変わらないだよ!」
マクロンは、ピタリと口を閉じた冒険者から和斗に視線を移す。
「とはいうものの、できるだけキレイに倒してもらいたい。上位種や希少種は金になるからな」
「それってドラゴン対策と同じで、首の骨をへし折ったらイイってコト?」
可愛らしく首を傾げるリムリアに、マクロンが頷く。
「そうだ。とはいえ、自分で言っておきながらナンだが、出来るのか? そんな無茶なコト?」
「ま、見てて」
マクロンに微笑んでから、リムリアは冒険者達に向き直る。
「ミンナも安心して見てからイイよ。ボクが魔法障壁を張り巡らすし、もし危険だと思ったらヒドラと同じように、チェーンガンで薙ぎ払うから」
言うと同時にリムリアは、魔法障壁を構築した。
ドラクルの一族は、魔力なら世界一。
そしてリムリアは、ドラクルの一族で最強と名高い。
そのリムリアが魔法障壁を構築したのだ。
冒険者達は安心したのか、その場に座り込むと。
「あ~~怖かったぁ」
「脚がガクガクして立ってられないわ……」
「腰が抜けたちまった……」
ホッとした声を漏らした。
が、そんな中。
「おい、アレ!」
誰かが叫んだ。
「おい! カイザーワイバーンだ!」
その声に全員が視線を集中させると。
シャギャァアアアアア!
カイザーワイバーンが和斗に襲いかかるところだった。
こちらに向かってきている魔獣は、どれもが強力な魔獣ばかり。
しかし移動速度が同じである筈がない。
その中で最速なのは、空の支配者カイザーワイバーンだ。
飛行速度は、時速500キロ超。
そのスピードにより、1番速く和斗に辿り着いたようだ。
しかし今の和斗の最高速度は時速4000キロメートル。
マッハ3・2で動ける和斗にとって、カイザーワイバーンなど止まって見える。
だから。
「よ、と」
和斗は余裕でカイザーワイバーンの牙を躱すと。
「素材を傷つけないように、と」
そう呟きながら カイザーワイバーンの首に拳を打ち込んだ。
正確に言えば、カイザーワイバーンの首の骨に、だ。
それは、素材に傷を付けないように配慮した、ごく弱い打撃だったのだが。
ボチュ!
和斗の拳を受けたカイザーワイバーンの首は消滅してしまったのだった。
その光景に。
「なにコレ!」
「これは現実か?」
「おいおい、オレは夢を見ているのか?」
「素手でカイザーワイバーンを倒した!?」
「力を入れた様には見えなかったのに!」
「なんて破壊力だよ!」
「カイザーワイバーンを倒すのに武器すら必要としないのか……」
「これがSSS超級の戦闘力……」
冒険者達は、唖然とする事しかできなかった。
2021 オオネ サクヤⒸ




