第五十二話 神力
和斗はF15のコントローラーを握った。
もちろん、人間みたいに小さな者を狙撃できない事は分かっている。
しかしF15が生み出す衝撃波は土煙の打ち払ってくれる筈。
そう考えた和斗は、土煙の上スレスレにF15を飛ばした。
そんな和斗の目論見通り。
ブワッ!
F15が纏う突風は、チェーンガンが巻き上げた土煙を薙ぎ払った。
と同時に。
ドカンドカンドカンドカン!
F15が発生させた衝撃波が、白虎中隊をなぎ倒した。
先程の闘いで、玄武中隊はF15の衝撃波に耐えていた。
それを可能にしたのは、玄武の防御結界。
加えて、特別に堅牢な盾と鎧のお蔭だ。
それに対して、白虎中隊が装備しているのは動きを重視した鎧。
もちろん玄武の防御結界も失っている。
だから。
『ぐはぁぁぁぁぁぁ!』
白虎中隊はマッハ25の衝撃波によって、大ダメージを受けたのだった。
「スゴイね、カズト。ほとんどF15だけで勝っちゃった」
リムリアが、アングリと口を開けている。
その可愛らしい顔にフッと微笑んでから、和斗は白虎中隊に視線を戻す。
「まだ勝っちゃいない。大ダメージを与えただけだ。その証拠にほら、満身創痍のクセに、まだ突撃してくる」
和斗の言葉通り、白虎中隊は傷だらけなのに突撃を止めない。
玄武の防御結界を失ったとはいえ、人間レベルを超える頑丈さだ。
しかし青竜中隊が壊滅した今、回復する事はない。
なら、動けなくなるまで攻撃すれはいいだけだ。
「でも、これで終わりかな」
和斗はもう1度、F15を白虎中隊スレスレに飛ばした。
そして白虎中隊は、今度こそ全員が動かなくなったのだった。
白虎中隊、玄武中隊、青竜中隊。
そして跡形もない朱雀中隊。
計1200人が倒れ伏す光景を見つめ、リムリアが呟く。
「これでクーロンの侵略者どもは全滅かぁ。ねえカズト。ノルマンドで命を落とした人達も、これで安らかに眠れるよね?」
しんみりとした口調のリムリアに、和斗は首を横に振る。
「いや、まだだ」
和斗は倒れたクーロン軍の1キロ後方へと、鋭い目を向けた。
「多分、アイツ等が敵のボスだ」
その視線の先にいるのはタイガ、ロン、ドラゴ、レッドだ。
もちろん和斗は、彼らの事など知らない。
しかし彼らが装備している鎧を見れば、誰でも分かる。
コイツ等が指揮官だと。
しかも。
「自分の隊が全滅したのに顔色も変えていない。まだまだ何かする気だぞ」
和斗が口にしたように、クーロンの皇子達は余裕な態度を崩していない。
マローダー改に勝てると確信しているようだ。
「さて、クーロン野郎。どう出て来る?」
和斗の呟きが聞こえた筈などない。
しかし、まるで和斗の言葉に反応するように。
「さて。これからが本番だ!」
タイガは凶暴な笑みを浮かべると、高らかに叫ぶ。
「我を守護せし白虎よ、その力をわが身に降ろせ! 神獣降臨!」
「何が起こるんだ?」
ジッと見つめる和斗の視線の先で。
タイガの体がメリメリと音を立てて膨れ上がっていった。
同時に全身を白銀の毛が覆っていく。
そして最後には白い虎に姿を変えた。
いや、その姿は虎の獣人に近い。
身長100メートルもある、白銀のワータイガーだ。
「何、あのとんでもない化け物?」
目を丸くするリムリアの耳に、タイガの咆哮が飛び込んでくる。
「この身にクーロン帝国の東西南北を護る四神の1柱、白虎を降臨させた。これからキサマ等が戦うのは、この世の物ではない。神の力で身を護り、そして神の力で敵を攻撃する神獣だ!」
そんなタイガに続き、他の皇子も叫ぶ。
「我を守護せし青竜よ、その力をこの身に降ろせ! 神獣降臨!」
そして第二皇子ロンは、全長200メートルもある青い龍に身を変えた。
「我を守護せし玄武よ、その力をこの身に降ろせ! 神獣降臨!」
第三皇子ドラゴが変身したのは、甲羅が70メートルもある亀だ。
ただし首と尻尾が蛇のように長い、全長130メートルもある異形の亀だ。
「我を守護せし朱雀よ、その力をこの身に降ろせ! 神獣降臨!」
第四皇子レッドが変わったのは朱雀。
翼の端から端まで100メートルを超える、焔の鳥だ。
その神獣たちを従え、タイガが吼える。
「山脈すら断ち割る白虎の攻撃力、大陸すら撃ち抜く朱雀の神力焔撃槍、オリハルコンの山よりも強靭な玄武の防御力、そして首を切断された者すら瞬時に治癒できる青竜の回復能力! 全てが神の領域だ! そんな我らの前には、全てが無力だという事を思い知るが良い!」
そしてタイガ白虎は、優雅な動作で両腕を広げた。
「先ほど四神の軍を葬り去った魔法の威力は見事だった。しかしヤツらは所詮、神の力の一部を借りただけの紛い物。しかし我らは違う。神獣そのものをこの身に宿したのだ」
タイガはそこで言葉を切ると、ニヤリと笑う。
「きさまらがデビルスピリットを倒したという報告は受けている。しかしデビルスピリットを倒した程度の霊力では、神にダメージを与える事は出来ん! 神に勝てるのは神力のみ!」
デビルスピリットは霊力で倒せるらしい。
しかし神獣の力は神力でないと倒せないらしい。
そしてマローダー改が纏っているのは神霊力。
響きからすると、神力と霊力の中間に思える。
という事は、神霊力では神力に勝てないのでは?
悪い予感に冷や汗を流す和斗に、タイガはドンと胸を叩く。
「口で言っても分かるまい。だから、己の無力を実感させてやろう。無抵抗で受けてやるから、先程の攻撃を見せてみよるが良い」
そしてタイガは両手を広げた。
自信満々のタイガの姿に、レムリアが掠れた声で漏らす。
「カズト、どうする?」
その声に、和斗もゴクリと喉を鳴らしてから答える。
「無抵抗で受ける、って言ってるんだから、試しにぶち込んでやろうぜ。100万倍化チェーンガンを」
「分かった」
リムリアはゴシゴシと手汗を服で拭いてから、コントローラーを握った。
その隣では、和斗が100万倍化戦車砲のコントローラーに手を伸ばす。
「いいかリム。まずリムがチェーンガンを発射する。もしチェーンガンでも効果がなかったら、その時はオレが戦車砲を撃ち込む」
「了解。じゃあカズト、撃つよ」
「ああ、いけ!」
「うん!」
リムリアはタイガの胸に狙いを定めると。
ガガガガガガガガガガ!!!
100万」倍化チェーンガンを撃ち込んだ。
「どうだ!?」
リムリアが大声を上げるが。
バチバチバチバチバチバチィ!
100万倍化チェーンガンは、タイガの胸板に弾き返されてしまう。
「ホントに効かない!?」
悲鳴のような声を漏らすリムリアに、和斗が叫ぶ。
「まだだ!」
ドッカァァァン!!!
和斗が発射した戦車砲はタイガの心臓の上に命中し、そして。
ガキィン!
またしても弾き返されてしまったのだった。
「カズト……」
リムリアが不安げな目を和斗に向ける。
「ぜんぜん効いてないよ……どうしよう?」
心が折れかけた目だ。
が、和斗は諦めない。
ドッカァァァン!!!
ドッカァァァン!!!
ドッカァァァン!!!
ドッカァァァン!!!
ドッカァァァン!!!
戦車砲を撃ち続ける。
「そんな事しても無駄だよ……」
小さく漏らすリムリアに、和斗は真剣な目を向けた。
「敵もそう思ってるだろうな」
「え?」
顔を上げるリムリアに目を向けてから、和斗は声を上げる。
「サポートシステム! F15のバルカン砲を100万倍してくれ!」
――スキルポイント535900を消費しましが、宜しいですか?
「ああ、やってくれ」
――了解。100万倍化、完了です。
そのやり取りに、リムリアが首を傾げる。
「20ミリバルカンは、チェーンガンよりずっと弱いよ? そのバルカン砲を強化して何になるの?」
疑問を口にするリムリアに、和斗はニヤリと笑う。
「確かにアイツに戦車砲は通用しなかった。しかしそれは胸板に関してだ。でも弱点が無いと決まったワケじゃないだろ? だから1番弱そうな場所に、100万倍化バルカン砲を叩き込んでみる」
和斗はリムリアに、戦車砲のコントローラーを渡す。
「リムは砲撃を続けてくれ。その間に俺は、F15で狙撃してみる」
「弱点って、ドコを狙うの?」
「耳の穴さ」
口の中を狙うのなら、マローダー改の武器で十分だ。
だが口を開けるのを待ってても、いつ口を開けるか分からない。
もし開けたとしても、正確に狙えるが疑問だ。
では鼻の穴は?
それも角度的に難しい。
脳に届く一撃を叩き込もうと思ったら、鼻の穴からでは難しい。
しかし耳の穴からなら、脳を直撃するコースで弾丸を叩き込める。
もちろんマローダー改からでは不可能だ。
だがF15なら。
つまり空中からなら、耳の穴から脳を撃ち抜ける筈だ。
それを理解して、リムリアが真剣な顔で砲撃を続ける。
「つまりボクは、巨大ワータイガーの気を引けばイイんだね? F15に気付かれないように」
「そうだ。頼んだぞ」
「任せて!」
リムリアが砲撃を続ける。
その砲弾を浴びながら、タイガが告げる。
「確かに強力な攻撃だ。この攻撃なら、大陸すら撃ち抜けるだろう。驚くべき攻撃力だ。本当に大したものだ、心の底から賞賛するぞ。攻撃力だけなら俺に匹敵するかもせれぬ」
が、そこでタイガは声を落とす。
「しかし残念だったな。いかに強力でも、純粋な物理攻撃では神を傷付ける事などできないのだ。その人間の限界を超えた攻撃力は大したものだが、凄まじい威力だからこそ、いつまでも撃ち続ける事はできぬだろう」
そしてタイガは、クワッと目を見開いた。
「その攻撃力に敬意を払い、最後までこの身で攻撃を受けてやろう。そして攻撃を続ける事が出来なくなった時。この神の力で、消滅させてやる」
タイガの言葉に、リムリアが笑みを浮かべる。
「だって、カズト。好都合だね」
「ああ。動き回られたら狙いを付ける事なんて不可能だったからな」
そう口にしながら、和斗はF15を操った。
今、タイガの注意は砲撃へと集中している。
ロン、ドラゴ、レッドも同じだ。
そしてF15のエンジン音も、砲撃音に掻き消されている。
狙撃に気付かれる事はないだろう。
しかし、これに失敗したら次は無い。
2度と隙を見せる事はないだろう。
だから、この1撃を失敗する訳に無いかない。
その緊張に耐えながら、和斗はF15をタイガへと飛ばす。
「サポートシステム。バルカン砲の照準を任せたい。巨大ワータイガーの耳の穴から脳を撃ち抜きたいんだけど、出来るか?」
――そのコースで発射する事は可能です。しかし……
サポートシステムが何かを言いかけるが、時間が惜しい和斗は無理に続ける。
「なら任せた。よろしく頼む」
――了解です。狙撃します。
「頼んだ」
そして和斗は、タイガの側面からタイガへとF15を飛ばす。
「サポートシステム。狙撃のタイミングは任せる。当たりそうなら、直ぐにぶっ放してくれ」
――了解。
サポートシステムが答えた、その直後。
ブォ!!!
F15の100万倍化バルカン砲が火を噴いた。
(どうだ!?)
息を止めて見守る和斗の前で。
バチィ!
100万倍化バルカン砲は……弾き返されてしまったのだった。
2021 おお サクヤⒸ




