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   第五十一話  神獣の力





 白虎の力による攻撃力強化。

 玄武の力による防御力強化。

 朱雀の力による魔法攻撃強化。


 これによりクーロン軍の兵士は、5万の兵に匹敵する戦闘力を得た。

 が、それでも部隊ごとに特徴は異なる。

 中でも1番機動力に優れているのは、空を飛べる朱雀中隊だ。


 マローダー改とクーロン軍との距離は、約1キロ。

 その距離を、朱雀中隊が、1番速く駆け抜ける。

 いや、空を飛んでいるから、駆け抜けた、というのは間違った表現かも。


 まあ、それはともかく。

 先頭を切ってマローダー改に襲いかかってきたのは朱雀中隊だった。


「全員、焔撃槍を放て!」


 レッドの命令で、400の焔撃槍が降り注ぐ。

 しかし、その焔の槍の雨の中。


「マローダー改は、この程度じゃビクともしないのに。クーロンも無駄なコトしてるなぁ」


 リムリアはマローダー改の運転席で、のん気な声を上げていた。


「ねえカズト、どうする? チェーンガンで薙ぎ払う? それともバルカン砲対空システムに任せる?」

「それでもイイけど、せっかうだから、新しく手に入れたF15を使ってみようと思う」


 和斗はそう口にするとF15のコントローラーを握り、ゴーグルを装着する。

 と同時に、和斗の視界はF15のコックピットからの視界に切り替わった。


「こんなゲームがあったな」


 そう呟きながら、和斗はコントローラーを操作する。


 十字キーの右で右旋回。

 左で左旋回。

 上なら上昇で、下なら下降。

 Lボタンで加速。

 Rボタンで減速。


 僅かな操作にも、F15はクイックに反応する。

 ゲームと違い、タイムラグなくコントローラーで操れるようだ。


「こりゃあイイや」


 和斗は、正にゲーム感覚でF15を操ると。


「まずは空を飛んでるヤツ等を撃ち落すか」


 朱雀中隊を20ミリバルカン砲で狙い撃ちにする……筈だったが。

 なにしろF15のトップスピードは時速31000キロメートル。

 つまりマッハ25超だから、1秒の間に8・5キロも飛ぶ。

 8・5キロ先から人間を発見し、1秒以内に狙いを定めて撃つ。

 こんなの無理ゲー過ぎだ。


 ちなみに和斗はマローダー改のステータスの2割を得ている。

 だから対空システムの能力も、2割だが発揮できる。

 しかし対空システムとは、戦闘機を撃ち落すシステムだ。

 人間のように小さな的を狙撃する能力ではない。


「ダメだ、こりゃ。操縦をサポートシステムに任せた方が良さそうだ。って、それなら最初からバルカン砲対空システムで撃ち落せば良かったワケか」


 などと、和斗がちょっと考えている間に。


 キィィィィィィィン!!


 F15は、朱雀中隊へと突っ込んでいたのだった。


「しまった!」


 バードストライクという言葉を聞いた事があるだろうか。

 航空機が鳥にぶつかって起こる事故の事だ。

 そして今、F15は人間という鳥よりも遥かに大きな障害物の中を飛んでいる。


 バードストライク、いやマンストライクで墜落したら、どうしよう。

 と和斗は冷や汗を流すが。


 ドカン!!!


 衝撃音と共に、朱雀中隊400名はグチャグチャに飛び散ったのだった。


「な、なにが!?」


 思わず叫んだ和斗に、サポートシステムが答える。


――マッハ25で飛行するF15が発生させる衝撃波の影響です。

  空を飛んでいた者は、肉体の防御力を500倍に強化していましたが、その程度で耐えられる衝撃ではありません。



 なるほど。

 朱雀中隊の兵士の肉体強度は、普通の人間と変わらないらしい。

 つまり肉体強度は普通の人間の500倍。

 その程度の防御力では、マッハ25の衝撃波に耐えられなかったようだ。


 だから和斗は。


「よし、なら他のクーロン軍も、このまま潰してやる!」


 F15を玄武中隊スレスレに飛ばす事にした。


「そら、食らえ!」


 超至近距離からの、マッハ25が生み出す衝撃波。

 これに晒され、朱雀中隊と同様、玄武中隊も次々に潰れてしま……。

 と思ったら。

 まるで紙クズのように吹き散らされるものの、玄武中隊は直ぐに起き上がる。

 そしてダメージ時を感じさせない動きで、隊形を組み直した。

 そして再び突撃してくる玄武中隊に、和斗は驚きの声を漏らす。


「あれ? 何で?」


 和斗の言葉に、またしてもサポートシステムが説明を始める。


――彼らは、元々が常人の100倍を超える防御力を持っています。

  その防御力が、神獣の力で500倍に強化されています。

  装備している盾と鎧の防御力も、非常に高いものです。

  5万倍の防御力を持つ肉体と強力な鎧と盾。

  その相乗効果により、マッハ25の衝撃波にも辛うじて耐えたようです。


 つまりF15の衝撃波では、朱雀中隊以外は倒せないらしい。

 なら今度は直接攻撃だ。


 和斗はそう考えると、サポートシステムに頼む。


「じゃあF15の操作を止めるから、また上空で待機させてくれ」


――了解です。


 続いて和斗はゴーグルを外すと、リムリアに視線を向ける。


「リム、撃ってみるか?」


 その言葉に、リムリアは目を輝かすと。


「うん!」


 元気よく答えてから、チェーンガンのコントローラーを手に取った。

 そして。


「やっぱ敵の大群をなぎ倒すならチェーンガンだよね」


 そう口にすると、チェーンガンを玄武中隊に向かってぶっ放す。


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガ!


『ぎゃぁああああああああああ!』


 チェーンガンに直撃された玄武中隊の兵士が、鎧を撃ち抜かれて倒れていく。


 ちなみに。

 チェーンガンの弾丸は着弾と同時に爆発して周囲の兵を殺傷する。

 だから今まで、直撃させる必要は無かったのだが。


「なんの!」

「まだまだ!」

「死なぬ限り、突進を止めぬぞ!」


 チェーンガンの直撃を間逃れた玄武中隊兵が、次々と立ち上がる。

 もちろん無傷ではない。

 全員が血塗れだ。

 重傷を負っている者も少なくない筈。

 普通なら、もう戦える状態ではない。

 だが、そこで。


『東方を守護せし青竜よ、その力を貸し与え給え! 神力召喚!』


 青竜中隊が叫ぶと。


「うおおおお!」

「たぎるぜ!」

「力が溢れてくる!」

「さすが青竜の力だぜ!」


 玄武中隊は全回復した。


「我ら青竜中隊が青竜の癒しの力を操る限り、どんな重傷者も瞬時に治癒してみせましょう。例え手足を失っていようと再生させてみせます。神獣の癒しの力をもってすれば容易い事ですから」


 青竜中隊の中隊長、ロンが呟く。

 もちろん和斗の耳に、そんな言葉が届くハズもない。

 しかし、青竜中隊が玄武中隊を回復させたのは一目瞭然だった。


「どんな怪我も回復させるのか。確かに厄介だけど、なら直撃させればイイってコトだよね!」


 リムリアは狙いすましてチェーンガンを発射する。


 ガガガガガガガガガガガガガ!


 その射撃は正確に兵士に命中する筈だったが。


『北方を守護せし玄武よ、その力を貸し与え給え! 神力召喚!』


 キンキンキンキンキンキンキンキン!


 玄武中隊が新たに張り巡らせた防御結界によって、跳ね返されてしまった。


「ええ!?」


 リムリアは、一瞬だけ目を見開くが。


「なら、コッチだったらどうかな」


 コントローラーを握り直した。


 今使用しいているのは、1000倍化チェーンガン。

 3連装砲塔にセットした、2番弱いチェーンガンである。

 ちなみに、もう1つは200倍化チェーンガンだ。

 そして1000倍化チェーンガンが跳ね返された今。


「これはやり過ぎかもしれないけど、残ったチェーンガンはコレにかないんだから仕方ないよね」


 リムリアはニヤリと笑うと。


 ガガガガガガガガガガガガガガガ!!!


 100万倍化チェーンガンをぶっ放した。


 ノーマルのチェーンガンは、5センチの装甲を撃ち抜く。

 その100万倍だから、50キロメートルの装甲を撃ち抜く攻撃だ。


 玄武の結界は攻城兵器すら跳ね返す、と噂で聞いた。

 しかしその程度の結界で、防げる威力ではない。

 だから100万倍化チェーンガンは、玄武結界を紙のように撃ち抜き。


『ぎゃぁああああああああああ!』


 盾や鎧ごと、玄武中隊と青竜中隊を粉々に撃ち砕いたのだった。


「やった!」


 その戦果にリムリアは歓声を上げた。

 が、100万倍化チェーンガンは強力過ぎたようだ。

 炸裂する弾丸が土煙を巻き上げ、視界が遮られてしまう。


「あちゃ――、コレを忘れてた。どうしよう」

「大丈夫だ、ちゃんと手はある」


 顔を曇らせるリムリアに、和斗は笑顔で答えたのだった。




 

 壊滅した玄武中隊と青竜中隊に血走った目を向けながら、タイガは叫ぶ。


「馬鹿な! 神獣玄武の力によって張り巡らせた結界を、なぜ破壊できる!? どんな魔法でも神の力を破壊する事は出来ない筈なのに! くそ、玄武中隊が全滅したせいで、防御力が一気に下がってしまった!」


 が、そこでタイガは白虎中隊に視線を向ける。


「いや、まだ神獣白虎による攻撃力強化は失っていない! そして!」


 タイガは土煙によって見えなくなったマローダー改へと視線を移す。


「この土埃の中、個人を狙い撃ちにする事は不可能だろう。ならば一気に距離を詰めれば、白虎中隊の斬鉄大剣で切り刻む事も可能だ! 白虎隊、突撃せよ! 視界が回復する前に、敵を切り捨てるのだ!」


 かなり無茶な命令だ。

 しかし軍とは、上官の言う事には絶対服従するもの。

 例えそれが、どれほど無茶で理不尽だろうとも、だ。

 でないと戦争など出来るはずがない。

 だから白虎中隊も。


『は!!』


 一声吼えると。


「行くぞォ!」

「死ねェ!」

「殺せェ!」

「突撃ィ!」


 口々に叫びながら、突進を開始した。



 そんな白虎中隊の後方では。


「何とか辿り着けば、斬鉄大剣で敵を切れる」


 玄武中隊長のドラゴが、冷たい声を上げていた。


「そうですね。玄武の防御結界が破壊されるとは思いもしませんでしたが、白虎中隊が生き残っている限り、攻撃力は確保されていますから」


 そう呟く青竜中隊長ロンに、レッドが悔しそうに吐き出す。


「しかしまさか朱雀中隊が瞬殺されるとは思ってもみなかったぜ。ちくしょう、何だよ、あの空を飛ぶデカい三角は! 苦労して育てたおれの朱雀中隊を皆殺しにしやがって!」

「ああ。まさか朱雀中隊に玄武中隊、そして青竜中隊が皆殺しにされるなんて思ってもみなかったぞ。いまいましいヤツ等だ」


 そう答えたのはタイガ。


 どうやらこの4人は、後方から部下の戦いを眺めているだけのようだ。


「オレの白虎中隊なら、あの鉄の塊に勝てると思うが、万が一に備えて戦う準備をしておけよ」


 タイガの言葉に、ロンもドラゴもレッドも余裕の態度で頷く。

 部下が全滅しているというのに、だ。

 そんなタイガ達の事を知っているのか、知らないのか。

 白虎中隊はマローダー改を目指して突っ込んで行った。


「敵が近づいて来てるみたいだよ!」


 チェーンガンによって発生した土煙により敵が見えない中。

 リムリアは白虎中隊が突進してくる物音を聞きつけて叫んだ。


「カズト。手はあるって、どうするの?」


 リムリアの問いかけに、和斗はF15のコントローラーを見せる。


「土煙が邪魔なら、吹き飛ばせばイイばいいのさ」


 和斗はF15のコントローラーを手に取ると、ゴーグルを装着した。


「よし、よく見える。じゃあ土煙を何とかするか」


 和斗はそう呟くと、F15のコントローラーを操作したのだった。






2021 オオネ サクヤⒸ

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