表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/211

第五話  朝っぱらから心臓に悪いぜ


           



 ゾンビを見かけたら全滅させて経験値を稼ぐ。

 翌日もそんな旅を続けて日も暮れかけた頃、マローダー改のレベルが上がった。


――ゾンビ255匹を倒しました。

  経験値255

  スキルポイント255

  オプションポイント255

  を獲得しました。

  累計経験値が1000を超えました。

 

 パラパパッパッパパ――!


――装甲車レベルが5になりました。

  最高速度が140キロになりましました。

  加速力が10%、衝撃緩和力が25%アップしました。

  登坂性能が63度、牽引力が35トンになりましました。

  装甲レベルが鋼鉄80センチ級になりました。

  ⅯPが30になりました。

 

 ゾンビに足を掴まれた時から、呑気にゲームを楽しむ感覚ではなくなったのは間違いない。

 が、それでもやっぱりレベルアップは心が弾む。

 強くなるのは純粋に楽しいし、それだけ安全になったコトでもある。

 しかし。


「だんだんレベルアップしなくなってきたな」 


 丸1日ゾンビを発見する度に全滅させたというのに、レベルが1つしか上がらなかった。

 昨日は3もレベルが上がったというのに。


「このままじゃ、次のレベルになるのに、何日かかるか分からないな」


 スキルポイントは610、オプションポイントは1000溜まっている。

 全ての個人装備武器を買えるし、搭載武器も幾つかは購入可能だ。

 しかし何を購入するべきか和斗はまだ迷っていた。

 

 ドラゴンと戦う事を考慮した武器を買うまで、他の武器を購入する事を我慢すべきか。

 それとも非常事態に陥った時に対処が遅れたりしないよう、順番に強力な武器を買い足していくべきか。

 答えはまだ出ない。

 なにしろ1度使ったポイントは二度と戻ってこないのだから。


 考える事は他にもある。

 スキルポイントで何を充実させるかだ。

 風呂を作って生活を快適にするべきか。

 それとも消費ⅯPを減らす為に、消費燃料減を習得するべきか。


 レベルアップのスピードが鈍っている現状を考えると防御力を上げる為に装甲性能をアップさせるべきかもしれないし、防御力を考えるなら属性耐性をアップさせるべきかも。

 

 などと悩みは尽きないが、予想外のダメージを受けて死ぬ事が1番怖い。

 やはりスキルポイントを消費して、防御性能をアップさせておいた方が良いだろう。


 そう考えた和斗は、スキルポイントのページを表示すると、各属性防御のレベルを1つずつ上げる事にする。


属性性能 第1段階

  耐熱性能(火)    1000℃    =10

  耐冷性能(冷)    マイナス10℃  =10

  耐腐食 (水・風)  レベル1     =10

  耐雷性能(雷)    1000ボルト  =10


 表示を見ると、全ての属性性能を第1段階に上げても、必要なスキルポイントは40だった。

 その程度の消費ポイントで済むなら、もう一ランク上げておいても良いだろう。


属性性能 第2段階

  耐熱性能(火)    3000℃    =20

  耐冷性能(冷)    マイナス20℃  =20

  耐腐食 (水・風)  レベル2     =20

  耐雷性能(雷)    1万ボルト    =20


 第1段階に第2段階を合計しても消費ポイントの合計は120なので、和斗はスキルポイントを消費して属性防御性能を第2段階まで上げた。


「これで少しは安心できるな。それにこの耐熱耐寒性能ならきっと、暑さや寒さを遮断してくれる。生活も一段と快適になるから一石二鳥だ」


 そう呟いてから、生活エリアへと向かった和斗を、リムリアが満面の笑みで出迎える。


「待ってたよ! カズト、今日のご飯はナニ!?」


 当然のコトだが、和斗が買い込んだ食料はリムリアにとって珍しいものばかりだった。

 そして現代日本の企業が生き残りをかけて開発したモノだから、どれも美味に決まっている。

 そんな日本の食料を口にする事は、リムリアにとって人生で経験した事のない喜びとなっていた。


「今日は豪華シーフードピザだ。冷凍食品だが、高いヤツなんで美味いぞ」

「やた!」


 はしゃぐリムリアに笑みを浮かべてから、和斗はピザをオーブンレンジに放り込んだ。

 そして焼き上がったピザを皿に乗せると、スパークリングワインをグラスに注ぐ。


「これってワイン? でも泡が?」


 スパークリングワインを初めてみたらしいリムリアが、首を傾げている。

 そんな様子も可愛らしい。


「ま、呑んでみろよ。きっと気に入る」

「うん!」 


 リムリアがスパークリングワインに口を付けた。

 ジュースほどではないが、けっこう甘いスパークリングワインに、リムリアが目を輝かす。


「口の中で星が弾けたよ! カズト、これ凄く美味しい!」

「そりゃあ良かった。ついでにピザも食べてみてくれ」

「! これも信じられないくらい美味しい! やっぱりカズトのご飯は最高だね!」


 神レベルの美少女の笑顔に、和斗は見とれてしまう。

 何度見ても可愛らしい。

 綺麗で清楚で、でもスポーティーな雰囲気も漂わせている。

 スタイルも少女から大人になりかける、ほんの一瞬だけ放たれる美しさに輝いていて、胸がドキドキしてしまう。


「カズト、どしたの? 急に黙り込んで?」


 こんな男の子みたいなセリフも可愛らしい。


「いや、何でもない。もっとスパークリングワイン飲むか?」

「飲む――!」


 照れ隠しで和斗がスパークリングワインを勧めると、リムリアが顔を輝かせてグラスを差し出した。

 実は和斗、実戦で有名な空手道場に通っている為、かなり体を鍛えている。

 そのせいかどうか分からないが、酒もかなり強い。

 そんな自分を基準にしてリムリアに酒を呑ませた結果。


「えへへへ~~。カズトぉ~~、気持ちイイね~~」


 リムリアは、すっかり酔っ払ってしまった。


「ちょっと飲ませ過ぎたかな」


 頬を掻く和斗に、リムリアがペタッと引っ付いてくる。


「カズト~~、ボクね、カズトのこと大好きだよ」


 ドッキ――ン!


 和斗は心臓が破裂したかと思った。

 今まで意識しないようにしてきたが、やっぱりリムリアの事を女性として意識してしまう。

 とんでもなく綺麗で可愛いらしい女の子として。


「あ、あのな、リム……」


 口の中がカラカラになって、うまく喋れない。

 でも、今はリムリアに大事な事を伝えるべき時だ、と思う。

 だから和斗は、精一杯の勇気を振り絞ってリムリアに向き直る。


「あ、あのな、リムリア! お、俺……」


 そう。

 和斗は勇気を振り絞って、一世一代の告白をしようとしたのだが。


「すぴ~~~~」


 リムリアは、子供のように無防備な顔で寝息を立てていた。


「はぁ~~、ハイハイ、こういうオチね……」


 ガックリする和斗だったが、そこで大きく深呼吸して考え直す。


「……これで良かったのかもしれないな。告白するのなら、酒の勢いじゃなくて真剣にした方がいいよな」


 和斗は何度も深呼吸した後でリムリアをそっと抱き上げ、2段ベッドの下に寝かせた。

 そして。


「俺もリムのこと好きだぜ」


 小さく呟くと、リムリアの磨き上げた象牙のような頬に、そっとキスする。


「今はコレが精一杯」


 和斗は昔の名作アニメのセリフを口にすると、精一杯カッコつけて2段ベッドの上に潜り込んだのだった。


 


「ギィイイイイイイイイイ!」


 今まで聞いた事のない不気味な声で、和斗は飛び起きる。


「な、何だ!?」


 和斗が慌てて運転席に向かうと、周りはゾンビで溢れ返っていた。

 かなりの大軍だ。200匹はいる。

 まあ、200という数自体は驚くほどの事ではない。

 問題は、今まで遭遇したゾンビと違い、その動きが俊敏だという事だ。


「こ、これは……?」


 言葉を失う和斗だったが、そこに。


「疾走ゾンビだよ!」


 リムリアが運転席に駆けこんで来て、助手席に座りながら声を張り上げる。


「前に言った事があるけど、人間の時と同じくらい素早く動いて、全力疾走で襲いかかってくるゾンビだよ!」


 全力疾走で襲いかかって来るゾンビ。

 想像しただけで恐ろしい。

 しかし、落ち着いて考えてみると。

 マローダー改に乗っている限り、ノロノロ動いてようが全力疾走していようが、何の危険もない。


「さっそく轢き殺すか」


 和斗は今まで通り、マローダー改で疾走ゾンビを轢き倒す事にした。


 グォォォォォン!


 和斗がアクセルを踏むと同時に、マローダー改は猛獣のようなエンジン音を轟かせながら、凄まじい加速で疾走ゾンビの群れに突っ込んでいった。


 レベルアップによって現在のマローダー改の加速力はスポーツカー並みだ。

 まずは轢き倒して疾走ゾンビの動きを鈍らせる。

 そして動きが遅くなった所を狙って、止めを刺していく。


 これが和斗が考えた、疾走ゾンビ戦略だ。

 などと偉そうに言ってみたが、それ以外に良い方法が浮かばなかった、ともいえる。

 ともかく。

 この方法によって最後の疾走ゾンビの頭を轢き潰したところで、和斗は大きく息を吐いた。


「ふぅ。ああ、ビックリしたな。危険はないんだろうけど、全力で疾走するゾンビなんて、朝っぱらから心臓に悪いぜ」


 そして和斗がカーナビに目をやると。


――疾走ゾンビ203匹を倒しました。

  経験値609

  スキルポイント609

  オプションポイント609

  を獲得しました。


 そう表示されていた。



2020 オオネ サクヤⒸ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 種族が違うボクっ娘は別としても、カズトくんの方は長時間運転生活のせいで腰痛や運動不足による肥満になりそうですよね。
[一言] 「和斗がアクセルを踏むと同時に、マローダー改は猛獣のようなエンジン音を轟かせながら、凄まじい加速で疾走ゾンビの群れに突っ込んでいった。」 ゆっくり走ってもひき殺せるのだから、敢えてスピード…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ