第四十八話 クーロン帝国にて
ドラクルの一族が治める大陸は、エウロパ大陸と呼ばれる。
そしてエウロパ大陸に隣接するユルシリア大陸の大半を治める国。
それがクーロン帝国だ。
いや、治めるという言葉は正確ではない。
国民を家畜のように扱い、王と貴族だけが裕福に暮らす国。
それがクーロン帝国だ。
そのクーロン帝国の首都、ウーカンに築かれた巨大な宮殿に。
「我が帝国兵1000万が壊滅しただと!」
クーロン帝国皇帝、ゴルライスの怒鳴り声が響き渡った。
ここは皇帝の居城に築かれた謁見の間。
広さは、1万の兵士が整列できるほどもある。
その広大な謁見の間に並ぶ12名の皇子達を前に、ゴルライスは叫ぶ。
「長槍密集隊形大隊に弓兵大隊! 騎馬弓兵大隊に重装甲騎馬大隊! そして5000の攻城兵器! 普通の国なら30は滅ぼせる戦力だぞ! そのクーロン帝国軍が壊滅など、ありえるか!」
怒り狂うゴルライスだったが、その彼の前に。
「おそれながら、皇帝陛下に申し上げます」
臆することなく、第1皇子が進み出た。
彼の名はタイガ。
年齢は38歳。
185センチの体は、服の上からでも鍛え抜かれているのが伺える。
クーロン帝国の第一皇子であると同時に、帝国最強の剣士でもある男だ。
「第3進出軍1000万人が全滅したのは、残念ながら事実です。しかしこれは我がクーロン帝国が敗北したワケではありません。愚かな第十三皇子が独断で先走った結果です」
「十三皇子だと?」
ゴルライスが、タイガをギョロリと睨む。
クーロン帝国の人間なら、誰もが震え上がる状況だ。
が、タイガは怯む事なく話を続ける。
「そうです。あの……名前など忘れましたが、あの無能な十三皇子がドラクルの一族が治めるエウロパ大陸が手に入るからと、独断で軍を動かしたようです。そして無能な十三皇子の指揮のせいで、1000万もの兵士が無駄死にしたのです。全ての責任は無能な十三皇子にあります」
「そうか。無能は害にしかならぬか。皇子といえども無能をサッサと処分しなかったワシの責任でもあるようだな」
ゴルライスは、ウソのように怒りを収めた。
しかし、その言葉の裏に潜んでいる意味を悟り、タイガは凍りつく。
つまり、無能ならば皇子であろうと処分する。
ゴルライスは、暗にそう言ってのけたのだ。
もちろん、それを理解したのはタイガだけではない。
他の皇子達も、身の危険を感じて顔色を変えていた。
ピィンと恐怖が張り詰める中。
ゴルライスは口を開く。
「タイガよ。第一皇子であるオマエに命令する。無能の愚行だとしても、クーロンの名を冠する軍が全滅させられた事に変わりない。このままではクーロン帝国軍など大した事ない、などと言われかねん。そうなる前に、偉大なるクーロン帝国に逆らった愚か者に、死ぬほどの後悔と絶望を与えてこい」
その言葉にタイガは目を輝かせる。
「それは、私に指揮権を与えるという事で宜しいのでしょうか?」
「無論だ。お前の好きなように討伐軍を編成するがよい」
「では第二皇子、第三皇子、第四皇子と、その直属軍を引き連れていきたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
不敵な笑みを浮かべるタイガに、ゴルライスが頷く。
「第二皇子に第三皇子に第四皇子とな? なるほど、量より質で勝負する気か。いいだろう、許す。しかし失敗は許さぬぞ」
「は!」
タイガはゴルライスに頭を下げると、3人の皇子に鋭い目を向ける。
「という事になった。異存はないな?」
「もちろんですよ」
ゴルライスの言葉に、1番に頷いたのは第二皇子のロンだ。
年齢は36歳。
身長は180センチ。
やや細めに見えるが、無駄な肉など一切ない。
優し気な風貌をしているが、その目には冷酷な光が浮かんでいる。
回復魔法と防御魔法では、クーロン帝国で1番と噂される人物だ。
「オレも文句はない」
続いて声を上げたのは、第三皇子のドラゴ。
3日前に35歳になった。
210センチの長身に、筋肉の鎧を纏った大男だ。
彼にタワーシールドを持たせたら、、どんな攻撃も跳ね返す。
その噂通り、今まで敵の攻撃を跳ね返せなかった事はない。
そして。
「は! 冒険者だった頃を思い出すぜ!」
最後に声を上げたのは、第四皇子のレッド。
33歳だが、外見は実年齢よりずっと若い。
身長も165センチと、かなり小柄だ。
が、攻撃魔法ではクーロン帝国最強と呼ばれている。
特に得意なのは焔系の攻撃魔法だ。
その威力は凄まじく、1つの街を蒸発させた事すらある。
「よし。ではロン、ドラゴ、レッド。出発は3日後の朝だ。それまでに万全の準備を整えろ」
こうしてクーロン帝国は、再び侵略戦争を始めたのだった。
第一皇子ドラゴ。
最強の剣士だけあって、彼の直属軍も剣士ばかり。
軽装鎧を正式装備としているのは、防御より速度を重視しているからだ。
特筆すべきは、全員が戦場で100人斬りを達成している事。
まさに最強の剣士集団。
それがタイガ率いる白虎中隊だ。
第二皇子ロンが率いるのは青竜中隊。
ロンと同じく回復と防御の魔法が得意な者で構成された軍隊だ。
強度に定評のあるシンシルクの僧服が、正式装備。
だが、魔法だけの隊ではない。
殆どの者は、格闘技で有名な大林寺の修行僧だ。
つまり回復・防御魔法を使いこなす、素手で100人を倒せる格闘家集団。
それが青竜中隊だ。
第三皇子ドラゴが率いるのは玄武中隊。
タワーシールドを持てば、石弓すら跳ね返す。
それが可能な者の集まりが、玄武中隊だ。
もちろん防御だけが取り柄の隊ではない。
重装鎧で身を固めて鉄壁の密集隊形をとり、構えた槍で敵を貫く。
これがドラゴ率いる玄武中隊の、無敗を誇る戦法だ。
そしてレッドが率いる朱雀中隊。
言うまでもなく、攻撃に特化した魔法使いの隊だ。
火、水、風、土、雷、冷、光。
あらゆる属性魔法を使い、どんな敵の弱点にも対応できる。
しかし弱点を突かなくても、威力だけで押し通せる魔力の持ち主ばかり。
防具は対魔法、対物理障壁を付与されたローブ。
これににより、鎧以上の防御能力を誇る。
100人に相当する魔法攻撃力を持つ、魔法攻撃兵器。
それが朱雀中隊だ。
白虎中隊300名。
青竜中隊300名。
玄武中隊300名。
朱雀中隊300名。
合計1200名の超人軍隊。
それが今回、クーロン帝国が送り出す戦力だ。
ちなみに。
白虎、青竜、玄武、朱雀とは、クーロン帝国の四方を守護する神獣の名。
その4柱を四神という。
だから四神の名を冠する4中隊が揃った時、四神の軍と呼ばれる。
1200名で1200万人を破った事もある、無敗の軍だ。
「見えてきたぞ」
クーロン帝国を出港してから2週間後。
四神の軍1200名を乗せた魔導船は、エウロパ大陸に到着した。
魔導船の数は4。
嵐の海でも航行できる、クーロン帝国自慢の高性能艦だ。
そんな魔導船の艦橋で、タイガが命令を下す。
「ロン、ドラゴ、レッド。このまま上陸するぞ。先頭はドラゴの玄武中隊。続いてオレの白虎中隊。その後ろにはロンの青竜中隊。殿はレッドの朱雀中隊だ」
「「「了解!」」」
声を揃えたロン、ドラゴ、レッドに頷くと、タイガは目を大陸に向ける。
「無能な十三皇子など、死のうが生きようがどうでも良い。むしろ、よくぞ始末してくれたと褒めてやりたいくらいだ。しかし兵を全滅させられては、クーロン帝国の面子は丸潰れだ。クーロン帝国のプライドの為、十三皇子を倒した者には惨い死を与えないとな」
そうタイガが口にした直後。
ズズゥン!
魔導船が接岸した振動が伝わってきた。
「よし。総員、上陸!」
タイガの号令と同時に、魔導船から兵が飛び出し整列する。
ところで。
一般的に、中隊が4つ集まれば大隊と呼称される。
つまりタイガは大隊長。
ロン、ドラゴ、レッドは中隊長。
それが今回の、彼らの肩書きだ。
「大隊長殿に敬礼!」
バッ!
1200名の兵は敬礼する中、タイガは声を張り上げる。
「皆も知っての通り、これから戦う相手は、1000万名のクーロン帝国軍を打ち破った強敵だ! しかしキサマ等は、全滅した雑兵とは違う! それぞれが最も危険な戦場で結果を出してきた、クーロン帝国軍の精鋭中の精鋭ばかりだ。クーロン帝国軍最強の兵の力、存分に見せつけてやれ!」
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』
大気をビリビリと震わせる怒号に身を任せて、満足そうに頷くタイガに。
「第十三皇子を殺した者は、このランス領のノルマンドの街に向かっています」
1人の男が膝を突いて頭を下げた。
見た目は普通の村人だが、実はクーロン帝国のスパイだ。
戦いには参加する事なく、普段は軍との接触など絶対にしない。
しかし軍を率いる者から要請された時のみ、姿を現す。
もちろん、その姿は変装したもの。
次に顔を合わせても、同一人物と気付いた者は1人もいない。
いや、本当の顔を知っている者すら存在しない、影のような特殊兵。
それが、このシャドウと呼ばれる男だ。
そのシャドウがタイガを見上げ、口を開く。
「1000万の兵士を滅ぼしたのはワラキア領の姫リムリアと、カズトと呼ばれる人間です。ボルドーの冒険者ギルドからSSS超級の冒険者と認められた強者でもあります。クーロン帝国軍が誇る四神の軍をもってしても、決して楽に勝てる相手ではないと思われます」
「たった2人に、われら四神の軍が負けるとでも?」
不機嫌になるタイガに、シャドウは淡々と続ける。
「実際、1000万の兵士達も、決して質の低い兵ではありませんでした。それを考えると、1000万の軍と戦うつもりで作戦を練らないと、思わぬ不覚を取る可能性もあると愚考します」
シャドウの言葉に、タイガは鼻を鳴らす。
「ふん。1000万の軍を壊滅させるくらい、我らでも簡単に出来る。それにSSS超級の冒険者といっても、オレ達4皇子がパーティーを組めば、恐れる必要などない。なにしろオレ達が冒険者だった頃は、モンスター討伐に失敗した事など1度もないのだからな」
タイガは自信タップリに言ってのけると、シャドウをギロリと睨む。
「つまらぬ心配など無用だ。お前は案内さえすれば良い」
「御意」
シャドウの声から感情が抜け落ちた。
(決して侮って勝てる相手ではないのだが、これは何を言っても無駄なようだ。はぁ、しかたない。ワタシの仕事は情報収集だけだ。四神の軍が負けようが、全滅しようがワタシの責任じゃない。報告はした。後はコイツ等の責任だ)
シャドウは心の中で溜め息をつくと。
「では、あの道を進んでください。そのまま3日ほど進むと、十三皇子を殺したSSS超級の冒険者2人が目指している、ノルマンドの街に到着する筈です」
事務的な口調で、海岸から伸びる街道を指差した。
「では計画通り、玄武中隊から進軍しろ!」
タイガの号令が響き渡り、ドラゴを先頭に玄武中隊が出発する。
それに白虎中隊、青竜中隊、朱雀中隊の順で続く。
1個大隊1200名。
大陸に送り込まれる軍隊としては、極端に少ない。
しかし1人1人が100人に匹敵する兵士ばかりだ。
そんな四神の軍を見渡しながら、タイガが呟く。
「もし本当にSSS超級の実力を持っているとしたら、普通の兵士など何人いても役に立たん。イモムシが何万匹集まろうとドラゴンに勝てないのと同じだ。しかし四神の軍には、A級の冒険者以上の実力を持つ者しかいない。これはオレとロンとドラゴにレッドの4人パーティーですら、勝てるかどうか分からぬ戦力だ。この戦力をもって当たれば、絶対に勝てる」
2021 オオネ サクヤⒸ




