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   第四十七話  難民





 和斗とリムリアはシャンパーニュ村に戻ると、ドンペルニに報告する。


「もう大丈夫だ。村人に危害を加えないと竜に約束させたから」


 ここは村の大広場。

 ドンペルニを先頭に、殆どの村人が集まっている。


「本当ですか!」

「これで全ての問題が解決した!」

「ああ、よかった!」

「万歳!」


 村人達が飛び上がって喜ぶ中。


「ところで、その方は?」


 ドンペルニは、和斗の後ろに立つ男に目を向けた。


「村では見かけぬ顔だが」


 訝し気な顔のドンペルニに、リムリアがニッと笑う。


「コイツが暴れてた竜だよ」

『ええええええええええええ!?』


 村人達が一斉に驚きの声を上げる中、リムリアが続ける。


「カズトの説得で大人しくするって約束したケド、直接聞いたほうが安心できると思って、連れて来たんだ」


 そう口にしたリムリアの後ろから、アヴェルスが村人の前に進み出た。


「オレが雨の神の息子にしてウイングドラゴン最強の竜、アヴェルスだ。思う所は多々あるが、2度と危害を加えない事を約束しよう」


 言い切るアヴェルスに、ドンペルニが尋ねる。


「本当にアナタが、山で暴れていた竜なのですか?」


 アヴェルスはドンペルニの問いに。


「証明してやろう」


 そう口にすると、ウイングドラゴンへと姿を変えた。


「こ、これは確かに山で暴れていた竜! では本当に、これから村は安全なのですね?」

「その通りだ。これからオレも、この村を守ってやる」


 ドンペルニにそう答えると。


 ギャォオオ――――――ン!


 アヴェルスは、大きく吼えた。

 その轟音に耳を押さえながら、ドンペルニが叫ぶ。


「ウイングドラゴン様! 一体、どうなされたのですか!?」


 その答えは、直ぐに出現した。


 ギャギャギャギャ!

 グロロロロロ!

 ギシャ―――!

 グォォォォォォン!


 咆哮が響く上空に目を向けてみると、そこには無数の竜が舞っていた。


「ウイングドラゴン!?」

「何て数だ!」

「1000匹以上いるぞ!」

「いや、2000匹以上だ」

「もっとじゃないか?」


 騒ぎ立てる村人達に、アヴェルスが言い渡す。


「オレの支配下にあるウイングドラゴン、4125匹だ。これからコイツ等と共にシャンパーニュ村を守護してやろう。雨の神を信仰する限りな」

『はは―――!』

「うむ」


 一斉に地面に這いつくばる村人達に頷くと。


「カズト様」


 アヴェルスは和斗に向かって首を垂れた。


「ウイングドラゴン4125匹と共に、オレ、いやワタシはカズト様に忠誠を捧げたいと思います。受けてくださいますか?」

「俺にか!?」


 目を丸くする和斗に、リムリアが囁く。


「いいじゃんカズト。別に邪魔になるワケじゃないし、ここはウイングドラゴンの忠誠を受けておいたら?」

「リムがそう言うのなら、そうするか。ああ、いいぞアヴェルス。その忠誠、受け取ろう」

「ありがとうございます!」


 アヴェルスは地面に頭をこすり付けると、竜の群れに向かって叫ぶ。


「この方が、オレより遥かに速く空を駆け、そしてドラゴンを素手で殴り殺せる我が主だ! 讃えよ!」


 ギャォォ――――――ン!!


 空をウイングドラゴンの咆哮が埋め尽くす。

 そんな光景に。


「何と言う眺めだ……」

「信じられない……」

「こんな光景を拝めるなんて……」

「長生きはするもんじゃ……」

「ありがたや……」


 村人達が、神を見る目を向けていた。

 中には泣いている者すらいる。

 そしてその目は、やがて和斗に。


「ウイングドラゴンの群れから忠誠を誓われるなんて……」

「土地神様もだぞ」

「じゃあ神様より偉いってコトか?」

「さすがSSS超級、神をも超えるか」

「おお……」


 賞賛の目を向けられて、和斗は慌ててドンペルニに向き直る。


「とにかく良かったな。これでシャンパーニュ村も平和になる」

「いえ、それどころか繁栄する事でしょう。なにしろ5柱の土地神様と、4千を超えるウイングドラゴンの守護があるのですから」


 そこまで口にすると、ドンペルニは深々と頭を下げた。


「本当にありがとうございました。荷物を奪おうとした我々を捕まえるどころか助けてくださり、しかも守護神様まで授けて下された。シャンパーニュ村にとってカズト様は、まさしく神を超える存在です。いつの日にか、この恩を返せるよう日々を生きてまいります」

「いや、それは大げさだ。俺は依頼を受けたダケなんだから」

「アナタという方は……このご恩、一生忘れません」


 涙ぐむドンペルニの背中を、リムリアがパァンと叩く。。


「だから気にしない! これから平和に暮らしてね。じゃ!」


 和斗と共にマローダー改に飛び乗るリムリアに、ドンペルニが慌てる。


「もういかれてしまうのですか?」

「うん! もっともっと色々と世界を見て、そして困った人を助けたいから!」


 輝くような笑顔のリムリアに、ドンペルニは無理やり笑顔を作る。


「そういう事でしたら、引き止めるのは無粋ですな。わかりました、良い旅を!」


 手を振るドンペルニの後ろで、村人達も一斉に手を振る。


「ありがとうございました!」

「忘れないよ!」

「このご恩は、代々語り継いでいきます!」

「お元気で!」


 こうして沢山の村人達が見送る中。

 和斗とリムリアは、シャンパーニュ村を後にしたのだった。






 ドンレミの街に戻り。


「シャンパーニュ村からの依頼、達成しました」


 と、冒険者ギルドの報告に入った和斗を待ち構えていたのは。


「聞いたぞ!」

「デビルスピリットなんて化け物を仕留めたんだって!?」

「しかも4千匹を超えるウイングドラゴンを手下にしたんでしょ!?」

「土地神もだってな!」

「さすがSSS超級だわ!」


 冒険者達の、賞賛の声だった。


「え~~と、依頼を達成したばかりなのに、何でそんなに詳しいんだ?」


 戸惑い気味の和斗に、ギルド職員が1枚の紙を振り回す。

 体格の良い、30歳くらいの男だ。


「シャンパーニュ村からの御礼状だ! ちょっと前に、伝書バトが届けてくれたモンだ。これに詳しく書いてあったぞ。しかし、ワザワザ依頼主が礼状を送ってくるなんて、よほど感謝されたんだな」


 そしてそのギルド職員は、和斗に握手を求める。


「ドンレミ冒険者ギルドのギルド長、マクロンだ。アンタ等のお蔭でギルドの評判が一層上がったぜ。ありがとな」


 どうやらギルド職員ではなくギルドマスターだったらしい。

 ギルドマスターというからには、ドラクルの一族なのだろう。


 とはいえ。

 ドラクルの一族にしては、その口調は砕けている。

 見た目も荒くれ男そのもの。

 貴族然としたドラクルの一族とは思い難い。

 などという和斗の疑問を察したのだろう。

 マクロンが、男臭い笑みを浮かべた。


「オレも永く冒険者をやってたからな。今さら気取った話し方してもシックリこなくてな。ま、それでもドラクルの一族だからだろうな。冒険者ギルドの責任者を押し付けられている、ってワケだ。ま、そんな事はどうでもイイか。これからも宜しく頼むぜ」


 握手の手に力を込めるマクロンに、和斗は苦笑する。


「残念ですけど、この街に長居する気はないんです。旅の途中なので」

「分かってるって、長老に認められる為の旅だろ? でもデビルスピリットすら倒せるほど強い冒険者ってのは貴重なんだ。その力を、困った民の為に使わせて貰いたい」

「そう言うからには、何か問題があるって事ですね?」


 ピリリと身に纏う空気を変える和斗に、マクロンが首を横に振る。


「いや、特に問題があるワケじゃない。ただ、街から街へと行商する連中の護衛を頼みたいと思ってな」


 マクロンが、そう口にすると同時に。


「え~~と、また護衛をお願いできますか?」


 冒険者ギルドの入り口から、ミナがピョコッと顔を覗かせた。


「この子をドンレミまで護衛してきたんだろ? 今度はノルマンドの街まで送って欲しいんだ。長老に認められる旅なら、ちょうど通り道だろ? おいミナ、こっち来いよ」


 マクロンはそう言いながら、ミナを呼び寄せる。


「このミナは利益を限界まで押さえながら、人々の生活に必要な物資を行商しながら街を回ってくれているんだ。こんな良心的な商人を応援したい、ってのが人情ってモンだろ?」


 漢の笑みを浮かべるマクロンに、和斗は表情を緩めた。


「そういう事なら、喜んで依頼を受けますよ。いいよな、リム?」

「うん! ミナ、また一緒に旅ができるね!」


 声を弾ませるリムリアに、マクロンが頭を下げる。


「そういや礼を言ってなかったな。このドンレミまでの護衛で、リッチを倒したんだろ? 普通の護衛を雇ってたらミナはココにいなかった。よくぞミナの命を守ってくれた。感謝する」

「そんなの、たまたまだよ」


 慌てて両手を振るリムリアに、マクロンは苦笑する。


「SS級のモンスターをたまたま倒せるヤツなんか、そうはいないんだケドよ」


 そしてマクロンは、依頼書を取り出した。


 

 依頼内容   護衛

 危険度    E

 目的地    ノルマンド

 報酬     10万ユル

 


「前回と同じ依頼だな」


 カズトの呟きに、マクロンが頷く。


「ま、そういうワケだから、ミナの護衛、宜しく頼むわ」

「了解です」


 和斗はマクロンが差し出した手を、シッカリと握り返したのだった。





 そして翌日の朝。

 ドンレミの街の入り口で。


「じゃあミナの事、頼んだぞ」


 見送りに来てくれたマクロンに、リムリアが首を傾げていた。


「ギルドマスターってヒマなの?」


 リムリアの素直な感想に、マクロンは苦笑する。


「なワケないだろ。ま、安い仕事を押し付けた手前、誠意くらいは見せないとな」

「気にしなくてイイのに」

「コッチが気にするんだよ」


 と、そこで。


「ねえカズト。あれ何だと思う?」


 リムリアが緊張を含んだ声を上げると、街道の方向を指差した。


「ん?」


 和斗がリムリアの差した方へと目をやると。


「あれは、ゾンビか?」


 そこにはフラフラとした足取りの、無数の人影があった。


「宿場町を出たばっかりだというのに、さっそくかよ」


 和斗はスチャッ! とⅯ16を構えるが。


「待ってカズト! 人間だよ!」


 リムリアが大声を上げた。


「人間?」


 よく見ると、確かに人間だった。

 300人ほどだろうか。

 しかも服はボロボロ。

 これではゾンビに間違われても仕方ない。


「こ、これは?」


 呟く和斗に、ミナがボソッと漏らす。


「そうですね。この近辺の治安は良い筈です。何があったんでしょう?」


 などと話している間に、人の群れはドンレミの街に辿り着く。

 そのボロボロの人々に向かって、マクロンは大声を張り上げる。


「ワタシはこのドンレミの街の冒険者ギルドの責任者、マクロンだ! 一体、何があったんだ!?」


 マクロンの問いに、先頭の女性が声を上げる。


「私達の街に、いきなりクーロン帝国軍が襲いかかってきたんです。抵抗した男はその場で殺され、女は凌辱され、金品は奪われ、家は焼かれ、子供すら面白半分で殺される。そんな地獄の中、私達は必死に逃げ出して、やっとこの街に辿り着いたんです。お願いします、助けてください」


 それを耳にしたリムリアが和斗をつつく。


「カズト、難民みたいだよ」


 難民という単語に、和斗は厳しい顔になる。


「難民? この辺りはドラクルの一族が平和な統治をしているんだろ? なのに何で難民が?」

「それはボクにも分かんないけど、でもドラクルの一族が治める土地が襲われたんだ。直ぐにでも軍が派遣されると思う。もちろん、あの人達も、ちゃんと保護してもらえると思うよ」

「それなら良かった」


 でも、とリムリアが顔を曇らせる。


「この地方は、ドラクルの一族が治めるフランク領なんだ。フランク領の治安はいい筈なのに、何で難民が?」






2021 オオネ サクヤⒸ

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