第四十五話 ウサギとカメ
「問題が1つある」
そう口にした雨の神が、和斗に向き直る。
「この村の近くに住み付いている凶暴な竜。それは我の息子なのだ」
『ええええ!?』
村人達が一斉に驚きの声を漏らす中、ドンペルニが声を上げる。
「あのう、なぜ土地神様の御子息が、この村に害を与えるのでしょうか?」
「それがな。今まで我らに守護してもらっておきながら、魔法が使えるとなると信仰を捨てた村の所為で、我が神の力を失ったと逆恨みしているのだ」
「そ、それは……」
雨の神の説明に、ドンペルニが言葉を失う。
逆恨み、と雨の神は口にした。
しかし逆恨みとは、理不尽な恨みの事。
だが、この場合、理不尽な恨みとは言えないだろう。
魔法が使えるようになった途端、信仰を捨てたののは事実なのだから。
ならば現在シャンパーニュ村に暮らす人々も、無関係とは言い難い。
だから黙り込んでしまった村人に変わってリムリアが質問する。
「でも、それはこの人達の責任じゃないよね? それに、また祠を作って信仰するんだから、危害を加えるのは止めてもらえるんじゃないかな?」
「そうなる事を我も望んでいるのだが、息子の性格からして、素直にウンと言うとは思えないのだ」
そう口にすると、雨の神は和斗を見つめた。
「そこで主殿。息子を説得する助力を願えないだろうか?」
「え?」
いきなりの展開に、和斗は戸惑う。
「俺が役に立つのか?」
雨の神が、暴れる息子竜を説得する。
そんな場面に、赤の他人である和斗の出る幕など無い。
と思う和斗だったが。
「いえ、主殿以外に、息子を説得できる者はいないかと考えます。どうか我に御力添えを願えまいか」
雨の神に頭を下げられ、和斗は溜め息をつく。
「はあ。神に頭を下げられちゃあ、イヤと言えないか。分かったよ」
「感謝致します」
というコトで。
和斗は雨の神の息子の説得に力を貸す事になったのだった。
「アヴェルスよ、我だ! 姿を見せよ!」
雨の神が叫ぶと。
ギャォオオオオオオン!
空気をビリビリと震わせる咆哮と共に、竜が上空に現れた。
この竜が雨の神の息子、アヴェルスなのだろう。
そのアヴェルスを見上げながらリムリアが呟く。
「でも雨の神とは、ゼンゼン見た目が違うね」
「我は龍であるが、龍とは竜が神へと進化したもの。しかし息子は、神である龍に進化する前の段階である竜なのだ」
そう説明した雨の神の前に、アヴェルスが急降下してきた。
全長は30メートルくらい。
巨大な翼が特徴の、凶暴そうなドラゴンだ。
「オヤジよ、元の姿を取り戻したのか!」
嬉しそうな声を上げるアヴェルスに、雨の神が語りかける。
「その通りだ。だから人間に害をなす必要もなかろう。お前も我の息子。次の土地神となる修行を再開しないか?」
雨の神がそう口にすると同時に、アヴェルスの目に凶暴な灯が灯った。
「土地神だと! ちょっと魔法が使えたら、今まで守護して貰った恩を忘れて信仰しなくなる! そんな人間を守る土地神なんかゴメンだ!」
怒りを爆発させるアヴェルスに、雨の神は静かに語りかける。
「確かに、どう生きるかはお前の自由だ。しかし人間に危害を加えるのは止めるのだ。我は再び土地神となった。我が守護する人間に危害を加えるのを黙って見ているワケにはいかぬのだ」
雨の神の言葉に、アヴェルスの目がギラリと光りを放つ。
「なら竜の掟に従うしかないな」
そう言い切るアヴェルスに、雨の神は溜め息をつく。
「力が上の方が意見を押し通す、か」
「そうだ! そして今のオレの力はオヤジより上だ。だからオレはオレのやりたいようにやる!」
言い切るアヴェルスから雨の神に視線を移すと、リムリアは効いてみる。
「ねえ。アイツ、あんなコト言ってるけど、竜のアヴェルスより、龍である雨の神の方がチカラが上なんじゃないの?」
「もちろん、普通ならそうだ。しかし我は長年、神の力を失っていた。本当の神の力を使えるようになるまで、30年は必要だろう。が、村人に30年もガマンしてもらう訳にはいくまい」
「そりゃそうだね」
納得するリムリアに頷くと、雨の神は和斗に頭を下げる。
「我が息子の説得、お願いできまいか?」
「説得じゃないだろ」
和斗は苦笑しながらも、アヴェルスに向き直った。
「俺が相手になるが、文句あるか?」
「たかが人間の分際でオレと勝負する気か? 頭は大丈夫か?」
嘲笑うアヴェルスに、雨の神が鋼鉄のような声で告げる。
「なら、この方に負けたら、我の要求を呑んでもらうぞ」
「いいだろう、オレが人間ごときに負けるワケないからな!」
「よし。では勝負開始だ。主殿、それでよろしいですか?」
雨の神に真摯な目を向けられて、和斗はゴキンと拳を鳴らす。
「ああ、叩きのめしてやる」
殺気を漲らせる和斗に、アヴェルスが首を横に振る。
「何を言っているんだ、この翼が見えないのか?」
アヴェルスが、バサリと翼を広げた。
「オレは飛行能力では他の追随を許さないウイングドラゴンだ。オレと勝負するというのなら、飛行能力に決まっているだろ」
「え?」
和斗は予想もしなかった展開に、顔をひきつらせた。
「飛行能力だと……?」
冷や汗をながしながら質問する和斗に、アヴェルスは頷く。
「そうだ。ウイングドラゴンの勝負は簡単。どちらが速いかだ。そうだな、あの山が見えるか?」
アヴェルスは、ここから100キロほど離れた所に見える山を指差した。
「ここを出発して、あの山を回って戻って来る。速い方が勝ち。どうだ、分かり易いだろう?」
「く」
和斗が流す冷や汗の量がドッと増える。
マローダー改なら、どんな敵にも負けないと思っていた。
しかし。
どれほどの戦闘力を誇ろうが、マローダー改は、あくまでも装甲車。
空を飛べるワケがない。
「ど、どうしよう」
和斗は思わず呟いた、その時。
――バトルドローン・F15タイプの購入を勧めます。
サポートシステムの声が、頭の中で聞こえてきた。
そういえば、マローダー改がレベル90になった時。
購入可能なバトルドローンは増えた、と言ってたような気がする。
「F15タイプ?」
和斗がそう口にすると。
脳裏にデータが浮かび上がった。
バトルドローン F15タイプ
全長 20・04 メートル
全幅 13.04 メートル
全高 5.66 メートル
空虚重量 12.916 キログラム
最高速度(時速) 2511 キロメートル
巡航速度(時速) 919 キロメートル
航続距離 3971 キロメートル
固定武器 Ⅿ61A1 20mmバルカン砲
購入ポイント 100万 オプションポイント
「アパッチ戦闘ヘリの次は、F15戦闘機かよ」
和斗は目を見張りながらも、サポートシステムに尋ねる。
「操縦はどうしたらいいんだ?」
――専用のコントローラーで行えます。
もちろん、命令されればワタシが操ります。
「よかった。じゃあ、操縦ヨロシク!」
――お任せ下さい。
後はアヴェルスがウンと言えば、話は終わりだ。
「飛行勝負は俺の手下にやらせたいんだけど、それでいいか?」
和斗の質問に、アヴェルスが頷く。
「ああ、構わないぜ。人間の手下ごとき、大した事ないに決まってるからな」
馬鹿にしたような口調のアヴェルスに、和斗はニヤリと笑う。
「よし、サポートシステム。F15を購入する」
そう言い終わると同時に。
和斗の目の前にF15戦闘機が現れた。
「これがオマエと競争する、俺の手下だ」
「これがか? 鉄の塊にしか見えないが」
戸惑った声を上げるアヴェルスに、和斗は声をかける。
「勝負してみたら分かるさ」
「よし! なら勝負だ!」
アヴェルスはバサリと翼を広げると、雨の神に顔を向けた。
「オヤジの合図で勝負開始だ! それでいいか?」
「構わぬ」
平然と答える雨の神に、和斗は慌てて尋ねる。
「合図って何だ?」
「もちろん、始め、という我の号令だ」
先に聞いててよかった。
F15のエンジンが動き出したら、肉声など聞こえるワケがない。
雨の神の合図を待っていたら、いつまでもレースが始まらないトコだった。
だから。
「手を振り下ろす合図に変えてくれ。あそこの上がいいな」
和斗は30メートルほど離れた、丘を指差した。
「よく分からぬが、構わぬぞ。アヴェルス、お前もそれでいいか」
雨の神の質問に、アヴェルスはフンと鼻を鳴らす。
「合図なんか何でもいい。さっさと始めてくれ」
「分かった」
雨の神が、丘に向かって歩き出す。
それを見送りながら、和斗はF15のエンジンに点火する。
と同時に。
ギュォオオオオオオオオオオオオオオオ!
凄まじいエンジン音が轟いた。
「何だ、これは!?」
おそらく、そう言ったのだろう。
アヴェルスが、口をパクパクさせている。
が、F15の轟音で、声など届く訳がないと悟って前を向く。
その視線の先で、雨の神がユックリと手を振り上げる。
そして。
ぶお!
アヴェルスは、雨の神が手を振り下ろすと当時に、空へと舞い上がった。
と同時に。
「ポジショニング!」
和斗はF15を上空500メートル地点に移送した。
なにしろここは、石がゴロゴロ転がる山の中腹だ。
戦闘機が滑走して離陸する事など出来るワケがない。
そしてF15は急降下して十分に速度に乗ると。
ドカン!
衝撃波を残してアヴェルスの後を追ったのだった。
「F15は、マッハ2を超える戦闘機なんだ。ウイングドラゴンはいくら早くても勝てるだろうな」
和斗は呑気な声を上げて勝負を見守るが。
「ねえカズト。アヴェルスの方が早くない?」
リムリアが言ったように、少しずつアヴェルスとの距離が開いていく。
「これはマズいな」
呟く和斗の脳裏に、再びサポートシステムの声が。
――バトルドローンの強化を要請します。
と同時に、強化の一覧表が浮かび上がる。
バトルドローン(F15)強化データ
重量(t) 最高速度(時速) 強度 航続距離 必要ポイント
ノーマル 2500 3971km
『1』 30 3000 100m 6000 1千
『2』 60 4000 300m 10000 2千
『3』 100 6000 600m 18000 4千
『4』 160 9000 1km 17500 7千
『5』 240 13000 3 52000 1万
『6』 340 18000 10 81000 1万5千
『7』 460 24000 30 120000 2万
『8』 500 31000 100 170500 3万
「そうだな。ここは圧倒的な勝利を治める為、最高レベルの第8段階まで強化だ」
第8段階まで強化するのに必要なスキルポイントは、8万9千。
今のマローダー改にとって、微々たるポイントだ。
「よし、スキルポイント8万9千を消費してF15を強化してくれ」
――了解しました。
その瞬間。
F15は、見る見るうちにアヴェルスに追いつくと、一瞬で追い越した。
「うわ、まるでウサギとカメだね」
と、リムリアが感想を漏らした時には。
F15は圧倒的な速度で遠くに見える山を回り、戻ってきていたのだった。
2021 オオネ サクヤⒸ




