第四十二話 イビルスピリット
昨日は大雪の影響で投稿できませんでした。
その分、今日の20時にもう一度、投稿します。
洞窟は、言わば石のトンネルだった。
狭くなったり広くなったりする事なく、奥へ奥へと続いている。
和斗は、入り組んだ洞窟内を調査する事を覚悟していた。
しかしリムリアのサーチによると、意外にも洞窟は1本道らしい。
これなら迷う事もないだろう。
ちなみに。
リッチを見たというのは見間違いかもしれない。
ドンレミの冒険者ギルドはそう言っていた。
しかし和斗とリムリアは知っている。
リッチが現れたのは本当だと。
まあ、そのリッチはとっくに倒しているのだが、問題は別にある。
「リッチが出現した以上、アンデッドが大量発生してる恐れがあるんだよね。ってゆうかアンデッドが発生してる方が普通なんだ」
リムリアが周囲を見回しながら、和斗に説明する。
「なのにアンデッドもモンスターの1匹も見かけない。これはリッチが出現した洞窟にしては、物凄く不自然なんだよ」
でも。
そう口にして、リムリアは洞窟の壁を指差した。
「光を放つ魔石が等間隔で埋め込まれてる。何者かが手を加えてる証拠だよ。つまり知性を持つ、ナニかがココにいるハズだよ」
まあ、それ以前に。
サーチの魔法により、何者かが手を加えているのは分かっている。
しかし、2キロから先はサーチできなかったらしい。
逆に言えば、サーチの魔法を妨害する何かがあるというコト。
この状況で、それが自然現象とは考え難い。
そしてサーチできなかった場所に足を踏み入れると。
「なにコレ? 自分の目が信じられないよ」
リムリアは呆然と呟いた。
その感想も当然だろう。
洞窟の最深奥は高さ300メートルもある空間だった。
しかも。
その巨大空間の天井に、高さ100メートルもある城が建設されている。
立派だが、造り自体は普通の城だ。
当然、入り口もある。
だが、その入り口があるのは、300メートルも上の、洞窟の天井だ。
城の屋根でも200メートル上空。
飛行か浮遊の魔法が使えないかぎり、城に入るのは不可能だ。
そしてリムリアの説明によると、この空間は魔法効果を無効にするらしい。
サーチの魔法でも見通せなかった理由だ。
「これじゃあドラクルの一族でも、あの城に辿り着くコト出来ないよ」
リムリアは悔しそうに呟くが、直ぐにニヤリと笑う。
「でもボクとカズトなら入れるよね」
そう。
和斗とリムリアはマローダー改の性能の一部を得た。
それにより、天井を歩く事も可能となっている。
壁を歩いて天井に辿り着き、そのまま入り口に向かえばいい。
「よし、行くか」
和斗は壁に足を掛けた。
この能力を使うのは初めてだが、普通の地面と変わりなく歩ける。
しかしジャンプしたら、地面に落下するのだろうか?
マローダー改の性能を得た今、300メートルから落下しても平気だろう。
しかし油断した瞬間、落っこちてしまうのは勘弁してほしい。
そう考えた瞬間。
――5メートル程度なら、ジャンプしても落下しません。たとえ無意識でも地面と考えている以上、マスターにとって、そこは普通の地面として作用します。もちろん、神霊力によるものです。
サポートシステムの顔が頭の中に響いた。
「さすがサポートシステム。疑問に的確に応えてくれるな」
そう呟きながらも念の為、和斗がその場でジャンプしてみると。
和斗の体は、浮かび上がってから、そのまま元の位置に着地した。
他人が見たら、とんでもなく不自然な光景に違いない。
しかし和斗にとっては、普通に地面でジャンプした感覚だった。
「ホントだ。これなら安心だね」
横ではリムリアが面白そうに、何度もジャンプしている。
「どうやら心配いらないようだな」
和斗はホッとすると、天井を目指して歩き出した。
そして天井に到着して、改めて見てみると。
それは中世ヨーロッパ風の城だった。
ヨーロッパの有名な城を、もっと大きく立派にしたような造りだ。
「中はどうなってるのかな?」
興味津々のリムリアと共に、城の入り口から覗いてみると。
内装などは全て、普通の城と変わらないものだった。
というコトは。
和斗達のように天井に立つ事が出来ない限り、ここで生活できないだろう。
なにしろ天地逆というのは、実に厄介だ。
和斗から見たら、入り口を潜るとそこは、高さ50メートルの大広間。
しかし普通の人間が、ここに辿り着いた場合。
広間は、深さ50メートルの堀と同じ。
しかも魔法は使えない。
だから先に進むには、50メートルの壁を降りて天井部分を歩くしかない。
そして再び50メートルの壁を登る事になる。
「他人の侵入を拒むには、最高の造りだな」
そう呟く和斗にリムリアが首を傾げる。
「でも、暮らす方も大変だよ」
「そうなんだよなぁ。テーブルに料理を並べても落下するだろうし、あるかどうか知らないけど、トイレもバスも使えない。椅子に座ってもベッドに寝ても、そのまま天井に落っこちる。こんなトコで暮らせるワケないんだよなぁ」
そこで和斗は広間に奥に目を向ける。
「ま、とりあえず先に進んでみるか」
進んでみると、広間の先は豪華な廊下だった。
左右に並んでいるドアを目にして、リムリアが聞いてくる。。
「カズト、どうする?」
「そりゃあ、1つずつ覗いてみるしかないだろ」
というコトで、そっとドアを開けて隙間から中を覗いてみると。
「ゴースト?」
リムリアが漏らしたように、中にいたのは黒い影だった。
もちろん和斗にはゴーストなのか、それとも他のモノなのか分からない。
しかしリッチが呼び出した霊体ソックリだから、ゴースト系の何かだろう。
そのゴーストらしき影は、和斗達と同じく、普通に部屋の中をうろついていた。
霊体だから上下逆でも困らないのだろう。
「つまり幽霊城ってコトか?」
そう呟きながら、和斗は次の部屋もコッソリ覗き見る。
「こっちもゴースト(?)か」
呟く和斗の後ろで、リムリアが反対側のドアを覗く。
「こっちもだよ」
こうして全てのドアを確認していくと。
全ての部屋にゴーストがいた。
しかも、数え切れないほどのゴーストだ。
1部屋に100体、ひょっとしたら200体いたかもしれない。
とんでもない数を部屋に詰め込んだものだな、と和斗は思う。
しかし霊体だから、狭くても困らないらしい。
ぶつかっても、互いにすり抜けている。
「ねえ、カズト。ひょっとして、この城の部屋全部、ゴーストがギュウギュウ詰めになってるのかな?」
「有り得ない話じゃないと思う。でも問題は、誰が何の目的で、こんな事をしているか、だ。どう考えても自然現象じゃなさそうだし。ま、考えても分かる話じゃないし、とりあえず中を全部調べるか」
「そうだね」
というコトで調べてみると。
この城は、最高で20階まで。
各階には40から80の部屋。
どの部屋にも大量のゴーストがいる。
それを確認し終えてたどり着いたのは。
最上階に設置された、立派な扉だ。
その豪華な扉に手を添えながら、リムリアが和斗に尋ねる。
「最上階に作られた、他よりもズット立派な扉。きっとこの中にいるのが、この城の主だよね。どうするカズト? 一気に乗り込む?」
「いや、ノックしよう」
「はぇ?」
キョトンとするリムリアに、和斗は苦笑する。
「いや、別に事件を起こしたワケでもないし、犯罪を犯したワケでもない。リッチが出て来たというから、この前倒したリッチのコトだと思ったけど、この城から出てきたと決まったワケじゃない。だろ?」
「そう言われたらそうだけど……」
「ひょっとしたら、全く関係のない人が住んでいるかもしれない。だからまずは礼儀正しく接触してみようと思う」
和斗の言葉に、今度はリムリアが苦笑する。
「でも勝手に入って来た時点で不法侵入だよ? いきなりドアを蹴り破るのは止めるけど、やっぱ最初はソッと覗いてみない?」
「そうだな。じゃあ、コッソリ覗いてみよう」
というコトで。
和斗とリムリアが、ほんの少しだけ扉を開けて、隙間から覗いてみると。
「またキミ達か」
不意に声が響き、バァンと扉が開いた。
和斗もリムリアも、いきなり扉が開くとは思っていなかったので。
『わ!』
2人仲良く部屋の中に転がりこんでしまう。
「く!」
和斗とリムリアが、慌てて飛び起きてみると。
部屋の中には、若い男が豪華な椅子に座っていた。
一見、普通の人間に見える。
しかし逆さになっている椅子に平気で座っているのだ。
普通の人間である筈がない。
と、若い男が、和斗とリムリアに視線を送って溜め息をつく。
「はぁ。まったく、何度オレの邪魔をしたら気が済むんだ?」
『何度?』
言っている意味が分からない和斗とリムリアに、男は気取った声を上げる。
「ふん、この姿で会うのは初めてだったな。これなら分かるだろう」
その言葉を発すると同時に男の体は毛に覆われていき、そして次の瞬間。
和斗とリムリアの前には白銀のワーウルフが立っていた。
「ま、まさか……」
言葉を失うリムリアに、白銀ワーウルフは楽し気な目を向ける。
「死んだと思ったかい? まあ1回死んだのは間違いないよ」
そう口にした白銀ワーウルフに、リムリアがハッと気づく。
「ターンアンデッドね」
リムリアの回答に、白銀ワーウルフが満足そうに頷く。
「大正解。命を失うようなコトがあったら最強のアンデッド、イビルスピリットとして蘇るように手を打っておいたのさ。本当に万が一の事態に備えた気まぐれだったんだけど、おかげで死なずに済んだってワケさ」
かつて、大量のゾンビを発生させた白銀ワーウルフの事だ。
自分をアンデッドとして蘇らせるくらい簡単だっただろう。
「で。ココで何してんの?」
直球で聞き返すリムリアに白銀ワーウルフが笑みを浮かべる。
いや、もう白銀ワーウルフではない。
最強最悪の悪霊、イビルスピリットだ。
「もちろんドラクルの一族が治めるこの大陸の支配さ。いや、この大陸だけじゃない。クーロン帝国も、他の国も全部! 世界中を支配してやるのさ!」
最後には叫び出すイビルスピリットに、リムリアが鼻を鳴らす。
「ふん。カズトに完敗したの忘れたの? そんな弱っちいアンタに何が出来るっていうの?」
以前の白銀ワーウルフだったら、今の言葉に逆上していただろう。
しかしイビルスピリットは、余裕の態度を崩さない。
「確かにオレは過去に1度、ソイツに負けた。しかしオレはクーロン帝国でも有数の智将でもある。そして同じ相手に2度負けた事はない。再戦した時、全ての戦いで敵を殲滅してきた」
イビルスピリットが、そう口にすると。
「ただ今、戻りました。我が主よ」
リッチが、ゾロゾロと部屋の中に入ってきた。
その数、5体。
国すら滅ぼせる戦力だ。
しかしリムリアは、そのリッチの集団を鼻で笑う。
「ふうん、リッチね。でもリッチごとき、何体集まってもカズトの敵じゃないよ」
リムリアが胸を逸らすが、イビルスピリットは唐突に話題を変える。
「ところでキミ達は、何人のクーロン兵を殺したんだい?」
「? そんなコト、アンタが1番分かってるんでしょ? 侵略してきた全軍だから1000万に決まってるじゃない」
リムリアの答えにイビルスピリットが続けた。
「そう、1000万だ。その1000万もの魂は、どうなったと思う?」
「どうなったって……ま、まさか?」
顔色を変えるリムリアに、イビルスピリットが不気味な笑みを浮かべる。
「そう。コイツ等を操って回収し、この城の部屋に閉じ込めた。オレを強化する材料にする為にな!」
イビルスピリットはバッと立ちあがった。
「人間1人が内包するエネルギーが、どれ程のモノか分かるか? 70年にわたって活動し、感情を振りまく。死への恐怖! 富への渇望! 自分さえ良ければという身勝手な欲望と、それに纏わる恨み、妬み! このエネルギーの大きさは、人の想像を遥かに超えるモノなのだ!」
そしてイビルスピリットは、静かに言い切る。
「そのエネルギーを1000万も集めたのだ。もうオレは、キミ達など簡単に殺せる戦闘力を得たのさ」
2021 オオネ サクヤⒸ




