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   第三十七話  初依頼


 



「4兆9千億ユルだとぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「ちょっとした国の国家予算じゃねぇか!」

「人生1万回くらい裕福に暮らせる金額だぞ!」


 大騒ぎしているギャラリーは放置しておいて。



 この世界の通貨な、こんな感じらしい。


 鉄貨       10ユル

 銅貨      100ユル

 銀貨     1000ユル

 金貨       1万ユル

 大金貨     10万ユル

 プラチナ貨  100万ユル


 というコトで和斗は。


 鉄貨、銅貨、銀貨、金貨を30枚ずつ、受け取る事にした。


「やったねカズト。これで何の心配もなく名物料理を食べられるね」


 顔を輝かすリムリアに、和斗は苦笑する。


「料理どころの金額じゃないけどな」


 とはいえ。

 これからの旅で費用の心配がなくなったのは間違いない。

 というコトで、エリお勧めの食堂で名物料理を食べた後。


「やっぱりコッチも増えていたか」


 カズトはマローダー改のモニターを目にして呟いていた。


 武器強化(に必要なスキルポイント)


     5万倍     40000

    10万倍     45000

    20万倍     50000

    50万倍     60000

   100万倍     70000


「マローダー改のレベルが一気にアップしたから、武器強化もアップしてると思ったけど、まさか100万倍に強化できるようになってるとは思わなかったな」


 2万5千倍に強化した戦車砲とチェーンガン。

 これが現在のマローダー改が搭載する最強の武器だ。

 この最強武器をとりあえず100万倍に強化しておく事にする。

 必要なスキルポイントは、2つ合わせて53万ポイント。

 今のマローダー改の所持ポイントにとって微々たるポイントだ。

 

 というコトで。

 和斗は戦車砲とチェーンガンを100万倍に強化してから、宿屋へと向かう。

 実を言うと、マローダー改のベッドの方が宿屋より快適だ。


 しかし宿屋に泊るのも旅の醍醐味だろう。

 それに宿屋には大風呂がある事が多い。

 広い湯船にユッタリと身を浮かばせる。

 これだけはマローダー改では無理な事だ。


 この世界に来て、初めて宿屋に泊った次の朝。

 和斗とリムリアは、ギルドの壁に張られた依頼書を眺めていた。


「ねえカズト。どれにする?」

「そうだなぁ」


 ノンビリと依頼書を眺める2人の後ろでは。


「なんだ、アイツ等。邪魔だな。ケツを蹴飛ばしてやろうか」

「馬鹿! 首にかけてる認識票が見えないのか!」

「はぁ? 認識票がどうしぇぇぇぇぇぇ!」

「分かったか? ヒヒイロカネゴーレムを素手で倒したという、SSS超級の2人だよ」

「世界初のSSS超級ってヤツか!?」

「ああ。あいつ等がそうだよ」

「うう、ヤバかったぁ」

「もしもケツなんか蹴ってたら……」

「ヒィ! や、止めてくれ!」

「生きたまま足を砕かれ、腕を引き千切られ、内臓を引きずり出されたあげく、最後には首を……」

「言うな! 最後まで言わないでくれぇぇぇぇぇぇ!」


 なんて騒ぎがアチコチで発生している中。


「なあリム。この依頼、どう思う?」


 和斗は1枚の依頼書を指差した。


「あ、旅の商人の護衛だね。ドンレミの街までかぁ。依頼人は商人のミナ。馬車で1週間から10日ほどの予定。パンとスープの食事付き。依頼料は10万ユル。E難易度かぁ」


 そこでリムリアは、受付に座っているエリに尋ねてみる。


「ねえエリさん。これって正当な価格帯なの?」

「いえ、E級といえば10人に相当する冒険者の事ですから、10万ユルは破格の安さですね。普通なら誰も依頼を受けないでしょう。でもドンレミの街に行く必要のある冒険者なら、旅のついでに引き受ける事もあります」


 なるほど。

 普通に旅したら収入はゼロ。

 加えて旅費やら食事代やら、諸経費が必要。

 しかし依頼を受けたら10万ユルが手に入る。

 これなら依頼を受ける冒険者がいても不思議ではない。

 まあ、強い冒険者になるか、頼りない冒険者になるか運次第だが。


「そういうコトなら受けてみる、カズト? ドンレミの街っていったら次に向かう街だし」


 そう尋ねるリムリアに、カズトは頷く。


「ああ、受けてみる」 


 というコトで、和斗とリムリアはミナの元へと向かったのだった。





「えええええ! 噂のSSS超級の方が依頼を受けてくれるんですかァ!!」


 絶叫したミナは、意外な事にリムリアと同じくらいの少女だった。

 が、その頭にはネコの耳が。

 どうやらミナは、ネコの獣人らしい。


「いいんですか!? 依頼料は、たった10万ユルなんですよ!?」


 信じられない、を何度も口にするミナに、リムリアが微笑む。


「イイって。ドンレミの街には行かなきゃならないんだから、そのついでだよ」

「ありがとうございますぅぅぅぅぅ! これで生きたままドンレミの街に辿り着けますぅぅぅ!」

「それは大げさ過ぎるだろ」


 苦笑する和斗に、ミナがブンブンと首を横に振る。


「いいえ! ドンレミには魔の谷を通らないと行けないんですケド、ワタシ達一般人にとってはとっても危険な場所なんです! まあSSS超級のアナタ方なら楽勝なんでしょうけど……」

「楽勝かどうか分からないけど、護衛は全力でやるから安心してください」


 そう答えた和斗に、ミナがニッと笑う。


「そんな丁寧な話し方をSSS超級の冒険者にされたら、かえって緊張してしまいます。お願いですから普通に話してください。ワタシも行商人として普段通りに話しますから」

「そんなモンかな。まあ、その方が俺も楽だから、そうさせてもらうよ。じゃあミナ、この依頼、受けさせてもらおう」

「ありがとうございます! じゃあ早速出発したいんですど、大丈夫ですか?」

「もちろん。いつでもイイぞ」

「では、お願いします!」


 というコトで。

 和斗とリムリアは、ミナと供にドンレミの街へと向かう事になったのだった。





 ミナの馬車は大きなモノだった。

 横幅2メートル50センチ。

 高さ2メートル50センチ。

 長さ7メートル。

 

 初期のマローダー改のサイズと、殆ど同じだ。

 この馬車を4頭の馬が引く。

 ついでに言うと、この馬も実にデカい。

 地球ではあり得ないサイズの馬だ。


 ミナの馬車が標準サイズかどうかは分からない。

 しかしボルドーの街で何度も目にしたから、特別大きいワケでもなさそうだ。

 

 そして。

 街道の道幅は20メートル近い。

 だからミナの馬車くらいなら、余裕で通行できる。

 この道が続いているのなら、マローダー改が通れない場所もないだろう。

 

 しかし、ずっと道幅が変わらないという保証はない。

 だからマローダー改の大きくすると、通れない道だって出て来る筈。

 これがマローダー改を戦艦サイズにしない理由だ。


「マローダー改を戦艦サイズに巨大化しないといけない事態にならない事を祈るしかないか」


 そう呟いた和斗は今、手綱を握るミナの隣に座っている。

 もちろん、護衛の為だ。

 マローダー改に乗っていても護衛に支障はないかもしれない。

 でも、隣に座っていた方が、ミナは安心する筈だ。


 ちなみに。

 手にしているのは、1000倍に強化したⅯ16。

 1000倍強化Ⅿ26ショットガンを、銃身の下にセットしている。


 もちろん単発の攻撃力なら、和斗が殴った方が強い。

 しかしモンスターが出現する度に、殴り倒すのは大変だ。

 それに1匹と戦っている隙に、ミナが襲われる可能性だってある。

 やはり連射できるⅯ16で撃ち倒すのが一番だろう。


 そのⅯ16に、ミナがチラリと視線を向ける。


「ワタシはしがない行商人ですけど、武器や防具やアイテム、それにモンスターに対する知識はかなりのレベルだと自分では自負しています。けど、その魔法の杖は初めて見ました」


 そう口にしたミナの目の前で。


 タン!


 和斗は道に飛び出してきたゴブリンを狙撃した。


 ゴブリンとの距離は120メートル。

 以前なら、命中しなかったかもしれない。

 だが今の和斗はマローダー改のステータスの1割を得ている。

 その射撃能力は超一流の兵士や狙撃手など足元にも及ばないレベル。

 ゴブリンみたいに巨大な的を外す訳がない。


 なのだが。

 1000倍強化Ⅿ16ではオーバーキルだったようだ。


 ビシャ!

 

 弾が命中したゴブリンは、跡形もなく飛び散ってしまう。

 普通の女の子なら引いてしまう光景だったが。


「スゴイ!」


 ミナは純粋に、驚きの目をⅯ16に向けた。


「SSS超級の冒険者が使う魔法の杖だけあって、信じられない威力ですね!」


 が、まだ安心していい場面ではない。

 新たに20匹ほどのゴブリンが、道に飛び出してくると。


『げぇええええええ!』


 気色悪い声を上げながら、こちらに向かって突進してきた。

 手にしているのは、棍棒だけ。

 ノーマルゴブリンの集団だ。

 和斗にとってザコの中のザコ。

 アクビが出るような相手だが。


「うわわわ!」


 ミナにとっては、怖ろしいモンスターらしい。

 焦った声を上げて和斗にしがみ付いている。

 和斗は、そんなミナに。


「心配いらない。まあ、見ててくれ」


 ニコリと笑ってみせると、和斗はⅯ26の引き金に指を掛けた。


 このショットガンは、100発程の小さな弾を撃ち出す弾丸を装填している。

 その小さな弾丸は発射されると、少しずつ広がっていく。

 その弾が広がる範囲内に、ゴブリンの群れが入ったトコで。


 バコォン!


 和斗はⅯ26をぶっ放した。


 普通なら、こんな小さな弾が命中したくらいで大型の動物は倒れない。

 しかし今のⅯ26は1000倍に強化されている。

 その1000倍の威力を持つ100の小さな弾丸は。


 ビチャァァァァ!


 20匹のゴブリンをミンチに変えたのだった。


「な? 心配いらないだろ?」


 アッサリ言い切る和斗に、ミナは大きく息を吐く。


「はぁ~~、SSS超級冒険者の常識に早く慣れないと、コッチの心臓がもたないですね」

「ヤバいと思ったら、コッチから声をかける。焦るのは、それからでもイイんじゃないかな」


 ノンビリとした口調を変えない和斗に、ミナはもう一度、息を吐く。


「はぁ~~、そうですね。一般人の常識の外にあるからSSS超級ですもんね」

「そこまでバケモンじゃないぞ」


 和斗が、そう口にしたところで。


「あ! そろそろ魔の谷です!」


 ミナが前方を指差した。


「あれが魔の谷か」


 和斗は呟きながら『魔の谷』を見つめる。

 まるで山脈を斬り裂いたように切り立った崖に挟まれた谷だ。

 崖と崖の間は平原になっていて、その真ん中を街道が走っている。

 平原の幅は200メートルから500メートルくらいだろうか。

 枯れ木がポツンポツンと立っている。


「見るからにナンか出そうだな」


 そう呟いた和斗の横に。


「カズトぉ。ボクもコッチに来てイイ?」


 リムリアがよじ登ってきた。


「リム? どうしたんだ?」

「だって気味悪いんだモン」

「いや、ちょっと前までゾンビと戦いまくってたろ」

「それとこれとは別だもん! 1人で不気味な谷を見てるのは嫌!」


 こんなトコも可愛いな。

 と、和斗が口元を緩めた瞬間。


「出たァ!」


 ミナが大声を上げた。






2021 オオネ サクヤⒸ

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