第三十六話 登録試験終了
「5億1750万を獲得した!? ゴーレムの経験値って、どんだけ凄いんだよ!」
叫ぶ和斗に、サポートシステムが答える。
――マスターの網膜に転写します。
そして和斗の目に浮かび上がったのは。
経験値
サンドゴーレ 800
ロックゴーレム 2000
アイアンゴーレム 5000
ミスリルゴーレム 5万
アダマンゴーレム 50万
オリハルコンゴーレム 500万
ヒヒイロカネゴーレム 5000万
だった。
「5000万!? ヒヒイロカネゴーレム1体で5000万!? この世界にやってきてから稼いだ経験値全部より、ヒヒイロカネゴーレム1体の経験値の方が上なのか!?」
和斗は思わず叫んだ。
リムリアと共に、様々なゾンビを倒し、ワーウルフと戦い。
時には死にそうな目に遭いながら白銀ワーウルフと戦い、クーロン帝国軍を全滅させた。
その全ての経験値より、ヒヒイロカネゴーレムの方が上?
とても納得いかない和斗だったが。
「そうだよね」
リムリアが、妙に納得した声を上げた。
「ねえカズト。ヒヒイロカネゴーレムの防御力だったら、ゾンビにも、どんなワーウルフにも、そしてクーロン帝国軍と戦っても負ける事ないよね? なら5000万って経験値も当然だと思わない?」
「そ、そう言われてみたら、そうかもな」
そう答えてから、和斗は気付く。
「リム! リムにも経験値表が見えてるのか!?」
「うん。マローダー改が認めてくれたから、ボクにも見えるようになったみたい」
「そうか」
と、そこで和斗はフと思い付いて、サポートシステムに尋ねてみる。
「なあサポートシステム。ひょっとしてリムも魔法を使えるようになったのか?」
――はい。ただしリロード、レストア、メディカルだけですが。
その答えに和斗は目を輝かせる。
これでリムリアは心臓を失う程の重傷を負っても、瞬時に回復できる。
そして武器で戦う時、故障や弾切れを心配する必要もない。
「それだけで十分だ。すごく助かるよ、サポートシステム」
――マスターとマスターの大事な人を護るのは当然の事ですから。
「ありがとな」
礼を口にした和斗に、エリが不思議そうな目を向ける。
「誰と話しているのですか?」
どうやらサポートシステムの声は、和斗とリムリアだけに聞こえるらしい。
これもきっと、そのうち役に立ってくれるだろう。
「いいえ、ナンでもありません。でも、またゴブリンを倒しながら出口を目指すんですか?」
「いいえ。1階と2階を繋ぐ道には、ダンジョンの入り口に戻る事ができる魔方陣があります。その魔方陣を使って戻ります」
エリの言葉通り、通路の途中に魔方陣が描かれた小部屋があった。
「では皆さん、魔法陣の中へ」
その魔方陣に全員が入った事を確認するとエリは。
「目に見えぬ魔導の技よ、我らの前に、秘めたる道を示せ」
魔法陣に描かれている魔導文字を口にした。
と、次の瞬間。
「「わあ」」
和斗とリムリアは、ダンジョンの入り口に立っていたのだった。
「スゴイな。ゲームじゃお馴染みだけど、実際に体験してみると感動モンだぜ」
感激している和斗の肩を、ジェノスがポンと叩く。
「では、帰りましょうか。アナタのマローダー改で」
声が弾んでいる。
余程マローダー改が気に入ったのだろう。
「わかりました」
和斗は苦笑すると。
「ポジショニング」
呼び寄せたマローダー改で、ボルドーの街に戻ったのだった。
ボルドーの街に到着すると、そのまま冒険者ギルドに向かう。
そして待たされる事、1時間。
「ではコレがSSS超級の認識票です」
エリが手渡してくれたのは、金属製のカードだった。
「SSS級の認識票はオリハルコン製ですが、SSS超級の認識票なのでヒヒイロカネで製作しました。全ての認識票には所有者証明機能が付与されています。試しに手を触れてみてください。本人が触れた時のみ名前、性別、年齢、ギルドレベルが表示されます」
「あ、ホントだ」
リムリアがSSS超級と刻まれた認識票に触れると。
リムリア・トエル・ワラキア・ドラクル
性別 女
年齢 16
レベル 11
発行 ボルドー冒険者ギルド
と認識票に文字が浮かび上がった。
「ですので、他人に悪用される心配はありません。でも物凄く高価なモノですから絶対に無くさないでくださいね」
そんなエリの言葉に、冒険者ギルドが揺れる。
「SSS超級!?」
「一国の軍隊に匹敵するSSS級よりも、強いって事だよな!?」
「そりゃそうだろ、ヒヒイロカネゴーレムを素手で破壊したらしいぞ」
「完全にバケモンじゃねぇかよ!」
「だからSSS超級なんだろ!」
「ってかオレ達、そんなバケモンを馬鹿にしたのか……」
『ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!』
勝手に騒いで、勝手に逃げ出す冒険者には目もくれずエリが尋ねる。
「これからの予定を聞いてもいいですか?」
「う~~ん、予定かぁ。実は、旅するなら冒険者が便利かな、くらいの気持ちで登録したダケなんだ。だから適当に依頼をこなして旅費を稼ぎながら長老から許しをもらおうと思ってるんだ」
リムリアの返事に、エリが目を輝かせる。
「なるほど、長老の許しを。ではカズトさんと、ですね」
「う、うん」
真っ赤になるリムリアに、優しい目を向けてから、エリが壁を指差す。
「そういう事情なら、街から街へと旅する商人の護衛や、貴重品を届ける依頼がおすすめですね。壁に張ってある依頼書の中から選ぶといいでしょう」
「うん、そうする。ありがとう!」
リムリアは太陽みたいな笑みを浮かべると、壁に駆け寄る。
「ねえカズト! どれを受けたらイイと思う?」
壁には依頼が書かれた紙がズラリと並んでいた。
討伐。
収集。
探索。
捜索。
護衛。
護送。
輸送。
探し物。
肉体労働。
様々な種類の依頼が、『級』によって難易度分けされて表示されている。
そして受けられる依頼は、自分の『級』の1つ上までらしい。
しかし和斗とリムリアはSSS超級。
受けられない依頼はない。
「そうだなぁ。エリさんの言う通り、商人の護衛か、貴重品を届ける依頼がイイだろうな」
そう和斗が呟いたとき。
くぅ。
リムリアのお腹が音を立てた。
「え!? あ、いや、これは……」
可愛らしく慌てふためるリムリアを視て、和斗はもう夕方である事に気付く。
「なあリム。今日はこの街に泊まって美味しいモノを食べないか?」
「それイイね! うん、そうしよう!」
そう口にしたところでリムリアが顔を曇らせる。
「あ。お金、持ってない……」
「そういやそうだったな」
目を見合わす和斗とリムリアに、エリがクスクスと笑う。
「2人共ダンジョンで魔石を手に入れた事を忘れたのですか?」
そういえばそうだった。
魔石の回収はギルドに任せていたから、すっかり忘れてた。
「いけね! もう少しで魔石の代金を受け取らないまま旅に出るトコだった」
胸をなで下ろすリムリアに、エリが苦笑する。
「リムリアさんは本当に冒険者ギルドの事を知らないのですね。たとえこのまま旅に出ていたとしても、魔石の代金はリムリアさんとカズトさんの認識票に振り込まれますよ」
「そんな便利な機能まで!?」
つい大声になるリムリアに、エリが頷く。
「そうです。高位冒険者になれば報酬も多額。そんな大金を持ち歩くのは大変なので、高位冒険者はギルドに預けるのが普通です。それに中堅以下の冒険者も、当座の金以外は認識票を使ってギルドに預けるのが普通ですね。安全の為に」
冒険者は、全ての主要な街に存在するらしい。
つまり、どの街でも金を引き出せる。
なら大金を持ち運ぶ必要もないし、ギルドに預けておいた方が安全だろう。
と、そこでリムリアがエリに尋ねる。
「それで、ボク達の稼ぎは幾らになったの?」
「これが買い取り表の一部です」
エリが差し出した明細を覗いてみると。
魔石 買取価格
ゴブリン 5000ユル
ゴブリンメイジ 20000ユル
ゴブリンアーチャー 15000ユル
ゴブリンファイター 3万ユル
ハイゴブリン 20万ユル
ゴブリンジェネラル 500万ユル
ゴブリンキング 1000万ユル
サンドゴーレム 800万ユル
ロックゴーレム 2000万ユル
アイアンゴーレム 5000万ユル
ミスリルゴーレム 5億ユル
アダマンタイトゴーレム 50億ユル
オリハルコンゴーレム 500億ユル
ヒヒイロカネゴーレム 5000億ユル
このとんでもない価格に和斗は絶叫する。
「アダマンゴーレムが50億ユル! オリハルコンゴーレムは500億ユルで、ヒヒイロカネゴーレムは5000億ユル!!」
円とユルの価値は、ほとんど同じ感覚だった。
という事は、ヒヒイロカネゴーレムは5000億円ということになる。
「とんでもない金額だな」
和斗の呟きにリムリアが頷く。
「5000億ユルなんて、ボクだって見た事ないよ」
思わず囁き合う和斗とリムリア。
とんでもない大金に、ついついヒソヒソ話しになってしまう。
そんな2人にエリが微笑む。
「オリハルコンゴーレムの魔石は賢者の石です。賢者の石の価値からすると500億ユルなんて安過ぎると文句を言われそうな金額です。ましてやヒヒイロカネゴーレムの魔石は『神の雫』なのです。5000億ユルは当然の価格です」
「神の雫!? 伝説にしか出てこない超ウルトラレアアイテムじゃん!!!」
大声を上げるリムリアにエリが頷く。
「そうです。ヒヒイロカネゴーレムを倒したらドロップされると伝えられていましたが、当然ながら今までその話が事実なのか、誰にも分かりませんでした。ですがカズトさんのおかげで、それが本当だったと分かり、しかも神の雫まで手に入りました。このニュースは大陸中に広まるでしょう」
そこで和斗は、更に驚きの事実に気が付く。
「ってコトは、今回の俺達の収入は……」
震える声でどう漏らして和斗に、エリは。
「はい。5パーセントの手数料を差し引いて、4兆9182億9340ユルになります」
事も無げに答えたのだった。
2021 オオネ サクヤⒸ




