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   第三十五話  登録試験 その6


 



 マローダー改のステータスの1%を得ている。

 いきなりそう言われても、信じられる話ではない。


 だが、マローダー改のステータスを得ているか、試す方法はある。

 その1つが走ってみる事。

 1%の力を得ていたら時速49キロで走れる筈だ。


「よーし。じゃあ、やってみるよ!」


 リムリアはそう口にすると、アダマンゴーレムに向かって駆け出す。

 その瞬間。


「うわ!」


 リムリアの口から、驚きの声が漏れた。

 何度も言うが、ドラクルの一族の肉体強度は、かなり弱い方に分類される。

 だから走る速度も、人間より少し早い程度だ。

 まあ、人間の世界記録より少し早いが。


 しかし時速49キロという速度は、ドラクルの一族には未知の速度。

 その、かつて経験した事のない速度の中、リムリアは。


「ホントにマローダー改のステータスの1パーセントを獲得してるんだ。じゃあカズトが言ってたように、アダマンゴーレムを破壊できるかも」


 何となくだが、自分のステータスがアップした事を体感する。

 そしてリムリアは先頭を走るアダマンゴーレムに駆け寄ると。


「ダメで元々!」


 思いっ切り殴りつけた。


 もちろんリムリアに格闘技の経験はない。

 経験者から見たら欠点だらけの一撃だ。

 しかし、その素人まるだしの拳は。


 グッシャァン!


 アダマンゴーレムの体を粉々に打ち砕いたのだった。

 その光景に、ゴリアテが絶叫する。


「何だとぉぉぉぉぉぉぉぉ! 貧弱ともいえるドラクルの一族が、アダマンタイトで造られたゴーレムを素手で打ち砕いただとぉぉぉぉぉ! 有り得ない! 有り得ないだろうがぁぁぁぁぁ!」


 そのまま失神しそうなゴリアテを無視して、エリが呟く。


「これは驚きました。まさかドラクルの一族で、アダマンゴーレムを素手で倒す者が出現するなんて。まさにドラクルの一族の歴史に残る事例です。これは長老会に報告せざるを得ませんね。規格外のドラクルが出現したと」


 冷や汗を流しているエリに、ジェノスが呑気な声を上げる。


「そんなに焦る必要、無いんじゃないですか? 彼達が危険な存在というワケじゃないんですから、SSS級に認定して冒険者ギルドと良好な関係を結べばいいダケでしょ?」


 そのジェノスの呑気な言葉に、エリは冷静さを取り戻す。


「そう言えばそうですね。これは冒険者になりたい若者の『級』の試験をしているだけ。『級』を正確に審査して正当な『級』を与え、冒険者ギルドに貢献してもらえばイイだけの事。ですよね、ギルドマスター?」


 エリから突然鋭い目を向けられて、ゴリアテがカクカクと頷く。


「そ、そうだな、これ程の実力者に正当な評価を下さねば、ウチのギルドの信用に関わる。ここはSSS級冒険者として登録せざるを得んだろうな」

「せざるを得ない?」


 エリにギロリと睨まれて、ゴリアテは慌てて言い直す。


「さすがはワラキアの姫と、その供だ! 我がギルドは、彼らをSSS級冒険者として認める!」

「結構です」


 エリは事務的な口調でゴリアテに返すと。


「という事で、リムリアさんとカズトさんをSSS級冒険者として認定します」


 打って変わって優美な笑みをリムリアと和斗に向けた。


「ですので、これ以上の戦闘は必要ありませんが、どうしますか?」


 そう続けたエリに、リムリアが即答する。


「オリハルコンゴーレムやヒヒイロカネゴーレムとも戦ってみたい! ボクは魔力で肉体を20倍に強化できるから、ヒヒイロカネゴーレムにも勝てると思うんだ!」

「今まで、ヒヒイロカネゴーレムどころか、オリハルコンゴーレムを倒せた冒険者は1人もいないのですよ。それでも挑戦するのですか?」


 目を見張るエリに、リムリアがニカッと笑う。


「試しに殴ってみて、ダメだったら逃げ帰ってくる。その位なら、ボクのスピードでも出来るでしょ?」


 確かにリムリアの速度なら、ヒヒイロカネゴーレムの攻撃を躱す事は可能。

 そう判断したエリは溜め息をつく。


「分かりました。自分の力がどこまで通用するのか試したいと思うのは自然な事ですから。でも危険だと判断したら、迷うことなく撤退してくださいね。危険回避能力も審査の対象ですから」

「もちろん! 腕試しに命を懸ける気なんてないモン!」

「約束ですよ」


 念を押すエリに、和斗が微笑む。


「危ないと思ったら、俺が助けます」


 ドンと胸を叩く和斗に、エリが微笑み返す。


「そうですね。アナタが付いているのだから、心配は無用でしたね」

「はい。だから、リム。思いっ切りやってみろ」

「うん!」


 リムリアは元気よく答えると、オリハルコンゴーレムに向かって走り出した。


 倒したアダマンゴーレムは1体だけ。

 当然ながら残ったアダマンゴーレムが、リムリアに襲いかかってくる。


 しかしリムリアは、それくらい計算していた。

 そして魔力で20倍に強化した自分の方が、速い事も。

 だからリムリアはアダマンゴーレムの群れをヒョイヒョイと躱すと。


「えい!」


 オリハルコンゴーレムを殴りつけたのだった。

 その一撃は、やはり素人のパンチだったが。


 ドグワァン!


 リムリアの拳は、オリハルコンゴーレムのボディーを叩き割った。

 どんな冒険者も成す事が出来なかった偉業を達成した瞬間だった。


 しかし。

 それ程の記録にも、リムリアは満足しない。


「よーし、次は!」


 リムリアはアダマンゴーレムの破片をチラリと視線を落とすと。


「ヒヒイロカネゴーレムだい!」


 最強のゴーレム目指して、再び駆け出した。


 ヒヒイロカネゴーレムの強度   鋼鉄20000メートル相当。

 リムリアの強度(20倍に強化) 鋼鉄67300メートル相当。


 データ上。

 リムリアの強度は、ヒヒイロカネゴーレムの3・365倍だ。

 なら自分の拳は、ヒヒイロカネゴーレムを砕く事が出来る筈。

 リムリアは、そう考えていた。

 しかし。


 ゴン。


「アイタぁ!」


 リムリアは、叩き付けた拳を抱えて悲鳴を上げたのだった。


「ナンでこんなに硬いんだよ! 強度ならボクの方が上の筈なのに!」


 涙目でグチるリムリアに、ヒヒイロカネゴーレムが腕を振り回す。


 ブオン!


「わ!」


 当たったら、跡形もなくなっていただろう。

 それほどの攻撃だったが、残念ながらスピードは大したことない。

 人間の2倍程度だ。

 だからリムリアは、焦った声を上げつつも。


「ああ、危なかった~~」


 ヒヒイロカネゴーレムの攻撃を躱したのだった。

 今の攻防で分かった事が2つある。

 ヒヒイロカネゴーレムの攻撃は躱せる事。

 そしてリムリアの攻撃も、ヒヒイロカネゴーレムに通用しない事だ。


「どうして? ボクの方が強度は上なのに、どうしてボクの攻撃じゃダメージを与えられないの?」


 悔しそうに呟くリムリアに、和斗が告げる。


「それは正しい殴り方じゃないからだ。全身のパワーを1点に集中させたパンチじゃないと、真の破壊力は発揮できないんだ。逆に言えば、打ち方さえ正確だったら自然と効くパンチになる。まあ。見てろ」


 和斗はヒヒイロカネゴーレムに歩み寄ると。


「せい!」


 空手の正拳突きを放った。

 何の力みもない自然な一撃。

 しかし腕に頼るのではなく、全身の力を集約した、そのパンチは。


 ドパン!


 ヒヒイロカネゴーレムの胸に大穴を開けた。


「こんな具合にな」


 リムリアに笑顔を向ける和斗の後ろで。


 ズッズゥン!


 ヒヒイロカネゴーレムが、地面を揺らして崩れ落ちた。

 当然ながら、そんな和斗にヒヒイロカネゴーレム19体が襲いかかって来るが。


「目的は果たしたから、さっさと帰ろうぜ」


 和斗はリムリアを抱き上げると。


「しっかり捕まってろよ、リム」

「え? わきゃ―――――――!」


 エリ達の元に、時速495キロで駆け戻ったのだった。


「出来るだろうと思っていましたけど、やはり目の前でヒヒイロカネゴーレムを素手で倒されたら驚いてしまいますね」


 相変わらず、エリは冷静だった。

 が、その声は僅かに震えている。


 ヒヒイロカネゴーレムを傷つけられる武器は存在しない。

 少なくとも今現在、そんな武器は確認されていないのだ。

 つまりヒヒイロカネゴーレムに襲われたら、どんな国も亡びるしかない。

 攻撃を躱せる者はいても、その突進を止められる者はいないのだから。

 

 と言うより、オリハルコンゴーレムを止める事が出来る国すら存在しない。

 倒せない、ではない。

 止める事すら不可能なのだ。

 その世界の頂点に君臨するヒヒイロカネゴーレムを素手で倒したのだ。

 エリの声が震えていたのも当然だろう。


「ではリムリアさん、カズトさん。冒険者ギルドに戻りましょうか。正式にSSS級冒険者として登録しますので」


 エリはそう口にすると、地下1階へと戻る階段を上っていく。

 が、そこで。


「ちょっと待ちなさい。SSS級冒険者に認定するワケにはいかない」


 ゴリアテが声を上げた。


「ナニ? まだ文句あるの?」


 険悪な目を向けるリムリアに、ゴリアテは微笑む。


「文句ではない。SSS級では役不足だと言っているのだ。なにしろSSS級冒険者でさえ倒す事ができなかったオリハルコンゴーレムと、理論上オリハルコンゴーレムよりも10倍強いヒヒイロカネゴーレムを素手で倒したのだ。この前代未聞の冒険者には、SSS『超』級の称号が相応しい」


 ゴリアテの言葉にジェノスが頷く。


「なるほど。世界で唯1人、いや唯2人のSSS超級ですか。リムリアさんとカズトさんに相応しい級ですね。ねえ、エリさん。そう思いませんか?」

「そうですね。誰も聞いた事がない級ですが、ヒヒイロカネゴーレムを素手で倒した事を本部に報告すれば、きっと認められるでしょう。ちょっと手続きに時間がかかってしまいますが、リムリアさん、カズトさん、それでよろしいでしょうか?」


 エリに尋ねられて、リムリアがコクコクと頷く。


「もちろん! ありがと! でもイイの? ギルドマスター、カズトのコト嫌ってたのに」


 リムリアの疑問に、ジェノスが笑みを浮かべる。


「いえ、アレは芝居ですよ」

「「芝居!?」」


 声を揃える和斗とリムリアに、エリが説明を始める。


「冒険者ギルドには、様々な者が集まってきます。そんな一癖も二癖もある連中を取り纏める為には、嫌われ者も必要です。そんな損な役割を引き受けているのがギルドマスターなのです」

「そ、そうなの? エリさん、ギルドマスターのコトを嫌っているみたいだったケド、あれも芝居だったの!?」


 目を丸くするリムリアに、エリが平然と告げる。


「嫌いですよ。家柄と権力と金でギルドマスターの地位に就いたのは、本当の事ですから」

「うわぁ。手加減のない答えだね」


 リムリアの素直な感想に、ゴリアテが真面目な顔で頷く。


「ああ、実に手加減がない。しかしワシは、ギルドマスターが強い必要はないと考えている。頼りになる副ギルドマスターと、影の支配者がいるからな」

「誰が影の支配者です」


 エリにギロリと睨まれながら、ゴリアテが続ける。


「な? ワシが強い必要ないだろう? ワシの役目は、エリとジェノスが冒険者ギルドを運営し易いように、手筈を整える事だと思っている。嫌われながら、煙たがられながら、な」


 よく考えたら、冒険者ギルドのマスターが無能なワケがない。

 もし本当に無能なら、さっさとエリが追い落としていた筈。

 そうしなかったのは、ゴリアテがギルドにとって有益だからだろう。

 最初は嫌なヤツだと思っていたが、自分の役目に忠実だっただけらしい。

 そうリムリアがゴリアテを見直した、その時。


――サンドゴーレム      40000体

 ロックゴーレム      40000体

 アイアンゴーレム     20000体

 ミスリルゴーレム      5000体

 アダマンタイトゴーレム      1体

 オリハルコンゴーレム       1体

 ヒヒイロカネゴーレム       1体

 を倒しました。


 経験値       5億1750万

 スキルポイント   5億1750万

 オプションポイント 5億1750万

 を獲得しました。


 累計経験値が539605366になりました。



 と、サポートシステムが、今まで聞いた事のない数字を告げたのだった。

 そして。


 パラパパッパッパパ――! 

 パラパパッパッパパ――! 

 パラパパッパッパパ――! 

 パラパ……。

 

 何度も何度もファンファーレが鳴り響き。


――累計経験値が4億7000万を超えました。

 装甲車レベルが89になりました。

 最高速度が7800キロになりました。

 加速力が20%、衝撃緩和力が50%アップしました。

 登坂性能が166度、車重が13800トンになりました。

 装甲レベルが4320450メートル級になりました。

 ⅯPが11200になりました。

 装鎧のⅯP消費効率がアップしました。

 1ⅯPで2秒間、装鎧状態を維持できます。

 セキュリティーがレベル17になりました。

 不法侵入者を30万倍強化バルカン砲対空システムレベルで排除します。


 サポートシステムが操作できるドローンの数が30になりました。



 マローダー改が、とんでもないレベルアップを果たしたのだった。






2021 オオネ サクヤⒸ

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