第三十四話 登録試験 その5
「攻撃魔法が効きにくいなんて、ドラクルの一族にとって最悪じゃない!」
叫ぶリムリアに、エリが当然とばかりに答える。
「ですからドラクルの一族は、物理攻撃に優れたワーウルフを人生のパートナーに選ぶのです」
「知ってるって!」
頬を膨らませるリムリアだったが、フと思いついてジェノスに聞いてみる。
「じゃあ副ギルドマスターだったら、あのヒヒイロカネゴーレムを倒せるの?」
「ご冗談を」
リムリアの疑問に、ジェノスは苦笑する。
「ミスリルゴーレムを破壊するのが精一杯ですよ。相討ち覚悟でも、せいぜいアダマンゴーレムでしょうね」
ちなみに。
ミスリルは鋼鉄の20倍の強度。
アダマンタイトは鋼鉄の200倍の強度。
オリハルコンは鋼鉄の2000倍の強度。
ヒヒイロカネは鋼鉄の20000倍の強度を持つ。
その、とんでもない物理防御力に加えて、魔法が効きにくいゴーレムの大軍。
まさにこのフロアは、ドラクルの一族の天敵と言えよう。
「うう、こんなの反則だよう」
とグチるリムリアの肩を、和斗はポンと叩くと。
「魔法が効きにくいのなら、コレの出番だな」
カールグスタフを構えた。
それを見たゴリアテが。
「またソレを使うのか!?」
悲鳴を上げると、エリに向かって叫ぶ。
「今すぐ防御結界を張れ! 急げェ!」
などと、醜態を晒すゴリアテに、リムリアがバカを見る目で言葉をぶつける。
「危ないのはカズトの後ろだけ。だから横に入れば安全だよ」
「ぐぅ……チッ!」
ゴリアテが、舌打ちしながらも和斗の横に移動する。
もちろんエリとジェノスもだ。
3人が安全圏に入ったコトを確認すると。
「よし。じゃあ取り敢えず、魔法が効かないミスリルゴーレムを撃ってみるか」
和斗はカールグスタフを発射した。
今回カールグスタフに装填しているのはHEAT751対戦車榴弾。
装甲貫通力500ミリの砲弾は、1000倍に強化されている。
つまり、500メートルの装甲を撃ち抜く。
なら、ミスリルゴーレムくらい、簡単に倒せる筈。
という和斗の期待通り。
ボカァァァン!
ミスリルゴーレムは、粉々になって吹き飛んだ。
「よし、いけそうだ。じゃあリムは、サンドゴーレムとロックゴーレム、そしてアイアンゴーレムを攻撃魔法で倒してくれ。魔法が効かないミスリル以上のゴーレムが近づいてきたら、俺がカールグスタフで迎え撃つから」
和斗の言葉にリムリアが頷く。
「了解! じゃあ手前に陣取っているサンドゴーレムとロックゴーレムから始末していくね!」
張り切るリムリアに、和斗は慌てて付け加える。
「あ、でも魔石を回収できる倒し方で頼むぞ」
「そういや、ゴーレムを溶かしたり蒸発させるプラズマランスはマズかったね。じゃあエクスプロージョン!」
リムリアは、爆発の攻撃魔法でゴーレムを撃ち砕いていく。
ダンジョンとは、進むにしたがって困難になっていくもの。
そのセオリー通り、奥に進むほど強いゴーレムが配置されている。
だから手前に配置されているのは、弱いサンドゴーレムとロックゴーレム。
この程度なら、リムリアの攻撃魔法で簡単に破壊できる。
そしてサンドゴーレムとロックゴーレムの数が少なくなってきた頃。
アイアンゴーレムの群れが近づいて来た。
「ふうん。ミスリルゴーレムにアダマンゴーレム、オリハルコンゴーレムやヒヒイロカネゴーレムは襲ってこないんだ」
ボソリと漏らしたリムリアに、エリが説明してくれる。
「基本的に300メートル以内に近づかなければ、自分達のエリアから出て来て襲いかかってくるコトはありません。自分より下のゴーレムが全滅しそうになった時だけ、自分達のエリアから出てくるのです」
「なぁんだ。だから、このフロアを通過するのは簡単なんだね」
拍子抜け、といったリムリアに、エリが首を横に振る。
「次のフロアへの入り口付近には、ヒヒイロカネゴーレム20体が、50メートル間隔で並んでいます。そして1体が動き出すと同時に全てのヒヒイロカネゴーレムが攻撃を開始します。つまり襲いかかってくる20体のヒヒイロカネゴーレムの攻撃を掻い潜れる実力がないと、次のフロアに到達する事は出来ないのです」
「20体のヒヒイロカネゴーレムかぁ。それは手強そうだね」
難しい顔になるリムリアに、エリが付け加える。
「しかも、そこに辿り着く前に、オリハルコンゴーレムとアダマンゴーレムも躱さないといけません。もちろん、ミスリルゴーレムやアイアンゴーレム、ロックゴーレムやサンドゴーレムもです」
「ナンで? サンドゴーレムやロックゴーレムやアイアンゴーレムなら魔法が効くんだから、倒すのなんて簡単じゃん」
頭の上に『?』マークを浮かべるリムリアに、エリが苦笑する。
「それを言えるのはリムリアさん、桁違いの魔力と魔力量を誇るアナタくらいのものです。普通のドラクルの一族なら、サンドゴーレムを全滅させた時点で力尽きて倒れてしまうでしょう」
「ふ~~ん、そんなモンなの?」
そんな会話を躱しながらもリムリアは。
ドカン! ボカン! ドドン! ズズン! バカン!
確実にアイアンゴーレムの数を減らしていく。
そして。
「本当に規格外の魔力量ですね」
ジェノスがそう口にした時には。
リムリアは、アイアンゴーレムを全て倒していた。
そして当然ながら。
アイアンゴーレムが全滅した事により、ミスリルゴーレムが襲いかかってくる。
そして。
アイアンゴーレムの動きは、人間がジョギングするくらいだった。
しかしミスリルゴーレムの動きはアイアンゴーレムよりも素早い。
人間が全力疾走するくらいの速度だ。
アイアンゴーレムよりも上位のゴーレムだから、それも当然だろう。
そのミスリルゴーレムの群れを見つめてから、リムリアが和斗に視線を向ける。
「カズト。ボクじゃコイツ等を倒せない。ごめんね」
「なに言ってんだよ、互いに得意な事で相手をフォローするモンだろ? 数じゃリムが倒したゴーレムの方が多いんだから気にする必要なんかない。さてと。後は俺に任せて、ユックリ休んでてくれ」
そして和斗はカールグスタフの照準をミスリルゴーレムに合わせると。
ズッガァン!
引き金を引いた。
ドパァ!
その砲弾は、見事にミスリルゴーレムを貫通すると。
ドパ! ドパ! ドパ! ドパ! ドパ!
射線上にいたミスリルゴーレムを5体、撃ち抜いた。
「さすが装甲貫通力500メートルだな。よし、ドンドンいくぞ」
和斗は新しい砲弾を装填すると、再びカールグスタフを発射する。
ズッガァン!
ドパ! ドパ! ドパ! ドパ! ドパ! ドパ! ドパ!
今度は7体のミスリルゴーレムを撃ち抜いた。
ミスリルゴーレムの大きさは3メートルから4メートル。
体の厚さは1メートルほどだ。
ちなみにミスリルの強度は鋼鉄の20倍。
つまりミスリルゴーレムの防御力は鋼鉄20メートル相当。
カールグスタフなら、まとめて何体も撃ち抜ける、というワケだ。
現在、持ち歩いている対戦車榴弾の数は30発。
その30発を撃ち尽くした時。
和斗は156体のミスリルゴーレムを倒していた。
そして。
「リロード」
ⅯP1を消費して砲弾を補給し、砲撃を再開する。
和斗の攻撃で、ミスリルゴーレムがバタバタと倒れていくのを目にして。
「この調子なら、ミスリルゴーレムを全滅させるのなんて簡単だね」
気楽な声を上げるリムリアに、エリが厳しい声で告げる。
「ミスリルゴーレムの次に動き出すアダマンゴーレムは、ミスリルゴーレムの10倍の防御力を持っています。もちろん強度が10倍なら、攻撃力も当然アップしています。油断大敵ですよ」
そのエリの言葉通り。
ズッガァン!
ドパッ! ドパッ!
カールグスタフの砲弾は、2体のアダマンゴーレムを貫通しただけだった。
「マジかよ、くそ」
ズッガァン!
続いて和斗が発射した砲弾は。
ドパッ! ドゴ!
1体目は貫通したものの、2体目を撃ち抜く事はできない。
それでも砲弾はアダマンゴーレムに深く食い込み、動きを止めた。
だが、当然ながらアダマンゴーレムは前進を止めたりしない。
死の恐怖が無いのだから当たり前だ。
そして。
これも当たり前だが、そのスピードはミスリルゴーレムよりも速い。
オリンピック選手くらいのスピードだ。
ただ、ここで問題なのは。
ゴーレムが全滅するのと、敵がココに辿り着くのとドッチが速いか、だ。
そこで和斗は。
「リム! アダマンゴーレムの数をサーチしてくれ!」
リムリアにアダマンゴーレムの数を尋ねてみた。
「え、え~~とね、1996だよ!」
カールグスタフの砲弾を装填して発射するのに最低5秒。
となると、1996体を倒すのに9980秒。
つまり166分もかかってしまう。
そして2時間46分もあれば、間違いなくここまで到達してしまう。
そうなれば和斗はともかく、リムリアを危険にさらしてしまう事になる。
「くそ、マズイな」
戦闘力は十分にアピール出来たと思う。
なら、リムリアを危険にさらす必要などない。
少しくらい『級』が低くなっても、ココでリタイヤしてしまうか?
と、少し悩んだ後。
和斗は、リムリアもマローダー改のステータスを得ている事を思い出した。
今のリムリアのステータスを見てみよう。
最高速度 49 キロ
加速力 1521 パーセント
登坂性能 144 度
質量 78 トン
肉体強度(鋼鉄相当) 3365 メートル
耐熱 1億 ℃
耐雷 3兆 ボルト
それに対してアダマンゴーレムのデータは。
身長3~4メートル
強度 鋼鉄200メートル相当
つまり。
強度3365のリムリア。
対
強度200のゴーレム。
勝つのはドッチなのか、馬鹿でもわかる。
だから和斗は、リムリアに自信に満ちた笑みを向けた。
「リム、落ち着いて聞いてくれ。実を言うと、リムはアダマンゴーレムくらい、素手で倒せるんだ」
「は? カズト、こんな時にナニ言ってるの! あのゴーレム、アダマンタイトで出来てるんだよ!
ワーウルフロードでも倒せるかどうか分からないアダマンゴーレムを、物理攻撃力じゃ戦力にならないドラクルの一族であるボクが、倒せるワケないじゃない!」
本気で怒りだすリムリアに、和斗は説明する。
「サポートシステムが、リムを俺の仲間と認めたんだ。その結果、リムはマローダー改のステータスの1%を獲得してるんだ」
「え!?」
リムリアが、目を丸くする。
「たった1パーセントでも、マローダー改のステータスの1パーセントなら、とんでもないコトになってるんじゃないの!?」
なってる。
「物理攻撃も物理防御も貧弱だと思われているリムが、実はとんでもない物理強度を持ってるってコトは、本当のトコを言うと、秘密にしておきたかった。いざという時の切り札になるからな。だから最後まで隠しておきたかったケド、やっぱりリムには知っておいて貰った方がイイと思って話したんだ」
「ホ、ホントにボク、そんな強さを得てるの?」
信じられない。
といった顔のリムリアに、和斗はニヤリと笑う。
「試してみたらいい。先頭のアダマンゴーレムに駆け寄って殴りつけて、大急ぎで戻ってみろ。なにしろリムは時速81キロで走れるんだから、失敗しても、アダマンゴーレムに追いつかれる心配は無いんだから」
和斗の説得に、リムリアがコクンと頷く。
「分かった。試すだけ、試してみるよ」
「ああ。ダメだと思ったら、直ぐに逃げたらイイんだから、気楽にチャレンジしてみろ」
「そうだね。ダメなら逃げたらイイだけだよね」
そう言うと、リムリアはアダマンゴーレムに視線を送ったのだった。
2020 オオネ サクヤⒸ




