第三十三話 登録試験 その4
以前、九つ首ヒドラゾンビを倒した時。
カールグスタフには対戦車榴弾を装填していた。
その対戦車榴弾の威力は、装甲貫通力500ミリ以上。
確かに凄い威力だ。
そして今。
カールグスタフは、1000倍に強化してある。
きっとその威力は、とんでもないレベルになっている事だろう。
しかし、それはあくまで貫通力。
ゴブリンの津波に対して、有効な武器とは言い難い。
と、言いたい所だが。
今カールグスタフに装填されているのはADⅯ401フレシェット弾。
1100個の矢を発射する、広範囲攻撃用の砲弾だ。
その1000倍に強化された1100の矢は。
ドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュ!
『ヒギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』
ゴブリンの津波を貫通したのだった。
もっと正確にいえば。
矢は、多いものでゴブリン32匹、少ないものでもゴブリン8匹。
平均で23匹のゴブリンを撃ち抜いたのだった。
しかしゴブリンの津波は、まだ途切れない。
深い森から、更に草原へとなだれ込んでくる。
だが、それも想定内。
和斗は素早くフレシェット弾を再装填すると、カールグスタフをぶっ放す。
「食らえ!」
ズッガァン!
ドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュ!
『ヒギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!』
またしてもゴブリンの津波。
ズッガァン!
ドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュ!
『ヒギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!』
これを何度も繰り返した後。
数え切れないゴブリンの死体を前にして。
「やっとゴブリンが出て来なくなったね」
リムリアがニコリと屈託のない笑みを浮かべた。
和斗は、その眩しい笑顔に微笑みを返すと。
「でも、まだ生き残りがいるけどな」
タン! タタン! タン! タタタン! タタン! タタン!
重傷を負いながらも、まだ襲いかかって来るゴブリンをⅯ16で打ち倒していく。
知能が低過ぎるのだろうか?
それともゴブリンとは、恐れを知らない種族なのだろうか?
あるいは生存本能が欠けているのか?
理由は分からない。
分からないが、ゴブリンは、この絶望的状況でも突進を止めなかった。
しかし散発的な突進など、Ⅿ16の的でしかない。
和斗は冷静に生き残ったゴブリンを撃ち倒していく。
そして全てのゴブリンが地面に倒れた所で。
「動けなくなってても、まだ生きてるゴブリンがいるかもしれないね。じゃあココはボクの出番だね」
リムリアは、そう口にすると。
「インフェルノ!」
魔法の焔を放とうとした。
インフェルノとは、敵を焼き尽くすまで消えない地獄の業火。
以前、リムリアは、そう説明した。
確かに、まだ生きてるゴブリンを壊滅させる最適の魔法かもしれない。
だが和斗は、リムリアを慌てて止める。
「ちょっと待ったァ! 焼いてしまうと魔石を回収できなくなるんじゃないか?」
「あ、そうか」
リムリアは、テヘっと笑うと。
「じゃあ……バキューム!」
真空を発動させた。
「この一帯を真空にするね。完全に真空になるまで時間がかかるから戦闘には向かないケド、今みたいな状況で確実に息の根を止めるには最適の魔法だよ」
リムリアが爽やかな顔で恐ろしいコトを口にした。
フレシェット弾は広範囲を攻撃できる。
しかし急所を狙って発射できるワケではない。
だから動けなくなっているダケで、まだ生きているゴブリンもいる筈だ。
そんな動けないが生きているゴブリンを殺す方法として。
リムリアは空気を無くして窒息させる事を選んだらしい。
どんな生き物も呼吸が出来なければ死ぬ。
魔石を傷つけずに止めを刺す方法として、これ以上のモノはないだろう。
と、そこにサポートシステムの声が響く。
――ゴブリン 13639匹
ゴブリンメイジ 8741匹
ゴブリンアーチャー 9026匹
ゴブリンファイター 10003匹
ハイゴブリン 1187匹
ゴブリンジェネラル 231匹
ゴブリンキング 8匹
を倒しました
経験値 544789
スキルポイント 544789
オプションポイント 544789
を獲得しました。
累計経験値が22105366になりました。
累計経験値が2161万を超えました。
そして。
パラパパッパッパパ――!
久しぶりにファンファーレが鳴り響き。
――装甲車レベルが75になりました。
最高速度が4950キロになりました。
加速力が20%、衝撃緩和力が50%アップしました。
登坂性能が143度、車重が7850トンになりました。
装甲レベルが336505メートル級になりました。
ⅯPが6400になりました。
装鎧のⅯP消費効率がアップしました。
1ⅯPで1秒間、装鎧状態を維持できます。
マローダー改は、1つレベルアップしたのだった。
「やったぜ! フロアを1つクリアしたダケでレベルアップしたぜ!」
飛び上がって喜ぶ和斗に、リムリアも目を輝かせる。
「よかったね、カズト! また強くなったんだね」
「ああ。何かまた、レベルアップする楽しみが蘇ってきたぜ」
「う、ボクもそう思ってたトコだよ。なんかワクワクしてきた」
「あと、装鎧で戦える時間が、凄くアップしたぞ!」
「ホントだ! 一気に10倍になってる! 凄い!」
などと和斗とリムリアが騒いでいると。
「うわ~~。もしも自分が、と思うと震えが止まらないですねぇ」
背後でジェノスが響いた。
ゴブリンを窒息死させたコトを言っているのだろう。
しかし、震えが止まらない、と言いながらも顔はにこやかなままだ。
この人、思ってたより大物かもしれない。
などと和斗が感心していると。
ごす。
「痛い!」
エリの拳がジェノスの後頭部を直撃した。
「何を呑気な事を言ってるのです。もう少しで我々もミンチになっていた所でしたよ」
エリが怒るのも、当然かもしれない。
カールグスタフは無反動砲だ。
後方に強烈な爆風を後方に噴射して、発射の反動を相殺する。
つまり、カズトがゴブリンの群れにカールグスタフを発射した時。
後ろにいたエリ達を、カールグスタフの爆風が直撃していたのだ。
1000倍に強化された爆風が。
「だから防御結界を張ってて、って言ったじゃない」
アッサリと言ってのけるリムリアに、エリがズイッと詰め寄る。
「限度ってモノがあります。今の爆風は、普通のドラクルの一族が展開した防御結界だったら、簡単に破壊するレベルでした。そうですよね、ギルドマスター?」
「お、おう。普通なら死んでいても不思議ではない破壊力だったぞ! もし我々に何かあったら、どうするツモリだったんだ!」
ガクガクと震えながらも偉そうに怒鳴るゴリアテに、リムリアが微笑む。
「あれ? たかが人間の攻撃の余波だよ? そのオマケの破壊力ごときに、ギルドマスターともあろう者が怪我するって言うの?」
「ぐ!」
言葉に詰まるゴリアテを、リムリアが更に追い詰める。
「言っておくけど、さっきの爆風は和斗の力のほんの一部だよ。どうする? カズトの力を認める? それとも、まだまだ試験を続けて、さっき以上の破壊力に晒される?」
「ぐぐ……」
顔色を真っ青に変えたゴリアテを、さらに追撃しようとするリムリアに。
「その位にしてあげてください」
エリが声をかけた。
「別に最強のドラクルの一族が、ギルドマスターというワケではないのですから」
「そうなの?」
キョトンとするリムリアに、エリが続ける。
「そうです。金と家柄と権力。こういった実力とは無縁の『何か』によってギルドマスターになる者も多いのです」
そんなエリの言葉に、ゴリアテが顔を真っ赤にして怒鳴る。
「ワシがギルドマスターになったのは、実力ではなく金と権力だと言うのか!」
「家柄が抜けてますよ」
平然と言い返したエリに、ゴリアテが目を剥く。
「キサマ!」
「アナタのコトとは言ってませんが? そういうギルドマスターも多い。と言っただけです。それとも何か思い当たる事でもあるのですか?」
「うぐ……」
言葉に詰まって黙り込んだゴリアテに、エリは冷たい視線を向けてから。
「では、つまらない話はこの位にして。どうやらこのフロアはクリアしたみたいですし、次のフロアに進んで登録試験を続けましょう」
和斗とリムリアに微笑んだのだった。
地下2階に続く通路は、緩やかな坂道だった。
その坂道を降りながら。
「ま、試験を続ける事に異論はありませんが、カズトさんもリムリアさんも、余りにも無双過ぎて試験になりませんね」
ジェノスが、にこやかな顔のまま悩んでいた。
そんなジェノスに、エリが頷く。
「そうですね。少しくらい苦戦してくれないと、総合的な能力が計れません。危機に陥った時、想定外の事態に遭遇した時などに、どんな対応をするのかが一番大切な事なのですから。でも次のフロアなら」
とエリがコメントした地下2階は、何の障害物もない広場だった。
ただ、ひたすら広い。
奥行き60キロほどの、楕円形の広場だ。
その60キロ先に見える洞窟が、次のフロアの入り口なのだろう。
しかし通過は簡単ではない。
なにしろ数え切れないほどのゴーレムであふれているのだから。
「これがリアルのゴーレムか」
初めて目にするゴーレムの姿に、和斗は興奮気味に呟いた。
ちなみに。
ゴーレムの姿は◯ラゴンクエストに出て来るゴーレムそっくりだった。
ドラム缶のような身体から、太い手足が伸びている。
サイズは様々だが、見た目は殆ど変わらない。
そしてエリの説明によると。
サンドゴーレムにロックゴーレム。
アイアンゴーレムにミスリルゴーレム。
アダマンゴーレムにオリハルコンゴーレム。
そしてヒヒイロカネゴーレムまでいるらしい。
「これ、ホントにクリアした冒険者、いるの?」
リムリアの呟きに、エリが首を横に振る。
「このゴーレムを倒し切って先に進んだ冒険者はいません。攻撃力と防御力に限れば、現在判明している階層の中では最強最悪のフロア。それが、この地下2階なのです」
「じゃあ、ナンで先のフロアのコトが分かってるの?」
疑問を口にするリムリアに、エリが微笑む。
「逆に言えば、トップレベルなのは攻撃力と防御力だけ。つまり倒す事を諦め、単調なゴーレムの攻撃を躱して次のフロアを目指したのです。ハッキリ言えば、B級程度の冒険者なら、何とかゴーレムの攻撃を掻い潜って地下3階の入り口に辿り着けるでしょう」
「ボク達も、そうすればいい……ワケないよね」
苦笑するリムリアにエリが頷く。
「もちろんです。これはアナタ達の戦闘力の試験なのですから、力の及ぶ限りゴーレムと戦ってください。もちろん、無理と思ったらソレで終了。倒したゴーレムの数とレベルでアナタ達の『級』を決定します」
「なるほどね」
リムリアは、エリからゴーレムに視線を向ける。
2メートルのゴーレムもいれば、5メートルを超えるものまで、色々だ。
しかし、やるコトは最初から決まっている。
だからリムリアは。
「じゃあボクからやるね!」
楽しそうな笑みを浮かべると。
「プラズマランス!」
自分が使える、最強の攻撃魔法を発動させた。
その超高熱の槍は。
バシュン!
軌道上のゴーレムを次々と薙ぎ倒し、そして全てを蒸発させる。
……と思ったら。
「え? 倒せたのはサンドゴーレムとロックゴーレムだけ? ヒヒイロカネゴーレムはともかく、ミスリルゴーレムさえ倒せてない? ナンで?」
とまどった声を上げるリムリアに、エリが説明を始める。
「ミスリルゴーレム以上のゴーレムは全て、魔法攻撃減のスキルを持っていますので、攻撃魔法で倒すのは難しいですよ」
「それを先に言ってよ!」
リムリアの声は、地下2階に響き渡ったのだった。
2020 オオネ サクヤⒸ




