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   第三十二話  登録試験 その3





 ところで。

 ゴブリンの素材には、殆ど価値が無い。

 牙も皮も骨も爪も、何の役にも立たないからだ。

 だからダンジョンで倒して魔石を得る方が『お得』らしい。

 しかし、先ほど受付嬢は気になる事を言っていた。


「その魔石をどうする、とはどういう意味ですか? 倒した俺達の物じゃない、という事ですか?」


 ダンジョンで手に入れたモノは、ダンジョンを管理している者のモノ。

 そんな決まりがないとは言い切れない。


 そして!

 魔石を得る権利がないとなれば、ダンジョンで金を稼ぐ計画は崩壊してしまう。

 と焦る和斗に、受付嬢は苦笑する。


「本当にこの世界の事を何も知らないのですね。もちろん魔石の権利は倒した者にあります。そしてワタシが尋ねているのは、自分達で魔石を回収するのか、という事です。今は試験の最中です。モンスターを倒す度に魔石を拾っていたら、試験が終わるまで何日かかるか分かりませんよ」

「じゃあ魔石は諦めるしかない、ってコトか……」


 ガッカリする和斗に受付嬢が苦笑する。


「そんな勿体ない事はしませんよ。先ほどの『どうしますか』とは、5パーセントの手数料でギルドの職員が回収しますけど、宜しいですか、という意味です」


 なるほど。

 試験が長引くのを覚悟で、自分で集めるか。

 それとも5パーセントの手数料で、集めて貰うか、その選択をしろ。

 という事らしい。

 なら。


「俺は5パーセントの手数料で集めて貰いたいと思う。リムはどう思う?」


 そんな和斗の問いに、リムリアが即答する。


「ボクもそれでイイよ。自分で集めるのも大変そうだし」

「では魔石の回収、宜しくお願いします」


 頭を下げる和斗に、受付嬢が意外そうな顔になった。


「一応規則なので試験していますが、カズトさんがどれ程の戦闘力を有しているか十分に理解しているつもりです。なのに、たかが受付嬢に頭を下げるとは。実に謙虚な方なのですね」

「いえ、俺が異世界から召喚された事は知っていると思いますが、その人がマジメに取り組んでいる仕事なら、どんな職種でも敬意を払うべきだと、親に教わっただけですから」


 そんな和斗の言葉に受付嬢が微笑む。


「素晴らしいご両親ですね。そして素晴らしい世界なのですね」


 そう言ってもらえたのは嬉しい。

 でも。

 客だったら何してもいい、と考えてるクレーマーだって沢山いる。

 あるいは金を持っている方が偉い、という者も多い。

 そして自分さえ良ければイイ、というバカだって増えている。

 それは国にも言えること。

 武力と経済を背景に侵略を進めている国だって、直ぐに思いつく。

 今の日本や地球の状況を考えると、素直に喜べない。


「いや全ての人々が、そう考えているワケじゃないんですけどね」


 和斗が決まり悪そうに付け加えたトコで。


「それより、さっさと先に進も」


 リムリアが和斗の腕を引っ張った。

 そんなリムリアに、受付嬢が頷く。


「そうですね。先を急ぐとしましょう。でもゴブリンの厄介なトコは、これからですよ」

「?」


 訳が分からない、といったリムリアに受付嬢が微笑む。


「先に進めば分かります。では試験を続けます」

「う、うん」



 

 ダンジョンアタックを再開する前に。


「ポジショニング!」


 和斗はマローダー改を呼び寄せると。


 Ⅿ26(ショットガン)を装着したⅯ16。

 ツェリスカ。

 カールグスタフ。


 を装備した。


 もちろん1000倍に強化したものだ。

 というか、1000に強化したモノしかない。

 新しく購入するのも勿体ないからだ。


 ちなみに1000倍強化シリーズ。

 つまり。

 ボディーアーマー     

 タクティカルグローブ    

 エルボー&ニーパッド    

 アームプロテクター     

 タクティカルブーツ     

 タクティカルベスト    

 アーミージャケット&パンツ

 は日頃から身に付けている。


 というコトで。

 和斗は装備を整えるとリムリアに頼む。


「じゃあリム、先導を頼む」

「任せて!」


 リムリアは元気よく答えると、森のフロアをサーチしながら進んでいった。

 と思ったら、直ぐに右に生えている大木を指差す。


「カズト、右の木陰に3匹、隠れてるよ」

「了解」


 タンタンタン!


 隠れていると分かっている以上、不意打ちなど食らうワケがない。

 和斗は3匹のゴブリンを3発で撃ち倒した。


「左の岩から4匹」

「おう」


 タンタンタンタン!


 続いて4匹を倒す。

 楽勝だ。


「背後から8匹」

「無駄な事を」


 タンタンタンタンタンタンタンタン!


 と、こんな具合で。

 和斗は、リムリアが声を上げる度に、素早く反応。

 正確にⅯ16でゴブリンを撃ち倒していく。

 ゴブリン相手に1000倍化Ⅿ16じゃ、オーバーキル過ぎるかもしれない。

 しかしどんな強敵と出くわすか分からないから、念の為だ。

 それにリロードのⅯPは、1000倍化もノーマルも同じだし。

 と、そこに。


「上!」


 木の上から10匹ものゴブリンが飛び掛かってきた。

 これはⅯ16で、1匹ずつ撃っていては間に合わないかも。

 和斗は、そう判断すると。


 バゴォン!


 Ⅿ16の銃身の下の装着したⅯ26ショットガンをぶっ放した。

 Ⅿ26は普通、9発の散弾を発射する。

 しかし1000倍に強化されている今。

 和斗はⅯ26に、100発ほどの小さな弾を発射する散弾を装填していた。

 その100発程の弾丸は。


「「「「「「「「「「ぎゃばっ!」」」」」」」」」」


 10匹のゴブリンをハチの巣にして撃ち落したのだった。


 そんな光景を目にして。


「凄まじいですねぇ」


 ジェノスがにこやかな顔のままで、ため息をついた。


「木の影から突然襲いかかってくるゴブリンの群れは、とてつもなく厄介な敵のハズなんですが、まるでハエを追い払うようですね」


 そんなジェノスに、リムリアが答える。


「ハエよりゴブリンの方が、ズット魔法を当て易いよ」


 言うと同時に、木の影から覗くゴブリンを魔法で撃ち抜くリムリア。


「ね? ハエの動きの方が素早いし、不規則だし、的は小さいから、標的としてはハエの方が、レベルが上だよ」


 事も無げに答えるリムリアに、ジェノスが苦笑する。


「たしかに一撃必殺の魔法を放てるのなら、的が大きなゴブリンより、的が小さく動きも不規則なハエの方が面倒かもしれませんね。普通なら、突然襲いかかって来るゴブリンに神経をすり減らし、碌に休憩も取れず、悲惨なコトになるのに」


 そんなジェノスに、受付嬢も頷く。


「これでは試験になりませんね。その場から動く事なく攻撃を当てるだけで敵が消滅する。これでは射撃ゲームの腕を試験しているのと変わりません」


 溜め息交じりの受付嬢に、ゴリアテがフンと鼻を鳴らす。


「これこそB級冒険者でも出来る事ではないか! ワラキアの姫はともかく、人間の方は過大評価し過ぎなのだ!」


 それを聞いたリムリアが、グッと拳を握り締めると。


「よーし、なら和斗の凄さを見せてやるからな! ねえカズト、あのね……」


 和斗にヒソヒソと囁く。


「ん? ……いいぞ」

「やた! じゃあ100メートル先に、大きく開けた場所があるから、そこで仕掛けるね」


 和斗と相談しているリムリアに。


「何をする気なのですか?」


 ジェノスは、コッソリ尋ねてみる。

 きっと、とんでもないコトをするんだろうな。

 と、半ば諦めの境地のジェノスに。


「B級ごときじゃ出来ないコト!」


 リムリアは即答した。


「ムチャしないでくださいね」


 苦笑するジェノスにリムリアがドヤ顔で答える。


「ムチャなんてしないよ。でも、破壊力はかなりのモノだと思うから、防御結界を死に物狂いで張ってね」

「うわぁ、それは怖いですねぇ」


 ジェノスはワザとらしく震えてみせると、受付嬢ににこやかな顔を向ける。


「というコトでエリさん。強力な防御結界をお願いしますね」


 どうやら受付嬢はエリという名前らしい。

 そのエリがジェノスに冷たい目を向ける。


「なに私だけに結界を張らそうとしているのです? 副ギルドマスターも死ぬ気で張ってください」

「ムチャ言わないでくださいよ。エリさんのワーウルフであるワタシに、魔法が使えるワケないでしょう」

「「え!!」」


 ジェノスの衝撃発言に、和斗とリムリアは思わず詰め寄る。


「副ギルドマスターって、受付嬢さんのワーウルフだったんですか!」

「それって、ジェノスさんはエリさんと結婚してるってコト!?」


 大声を上げる和斗とリムリアに、ジェノスがニッコリと微笑む。


「それは秘密です」


 チ、チ、チ、と指を振るジェノスに。


 ごす。


 エリが蹴りを入れた。

 打ち抜かれたら、誰もが悶絶する急所に。


「くほぉぉぉぉぉ……エ、エリさん、少しは手加減を……」

 

 膝から崩れ落ちるジェノスを無視して、エリは和斗とリムリアに向き直る。


「誰もが知っている事ですが、副ギルドマスターは私のワーウルフです。肉体的には貧弱と言えるドラクルの一族ですが、ワーウルフ化した場合、元々持っている膨大な魔力が肉体強化に使われるので、副ギルドマスターは、かなり強いワーウルフです」


 リムリアさんは知っているでしょうが。

 そう付け加えたエリは無表情……だが、何となく照れ臭そうだった。

 が、それを指摘する程バカではない。

 だからリムリアは。


「じゃあ、ここで防御結界を張って、カズトの戦闘力を視ててね」


 エリ、ジェノス、ゴリアテを、開けた場所の端で待たせると。


「行っくよー!」


 サーチの魔法を全開にした。


 開けた場所のサイズはサッカー場10個分くらい。

 草原と言ってもイイくらいの広さだ。

 その草原の真ん中でサーチを発動させたリムリアに、ゴリアテが怒鳴る。


「何をしているのだ! そ、そんな広範囲にサーチの魔法を展開したら、とんでもない数のゴブリンを呼び寄せてしまうぞ!」


 顔色を変えるゴリアテに、リムリアがニヤリと笑う。


「それが狙いだよ。じゃあ、そのとんでもない数のゴブリンをカズトがどうやって倒すか、よ~~~~~く見ててよ」


 リムリアが言い終わると同時に。


『ぐぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!』


 草原の端から、ゴブリンの群れが突撃してきた。

 ゴリアテが言ったように、とんでもない数だ。

 100や200ではない。

 ひょっとしたら1000を超えているかも。

 いや、1000どころの数じゃない。

 まるでゴブリンの津波だ。


「ゴブリン、ゴブリンメイジ、ゴブリンアーチャー、ゴブリンファイター、ハイゴブリン、ゴブリンジェネラル、ゴブリンキングまでいるよ!」                  


 大声を上げるリムリアに、和斗は笑顔を向ける。


「そりゃあラッキーだ。そうだろ、リム」


 その言葉に、リムリアも微笑む。


「うん、そうだね。じゃあカズト、ゴリアテをぎゃふんと言わせてね!」

「まあ、頑張ってみるよ」


 リムリアに頷いてから、和斗はカールグスタフを構える。

 そしてゴブリンの津波が有効射程に入ったトコロで。


「食らえ!」


 ズッガァン!


 和人はカールグスタフを発射したのだった。





2020 オオネ サクヤⒸ

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